
冷却水によってエンジン内部の温度を一定の範囲に維持できるのが水冷エンジンの利点です。ラジエーターに走行風が当たることで冷却水の熱がフィンから放散されますが、アイドリングや低速走行時には冷却ファンによって強制的に空気の流れを作り、冷却しています。水温計の針がいつもより高い位置を指している時は、冷却水の状態だけでなく冷却ファンの作動状態も確認してみましょう。
バイクの冷却ファンの作動状態は自動車よりも分かりやすい
冷却水の交換や冷却系統のメンテナンスを疎かにしていると、ホースバンドの緩みに気づかずホース差し込み部分から徐々に冷却水が漏れ出すことがある。バンドは締まっていてもホース自体の弾力性が失われてにじんだり漏れることもあるので、ラジエター周りがカウルに隠れて見えづらい機種も、たまにはカウルを外してチェックしておきたい。
走行風が当たらないと冷却できない空冷エンジンに対して、絶えず冷却水が循環する水冷エンジンは夏場でも安定走行ができると言われています。バイクではまだ空冷エンジン車が残っていますが自動車は水冷エンジンばかりであることを見ても、冷却面では水冷の方が有利であることは確かです。
ただ、水冷といっても冷却水がエンジンから受け取った熱はラジエーターのフィンから空気中に放散されるわけで、最終的には冷却水と温度差のある空気と触れなければ熱の移動は起こりません。ラジエーターの中で冷却水が通過するチューブに対して、細かく折り畳まれた薄いアルミ製のフィンがびっしり設置されているのは、熱を発散するための表面積を確保するためです。
フィンの面積を大きくすることで放熱効果は向上しますが、より積極的に熱交換を行うためにはフィンに風を当てる必要があります。そのための装備が冷却ファンです。フロントエンジン・リアドライブ=FRが多かった時代の自動車の冷却ファンは、エンジンのクランクシャフトからファンベルトで駆動力を分けてもらい回すのが一般的でしたが、進行方向に対してエンジンが横置きされるフロントエンジン・フロントドライブ=FFが大半となった現在ではモーターで羽根を回す電動ファンが一般的です。そしてバイク用の水冷エンジンの冷却ファンもまた、モーターで羽根を回す電動ファンを採用しています。
冷却ファンが作動するのは、走行風によるフィンからの放熱が不足する場合やエンジンの発熱が著しい場合で、具体的にはアイドリングやノロノロ運転を続けた時や、高速道路での連続運転から一般道に降りたような場合です。運転席とエンジンルームが離れている乗用車では冷却ファンが動き出しても気がつかないこともありますが、バイクの場合はライダーとエンジンが近く、必然的にラジエターも近いため電動ファンの作動を感じられる場合も多いです。フルカウル車ではファンが動き出すと同時にダクトから排出される熱気にうんざりするライダーも少なくないかもしれません。
しかし立ち上る熱気は上昇した水温を冷却している証拠でもあります。中には「走行中は常にファンが回りっぱなしだよ……」という機種もあり、そうしたバイク向けにカスタムパーツとして大型のラジエーターが発売されていることもありますが、それらも水冷エンジンにとって効率的な放熱が重要であることを証明しています。
- ポイント1・水冷エンジンは空冷に比べて温度の制御がしやすいが、ラジエーターに風が当たらなければ大きな冷却効果は期待できない
- ポイント2・アイドリングや低速走行など、ラジエーターに充分な走行風が当たらない時に冷却ファンの働きが重要になる
水温が異常に高くなれば油温も上昇するためエンジンオイルの劣化が促進される
ホースクランプで締め込まれたホースは潰れグセがつく。高温の冷却水が流れるアッパーホースは熱によってホースが膨れることで、クランプの食い込みがより顕著になることがある。こうしたホースを再利用する際は、食い込み痕がついている同じ部分をバンドで締める。
何らかの原因でラジエーターの冷却ファンが回らない、あるいは充分な走行風も当たらない状態が続くと冷却水の温度は上昇し、最終的にはオーバーヒートに至ります。ヤカンで水を沸かす際、コンロの上でヤカンから湯気が立ち始めると水は徐々に減少し、100℃で沸騰した状態で放置すればいずれ空だきになってしまいます。これがオーバーヒート状態です。
エンジンの冷却水はヤカンと違って、基本的には冷却系統として閉鎖されています。さらに閉鎖して経路内の圧力を高めることで冷却水の沸点は100℃以上になっています。水道水による希釈率やラジエーターキャップによる加圧力によって左右されますが、エチレングリコールを主成分とする冷却水の沸点は120~130℃になると言われています。そしてそれ以上の温度になって冷却水が沸騰すると、圧力を逃がすためにリザーバータンク内に移動します。
冷却水が冷却の役目を果たさなければ、湯たんぽやカイロを抱えているようなものです。エンジンが発する熱の中にはエンジンオイルが発する熱も含まれるため、水温の上昇に連動して油温も上昇します。適正な使用温度帯を外れて油温が上昇すればオイルの粘度は低下するため油膜強度が低下し、高温にさらされる燃焼室周りや強い力で摺動するミッションギアなどの接触部分の金属部品がダメージを受けるリスクが高まります。
