バイクいじりや金属工作を楽しむために、タップダイスセットは常に手元に持っておきたいアイテムのひとつです。セット工具に付属しているハンドルは一文字タイプが一般的ですが、ネジを切りたい相手の周辺に凹凸がある時には使えません。そんな時にソケットタイプのタップ&ダイスホルダーがあれば、作業の幅が大きく広がります。

ワンオフ工作より修正や事前段取りで出番が多いタップ&ダイス


ソケットレンチで有名な専門メーカー、山下工業研究所のアジャスタブルタップホルダー。無段階で開閉する先端のサイズにより適合タップはM1~M6用とM5~M12用に区別される。後部の差込角はどちらも3/8インチ。


本体を回すとタップを挟む先端部分が開くので、タップを差し込んで強く締め付ける。コーケン製のタップホルダーは精度が高く、ハンドルで回す際にホルダーとタップの間でガタが発生しないので使いやすい。

メンテナンスや整備で取り外したボルトやナットを復元する際に、ネジが引っかかって指先では回せなくなることがあります。砂利が詰まっていたり雌ネジや雄ネジが傷んでいたり、レストア作業の途中なら再塗装時の塗料がネジに載っている場合もあるでしょう。

このような時に無理矢理先に進んでしまうか、一旦緩めてネジの状態を確認するかは作業者の性格が如実に反映されます。どうせ次に取り外すことはないからと、強引に締め込んで片付けてしまおうと考えるかもしれませんが、その場で原因を見つけて対策しておくことが後々のためになります。

雄ネジや雌ネジの修正で重宝するのがタップ&ダイスセットです。雌ネジを作るためのタップと雄ネジを作るためのダイスは、一から部品を製作するワンオフ工作の必需品であるとともに、既存のネジ山を修正する際にも使えます。バイクいじりの現場ではむしろ、先の例のようにナットが引っかかったりボルトがなめかけた際の修正用工具として使われる場面の方が一般的かもしれません。

アルミ製部品にボルトを締め付ける際に、ボルトが斜めになったまま締め込んで入り口の数山分だけ雌ネジを傷めることはありがちです。常にボルトに正対して作業できればトラブルになりづらいのですが、シリンダーヘッドにインテークマニホールドを取り付ける作業など横から手を突っ込むような作業では注意が疎かになりがちで、ボルトの頭が入ったつもりで締め進むと途中で止まって「ヤバい……」となりがちです。

インテークマニホールドやエキゾーストパイプのボルトなど、姿勢が不安定になりがちな作業ほど慎重さが求められますが、不安定な体勢ゆえ早く終わらせてしまいたいと焦ることでミスを誘発してしまうのはメンテナンスあるあるの典型例です。

POINT

  • ポイント1・雌ネジを作るタップと雄ネジを作るダイスは一からネジを作る場面だけでなく、既存のネジを修正する際にも有効
  • ポイント2・ボルトやナットを取り付ける際に引っかかりや違和感があったら無理に進まず、一度外してネジに傷みがないか確認する

一文字ハンドルでは回せない場面で重宝するタップ&ダイスホルダー


タップの傾きを補正しやすい幅の広さは良いが、タップまでの距離が近すぎて回せない場面も多い一文字型のハンドルに対して、タップホルダーを使えばエクステンションバー次第で延長が可能。雌ネジの周辺に干渉物がある場面で軸が伸びるのは圧倒的に有利だ。


雌ネジの傷みはボルトを斜めにねじ込もうとした際に発生し、深さは入り口から数山ということが多い。ボルトと同サイズのタップをホルダーに装着し、雌ネジに対して真っ直ぐに進めることで大半が修正できる。ボルトがロックするまでねじ込んでしまうと修正範囲が増えて雌ネジの強度も低下するので、マズいと感じたら強引に締めずすぐに抜くことが重要。

使用頻度の高いネジサイズをまとめたタップ&ダイスセットはリーズナブルな価格で購入できるので、窮地に陥る前に準備しておきたいアイテムのひとつです。しかし汎用のセットひとつであらゆる場面に対応できるというわけではありません。

通常のセット品に入っているタップハンドルやダイスハンドルは、一文字型と呼ばれるフラットな形状で、平面に雌ネジを切ったり、単体の棒に雄ネジを作る作業に適しています。このハンドルは全長が長いためバランスが取りやすく、傾きづらくネジを切る際にも大きなトルクが加えられる特徴があります。

