
電気自動車や電動バイクばかりでなく、ガソリンエンジンにとっても電気は不可欠な存在です。アーシングや静電気除去などの考え方により、最近では「電気をスムーズに流す」ことへの注目度はさらに高まっています。さまざまな追加部品を活用するのも有効ですが、まずは現状の配線を見直して改善ポイントを探ってみましょう。
自動車やバイクの配線で特徴的なボディアースに改めて注目する
既存のヘッドライト配線にリレーを追加することで、ヘッドライトスイッチやディマースイッチを経由せず、バッテリーの電気をダイレクトにヘッドライトバルブに流せるようになるヘッドライトリレー。ディマースイッチに流れる電流でリレーを作動させるため、ハイビームとロービームの両方を明るくしたい場合は2個のリレーを使用する。
リレー左側の赤と黒の配線はバッテリーに直結されており、ディマースイッチの切り替えでハイビームとロービームに直接バッテリー電圧が流れ込む。機種や純正の配線方式によって異なるが、純正配線とダイレクトリレーでヘッドライトに流れる電圧に1V近くの差が出ることもある。
乾電池とスイッチとモーターをつなぐ模型工作では、モーターのリード線は電池のプラスとマイナス端子に直接つながっていました。ところが自動車やバイクの電気回路は、車体自体を配線の一部として利用するボディアースを採用しています。バッテリーのプラス端子につながる配線はメインスイッチやヒューズボックスを通ってヘッドライトやイグナイターやホーンやファンモーターなどに流れ、その後は丸型端子などでフレームやエンジンにボルト止めされます。車体各部の電装部品からフレームやエンジンに繋がれた電気は、最終的にクランクケースからバッテリーマイナス端子につながるエンジンアース線によって回路が成立します。
模型の場合は電源と負荷が一対一のため直接配線でも問題ありませんが、負荷の量が多い自動車やバイクですべてのマイナス配線を直接バッテリーに戻していたらコードが膨大になってしまいます。そこで電気製品のプリント基板と同様に、マイナス側は一度フレームに接続してしまい、導電性が確保されているエンジン部分にまとめてからバッテリーに繋ぐようにしているのです。この回路は多くのバイクがフレームとエンジンが電気的につながっているため成立しますが、仮にフレームがABS樹脂製のバイクがあったとしたら、フレームアースはできません。
こうした回路を効率よく作動させるには電気的な抵抗を取り除くことが有効で、分かりやすい例がヘッドライトリレーです。バッテリーとヘッドライトの間にはヒューズボックスやヘッドライトスイッチ、ロー/ハイビームを切り替えるディマースイッチなどいくつもの配線や接点があり、そこにすべての電流が流れます。ヘッドライトリレーはヘッドライトスイッチやディマースイッチはリレー作動用の信号として利用し、バッテリーとヘッドライトを直結状態とすることで配線や接点にまつわる減衰を最小限に抑えることで光量をアップします。イグニッションリレーも同様の発想で、イグニッションコイルの一次側電源のロスをなくすために専用配線を設けます。
- ポイント1・バイクやクルマの配線では、車体各部の負荷を通過した配線はフレームやエンジンに接続するボディアースを採用している
- ポイント2・複数のスイッチや配線を経由する純正配線を、リレーを使用したダイレクト回路に変更することで効率は大幅に向上する
エンジンにつなぐバッテリーマイナス配線のサビに注意
カワサキZ1~KZ900のバッテリーマイナス配線は、マイナス端子とクランクケース右側後部をつないでいる。この配線には車体各部の電装部品のマイナス配線も合流している。1970年代のバイクは電装品も少ないため、車体アースではなく配線にまとめても煩雑にならないのだ。
NGCジャパンが販売しているアーシングヘルパーボルトとワッシャー。アーシングヘルパーはシリンダーヘッドに溜まる静電気を車体やバッテリーにスムーズに流すことを目的に開発された製品で、配線とワッシャー、ボルトのセットで用いる。バッテリーマイナス配線に用いる場合は、既存の配線に対してボルトとワッシャーで対応する。
