混合気を爆発的に燃やすきっかけとなる電気火花を生み出しているのがスパークプラグです。点火時期や特殊金属を用いた高性能プラグなどは注目されますが、中心電極と外側電極の間隔=火花ギャップを意識したことはあるでしょうか? バチバチッと火花が飛ぶための単なる隙間と思われがちですが、とても重要な役割があります。

内燃機関の誕生と進化に不可欠なスパークプラグ


スパークプラグの焼け具合を観察することで燃焼状況を確認できる。キャブレター車でくすぶり気味の場合、ジェットセッティングが濃いと判断するのが定石だが、点火ギャップのバラツキにより焼け具合が影響を受ける場合もある。ギャップが小さいと消炎作用が強めに働き、失火によるくすぶりをキャブの濃さと見誤る可能性がある。プラグ装着時に外側電極をシリンダーヘッドに当てて曲げたのに気づかず、ギャップが狭くなったまま締め付けてしまうのはありがちなミス。

シリンダー内で燃料を燃焼させて動力を取り出すのが内燃機関の特徴で、これに対して蒸気機関のようにシリンダーの外部の熱によって作動するのが外燃機関の仕組みです。内燃機関にとっては、圧縮上死点で(正確には圧縮上死点より手前の最適なタイミングで)混合気に燃焼のきっかけを作ることがもっとも重要で、そのために必要とされたのがスパークプラグでした。

内燃機関のアイデアや原理はそれ以前からあったようですが、エンジンとして具体性を帯びるのは1800年代にスパークプラグが発明されてからであり、それ以降エンジンがさまざまな進化を遂げる中でも、電気火花によって混合気に着火するというメカニズムは一貫して受け継がれています。

イグニッションコイルで生み出された2~3万ボルトの高電圧は、スパークプラグ頂部のターミナルから中心電極に流れ、外側電極に放電する際に火花を発生します。これはプラグを取り外してシリンダーヘッドなどに当てた状態でセルボタンを押して確認できます。バチバチとした青白い火花は目で見る限り連続的に飛んでいるようですが、実際には点火時期ごとに断続的に火花が発生しています。

例えばエンジン回転数4000回転の時、スパークプラグには1分間に4000回の火花が飛んでいます。2ストロークエンジンはクランクシャフト1回転ごとに混合気が燃焼するので4000回すべてが着火のための火花となります。一方4ストロークエンジンの燃焼はクランクシャフト2回転に一度なので、混合気に着火するのは2000回です。しかしスパークプラグ自体はクランクシャフト1回転で一度火花が飛ぶため、排気上死点でも火花は飛んでおり、合計すると4000回となります。1分間=60秒間で4000回火花が飛ぶ時、わずか0.015秒に1度着火していることになります。こんな短時間かつ断続的な着火では、連続的な火花に見えるのも当然です。

POINT

  • ポイント1・内燃機関の実用化はスパークプラグの発明と製造がカギを握っていた
  • ポイント2・高速で回転するエンジンにとってスパークプラグの着火時間はきわめて短いが、断続的に点火することで混合気を燃焼させることができる

デリケートな管理が求められる火花ギャップ


中心電極が細くなると消炎作用に対する影響が少なくなるため火種が成長しやすくなる。また電極先端の表面積が小さくなる方が火花が外側電極に向かって飛びやすくなるため失火を減らすことができる。ただし通常プラグ用のニッケル素材のまま細くすると寿命が短くなるので、耐熱性と耐食性に優れたイリジウム合金や白金が用いられる。

エンジン回転数が上昇するほど1回あたりの点火で使える時間は短くなりますが、スパークプラグに飛ぶ火花が混合気に着火するまでにはいくつもの段階がありそれなりの時間が必要です。

点火時期に到達して中心電極と外側電極の間に火花が飛ぶと、電極間に存在する混合気に燃え移り火種が生まれます。次にその火花は電極の隙間から外側に向けて成長し、最終的に燃焼室内の混合気全体に燃え広がり、大きく膨張した圧力でピストンを強く押し下げて動力となります。

