古いバイクのエンジンメンテナンス中に、カチカチに硬化したカバーガスケットを切断するのは珍しいことではありません。純正部品が手に入らない時は汎用のガスケットシートから切り出して自作できますが、ネジ穴の位置を合わせるのが難しい。そんな時は朱肉や光明丹で穴位置を転写すれば、ドンピシャで穴を開けることができます。
入手困難な古いガスケットはなるべく切断せず回収したい
ベースガスケットシートはデイトナなどの部用品ブランドからサイズや厚さが異なる製品が発売されている。エンジンのケースカバーガスケットの場合、切り抜いた内側がすべて余剰となってしまうことが多いが、別の部品の材料として使える場合もあるので捨てずに取っておこう。
偶然ネットオークションで仕入れた社外品の未使用ガスケットを持っていたが、数十年の時間の経過で柔軟性が失われて曲げるだけで簡単に割れてしまう始末。液体ガスケットを併用してもシール性が心配なので、新品のガスケットシートに転写して切り出した。
絶版車や旧車のエンジンをいじる際は、交換する部品が手に入るか否かを確認してから作業することが重要です。長期放置車でありがちなクラッチの張りつきは、主にフリクションディスクとクラッチプレート間の油分がなくなり、クランクケース内の水分によってクラッチプレートが錆びることで発生します。
張り付きが軽度なら、ローギアでエンジン回転を上げ気味にしてクラッチを勢いよく繋ぐ際のショックで剥がれる場合があります(バイクが勢いよく飛び出そうとするので前後ブレーキをかけておく必要があります)。それでダメならディスクとプレートの交換が必要ですが、その際にディスクとプレートが入手できなければそもそも話になりません。
都合良く2種類のプレートが手に入っても、クラッチカバーを外すためカバーとクランクケースの間のガスケットも必要です。1960年代から70年代の絶版車や旧車の中でも、人気モデルであれば社外品が販売されていることもありますが、多くの機種では販売終了となっているのが一般的です。
古いガスケットがきれいに剥がれたなら、液体ガスケットやグリスを塗布して組み立て時に再使用することも可能です。一方、エンジンかケースにガッチリ張りつき、カッターナイフやスクレーパーを使わなければ剥がれないような時、交換部品がなければ自作で対応するしかありません。汎用のガスケットシートはバイク用品メーカーから販売されているので、そこに元のガスケットの形状を写し取って切り抜くのです。
その昔はガスケットシートに直接パーツを置いて外周をトレースして形状を決めて、外周に対して内周の形状を描写して切り抜いたり、カバーの当たり面に朱肉やバルブの摺り合わせで使う光明丹を塗ってガスケットシートに押し当てて転写する方法もありました。その後はコピー機を使ったりスキャナーとパソコンでデザインを取り込んで、カッティングマシンでガスケットシートを直接切り出すデジタル手法も広がりつつあります。
いずれの場合でも、できるだけ元のガスケットやカバーの形状を正しく写し取り、新たに製作するガスケットに反映させることが重要です。
- ポイント1・古いバイクのエンジンメンテナンスや整備を行う際は、交換部品だけでなくガスケットが入手できるか否かが重要
- ポイント2・パーツ外周のトレースや古いガスケットのコピー、スキャナーやパソコンとカッティングマシンを組み合わせるなど、ガスケットを複製する手段はいくつもある
ネジ穴の位置がズレがちなのがガスケット複製時の難点
吸排気バルブの当たり幅をチェックする際に使用する光明丹は、希釈するエンジンオイルの量によって粘度を調整できる。ネジ穴の位置を決めるには強めの粘り気が使いやすい。
ネジ穴位置すべてに光明丹を塗布する。マジックや塗料に比べて乾燥しづらく、パーツクリーナーで簡単に除去できるのが光明丹の特徴だ。
カバーとガスケットの位置を慎重に合わせて、ネジ穴部分がズレないように押しつけることで穴位置が転写される。実物を元に決めた穴位置なので、それぞれのネジ穴の位置関係も正確に再現される。
エンジンカバーのガスケットを自作する際、部分的に切断したとしても古いガスケットを回収することは重要です。カバーの合わせ面から直接コピーを取ったとしても、合わせ面の幅より実際のガスケットの幅は広いことが多いからです。エンジンの外側と内側に少しずつはみ出す量を知るには、現物を確認するのが最善です。
そうして切り出したガスケットの仕上げで注意しなくてはならないのが、ネジ穴位置の調整です。クラッチカバーにしてもオルタネーターカバーにしても、複数のビスやボルトで固定しているため、ガスケットにはいくつものネジ穴があります。画像で紹介している1960年代のヤマハ小排気量車のクラッチカバーは7個のビスで固定されているため7カ所のネジ穴があります。
カバーをコピー機においてガスケット形状を複写した場合でも、古いガスケットから転写した場合でも、各々のネジ穴の位置が少しずつずれるだけでガスケットが無理に引っ張られて切断してしまうことがあります。また運良く切れなくても、引っ張られることでシワが寄ってオイル滲みや漏れの原因になることもあります。
ガスケットの幅が広ければ、ネジ穴部分に余裕ができるよう大きく穴を開けることもできますが、ネジ穴周辺の余白は少ないので大きな穴を開けることはできません。そこでお勧めしたいのが、ネジ穴位置をカバーから転写するという方法です。
- ポイント1・ガスケットを自作する際は全体の形状はもちろん、ネジ穴の位置を正確に再現することが重要
- ポイント2・複数のネジ穴が微妙にずれることでガスケットに無理な力が加わり、切断したりオイル漏れの原因になることもある
インクを塗ってガスケットを当てれば正確な位置を転写できる
刃先が鋭く切れ味が鈍っていないポンチで穴位置を打ち抜く。
ネジ穴の位置が正しければ、幅が多少不揃いでもエンジンとカバーの合わせ面はシールできる。このガスケットを再使用したい場合は、表裏にグリスを擦り込むことで張りつきが防止できる。
全体の形状を切り出したら、カバー本体のネジ穴部分だけにインク(ここでは光明丹)を塗布します。次にこの状態でカバーとガスケットの位置を合わせてそっと乗せて、ガスケットがズレないように気をつけながらネジ穴部分を強く押しつけます。するとガスケットにネジ穴の位置が正確に転写されます。
この方法ならコピー紙や古いガスケットではなく、実際のカバーのネジ穴の位置が確定できるので、このカバーの場合なら7個のネジ穴の位置が正しく複写できます。カバーに塗るインクの粘度が低かったり塗りすぎたりすると、ガスケット側でにじんだり流れたりするので、粘度が高めのインクを最小限塗布すると失敗なく穴位置を決めることができます。
また、ネジ穴を開ける際は切れ味の鋭いポンチを使うことも重要です。刃先が鈍いポンチだと穴の切断する際に周囲を押し込んでしまい、ガスケットがよれる原因になります。
必要充分な性能を持つカッティングマシンがリーズナブルな金額で販売されるようになり、その気になれば高精度な一品物のガスケットも自作できる環境が整ってきています。
とはいえ、たった1枚のガスケットが欲しいために新たな設備を揃えるのもちょっと……という人も多いことでしょう。そうした状況の中でできるだけクオリティの高いガスケットを製作しようと思うなら、ネジ穴を正しく決められるテクニックを覚えておくと良いでしょう。
- ポイント1・カバー側に粘度の高いインクを薄く塗布してガスケットを押しつけることで穴の位置を正確に転写できる
- ポイント2・ガスケット紙にネジ穴を開ける際は切れ味がシャープなポンチを使用する
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