イグニッションキーをオンにすればニュートラルランプが点灯して各部の電気部品に通電するのが当たり前。しかし何人ものユーザーの元を巡った中古車では、時に想像もできないような改造が施されている場合もあります。そんな中にはトラブルや事故につながる作業もあるので「何かおかしい?」と思ったら原因を追及してみることが大切です。

ビニールテープ巻きや配線色が途中で変わっている時は怪しい


バイク自体が50年ほど前の機種なので、何人のオーナーの手を経ているかは不明だが、メインスイッチの配線はどれも一度切断されて短い配線が継ぎ足されている。その配線がどれも指先でねじった程度のつなぎ方で、絶縁のためのテープもその効果をすっかり失っている。

愛車の使い勝手や安全性を向上させるUSB電源やドライブレコーダーを取り付ける際に必要な電気工作。最近のアクセサリーや用品は取り付け時の作業性も配慮されていますが、バッテリーからの常時電源、メインスイッチに連動するアクセサリー電源のいずれも車体側のどこかから分岐して配線を取り出すことが必要です。

こうした電気アクセサリーの取付は昔から行われてきましたが、取り付け作業はユーザーにお任せという汎用パーツが主流だった時代には、配線の被覆を剥いて芯線をよじってビニールテープを巻いておしまいというような、かなり乱暴な方法で装着することも少なくありませんでした。

修理やメンテナンスに関しては、今でこそバイク用品店でギボシ端子や電工ペンチや熱収縮チューブが購入できるようになったおかげで見栄えがよく安全性も高い配線できるようになりました。それでも雑な方法で作業する例がなくなることはありません。

エンジンでも車体でもいいかげんなメンテナンスは危険に直結しますが、電気系メンテナンスではヒューズ切れやバルブ切れにとどまらず、最悪の場合は配線が溶けたり車体が燃えるリスクさえあるので甘く見てはいけません。当たり前のように扱っている12Vバッテリーも、プラスとマイナスの端子を直結させればドライバーやプライヤーほどの工具を容易に溶かすだけのエネルギーを持っています。

そうした危険性をはらむ電気系いじりの中でもっとも危険な作業が、配線の継ぎ足しと、その際に使用する配線色の選定を誤ることです。別の機種の部品を転用、流用する際に足りない配線を延長するのはままあることですが、この際に配線同士の接続が適当で抜けやすかったり、バッテリーにつながっている電源側が車体に触れるような結線方法を行うと事故の元になります。

継ぎ足す際に用いる配線色を元の色と変えてしまうのも危険です。元が赤色だったものを途中から青色の配線で継ぎ足してしまうと、それを忘れてしまった時に事故が起きる危険性があります。カプラー部分で延長する際に複数の配線色がなく、同じ色の配線を使ってしまうのもありがちですが、たとえ4Pカプラーでも誤ってつないでしまうリスクがあります。ですから配線を延長する際は、必ず元々の色を使うようにしましょう。

POINT

  • ポイント1・バイクに搭載されているバッテリーには通常使用時には想像できないような大きなエネルギーがある
  • ポイント2・配線を切断したり接続する時は確実な絶縁処理を行う

結線部分の保護が中途半端だと車両火災につながることもある


メインスイッチ下の丸型端子がバッテリーのプラス端子につながり、ヒューズボックスを経由してメインスイッチに入る。配線色はギボシ部分からメインスイッチまで赤色のはずだが、途中で灰色の線で継ぎ足されいるのが不自然だ。


メインスイッチにつながる配線は本来、赤色、青色、茶色の3色だが、メインスイッチから僅かな場所で切断されて灰色に変わっている。暫定的につながれたような接続部分にはハンダ付けもされておらず、茶色の配線に至っては被覆がなく芯線だけがメインスイッチにハンダ付けされてテープが巻かれていた。

ここで紹介するのは1960年代の旧車のメインスイッチ配線の例です。このバイクのメインスイッチは2段階で、1段目が昼間走行で点火系やウインカー、ホーンに電源を供給し、2段目が夜間走行でヘッドライトとテールライトに電気を流します。メインスイッチにつながる配線は3本で、バッテリーが赤色、昼間走行が茶色、夜間走行が青色となるのが正規の配線色です。

ところが実車は3本ともすべて灰色配線で延長されており、その接続部分の処理も芯線を手でよじってテープを巻いただけと、とてもお粗末なモノでした。そんな状態でも一応電装系は機能していましたが、そもそもいつの時代に巻かれたのか分からないテープはボロボロで、ちょっと触るだけで芯線が剥き出しになる状態でした。