火種が成長しようとする過程では、電極間の隙間から横方向に火種が飛び出していくことが必要ですが、ギャップの上下を塞ぐ電極には火種のエネルギーを奪う消炎作用があり、着火に失敗すると失火状態になります。先の例では、4000回転時の4000回に1回や2回の失火であればさほど影響はありませんが、失火が続けばエンジンは止まってしまいます。キャブレター時代のバイクでは、冷間始動時にチョークの使い方を誤ってプラグを被らせてしまうことがありましたが、これは混合気が過剰に濃い状態になり火種がうまく成長できないことが原因です。

電極の消炎作用に負けずに火種を成長させるために設定されているのが電極間の隙間=火花ギャップです。スパークプラグメーカーでは、さまざまな研究や実験を通して標準的なギャップ値を設定しています。NGKプラグの場合、ギャップ記号のないバイク用は0.7~0.8mm、自動車用プラグは0.8~0.9mmとなっています。これ以外に品番の末尾にギャップが明記されたスパークプラグもあります。例えばホンダCB400スーパーフォアの標準プラグはCR8EH-9で、この品番の末尾「-9」は火花ギャップが0.9mmであることを示しています。

火花ギャップが広ければ点火初期段階の火種が大きくなり、消炎作用に負けず燃焼が成長することが期待できます。しかし一方で、火花ギャップが広くなるとイグニッションコイルやイグナイターなど火花を飛ばす側への負荷も大きくなり、点火系に充分なスパーク能力がないのにギャップだけを広げてしまうと、そもそも電極間に火花が飛ばず本末転倒になりかねません。

そうしたジレンマを解消する手段のひとつが、ニッケル製の標準プラグの電極に対して白金やイリジウムを用いた高着火性能プラグです。白金やイリジウム製の電極はニッケル製に比べて圧倒的に細いのが特徴です。電極がスリムなことで火種の成長を邪魔する消炎作用が少なく火炎の燃え広がりが速くなり、結果として燃焼効率が向上するメリットが生まれます。中心電極の断面積に注目すると細い電極には避雷針のような効果があり、面積が広い標準プラグよりも火花が発生しやすい特徴もあります。これはイグニッションコイルの能力が同じなら失火しづらい利点につながります。さらにニッケルに比べて電極の摩耗も少ないため寿命も長くなります。

高着火性能プラグは標準プラグに対して高価ですが、燃焼のメカニズムを考慮した上でそのメリットを知っておくと良いでしょう。

POINT

  • ポイント1・中心電極と外側電極の隙間が点火ギャップとなり、この隙間で発生した火種が混合気に燃え広がり爆発的な燃焼のきっかけとなる
  • ポイント2・中心電極と外側電極には火花の成長を妨げる消炎作用があるため、白金やイリジウムなどで電極を細くした高着火仕様のプラグが開発された

点火が強ければギャップを広く、弱い時は狭くする


コインタイプのギャップツールは、無段階でスロープ状のシクネスゲージが外周に沿って付いているようなもの。点火ギャップにゲージを挿入して、これ以上厚いゲージが入らない場所が現状の隙間となる。写真の場合は0.8mmだ。


エンジンフィーリングの変化を実感できる点火系チューニングパーツとして人気のASウオタニ製SPIIフルパワーキット。混合気の燃焼力を向上させるため、スパークプラグへの電圧、電流、放電時間の3要素を大幅にアップ。フルパワーキット装着後は点火ギャップを1.1~1.3mmに広げるよう指示されているのが、点火力の強さに対する自信の表れだ。


通常プラグの点火ギャップを広げる際は、中心電極と外側電極の隙間にマイナスドライバーを入れてこじることが多いが、専用のギャップオーナーが付いたツールを使えば中心電極に力を加えず外側電極だけを開くことができる。中心電極が極細のイリジウムプラグのギャップを広げる際は、中心電極を支点にこじるのは厳禁。


