フロントフォークのオイルシールからオイル漏れが発生……。このトラブルは、決して毎度毎度の出来事ではない。そんな状況=フォークシールの交換時こそ、ある意味チャンス!?といえるのが、ステアリングブラケット、いわゆる三つ叉の作動性を大きく左右するステムベアリングへのグリスアップである。今回は、ステムベアリングの交換を実施したが、単純なグリスアップ作業も、このような方法で実践することができる。

左右ステアリングストッパーは要確認




フロントフォークやステアリングブラケット周りのメンテナンスを実践するときには、左右ステアリングストッパーのコンディション、具体的には、ストッパーの突起に曲がりや損傷が無いか?受け側のフレームに強い打痕や食い込みが無いか?ハンドル切れ角左右ともにしっかり確認してみよう。ステアリングストッパー(ハンドルストッパー)のダメージは、過去に大きな転倒を経験しているか否かの判断材料になることを覚えておこう。中古車購入時には、特に要チェックポイントである。フロントフォークを抜き取ってあれば、トップナットを取り外すだけで簡単にトップブリッジは抜き取れる。電装ハーネスの取り回し方を忘れないようにメモりながら、トップブリッジを抜き取ろう。

フックレンチでリングナットを取り外し




薄型フックレンチを利用し、ステムシャフトを固定するリングナットを取り外す。ナットを緩めたら、ステアリングステム(アンダーブラケット)が落下しないように、保持しながらリングナットを取り外そう。ナットを外したら、トップカバーとインナーレースを抜き取ることで、ベアリングの様子をあらかた確認することができる。グリスの潤いがまったく無く、カピカピになっていると違和感だらけになることも……。

単品ボールの組み合わせではなかった


メンテナンス依頼を受けたアルミフレームのホンダRVF400は、ステムベアリングがリテーナーで一体化され、スチールボールがバラバラに落下しない仕様。80年代中頃以降のモデルにこのタイプは多く、メンテナンス性が良い。今回は、せっかくフロントフォークを分解するのだからと、ステムベアリングの交換も依頼された。オーナーさんによれば、転倒履歴は無いが、僅かに引っ掛かりを感じることがあるそうだ……。

スチールボールに僅かな打痕を発見!!




ステム(アンダーブラケット)を抜き取り、フレーム側に打ち込まれているベアリングのアウターレースをきれいなウエスで拭き取り、さらにパーツクリーナーを吹き付けてウエスで拭き取ってみた。すると、アッパー側には打痕が付く前の陰があり、ロア側には僅かながらスチールボールの打痕を発見できた(直進走行時のステアリングポイントに打痕が出てしまう)。マシンオーナーが判断した通りのコンディションだった。

交換ベアリングは叩き抜こう


アルミフレームに打ち込まれたステムベアリングのアウターレースは、角断面の鉄棒やハンドルサイズのパイプがあると抜き取ることができる。こんな作業時に使いやすいのが、本来はホイールハブベアリングの叩き抜き用に開発されたunitのベアリングリムーバー(P2510)だ。

交換用の新品ベアリングを準備


新品部品の上下ステムベアリング。走行中の雨水がベアリング内に浸入するのを防ぐ上下ダストシールも新品部品に交換する。旧車は下側にしかダストシールが無いことが多いが(一般的に)、さすがに高年式モデルは上側にもダストシールを装備。

しっかり洗浄してから打ち込み作業開始




ベアリングアウターを打ち込む際は、作業を急がず、まずはフレーム側の汚れをしっかり洗浄&拭き取り後、フレーム側、ベアリングアウター側にオイルを塗布して作業進行。部品の滑りを良くすることで、スムーズに打ち込むことができる。こんなときにもあると便利なのがオイルスプレーだ。ベアリングアウターサイズよりも僅かに小径なソケットレンチを利用して、ベアリングアウターを水平に打ち込んだ。打ち込みを終えたら、パーツクリーナーとキレイなウエスでベアリングアウターとその周辺をしっかり洗い流してから拭き取ろう。

ボールとリテーナーの隙間もグリスアップ




フレーム側ステアリングヘッドパイプ上下のベアリングアウターを打ち込み終えたら、ボールレース上をグリスアップ。さらにスチールボールとボールを保持するリテーナーの隙間にもしっかりグリスを押込むように塗布してから組み立て復元しよう。今回は上下ステムベアリングを新品部品に交換したが、単純なグリスアップだけでも、ステアリング操作のスムーズさや、走行安定性の維持には大きな効果がある。是非とも「ついでのメンテナンス」に着目し、ステアリング周りを分解する際には、ステムベアリングのコンディションを確認し、洗浄&グリスアップを実践しよう。