銅の芯線に対して銅のツバ付きワッシャーが触れることで低い抵抗値のままクランクケースに接続できる。芯線が露出しておらずツバに触れない場合や、経年劣化により表面が酸化皮膜に覆われている場合はかしめを分解してきれいな芯線を露出させ、新たに端子をかしめ直すと良い。
太いアースケーブルを追加するような派手さはないが、アーシングヘルパーによりバッテリーマイナス線からクランクケースまで抵抗値の増減がない状態で接続できる。余計な抵抗によって発生する静電気は電気的なデバイスへの悪影響をもたらすこともあるので、旧車や絶版車だけでなく現行モデルでも効果を実感しているユーザーが多い。
ヘッドライトリレーやイグニッションリレーの目的はバッテリーから負荷までのロスを減らすことですが、負荷を経てバッテリーに戻るまでの回路も重要です。先述の通りバイクの電気回路はボディアースですが、ヘッドライトのマイナス配線を直接バッテリーのマイナス端子に接続するだけで、ライトが明るくなる機種もあります。これはプラス側だけでなくマイナス側にも抵抗要素があることを示しています。
バイクメーカーの純正バッテリー配線のマイナス側を観察すると、配線は太くバッテリー側の端子はがっちりとした作りになっています。対してクランクケースにボルト止めされているエンジン側は丸型端子です。配線としてはこれが一般的で、サーキットテスターで抵抗値を測定しても電気の流れを阻害する抵抗はありません。
しかしながら各素材の固有の抵抗値に注目すると、異なる見方もできます。バッテリーのマイナス配線がエンジンにつながる部分を素材別に分類すると、銅の配線は真鍮(真鍮)の丸型端子にかしめられ、亜鉛メッキのボルトとワッシャーでアルミニウム合金製のクランクケースに固定されています。
これらの素材を調べると、同じ体積であれば銅やアルミニウムの抵抗値に比べて亜鉛や黄銅は倍以上の抵抗値を示します。これは金属素材そのものが有する特性であり、優劣とは別の話であり、サーキットテスターによる測定では明確な差は出ません。しかしミクロ的に見れば、アルミニウム合金製のクランクケースと銅の配線の間でそれより抵抗値が高いユニクロボルトと真鍮製端子が挟まっていることになり、ここが一種のボトルネックになることが懸念されます。ここで発生した抵抗によってスムーズに流れることができない電流の一部が静電気となって残留すると、各部の作動に影響を与える原因となります。
そうした状況を改善するために開発されたのが、車体各部に蓄積される静電気を除去するスムーズドライブシステムで有名なNGCジャパンのアーシングヘルパーです。これは抵抗値の低い銅ワッシャーと特殊素材のボルトを組み合わせたもので、アースケーブル用にツバ付きのワッシャーも用意されています。車体各部のアース状況の改善を図ることを目的としており、アースケーブルに用いる場合はケーブルの銅線をツバ付きワッシャーのツバに触れさせることで低い抵抗値のまま電気が流れることが期待できます。
製造から数十年を経た絶版車の場合、銅線の表面が端子のかしめ部分で酸化していることも少なくないので、アーシングヘルパーを使用する際に古いかしめを切断して新たな芯線を露出させてかしめ直し、ツバ付きワッシャーを組み込むのが良いでしょう。
改善効果は機種によってまちまちですが、ヘッドライトのマイナス配線をダイレクト化するのと同様に、車体アースのセルモーターの勢いが良くなることを実感できる場合もあります。
しばらく前にアーシングがブームになった頃、太いアースケーブルを車体の各部に取り付けることが流行しました。しかしかしめ金具やボルトの抵抗値への注目度はそれほど高くありませんでした。それに比べるとアーシングヘルパーは若干地味な部品ですが、電気をスムーズに流すことに素材から取り組んでいるのがユニークかつ特筆すべきポイントと言えるでしょう。
- ポイント1・バッテリープラス側の配線と同様に、マイナス側の配線をダイレクトにバッテリーに繋ぐだけで電気の流れがスムーズになることもある
- ポイント2・バッテリーマイナスケーブルの端子部分に存在する素材ごとの抵抗値の差を取り除くことで電流の改善が期待できる
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