イグニッションコイルから充分な電力が供給されないとスパークプラグに火花が飛ばなくなる。イグナイターからイグニッションコイルに流れる一次電圧が低い場合はイグナイターの不具合で、一次電圧に問題はないのにイグニッションコイルからスパークプラグに流れる二次電圧が充分に上昇しない場合はコイルの問題と推測できる。いずれの場合でも、点火ギャップを標準値よりも狭めることで要求電圧が下がって火花が飛ぶようになることがある。出先で失火しはじめたような時は、応急処置としてギャップを狭めてみると良い。

点火系が純正ならばプラグギャップは標準値に合わせておくのが基本ですが、2気筒以上のエンジンは注意が必要です。先に触れたように特に指定のないバイク用プラグのギャップは0.7~0.8mmで、NGKプラグの場合はそれ以外のギャップも0.1mm刻みで揃っています。

0.1mmごとに設定されているのは点火ギャップがそれだけシビアだからで、着火性能に影響を与える消炎作用はギャップによって左右されます。4気筒エンジンのプラグギャップがそれぞれまちまちだったら、各シリンダーごとの燃焼状態もまちまちになる可能性があります。もちろん、各シリンダーのごとの混合気の状態や圧縮のバラツキもあるので、火花ギャップだけをシビアに管理することが絶対ではありません。しかし混合気や圧縮のバラツキを確認するより、火花ギャップを揃える方が簡単にできる作業です。

火花ギャップを測定するゲージにはいくつかの種類がありますが、ここではコイン型のゲージを使った測定を紹介します。とはいえ使い方は簡単で、外周部の薄い部分から厚い方に滑らせ、止まったところで目盛りを読むだけです。測定の結果ギャップがバラバラなら、基準を決めて合わせます。

カスタムやチューニング、メンテナンスの面から点火系の能力と点火ギャップに注目することもできます。点火ギャップが大きければ最初の火種が大きく、燃焼室全体に一気に燃え広がることでダラダラと燃えるより燃焼圧力が大きくなることが期待できます。しかし点火ギャップを広げると火花が飛ばせなくなるリスクもあります。

点火系チューニングパーツとして、特に絶版車ユーザーから絶対の信頼性を集めているASウオタニ製のSPIIフルパワーキットはSPIIコントロールユニットとSPIIハイパワーイグニッションコイルの組み合わせにより、ノーマルに比べてスパークプラグに加える電圧は2倍の約4万ボルト、放電電流を1.5~2倍、放電時間を2~3倍としています。SPIIフルパワーキット装着時のプラグギャップが1.1~1.3mm指定となっていることから、それだけ点火エネルギーの大きさに自信があるということです。そして広い点火ギャップにスパークできれば、消炎作用の影響を受けずに火種が大きく成長しやすくなるので、エンジンの調子が良く感じられるようになるわけです。

逆に、点火系の経年劣化やトラブルなどでスパークプラグが失火しがちな場合、火花ギャップを狭めることでイグニッションコイルやイグナイターの負荷が減少して火花が飛びやすくなることもあります。この場合、中心電極と外側電極の接近により消炎作用が大きくなるため、燃焼自体は小さく弱まる傾向になります。しかしギャップを狭めることで失火が減少してエンジンが安定するのであれば、出先で遭遇したトラブルの応急処置として有効であり、点火系の不具合の原因を特定する一助にもなります。

点火時期が来るたびに火花を出すのが当たり前と思われがちなスパークプラグですが、さまざまな場面で点火ギャップが重要であることを知り、適切なメンテナンスを心がけたいものです。

POINT

  • ポイント1・点火系チューニングパーツにより点火ギャップを広げても火花が飛ばせれば、大きな火種から大きな燃焼力を得られるようになる
  • ポイント2・旧車や絶版車のスパークプラグが失火しがちな時は、点火ギャップを狭めて要求電圧を下げることで症状を一時的に改善できる場合もある

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