
金属製の部品が高速で動き続けるエンジンにとって、エンジンオイルの役割はとても重要です。部品同士の摩擦を防ぎ、燃焼によって発生する圧力を受け止め、各部で発生する熱を吸収することで性能が徐々に低下するエンジンオイルは定期的な交換が必要で、オイル交換は最も重要なメンテナンス項目のひとつです。
ワイズギアから新発売された「オイルチェンジキット」は、エンジンオイルやオイルフィルター、ドレンボルトのガスケットをはじめ、エンジンから抜いた古いオイルを吸い取る吸油材など、オイル交換に必要なアイテムをすべてセットにした画期的な製品です。
ヤマハ車を知り抜いたワイズギアが機種別に設定したオイルチェンジキットは、MT-09/MT-07/YZF-R25他用、SR400他用、SEROW250他用の3タイプ。今回はエンジンオイル交換の重要性をおさらいしながら、オイルチェンジキットの使い勝手をレポートします。
ヤマルーブ・プレミアムシンセティックオイルやオイルフィルターなどのキット内容は専用ケースに納まっており、この箱はエンジンオイル処理ボックスとして使用する。左の吸油材はビニール袋に入っており、エンジンから排出したオイルを吸い込ませた後に処理ボックスに入れた後に、地域のルールに従ってゴミとして処分できる合理的な設計。
目次
アクセサリー専業メーカーならではの配慮が行き届いたオイルチェンジキット
走行距離や使用期間によってエンジンオイルを交換する際、エンジンオイルを選び、オイルフィルターを選び、オイルドレンガスケットやOリングなどを揃え、廃油処理の段取りを整えるのがこれまでの常識でした。日頃から愛車のメンテナンスを行っているユーザーであれば当たり前の流れですが、バイク歴が浅いビギナーライダーや、車両を乗り換えたばかりの新規オーナーにとっては、必要なアイテムを漏らさず買い揃えるだけでひと苦労することもあります。
エンジンオイルの容量はバイクごとの取扱説明書に明記してありますが、オイルドレンガスケットのサイズやオイルフィルターの部品番号などは自分で調べなくてはなりません。部品を外してみたら思わぬところからOリングが出てくることもあります。オイルドレンガスケットやOリングは一度外したら新品に交換すべき部品なので、新品を用意していないから古い部品を再使用しておこう……というのはおすすめできません。
ヤマハ発動機グループ唯一のアクセサリー専業会社であるワイズギアの新製品であるオイルチェンジキットは、オイル交換に伴う煩雑な部品チョイスの手間を省き、これひとつあればエンジンオイルとオイルフィルター交換作業ができる、ありそうでなかった画期的なメンテナンス商品です。
オイルチェンジキットはMT-09/MT-07/YZF-R25他用、SR400他用、SEROW250他用の3タイプが販売されており、それぞれのキット内容は
- ヤマルーブ プレミアムシンセティック
- オイルフィルターエレメント
- オイルドレンガスケット
- ファンネル(漏斗)
- 計量カップ
- オイル交換時期リマインダーステッカー
- ニトリル手袋 1双
- ペーパーウエス5枚
- 吸油材
- 取扱説明書
と充実しています。
パッケージ状態で購入すれば作業に必要な工具以外は何もいらないオールインワンシステムが魅力で、オイルフィルターやガスケット類はワイズギアがチョイスしているので買い間違いや買い忘れの心配も不要です。廃油処理に必要な吸油材も機種ごとのオイル容量を考慮した設定なので、排出中に溢れたりこぼしたりして慌てることもありません。
オイル交換に必要な「全部」が入っているのがオイルチェンジキットの大きな魅力です。
オイル交換の要となるエンジンオイルには化学合成油のプレミアムシンセティックを採用。 1リットル缶に対する端数を量る計量カップやオイルを注油口に導く折り畳みファンネルも付属する。
MT-09/MT-07/YZF-R25他用のオイルフィルターはカートリッジタイプ。オイルドレンガスケットはMT-09/MT-07用とYZF-R25用は直径が異なり、オイルチェンジキットには両サイズに対応できるよう大小2個のガスケットが入っている。
SR400のオイルフィルターエレメントはエンジン内蔵タイプで、オイルフィルターカバー用に大小2個のOリングが付属する。ドライサンプ方式のSRはオイルドレンボルトがフレームダウンチューブとクランクケース下部にあるので、ガスケットも2種類となる。
