
久しぶりに走らせたいと思ったNSR250R。ロードゴーイングレーサー仕様のSPモデルやSEモデルには「乾式クラッチ」が標準装備される年式もあった。ここでは、フルパッケージングの湿式クラッチとは違い、外気と触れている「乾式クラッチ」に注目し点検清掃してみよう。
目次
純正資料を見ること作業事前にイメージ
今回のメンテナンス前にはモデルに適合したサービスマニュアルとパーツリストを準備した。サービスマニュアルでテクニカルデータや分解組み立て時の諸注意を事前確認。パーツリストでパーツの入り組みやガスケットなどの消耗部品の部番を確認。もちろん部品にダメージを発見したら、必要な部品をパーツリストからピックアップして発注する。ウェビックでは、国産車や外国車を問わず、純正部品を発注することができる!!
「乾式クラッチ」は読んで字の如く
一般のバイクはエンジンオイルに浸ったクラッチシステム=湿式クラッチを採用する例が多いが、本気のレーサーレプリカであるNSR250RのSP=スポーツプロダクション仕様車には、乾式クラッチを採用していた(88年型の初代SP仕様は湿式クラッチ仕様だった)が、これはメンテナンス性の向上と熱を帯びるとオーバーヒートしやすいクラッチを、乾式化によって冷却速度を高める策でもあった。カバーを取り外したら、クラッチレバーを握り込み、一番外側のコントロールプレートが指先でスムーズに回転するか?確認してみよう。クラッチが貼り付いているとビクともしないはず。今回はスムーズに回った。
クラッチスプリング固定ボルトを取り外す
コントロールプレートの作動は5本のボルト&クラッチスプリングで行われている。機種によって様々だが、バイク用のクラッチは一般的に4本~6本スプリング仕様が多い。これは湿式も乾式も同じである。
使いやすいピックツールをイメージしよう
湿式でも乾式でも、多板クラッチ仕様がバイク用の特徴である。クラッチフリクションディスクとスチール製クラッチプレートを抜き取るが、その際に使いやすいピックツールがあると大変に便利だ。スチールプレートはマグネット棒のピックツールが便利で、フリクションディスクは細いピックツールが2本あると便利だ。クラッチメンテナンス用のお勧めの自作工具は、不要になったスポークホイールのスポーク。組み換え完了後のスポークのクビが曲がった部分のクギ頭をグラインダーで切り落とすことで、実に使いやすいL字型先端のピックツールを自作することができる。抜き取ったディスクとプレートは入り組み通りの順番でステップにブラ下げることで、復元時に点検しやすい。
乾式クラッチだからこその……
クラッチの断続を可能にするプッシュロッドのエンドピースを引き抜く。この部品にはカップ型オイルシールが組み込まれている(単純にOリングのモデルもある)。ギヤオイルが乾式クラッチ内に侵入いないような構造だ。このシールがダメージを受けてカジってしまうと、粘りが出てクラッチの断続がスムーズに行かなくなってしまうことがある。今回はスムーズに作動。オイル漏れや滲みも無かった。プッシュロッドのエンドピースを取り外したら、クラッチハブ(クラッチセンターとも呼ぶ)の締め付けナットをインパクトレンチで取り外す。
クラッチアウターの打痕確認
アルミ鍛造のクラッチアウター溝とフリクションディスクの凸が当る部分を目視確認してみよう。急発進、急加速を繰り返していたバイクのクラッチアウター溝は、かなり凸凹になってしまっている例が多い。凸凹になるとスムーズな動きを得られず、クラッチ断続時にスムーズさを得られなくなってしまう。必ず点検しよう。
大型オイルシールに注目!!
クラッチハブを取り外し、クラッチアウターを締め付けるボルトを抜き取るとクラッチアウターが外れる。クラッチアウターの陰に隠れているのが大型のオイルシールだ。このオイルシールリップにダメージがあると、クラッチ室内がギヤオイルで汚れた状態になっている。今回は乾燥し、フリクションディスクの粉塵でまみれていた。復元前にはオイルシールにダメージを与えないようクラッチ室内を徹底的にクリーンナップしておこう。
- ポイント1・乾式モデルを所有しているのなら、コンディション維持のためにも定期的に分解して内部を点検洗浄しておこう
- ポイント2・長年所有する気持ちがあるのなら、消耗品のオイルシールやガスケットはスペアパーツを購入しておこう。販売中止後では遅い!!
密閉されたクラッチカバーの中で(ギヤオイルによって潤滑されている)、駆動力の断続を行っているのが、湿式クラッチシステムである。一方、湿式とは異なり、外気に触れながら稼働しているのが、湿式クラッチシステムの特徴である。クラッチを握ったときに、シャラシャラシャラ~♪といったサウンドが聞えてくるのが乾式クラッチの特徴だ。湿式クラッチにもメカノイズはあるが、ギヤオイルで常時潤滑されているのと密閉されたクラッチカバーによって、そのノイズは大きく響かない。そんなサウンド、ではなくノイズが特徴の乾式クラッチだが、ここでは、メンテナンス性が良い、乾式クラッチの長所を生かした分解メンテナンスにトライしてみよう。
レース用のベース車かつホモロゲーションモデルのため、乾式クラッチが装備されたスポーツプロダクション仕様。最高性能を発揮するには、日頃からの点検やメンテナンスが極めて重要である。レースユースなら、練習走行後やレース前に分解メンテナンスを行うと思うが、日常のストリートユースとなると、乗りっぱなしにしているユーザーが圧倒的に多いはず。モデルの性格を正しく理解し、定期的にメンテナンスしなくては、本来の性能を発揮できことを肝に銘じたい。そればかりか、大切な部品のライフが短くなってしまうこともあるので、尚更、要注意である。
分解時に注意すべきは、クラッチアウターの凹溝とクラッチハブの凸凹溝のコンディションを目視確認することである。湿式クラッチの場合は、ギヤオイルによる潤滑や油膜が干渉を和らげる働きをするので、同じ距離を走ったエンジン部品同士を比較しても、明らかに乾式クラッチ仕様の方が「明確な打痕」が残っている。愛車を末永く乗り続けたいのなら、クラッチフリクションディスクやクラッチプレート、クラッチスプリングのスペアパーツ確保だけではなく、クラッチハブやクラッチアウターのスペアパーツも確保しておきたいものだ。
また、クラッチアウターを取り外した時には、その裏側にある大型オイルシールのコンディションを確認しておこう。簡単にオイル漏れを起こさない部品だが、乾式クラッチ室内にギヤオイルが侵入すると、クラッチディスクはすぐに滑り症状を起こしてしまうのだ。仮に、オイルシール周辺が湿っていて、油汚れで真っ黒な時には、オイルシール交換も必要になる。そんなこともあるため、末永く愛車を楽しみたいのなら、スペアのオイルシールも確保しておきたいものだ。
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