特殊工具や専用工具が手元に無いと、良い仕事ができない場面が多々あるのがバイクのメンテナンス。2次減速比の変更でチェーンカットしなくてはいけない時、また、チェーンジョイントの接続時にも、必要不可欠になるのがドライブチェーン専用の工具だ。使いやすさの余り工具頼りになり過ぎてしまうことがあるが、忘れずに行いたいのが、使う前や使った後にやるべき専用工具ならではのケアだろう。高性能な素晴らしい工具だからこそ、コンディション良く、末永く使い続けたいものである。

ドライブチェーンツールにも種類がある



ツールカンパニーストレート製のドライブチェーンツール。ドライブチェーンのカットとジョイントカシメが可能な専用工具。Φ2.2/Φ2.9/Φ3.8mmの3種類のピンは、チェーンをカットするときにリンク接続部のピンを押し出すためのツール。ハンマーで叩いてリンクピンを押し出すようなチェーンカッターもあれば、この商品のように、専用ピンを押し付け、ボルトをネジ込みで押し出すタイプのチェーンカッターもある。

ホルダーを押し付けピンをネジ込みカット





チェーンカット用の専用ピンをネジ付きホルダーのなかにセット。ピンに組み込むスプリングは、押し込んだ際のテンションを抜いた際に、ピンがチェーンブッシュ内から素早く抜き取るためのアイデア装備。カッター本体の受け穴にカットしたい部分のピンをセットし、ネジ付きホルダーを指先で回してチェーンとのガタを無くす。そして、カットピンを押し込むハンドルをゆっくり回していくことで、カシメられているピンをグイッと押し抜く。原付クラスや原付2種クラスの細い420や428サイズのドライブチェーンなら、比較的容易にピンを押し抜くことができるが……。

ジョイントのサイドプレートを圧入固定

原付クラスの小排気量車用415/420/428チェーンの多くは、ジョイントのサイドプレートを指先でセットしてから、抜け留め用クリップをカチッとセットして固定するタイプ。一方、520/50/530サイズやミドルクラス用の428チェーンの場合は、カシメ式ジョイントが多く、ジョイントのサイドプレートは2本のピンに圧入固定した後に、連結ピンをカシメるタイプが多い。仮に、クリップジョイント式でも50系になると、現在ではサイドプレートを圧入固定するタイプがほとんどだ(昔は原付クラスのようなジョイントの大型モデル用チェーンがあった)。サイドプレートの圧入時には「圧入不足」や「圧入し過ぎ」にならないように、周囲のチェーン幅と同じになるようにノギスで圧入状況を確認しながら作業を進めよう。一気に圧入すると失敗することが多い。圧入し過ぎるとジョイント部分の屈曲抵抗が大きくなってしまいNGだ。

ピンカシメは専用ピースの組み合わせ



チェーンジョイントのサイドプレートを圧入し、周囲のチェーンと左右プレート幅を一致させたら、いよいよピンのカシメである。圧入したサイドプレートの反対側のピンをしっかり受けていないと、カシメ時にピン全体が押されて抜けてしまうため、ピンサイズに合致した受けピースを工具本体にセットしてからカシメ作業を行なおう。カシメ過ぎるとジョイントリンクの作動性が悪くなってしまうため、カシメ量を目視確認しながら作業進行しよう。カシメ前のピン端部の径をノギスで測定しておくと、実作業後のカシメ量を理解しやすい。工具メーカーによって特性があるため、各メーカーの使用説明書をしっかり読んでから作業を始めよう。

