様々な技術革新と同様に、溶接分野に於いても日進月歩で技術は進化し続けている。ここでは家庭用電源=「AC100ボルトコンセント電源」で楽しむことができる溶接機の世界に注目してみよう。家庭用のコンセント電源=AC100Vコンセントから始まる「素晴らしき世界」、「ノンガス仕様の半自動溶接機の世界」を、より多くのサンデーメカニックに知って頂ければ幸いだ。

家庭用電源AC100V仕様の半自動溶接機

DIYユーザー向け溶接機の進化が著しい昨今。使いやすさ=理解しやすい各種機能はもはや当然となっている。なにより素晴らしいのが、想像以上に美しい溶接ビードを引けることだ。昔ながらの手棒溶接とはかなり違う使い勝手の良さある。家庭用電源で楽しめる世界が、ここにはある。一般的な半自動溶接機は、不活性ガス=炭酸ガスやアルゴンガスのシールドによって溶接部の酸化を抑制しながら作業進行するのが大きな特徴だ。手棒溶接の際には、溶接棒の被覆にフラックスがあるが、そのフラックスが不活性ガスの代わりになり、溶接箇所を覆いながら作業進行されている。溶接後にハンマーやワイヤーブラシで被覆除去するのは、そんなフラックスだ。ノンガス半自動溶接機の芯線(ロールボビンに巻かれた溶接芯線)は、筒状になった溶接芯線の中にフラックスコアがある。それ故に、フラックスコア溶接芯線とも呼ばれることもある。今回、ここで利用する溶接機は、アメリカのリンカーン社製品だ。

突きだし長さと溶接角度の重要性



同じ溶接条件=セッティングでも、トーチ角度、トーチを進めるスピード、ノズルからの芯線(溶接棒)の突き出し量が異なることによって、溶接ビードの美しさが大きく変わる。溶け込みが良く、しかも見た目が良いのが「美しい!!」の基本だ。縦壁の付け根を溶接する「すみ肉溶接」の際には、トーチ角度は水平板から45度起し、溶接の進行方向に向けてトーチ角を20度程度傾けて作業進行するのが良い。板厚によって芯線の突き出し量を調整。薄板時ほど突き出し量は減らした方が仕上がりは良いようだ。

まずは「条件だし=条件探し」から開始



板厚や溶接芯線の太さなどで、セッティングデータはある程度決ってくるが、一次側電源のコンディションなどもあるため、まずは試し溶接で条件が整っているのか?確認する作業から始めよう。遮光面を利用することで溶接中の現場を目の当たりにできる。芯線が送り込まれ、鉄が溶けている様子、溶接現場そのものを凝視することができるのだ。 この溶けているスポット=溶融池をプールと呼ぶ。遮光面でプールをしっかり見ながら「バチバチッ」といった溶接音を聴くことで、溶接コンディションをある程度は理解することができるようになる。

条件の違いでこれだけ変化する溶接ビード



板厚2.0~3.0mm前後の鉄板を溶接する際の芯線突き出し量は約10mm。厚くなっても突き出し量は同じだが、1.0mm程度の薄板では5mm程度の突き出しにすると作業性および仕上がりが良くなるデータがある。当然、利用する溶接機の性能や電源コンディションによっても仕上がりは変化することを忘れずにいたい。

【テスト溶接の写真解説】

同じ板の上に条件を変更して3種類のテスト接を実施。その溶け込み具合、盛りつけ具合を明確に比較確認することができる。下の画像は上の画像の裏側だが、溶接条件設定を強くすると、溶け込み具合の変化でしっかり溶接できているかできていないかを理解することができる。

インナーダンパー固定溶SSTを自作





正立式フロントフォークインナーのシートパイプ(ダンパーパイプ)を固定するための特殊工具を「ボルトの頭」で作ろうと考えた。複数持っていて使わないサイズの3/8sqソケットレンチを利用し、ボルトの頭を溶接。溶接作業時はシャコ万でしっかり固定しながら作業進行した。完成したのは特殊工具のシートパイプ(ダンパーパイプ)ホルダー。仮締め用であれば、大型サイズの六角レンチとしても利用できそうだ。ボルトの頭がズバリ工具サイズになる。24/19/17/14mmのボルト頭で製作。