つまり水温の上昇はラジエーターや冷却ファンの不具合にとどまらず、エンジン本体にダメージを与える可能性もあるということです。街中のノロノロ運転では水温計の針が高温側を示すものの、速度を上げれば冷えてくるからまあいいか……というオーナーもいるかもしれませんが、水温が上昇した際に冷却ファンが回り始めない時には原因を追及して適切に対処することが必要です。
- ポイント1・エンジンの発熱量がラジエーターの放熱量を上回るとオーバーヒートにつながる
- ポイント2・冷却水温が過度に上昇することでエンジンオイルの温度も上昇してしまい、オイルの劣化を早めたりエンジン自体に影響を与える可能性もある
冷却ファンの作動不良の原因はモーター本体とファンスイッチの2カ所を疑う
転倒時に衝撃が加わり、左右のタンクのカシメ部分が若干開いたラジエーターをネットオークションで落札した中古品に交換する。装着前に水道水を流し込んで内部を洗浄しておく。ファンスイッチは向かって左側のタンク上部に付いている。
ラジエーターの裏側に装着されたファンモーターは、走行風と合わせて空気を流すよう、表側からフィンを通して空気を引っ張り込む。ラジエーター交換にあたって移植するファンの作動状態を確認する場合、ファン単体ではなくラジエーターに装着された状態で電気を流す方が怪我のリスクが少ない。
ファンモーターに直接12Vを流す際は、くれぐれもファンの羽根に触れたり巻き込まれないように注意する。全開時にには調子よく回転しているようでも、電気を流した瞬間や配線をバッテリーから外して止まる間際に異音がしたりガリガリとした摩擦音がする場合は、モーター自体の寿命が近い可能性がある。
冷却ファンを作動させるファンスイッチはラジエーター本体に装着されていることが多く、冷却水が設定温度に達するとスイッチが入りファンモーターに通電します。したがって冷却ファンが作動しない場合は、ファンスイッチとモーターをそれぞれチェックして原因を特定します。
簡単に確認できるのはファンモーターです。配線をコネクター部分で切り離してバッテリーから直流12Vを流して、モーターが回転するか否かで判断できます。写真ではタンクとチューブ部分の亀裂によって冷却水が若干漏れているラジエーター本体の交換に合わせてファンモーター単体でチェックしていますが、高速で回転するファンで怪我をするおそれがあるので、ファンユニットをラジエーターに装着した状態で確認しましょう。そうであっても、ファンに手や指を巻き込まれないように注意しなくてはなりません。
メインスイッチを切っても冷却ファンが回るバイクの場合、ファンの配線はバッテリーに直接つながっているため、水温が高い間はファンの周辺に手や指を近づけないようにしましょう。どうしても近づける場合はバッテリーのマイナス端子を外してから作業する慎重さが欲しいものです。
ファンスイッチの働きはキャブレター車とフューエルインジェクション車で若干異なります。キャブレター車の場合、ファンスイッチは水温によって単純に接点が断続するオン・オフ構造になっています。一方フューエルインジェクション車では、温度によって抵抗値が変化する水温センサーを利用しており、抵抗値の変化をECUに入力してファンリレーに出力してモーターを作動させています。とはいえ、いずれにしても水温の変化によって導通や抵抗値が変化するので、スイッチ単体を水を張った鍋などで加温して、設定温度に達した時に導通するか否かをチェックします。
ちなみに冷却水の温度管理に関してサーモスタットも重要な要素となりますが、サーモスタットの開閉は冷却ファンの作動とは直接的に関係はありません。水温が低いうちはサーモスタットが閉じておりエンジン本体の暖機を促進し、開弁温度に達してサーモスタットが開くと冷却水がラジエーターに循環し、ラジエーター内の冷却水温度がファンスイッチの作動温度に達するとファンモーターが作動するという順序になります。
そのため、オーバーヒート気味だからといってサーモスタットを低温で開くローテンプタイプに交換したとしても、ファンスイッチやファンモーターの不具合により冷却ファンが回らなければ水温の上昇は抑えられません。
先に述べたように自動車に比べてバイクのラジエーターはライダーに近い場所にあるので、作動状態が把握しやすいのが特徴です。水温計の針が高温を指しているのに冷却ファンが作動していない時は、ファンモーターとファンスイッチの機能を確認してみることをお勧めします。
- ポイント1・冷却ファンが作動していない時は、ファンスイッチ(水温センサー)とファンモーターの2方向からチェックする
- ポイント2・ファンモーターを単体で動作チェックする場合、モーターの羽根で怪我をしないよう注意する
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