「工具を長持ちさせるために!!」

☆注目!!☆


ドライブチェーン用特殊工具を利用する際には「カシメ作業」のことばかりに気を取られ、チェーンカットを急いでしまうことがよくある。本来、チェーンカッターは、そのまま利用すればリンクピンを押し抜くことができる。しかし、50系や60系のように太いサイズのドライブチェーンになると、カシメてあるピンを強引に押し抜くことで、専用工具のカットピンやネジ込み部分にダメージを受けやすくなってしまう(押し込みピンが曲がったり歪んでしまい使えなくなることもある)。また、ネジ部分は高い圧力を受けて、カジッて焼付きを起こすケースもある。そんなトラブルを回避し、専用工具の寿命を長くする策として行いたいのが、チェーンサイズにかかわらず、カット時に押し抜きたいピンのカシメ部分を事前にディスクグラインダーで削り落としておくことだ。こんなケアが専用工具に負担をかけることなく、長持ちさせてくれる。ハンドル側のネジ部分には、二硫化モリブデングリスを少量塗布するように心掛けよう。

POINT

  • ポイント1・ 専用工具には取り扱い説明書が入っているので、必ず読んでから作業に入ろう
  • ポイント2・ 工具のコンディションを保つために、使用前にはグリスアップを必ず実施しよう
  • ポイント3・チェーンカット部分のピンのカシメをディスクグラインダーで削り落としてからカット作業に入り、専用工具を長持ちさせよう

オートバイ性能の進化は駆動系部品の進化と表裏一体。60年代は、高性能タイヤの開発が急務になり、それが実現したことで最高速度200km/hの世界が現実化された。そんなタイヤ開発と同時進行で高性能化が進んだのが「ドライブチェーン」である。60年代と言えば、エンジン性能や潜在的走行性能に駆動系パーツが追いつかず、高性能化を狙ったバイクをいくら設計しても、タイヤはバーストし、ドライブチェーンはエンジンパワーに耐えられず破断=切れてしまうことが多かった。

ホンダCB750やカワサキのマッハH1/H2、そして、900-Z1の市販化を語る上で、間違い無く賞賛に値するのが、タイヤ&ドライブチェーンメーカーによる技術革新と開発者の努力だろう。技術進化は日進月歩、バイク設計者と部品開発メーカーのあいだでは、常に追いかけっこが繰り返された。

特に、ドライブチェーンは、日頃からのメンテナンスが極めて重要な部品である。そのメンテナンスにも手順があるので覚えておきたい。最初に行うのは「チェーン汚れの洗浄」。それから「注油=ドライブチェーン専用の潤滑グリス (チェーンルブ)の塗布」である。昔は、吹き付けても走れば飛び散ってしまうような商品があったが、高性能なケミカルが多い今の世の中は、飛び散りにくいチェーングリスが当たり前。グリスが飛び散って車体周りが汚れてしまうこと以上に、より良い潤滑を目指したケア=メンテナンスの方が重要だと考えるようにしたい。

ドライブチェーングリスをリンク内部までしっかり浸透させるためには、試運転でチェーンを十分に温めることも重要になる。汚れたチェーンを洗浄する際にも、冷えた状態で作業するのではなく、試運転でチェーンを暖機してから洗浄作業に入ることで、汚れも落ちやすくなる。どんな作業時にも、どのように作業すれば効率良く、しかも高い効果を得られるのか?考えながら作業進行することが重要なのだ。

ここではドライブチェーンツールに注目してみたい。この専用工具が無くては、安心かつ確実に「ドライブチェーンをカット」できない。また「ジョイントプレートの圧入」もできない。さらに仕上げの「ジョイントピンのカシメ」も行うことができなくなってしまう。そんな大切な専用工具だからこそ、末永く大切に使い続けたいものである。

ところが、乱暴な取り扱いや使いっ放なしにされることが多く、カットピンを曲げてしまったり、押し込みネジ部分をカジらせて作動不良にされてしまう例は少なくない。使用頻度が一番高い専用工具だからこそ、日頃からしっかりメンテナンスを行いたいものである。バイクを走らせるばかり、磨いてばっかりではなく、たまには大切な専用工具類の拭き取りや磨き、注油やメンテナンスにも気を配ろう。

この記事にいいねする

今回紹介した製品はこちら

コメントを残す

今回紹介したブランドはこちら