ただその形状が災いして、タップやダイスを使いたい部分に若干の起伏があるだけでハンドルが干渉して回せないという弱点もあります。ネジ山を修正する場合、タップやダイスの進行方向は最初の数山分が正しければあとは元のネジ山の軌道に倣って進むことが多いので、ハンドルに頼ることなくプライヤーなどで掴んで回せる場合もあります。しかし作業部分と駆動工具が一直線上にあり、さらに不安定な状態で回そうとすれば軸がブレやすく、被害を大きくする危険性があります。

このような場面で活躍するのがタップホルダーとダイスホルダーです。形状はいろいろですが、これらのホルダーはソケット工具と組み合わせことでタップやダイスと駆動部分に距離を作ることができるのが大きな利点です。ここで紹介するタップホルダーはアジャスタブルタイプで、ホルダー部分の寸法が無段階で調整できタップ後部の四角部分に合わせられます。修正したい部分の周辺に邪魔がなければT型スライドハンドルで回し、奥深い部分に突っ込みたいならエクステンションバーをつないで回すことが可能で、フラットな一文字ハンドルに比べて作業範囲が大幅に拡張し、気軽に使いたいと思えるようになります。

ディープソケットとダイス用アダプターを組み合わせたような形状のタップホルダーも同様で、ソケット工具と組み合わせることで作業場所の制約が大幅に減少するのが大きな魅力となります。

POINT

  • ポイント1・タップ&ダイスセット付属のハンドルは一文字形状が一般的で凹凸のある部分では回せないことが多い
  • ポイント2・タップホルダーやダイスホルダーにより、タップやダイスとハンドル間の距離を確保できるため、深い場所のネジ修正が容易になる

タップやダイスのサイズに応じて複数のホルダーが必要になることもある


コーケン製ダイスホルダーは、JIS/ISO規格の丸ダイスに対応した3サイズ。所有しているダイスの直径がネジ部のサイズに関わらず同径であれば、ダイスホルダーも一種類で良い。


ホルダー部分に25と刻印してある製品は、ダイス外径φ25mmに対応する。ソケット部分のイモネジとダイス外周の凹部を合わせて固定する。


取り外したボルトのネジ山が傷んでいた時には一文字型のホルダーに取り付けたダイスで修正が可能だが、エキゾースト部分のスタッドボルトなど車体側に残るボルトはダイスホルダーにエクステンションバーを付けるなどしなければ修正できない。スイングアームのピボットボルトは抜ける部品だが、差し込んだままダイスが使えればリアタイヤやブレーキなどのパーツを外す手間が省ける。こんな場面でもダイスホルダーが重宝する。

タップやダイスと組み合わせるホルダーはネジ山修正の強力な武器になりますが、汎用性の高いユニバーサルツールながら、組み合わせる工具のサイズによる使い分けは必要です。例えばコーケン製アジャスタブルタップホルダーの場合、M1~M6タップとM5~M12タップ用の2サイズが発売されています。バイクではM5、M6、M8あたりのボルトが多用されるので、M8までカバーしようとすれば大きい方を入手するのが良いかもしれません。

ダイスホルダーも同様で、ダイスの外径によってホルダーのサイズも変わるため、手持ちのダイスに適合する製品をチョイスしておかないと、いざという場面で使えずに残念な思いをすることになるので注意が必要です。

このサイズ区分はあくまでコーケン製ホルダーの例であり、他メーカーでは使用サイズの幅が異なる製品もあります。タップホルダー側にラチェット機能が付いていたり、ハンドルとホルダーが一体化された製品もあります。またダイスには丸型だけでなく六角形のダイスもあり、六角ダイス用ホルダーも存在します。

できればネジ山を傷めず作業できるのが理想ですが、実際にはさまざまな状態のネジ山が存在します。ネジロック剤が塗布されたボルトを再使用する際に、雄ネジと雌ネジに付着したロック剤をタップとダイスで取り除くだけでボルトの締め付けがスムーズになり、新たにロック剤を塗布するための下地も整います。

このようにタップやダイスは特別な作業のためにあるだけでなく、通常のメンテナンスや大きなトラブルを回避するためにも役立ちます。タップホルダーやダイスホルダーはタップダイスの使い勝手をさらに向上させる、頼れる助っ人工具なのです。

POINT

  • ポイント1・タップホルダーやダイスホルダーのサイズ設定を確認して、使用するタップやダイスに適合するものを入手する

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