バイクいじりの基本であるボルトナットを回す工具には、スパナやメガネレンチ、ソケットレンチなどいくつかの種類があります。そうした中で意外に知られていないのがソケットドライバーやボックスドライバーと呼ばれる、ドライバーハンドルの先にソケットが付いた工具です。変身工具のようなソケットレンチに比べるとシンプルすぎて面白味に欠ける印象もありますが、一度手にすれば使い勝手の良さに驚くはずです。

締め付けトルクが「並」ならメガネレンチやソケットレンチは必要ない?


山下工業研究所から発売されているソケットドライバー。ボルトナットと接する開口部は六角で、六角穴はソケットの途中まで。このため外れたナットがソケットの奥まで潜り込むことがない。握り心地の良いグリップはトルクをしっかり伝達できる。対辺のサイズは3mm~14mmまで1mm刻み(小さいサイズでは0.5mm刻み)であり、バイクやクルマ用なら8、10、12mm(機種によっては11、13mmも)を用意しておくと良いだろう。
編集部注釈:山下工業研究所=ko-ken(コーケン)

ボルトナットを回す際にメガネレンチやソケットレンチを使うのは、誰に教えられるでもなくバイクいじりを行うライダーにとっては常識のようなものでしょう。どちらもボルトから工具の端までに一定の距離があり、緩める際も締める際もボルトに対して強い力を加えることができるのが特長です。

作業時には毎回意識していないかもしれませんが、ボルトやナットに加わるトルクは工具の柄の長さに比例します。あるボルトを20Nm(ニュートン・メートル)で締める際、工具の柄の長さが1mだった場合、加える力は20N(ニュートン)必要です。柄の長さが2mになれば力は10Nで済み、0.5mなら40Nの力が必要になります。

したがって、メガネレンチやラチェットハンドルで柄が長いタイプを使う場合、短い柄と同じ力を加えてもボルトに加わるトルクは大きくなり、オーバートルクとなる可能性があるわけです。ボルトやナットを締めたら緩まないことが最も重要ですが、過剰な力を加えるとネジ部の負荷が大きくなり、場合によっては雌ネジをなめるなどのトラブルにつながるため注意が必要です。

ボルトやナットを回すには柄のあるレンチを使う一方で、頭がプラスやマイナスのビスを回すのはドライバーが一般的です。締め付けトルクは柄の長さに比例することを考えると、ネジの真上でグリップを回すドライバーはレンチほどのトルクを与えられないことが分かります。なぜ大きなトルクを加えられないドライバーで事足りるかといえば、締め付けトルクがそれほど大きくないからに他なりません。

バイクメーカーが機種別に発行するサービスマニュアルにはボルトやナットの締め付けトルクが明記されており、そこには特定のボルトに対する指定締め付けトルクと別に、ネジ径ごとの標準締め付けトルクも記載されています。あるホンダ車のサービスマニュアルの標準締め付けトルク一覧には、ネジ径5mm(M5)のスクリューが4.2Nm、6mm(M6)スクリューが9.0Nm、5mm(M5)ボルトナットは5.2Nm、6mm(M6)のボルトナットは10Nmとあります。これに対してネジ径16mm(M16)のアクスルナットの指定トルクは118Nmとなっています。

この例でも明らかですが、ネジ径が細ければスクリュー(ビス)でもボルトナットでも適正な締め付けトルクには大差ありません。そうであるならネジ径が細い、対辺のサイズが小さいボルトナットを回すのはレンチじゃなくて良いのでは?そんな発想から普及しているのがソケットドライバー、ボックスドライバーと呼ばれる工具です。

POINT

  • ポイント1・ボルトやナットを回すトルクは、工具の柄の長さと加える力によって決まる
  • ポイント2・締め付けトルクが大きくなければ、ボルトやナットでもドライバーグリップで緩めたり締めたりできる

ドライバーハンドルならではの早回し性能が魅力


メガネレンチやスパナでは柄の振り角が限定されるボルトでも、ドライバーハンドルならスムーズに回せる。細いM5ボルトが相手なら、ソケットレンチやメガネレンチよりオーバートルクになりづらい利点もある。


径が太く締め付けトルクが大きいボルトに対しては柄の長いメガネレンチやソケットレンチを使うのが妥当。コーケンの場合はソケットドライバーは最大14mmなので、そもそも対辺の大きな場所では使えない。

ドライバーの先端にプラスやマイナスのビットではなくソケットが付いているソケットドライバーのサイズは、およそ人の手がドライバーで回せる範囲にとどまります。ソケットレンチ専門メーカーの山下工業研究所(通称コーケン)製ソケットドライバーの対辺は下限3mmから上限14mmまでとなっています。ホイールアクスルナットに用いられる対辺24mmなどという大きなサイズを用意しても、到底回すことができないからです。JIS規格によれば、対辺14mmのボルトのネジ径は10mmで標準締め付けトルクは34Nmとなるので、柄のないドライバーで回すにはかなり厳しくなってきます。