セロー250のオイルフィルターエレメントもエンジン内蔵タイプ。エレメントカバー用の大小2個のOリングのうち、年式によってわずかに直径が異なる小サイズ2種類から適切な方を選ぶ。オイルドレンガスケットはソリッドタイプだ。
最も重要なエンジンオイルはヤマルーブ プレミアムシンセティックをチョイス
エンジンオイル交換でどんな銘柄を選ぶかにライダーの好みが現れます。さまざまなブランドやグレードがありますが、重要なのはエンジンオイルは単なる潤滑油というだけでなくエンジンの一部であるということです。
気密性能や潤滑性能、摩擦低減作用や清浄分散性などいくつもの機能を作り込まれた現代のエンジンオイルは、もはやひとつの部品であると言っても過言ではありません。ただしピストンやカムシャフトなどの金属部品と違って、走行距離や使用期間が長くなるほど性能が低下する宿命があります。そのため、鉱物油や化学合成油といった組成や粘度といった指標はもちろんですが、エンジン内の金属部品との組み合わせでどのように機能させるかも重要な要素となります。
この点で、エンジンの開発時に使用されるヤマルーブはヤマハ車のエンジンに最適化された仕様を持ち、マッチングは最適です。ヤマハでは4ストロークエンジンを市販化した当初から自社内でエンジンオイルの開発を行っており、その伝統は現在のヤマルーブにも受け継がれています。
ヤマルーブのスポーツモデル用ラインナップには鉱物油のスタンダードプラス、部分合成油のスポーツ、化学合成油のプレミアムシンセティック、同じく化学合成油のRS4GPの4種類があり、オイルチェンジキットにはプレミアムシンセティックを採用しています。このオイルは中・大型車にとって過酷な夏場の渋滞運転でも油膜保持性能が低下しづらく、高温高負荷状況下でも揮発しづらく酸化安定性が高いことが特徴です。
エンジンを知り尽くしたメーカーだからこそ開発できるヤマルーブは、ヤマハ車にとって最適な選択と言えるでしょう。
エンジンオイルの流動性を高めるためにエンジンを暖機した後に、エンジンオイル処理ボックスの中に吸油材のビニール袋を広げてからオイルドレンボルトを緩める。ドレン部分からオイルが飛び出す角度や位置を想定して吸油材の位置を決めるのがコツ。ドレンボルトはメガネレンチやソケットレンチなど、ボルトの頭をなめづらい工具を使用する。
緩めたドレンボルトが外れると同時にオイルが掛からないよう手前に手を引くことで、暖機後の熱いオイルによる火傷を避けられる。オイルが抜ける後半に車体をゆっくり左右に傾けたり前後に揺することで、エンジン内の古いオイルをより確実に排出できる場合がある。
フレームのダウンチューブをオイルタンクとしているSR400は、下部のドレンボルトを外すとフロントタイヤに向かってオイルが飛び出す。そこでフロントフェンダーの下部についたて代わりに段ボールなどを貼り付けておくことで、タイヤの汚れを防止できる。
オイルドレンボルトのネジ山にエンジンのオイルパンの雌ネジが引っ掛かっていないか、汚れが付着していないかを確認してから、オイルドレンガスケットを取り外す。締め付け時に潰れるガスケットはドレンボルトのネジ部に食い込んでいることもあるので、その際はプライヤーで摘まんで取り外す。
右の新品オイルドレンガスケットには厚みがあるが、オイルドレンボルトで締め付けることで左のように潰れて平らになる。このタイプのガスケットは潰れることで密閉性を発揮するが効果は一回限りなので、ドレンボルトを外したら新品に交換する必要がある。
交換作業は信頼できる工具を使用してボルトの締め付けは確実に
エンジンオイル交換はメンテナンスの中でも基本的なメニューですが、使用する工具や作業手順には慎重さが必要です。軽い気持ちでいい加減に取り組むことで、大きなトラブルにつながることもあるので注意しなくてはなりません。
まず第一に、作業に適した工具を選択し、正しく作業することが重要です。ドレンボルトを緩める工具はスパナやモンキーレンチではなく、必ずメガネレンチを使いましょう。スパナやモンキーが自体が悪いわけではなく、力を加えても外れにくいメガネレンチの方がドレンボルトをナメる危険性が低いからです。ドレンボルトを締め付ける際はガスケットを新品に交換した上で、適正なトルクで締めることも重要です。
これは力任せに締め付ければ良いわけではなく、ガスケットが気密性を発揮できる力を加えなくてはなりません。そのために各機種用の取扱説明書には、ボルトの締め付けトルクが記載されています。