POINT
  • ポイント1・何らかのメンテナンス時には、なかなか実践できる機会が少ないメンテナンス内容を「ついで」にできないものか?事前検討してみよう
  • ポイント2・前輪を浮かせて完全フリーにすることで、ステアリングコンディションを明確に判断できる。気になるときには新品ベアリングに交換しよう
  • ポイント3・ ベアリングを叩き抜く、打ち込む際には、アウターレースの平行度を保ちながら、偏り無く作業しよう
  • バイクのメンテナンスに興味を持ち始めると、その作業の奥深さはまさに無限大!?重箱の隅っこを突っつくようなメンテナンスではなく、ごく当たり前のメンテナンスやケアを実践するだけでも、そんな繰り返しで愛車のコンディションは良好に保つことができるようになる。「乗ってばかり」ではなく「走ってばかり」でもなく、たまには大切な愛車を手厚くケアしてあげたいものだ。メンテナンスの第一歩は「洗車に始まる」と言われているが、それは間違い無く正解だろう。雨天時に走行したときや、ダート走行後などは、必ずブレーキ周りのメンテナンスを行ってみよう。現在のモデルの多くは、オンオフ問わずディスクブレーキ仕様車が多いが、ローターやキャリパーが露出したディスクブレーキの場合は、雨天走行後などのキャリパー周辺に砂利やドロ汚れが堆積しやすい。そんな汚れの付着によって、作動各部のコンディションは、知らず知らずのうちに低下してしまうものなのだ。

    具体的には、ブレーキキャリパーのパッド周辺の汚れを毛長のブラシで擦りながら、水道ホースで洗い流すだけでも効果がある。雨中走行時の環境を考えれば、水道水で洗い流しても何ら問題は無い。さらに一歩踏み込むのなら、キャリパーを外してブレーキパッドを取り外し、キャリパーピストン周辺の汚れをしっかり洗い流し(中性洗剤とぬるま湯洗浄が効果的)、露出しているピストン外周にラバーグリースやCCIメタルラバーのような高性能ケミカルを少量塗布することで、キャリパーピストンの作動性は著しく良くなる(本来の作動性を回復できる)。ブレーキレバーのタッチ感にズバリ現れるキャリパーメンテナンスは、極めて満足度が高い。

    ここでは、フロントフォークを拭き取るメンテナンスを実践した。そして同時に、ステアリングヘッドパイプの上下ベアリングを交換。マシンオーナーによれば、前輪を持ち上げてステアリングを動かすと、特定の箇所で「コツッ!?」と引っ掛かり感=違和感があるので、ステアリングの上下ベアリングを新品部品に交換して欲しいとの申し送りを受けた。今回は、交換目的でステアリング関連パーツを分解メンテナンスしたが、仮に違和感が無かったとしても、フロントフォークを抜き取るようなメンテナンスを実践する際には、あくまで「ついで」の範囲内で、ステアリングステムベアリングのメンテナンスを実践してみるのが良い。スチールボールやテーパーローラーベアリングを取り外して洗浄し、グリスアップを行うことによって、作動性が良くなり、その後のベアリングライフも最善に保つことができるようになるのだ。

    作業実践したモデルはホンダRVF400Rだが、このモデルはベアリングのスチールボールがバラバラにならないリテーナー付きベアリングなので、作業性は尚更良かった。旧車に多いスチールボールがバラバラになってしまうコーン&レース仕様の場合は、ステムシャフトを抜き取る際に、スチールボールがバラバラになってしまわないように、トレイの中にウエスを敷き詰め(ボールが弾まないように)、ステムブラケット直下で落下したスチールボールを受けながら作業進行するのが良いだろう。グリス切れを起こしている例は意外と多く、現実的にスチールボールがバラバラに落ちてしまうことがとにかく多い。状況によっては、マグネット棒を隙間から押し付けながら分解作業しても良い。

    グリスアップによってステアリングの作動性が良くなり、走行中のスムーズさが際立つようにもなる。例えば、ワダチが多い国道での車線変更時などは、そのスムーズな挙動やフロント周りのソフト感には誰もが驚くはずだ。滅多に分解することがないポイントだけに、チャンスがあるときには必ずメンテナンスするように心掛けよう。

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