最近のカスタム部品として大人気の超小型ウインカーに対して、絶版車のウインカーは存在感のある大きなサイズが特長です。旧車のウインカーボディには重厚なダイカスト製も多く、経年劣化で酸化しているものも少なくありません。しかし諦める必要はありません。サンドペーパーで地道に磨き続けることで美しい光沢がよみがえることもあります。
絶版車人気だからこそ純正部品へのこだわりが強くなる
レンズの傷や濁りや割れ、ボディの変形やサビなど、年式が古くなるほど傷みがちな純正ウインカー。今は絶版車となったバイクの中には、現役当時に立ちゴケの補修やカスタム目的でウインカーを社外品に交換しているものも多い。カワサキZ系のようにリプロダクト部品が販売されている人気機種なら良いが、そうでなければ純正部品を確保すること自体が難しい。
画像は1960年代後半のヤマハ原付二種用ウインカー。レンズパッキンが生きていたおかげでボディ内部の腐食はなく、立ちゴケによる歪みもないラッキーな部品。ウインカーバルブの配線はウインカーステー内を貫通して、マイナスはボディアース。バルブホルダーに配線を追加して専用のアース線としてバッテリーターミナルで共締めすれば、導通抵抗を減らすことができる。
バイク好きなら誰しも、愛車には自分ならではのこだわりを反映させたいと思っているはず。だからこそ、それを実現させるためのさまざまなカスタムパーツやドレスアップパーツが存在します。しかしひと通りの改造やモディファイを経た末に「やっぱりメーカー純正のノーマルスタイルがいい」となっているのが現在の絶版車事情です。
マフラーやハンドルやステップなど、今から何十年も前のバイクブームの頃には真っ先に交換されていたような純正パーツを目を皿のようにして探し、珍重するような時が来るとは当時は誰も想像しなかったことでしょう。しかし今では、どれだけ程度が悪くても純正部品があった方がありがたい、という風潮があります。
ウインカーも同様で、かつては野暮ったい純正を取り外していかに目を付けられない範囲で小型化できるかがカスタムの要でした。超高輝度LEDが普及した現在では、点滅しなければ存在感さえない1円硬貨サイズのウインカーでも車検がクリアできるようになり、カスタムの自由度は大きく広がりました。
しかし絶版車向けには、当時のデザインでリプロされた純正スタイルのウインカーが、特にレストアの世界では重宝されているのだから世の中の流行は分からないものです。
ただ、現代において絶版車に憧れるバイクファンの多くは、1960年代後半から70年代のバイクが現役当時にはまだ生まれていない、あるいはバイクに乗れる年齢ではなかったことは、純正スタイルへのこだわりの推進力となっている側面はあるでしょう。今から半世紀近く前に70年代のバイクを新車で購入できた年齢層のライダーにとって、その頃の純正パーツは野暮でオシャレではなかったのでしょう。
それに対して、当時を知らない上で絶版車に興味を抱くライダーはまず純正スタイルから乗り始めて、その上で自分なりの味付けをしたいと考えるのは当然です。安価に乗れるから中古車でいいや、というのではなく、絶版車に対するこだわりがあるからこそノーマルに近い状態で乗りたいと思うのは無理からぬことでしょう。
- ポイント1・絶版車や旧車への注目度が高まるほど、純正パーツに対する価値が高まっている
- ポイント2・1960~70年代のバイクをリアルタイムで知らないユーザー層が増えることで、必然的にノーマル状態への憧れや回帰が尊重されている
ダイカストボディでもメッキ仕上げは磨きNG
クレーターのように腐食穴があくほどではないが、ステーもウインカーボディも表面はガサガサに荒れている。フレーム側の一部を再塗装したので、それに合わせてウインカーボディを磨く。
サンドペーパーの目が詰まらないように防錆潤滑剤をスプレーしながら、サンドペーパーでザラザラの表面を擦る。ペーパーを操る手は力を入れて削るのではなく、あくまで表面を撫でる程度。#400でザッと擦ったら、#600、#1000と徐々に目を細かくする。一足飛びに細かくしてもアルミのボディは輝くが、深い傷が見え隠れしてしまう。
1980年以前のバイクのウインカーでは、亜鉛やアルミニウムなどの合金素材を金型に流し込むダイカスト製法によるボディが一般的に用いられており、金属ならではの重厚感を生かして、ミニカーや超合金ロボット玩具の製造にもダイカストが使われています。その後は軽量化や複雑なデザインにも対応できる樹脂成形品へと代わっています。
ダイカスト製のウインカーボディを大別すると、クロームメッキ仕上げと研磨仕上げに分類できます。クロームメッキ仕上げは研磨仕上げよりコストがかさむため、中型車以上のモデルに用いられることが多かったようですが、原付や小排気量車でも採用例は少なくありません。素材に注目すると、亜鉛合金はクロームメッキ仕上げと相性が良く、アルミニウム合金は軽量で鋳造性が良いことが特長となります。