オイルフィルターも同様です。MT-09/MT-07/YZF-R25他用キットのオイルフィルターはカートリッジタイプで、着脱にはカップタイプのオイルフィルターレンチが必要です。このレンチはキットに含まれていないので、別途購入します。カップレンチを持たず、大型のマイナスドライバーを串刺しにして緩めるベテランも中にはいますが、エンジンにダメージを与える危険性があり、新しいオイルフィルターを取り付ける際に締め付けトルクが管理できないためおすすめできません。
オイルフィルターがエンジンに内蔵されるSR400やSEROW250の場合、フィルターカバーボルトは六角レンチで着脱できます。しかしカバーとエンジンに挟み込まれるOリングは必ずキット内の新品に交換します。また内蔵タイプのフィルターは取り付け方向が決まっています。エンジン側とカバーの形状により逆組みはできないようになっているので、無理矢理カバーを押しつけたりせず、フィルターとカバーが無理なく納まるように取り付けましょう。
MT-09/MT-07/YZF-R25等のカートリッジタイプのオイルフィルターはカップタイプのフィルターレンチで着脱する。ワイズギア純正品番は90890-01426で、他にデイトナなどバイク用品メーカーからも汎用タイプのフィルターレンチが発売されている。
フィルターレンチ中央の六角部をメガネレンチなどで回してオイルフィルターを緩めて、手で取り外す。オイルフィルターが緩むとエンジンとの隙間からエンジンオイルが流れ出るので、吸油材をエンジンの下に置いて作業する。またカートリッジ内にもオイルが残っているので、吸油材の上でフィルターを逆さまにして排出しておく。
オイルフィルターエレメントをエンジンに内蔵するセロー250やSR400は、オイルフィルターカバーを外すと内部のオイルがクランクケースカバーを伝って流れ出すので、吸油材をエンジン下に置いて同梱のペーパーウエスでフレームやマフラーをカバーしておくと良い。
エンジンとフィルターカバーの間に入るOリングは必ず新品に交換する。オイルチェンジキットには純正部品が入っているので心配無用。新しいフィルターエレメントをセットしてカバーをかぶせる際は、Oリングがリング溝の中に確実に入っていることを確認してからボルトで固定する。
吸油材にオイルドレンボルトとオイルフィルターから排出したオイルを吸い込ませたら、付属品の結束バンドでビニール袋の口をしっかり縛り、地域のルールに従って適切に処分する。
メンテナンスの重要性を実感できるオイルチェンジキット
エンジンオイル交換の重要性は理解できるが、どんなオイルを選べば良いのか、オイル以外にどんな部品が必要なのか?そんな疑問を抱くユーザーは少なくありません。不安があればディーラーや用品店に作業を依頼すれば良いのも確かです。しかしそれでは愛車との距離はなかなか縮まりません。
タイヤの空気圧調整やドライブチェーンのたるみ調整と並び、エンジンオイル交換はメンテナンスの入り口であると同時にバイクに乗り続ける限り切り離せない作業です。ワイズギアは長年にわたってヤマルーブシリーズのオイル販売を行ってきました。ヤマハ発動機のグループ企業というバックグラウンドがある中で、新製品として開発したオイルチェンジキットは今までにない機種別パッケージが特徴です。メーカー開発製品ならではの配慮が行き届いたセット内容は、バイク経験の浅いビギナーはもちろん、経験豊富なベテランにも使い勝手の良いメンテナンス用品としてお勧めできます。
オイルチェンジキットに付属するファンネル(漏斗)は紙製で、全長に余裕がある四角錐なので機種を問わずオイルを注ぎやすい。SR400のエンジンオイル注入口は燃料タンク前側にあるが、このファンネルを使えばこぼれたオイルで周囲を汚さずに済む。
YZF-R25/R3/MT-25/03のオイルフィルター交換時のエンジンオイル容量は約2.1リットル。1リットル缶から2本分注いだ後、残りの0.1リットルを付属の計量カップで量ってから注入する。
オイルドレンボルトやオイルフィルター、オイルフィラーキャップに緩みがないことを確認してからエンジンを始動して暖機し、停止後オイルが安定するまで数分間待った後に車体を直立させて点検窓で油量を確認する。最小と最大レベルマークの間に油面があればOK。
オイル交換時期は走行距離と使用期間で決まるので、付属のステッカーに次回交換日と次回交換走行距離を記載してメンテナンスノート等に貼り付けておく。
この記事にいいねする