元は赤色だったバッテリーに直結した電源線が車体に接触すれば、車体にはバッテリーのマイナスがつながっているので当然ショートします。この場合、バッテリーターミナルからメインスイッチの間にあるヒューズが切断して電気が遮断され、短絡状態が続くのを防いでくれます。ただしヒューズが切れれば点火系の電源も断たれるので、エンジンは掛かりません。走行中にショートすれば、その時点でバイクは止まってしまいます。

同じことはメインスイッチを出た後の昼間走行、夜間走行の配線継ぎ足し部分でも発生する可能性はあります。昼間走行の茶色線の継ぎ足し芯線が車体に触れれば走行中でも止まってしまいます。夜間走行の青色線が接触した場合、ヘッドライトを点灯した瞬間にヒューズが切れます。

このバイクの場合、大元のヒューズが1本であることと、キーを通過した電装品が2種類しかないため、何かトラブルが起これば一瞬ですべての電源が失われて、その上で原因を探るのも比較的容易です。しかし配線の数もヒューズの数も多い現在のバイクでは、どこかで配線のミスや不手際があっても、原因を見つけるまでに手間や時間が掛かることも少なくありません。適当な作業をして後で面倒な思いをするなら、最初の段階で丁寧な作業を心がけた方が良いのは間違いありません。

POINT

  • ポイント1・純正配線を継ぎ足す時は、元の配線色と同じ色の配線で延長する
  • ポイント2・後々のトラブルを未然に防ぐため、新たな配線を接続する際は丁寧に作業する

バッテリーからの電気がどう流れていくかを把握した上で作業することが重要


安定した状態でハンダ付けを行うため、メインスイッチから基板だけを取り外して3本の配線をハンダで接続した。デイトナにはメーカー純正色相当のハーネスが数多くあるので、電気系のメンテナンスを行う際に重宝する。


当初の状態からすれば配線色は純正相当だしハーネステープでまとめられているし、修理としては万全の仕上がり。と言いたいところだが手痛いミスがある。バッテリーからメインスイッチにつながる配線はバッテリー側をメス、メインスイッチ側をオスにしなくてはならない。


一見するとメインスイッチ周辺は整然としているが、スイッチ側の赤色配線の端部がメスギボシなのが大失敗。バッテリーにつながるヒューズ側の配線の先端がオスギボシなので、この状態で配線が抜けるとエンジンが止まるだけでなくオスギボシがフレームに触れてヒューズが切れてしまう。メインスイッチ側をオス、バッテリー側をメスギボシに変更しなくてはならない。

どう見てもずさんな方法で延長されていた配線ですが、もしかすると他の車両からキーシリンダーだけを移植する際に配線を切断して継ぎ足した可能性もあります。それにしても仕上げがお粗末なので、見栄えと安全性の両面から配線をやり直します。具体的な方法は、純正色の汎用配線を新たに接続するというシンプルかつ根治的なやり方です。

幸いにもメインスイッチ配線の根元はハンダで端子に固定するタイプなので、熱を加えて古い配線を端子から剥がして、3本それぞれに本来の色の配線をつなぎます。先に述べたように、継ぎ足しを止めて1本線にするからといって純正と異なる色の配線を用いると誤接続の原因となるので、元々の配線色に近い色で張り直すことが重要です。

さらに重要なのが、配線の先端に用いるギボシ端子のオスメスを正しく使い分けることです。実は画像のメインスイッチのギボシは間違った使い方をしています。バッテリーからヒューズを経てつながる赤線のギボシにメスを使っているのが大間違いのポイントです。そもそもバッテリーターミナルにつながる配線の端部がオスギボシである点が誤りです。もしこの状態で端子が抜けたらどうなるでしょう。バッテリーのプラス端子につながる配線の先端が金属部分が露出したオスギボシなので、フレームに触れた途端にショートしてしまいます。

本来はバッテリーから先に使うべきヒューズボックスを、バッテリー直結用に用いたため、メインスイッチ側のギボシにメスを使ってしまったミスですが、これはヒューズ側をメス、メインスイッチ側をオスにするのが正解です。こうしておけばギボシ部分が抜けてもバッテリー側のメスギボシには保護カバーがあるので、フレームに直接接触することはありません。

せっかくきれいに配線をやり直しても、ギボシ端子のオスメスを誤ることで作業そのものが台無しになってしまいます。それどころか新たなトラブルの元にもなりかねないので、電装系をいじる際はそもそもの電気の流れも把握した上で作業を行うことが重要です。

POINT

  • ポイント1・劣化した配線を新設することで接触不良などのトラブルを防止できる
  • ポイント2・バッテリーのプラス端子につながる配線の端部に用いる端子は、車体に触れてもショートしないようカバー付きのメスギボシを使用する

この記事にいいねする

今回紹介した製品はこちら

コメントを残す

今回紹介したブランドはこちら