サビで穴が開いたエキパイフランジを補修



すでに過走行コンディションに入ったヤマハトリッカーのエキパイフランジを溶接で修理しようと思う。サビが進行してフランジ付け根が薄くなりクラックが入ってしまった。サビている部品でも溶接性が比較的良いのがノンガス半自動溶接の特徴でもある。

薄板でも溶接可能なAC100V半自動溶接機



1.0mmに満たないほど薄っぺらになってしまったエキパイとフランジ金具を溶接。溶接条件の微妙な調整変更を行いつつ溶接完了。家庭用電源のAC100V溶接機でも驚くほど肉盛りすることができた。薄っぺらなパイプでしかもサビているのに、何とか上手に仕上げることができた。溶接ビードは長く引くのではなく、1~2センチ単位で溶接しては、ワイヤーブラシでフラックスを除去しつつ簿材を冷やした。そんな繰り返しが成功の秘訣かも知れない。間違い無く美しい仕上がりになった。溶接完了後、ベルトサンダーの先端で溶接部分をなだらかに切削加工し、エキパイフランジをしっかり押し付けられるように加工した。

POINT

  • ポイント1・家庭用コンセントのAC100Vでも溶接は可能。電圧降下しないように専用コンセントを用意できればベスト
  • ポイント2・いきなり溶接せず、試運転で仮溶接を行い、コンディション確認と溶接条件を確実にかくにんする
  • ポイント3・ 溶接箇所の汚れや油落としはもちろん、サビもできる限り落とすことで溶接の仕上がりは確実に良くなる

鉄板同士がしっかり溶け込んで「確実な強度を得る」ことが何よりも重要な溶接作業。とはいえ、やはり見た目が美しいことに越したことはない。美しいビードを引くことができれば、それはある意味、溶接強度が約束されたようなものでもある(もちろん突き合わせた双方が溶け込んでいなくてはいけないが)。いわゆる「鼻クソのような溶接」でも、突き合わせた2枚の鉄板は一体化されているように見える。しかし、そのような溶接痕では、母材の溶け込みがまったく浅い例が多く、ごく表面だけ「接着剤の如く」くっついている程度の強度しか得られない。ハンマーで叩けば、いとも簡単に表面部分から剥がれてしまうのが関の山だろう。そんなダメな仕上がりにならないためにも、溶接時には試運転を行い、セッティング=溶接条件をしっかり確認してから実作業に入ろう。

ノンガス半自動溶接機で美しい溶接ビードを引くための第一歩、最低限でも知っておきたい事柄に関してリポートしよう。まずは基本中の基本を守り、テストピースにて溶接ビードを描いてみるのが手っ取り早い上達方法だ。もちろん、記述通りにトライしても、キレイなビードが引けないケースもある。そんな事に気がついたら、一次電圧が降下していないか?溶接時のアースがスムーズに取れているのか?などなどを再確認し、溶接条件の設定と変更を行い、まずは美しい溶接ビードを引けるようにしてみよう。

溶接作業時に必ず守らなくてはいけないのが「遮光面」の利用である。遮光面があれば、溶接ポイントを「ズバリ直視」することができるようになる。肉眼で見えるものではなく、遮光面を使わずに溶接火花を直視してしまうと、文字通り「目玉焼き」状態になってしまう。作業時には「眩しい」程度でも、就寝時間になると目がショボショボして開けなくなるなどの症状が出る。そんなことにならないためにも「クリアな安全めがね+遮光面」を利用することで、目玉焼きから回避することができる。

遮光面にも様々なタイプがある。遮光ガラスとクリアガラスを組み合わせて溶接面に組み込んだ昔ながらのタイプがある一方で、普段はクリアなのにもかかわらず、溶接スパークの光源を感知した瞬間に遮光面へと変化する自動遮光面もある。高性能品は、溶接機本体にも引けを取らない価格帯商品があり、やはり高性能商品ほどトラブルや故障が少なく使い勝手が良いようだ。

溶接芯線が送り込まれて鉄が溶けている様子を目の当たりにしながら作業することで、溶接の腕前は間違いなく上達する。逆説的には「遮光面を利用する」からこそ、上手に溶接できるのであって、遮光面を利用しなければ、コンディションの良い溶接作業は極めて難しい。溶接作業中には、溶けている溶融池=プールをしっかり見つめながら溶接することで、間違い無く仕上がりが良くなるのだ。

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