メッキボディは光沢が良く高級感があるのが魅力ですが、腐食すると修復が難しくなります。メッキ表面には目に見えない小さな穴が無数に存在しており、長期間の放置などでここから水分が浸入すると内部で錆が発生して、クロームメッキ層がカサブタのように割れて剥がれてしまいます。こうなるとメッキを剥離して再メッキするしかありませんが、ダイカストの再メッキは巣穴が発生しやすく、専門業者でも手を焼く作業となります。そのためメッキが剥がれるほど劣化したウインカーボディは程度の良い中古品やリプロ品があればそちらを装着した方が良いとされています。どうしても代替品が見つからない場合は、ダイカスト素材に銅メッキを厚く施してからニッケルメッキ、クロームメッキの順にメッキを行うことで、再生コストは嵩むものの再メッキできる場合もあります。
これに対して、メッキ仕上げではないアルミニウム合金製ウインカーボディであれば、サビによる劣化を比較的容易に回復できる場合もあります。アルミニウム合金製ダイカスト製品というと回りくどいですが、単純にいえばエンジンのポイントカバーやオルタネーターカバーなどと同じような物です。従って経年劣化によって錆びてしまっていても、練度ペーパーで磨き、金属磨き用のケミカルで磨くことで金属光沢を回復することが可能です。
- ポイント1・ウインカーボディがクロームメッキ仕上げの場合、メッキ被膜の剥離を伴う腐食は再生が難しく、コストもかさんでしまう
- ポイント2・アルミニウム合金製ウインカーボディは磨き作業で酸化皮膜が取り除ける可能性が高い
酸化皮膜に覆われているだけならサンドペーパーと金属磨きで再び輝く
同じ#400のペーパーでも、新品か否かだけで実際の削れ具合は異なる。ペーパーが新しく深い傷がついたら、擦る力を弱めるか#600に取り替えるなど臨機応変な対応が必要だ。
サンドペーパーを#1000まで細かくてから柔らかい布にコンパウンドつけて磨くと、ペーパーの目は目立たない状態でアルミ合金らしい光沢に仕上がった。もっとメッキ風の鏡面仕上げにしたければ、ペーパーの目を#1000よりさらに細かくしてからコンパウンドで磨けばよい。
クロームメッキの表面をサンドペーパーでこすって傷つけてしまうと、その傷を取り除くことはほぼ不可能です。それに対してメッキ被膜のないアルミニウム合金そのままのウインカーボディは表面が多少荒れていても地道な研磨作業で状況は改善できます。
アルミパーツを磨くには金属研磨用のケミカルが有効ですが、表面が腐食した状態のままケミカルを使っても効果はないので、サンドペーパーやボンスターのような金属たわしで表面の汚れやサビを取り除きます。
サンドペーパーを使う場合は、ウインカーボディの複雑な形状に追従できるよう#400程度の粗さのペーパーを小さな付せん状に切り出し、浸透潤滑剤をスプレーしながら軽く擦ります。ペーパーを強めに押しつけて深い傷が入るようなら、さらに細かい目に変更しましょう。#400で傷がつかないようであれば、#400で表面のざらつきを取り除いた後に#600、#1000と目を細かくしていけば、それだけで光沢が出てくるはずです。
サンドペーパーを掛ける際は、現在の番手のペーパーで付けた傷をそれより細かい番手で潰していくようなイメージで作業するため、どこまで目を細かくするかは希望する光沢と現状から判断します。ここで紹介する作業の場合は、バフ研磨のようでなく、いかにも1960年代の小排気量車の純正風仕上げを目標に、#400から始めて#1000まで磨き、ペースト状のコンパウンドで仕上げています。鏡面仕上げが好みであれば、#1000の磨き傷を#1500で潰し、#2000の超極細目のペーパーで磨き上げてからコンパウンドを使うと良いでしょう。ただしアルミニウム合金の成分によって光沢の出方は異なるので、ここで示す磨きの順序はあくまで一例となります。
以前であれば光沢がなくなった純正ウインカーは交換される運命でしたが、オリジナルパーツの重要性が強調される現在では安易な交換ではなく補修した上で再利用する価値が上がっています。外装パーツの中で小さいながらも重要な役割を果たしているウインカーだからこそ、純正部品のリフレッシュを実践したいものです。
- ポイント1・サンドペーパーでウインカーボディを研磨する場合、ペーパーの目が粗すぎると深い傷が残るので要注意
- ポイント2・サンドペーパーとコンパウンドの組み合わせと調整で、純正部品風の光沢から鏡面まで仕上がりに幅を持たせることができる
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