これに対して対辺8mmのボルトはM5サイズでトルクが5.2Nm、対辺10mmのボルトはM6サイズで10Nmの締め付けトルクなのでドライバーグリップで回すことができ、バイクいじりで活躍します。

基本的にソケットドライバーとメガネレンチ、ソケットレンチはいずれもボルトやナットを回すための工具なので互換性があります。しかしボルトナットが使われている場所や環境によって、ソケットドライバーが有利になる局面も少なくありません。

メガネレンチとの比較では、ハンドルに取り付けられたレバーホルダーのようにボルトが組み込まれている部分より手前に何かがあれば、メガネレンチは一定角度ごとに掛け替えなければならず使いづらくなります。クラッチカバーやドライブスプロケットカバーのボルトも同様です。

エクステンションバーを付けたソケットレンチならボルト周辺の干渉物をうまく避けられますが、ラチェットハンドルを振る際にガソリンタンクなどにコツンと当てないように注意しなくてはなりません。

こうした場面では柄のないドライバーグリップが有利です。通常のドライバーを扱う時と同様に、手のひらの中で軽くホールドしながら親指と人差し指でグリップ先端を連続的に回せば、メガネレンチを掛け替えるよりはるかに早くボルトやナットを回せます。またボルトとグリップが同軸状にあるので、ボルト周辺の部品に工具の柄が当たる心配もありません。バイクだけでなく自動車のメンテナンスでも、エンジンルームやダッシュボード内など部品同士が立て込んだ場所でドライバーと同様のスリムな軸部が重宝します。

ただし締め付けトルクが大きなボルトやナットでは充分な力が加えられないため、柄のあるメガネレンチやソケットレンチにはかないません。どんな工具にも相通じることですが、すべての作業がこの一本ですべてできるといった都合の良い万能工具は存在しません。世の中の工具が膨大なのは、それぞれに適した作業と存在意義があるからです。ここではソケットドライバーの利便性に注目していますが、別の作業内容では別の工具の方が使いやすいということは大いにあり得ます。

POINT

  • ポイント1・ソケットドライバーは軸の長さやスリムな本体デザインによって狭い場所での作業性に優れる
  • ポイント2・締め付けトルクが強い場合はドライバーグリップより柄の長い工具が適しており、適材適所で使い分ける

使いやすさがいっそうアップする機能充実タイプもあり


軸部が差し替え式の上、ソケットの先端にナットグリップ機能を備えたコーケン製グリップドライバー。サイズ設定は7、8、10mmで、バイクにとって対辺7mmは珍しいが、一般的にはM4のボルトナットの対辺は7mmとなる。


六角穴の対辺2カ所に小さなスチールボールを収め、そのボールに外周のスプリングで張力を加えているナットグリップ機能。ボルトやナットを保持するために磁石を組み込んだソケットもあるが、磁力に頼らないのでアルミやチタン、樹脂ボルトにも使えるのが特長。


ナットグリップ付きソケットドライバーなら、外したボルトを手で支えなくてもよい。この場面では大きな問題にならないが、エクステンションバーを付けなくては回せないような場所にあるボルトやナットも取りこぼすことがないので安心して作業できる。

締め付けトルクが比較的小さいボルトやナットに対して強みを発揮するソケットドライバーの中には、特徴的な機能を備えた製品もあります。コーケン製のソケットには、金属製のスプリングと小さなスチールボールによってボルトを保持して落とさないナットグリップという機能を持つ製品があり、これをソケットドライバーに応用した製品があります。

4気筒エンジンのマフラーの着脱ではフランジナットの扱いに苦労することがありますが、ナットグリップ付きのソケットドライバーならフレームとエキゾーストパイプの狭い隙間を縫ってフランジナットを着脱できるかもしれません。

他メーカーでは長さ調整が可能な軸を持ち、スタッビドライバーとしても使える製品や、グリップ部分にラチェット機構を組み込み早回し作業で強みを発揮する製品もあります。また軸の先端が四角の凸型になっており、ソケットレンチのソケットに差し込むとソケットドライバーとして使えるドライバーグリップも発売されています。軸の先端の差し込み角は1/4インチと3/8インチがありますが、ドライバーで回せるボルトのサイズを考慮すれば1/4インチが無難でしょう。1/4インチソケットレンチセットの多くも、ソケットの上限は対辺14mmなので、コーケン製ソケットドライバーのラインナップと一致しています。

メガネレンチやスパナとソケットレンチセットがあれば、バイクで使われている大半のボルトナットは緩めることができるはずです。その上にソケットドライバーを加えて適材適所で使い分ければ、いつものメンテ作業の能率がさらにアップすることは間違いありません。

POINT

  • ポイント1・ソケットドライバーに他の機能を加えることで使い勝手を向上させている製品も存在する
  • ポイント2・ひとつの工具に頼らず、さまざま使い分けることでメンテ作業の効率が向上する

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