
バイクの横に立て掛けてあったものが倒れたことで、シート表皮の「極一部分が破けてしまった」とか、「たばこの灰」が落ちて、表皮の一部が溶けてしまった……。残念な気持ちになってしまったそんな経験、ありませんか?愛車家にとって、僅かな部分でもシート表皮が破けてしまうのは大問題。破れの大きさや範囲もあるが、小さな破れなら、最善の方法で「表皮補修」にチャレンジするのも悪くない。
目次
合成皮革のシート表皮なら「溶着」が可能
「本革なのか?合成皮革なのか?」。仮に合成皮革でも「溶着しやすいか? しにくいか?」などなど、事前確認や作業段取りは極めて重要だ。この溶着作業を実際するのに便利な道具がが、「ハンダごて」である。本格作業にとりかかる前に、シート裏側の目立たない部分などにハンダこてを当て、状況確認してみよう。電力調整できる可変抵抗があると、熱源が熱くなり過ぎず=表皮が炭化しにくく、作業性は圧倒的に良くなる。ハンダごては50~60Wサイズで十分だろう。
温度コントロールがもっとも重要な溶着作業
可変抵抗付の電源があると、ハンダごての先が熱くなり過ぎず、一定の温度を保つことができて作業性が良い。可変抵抗電源が無い場合は、濡れ雑巾を用意して、作業中に「熱くなり過ぎてる!!」と感じた時には、ハンダごての先を濡れ雑巾に押し当ててクリーニングしながら、こて先を冷やすのが良い。
シート表皮素材で溶け込み確認と段取り
バイク用シート表皮の破片を準備。不要で破けたシートの表皮を切り取っておくことで、こんな際の溶着破片として利用することもできる。シート補修材として購入できる材料の破片があれば、使い道はいろいろある。はさみで短冊のように細くカットして、溶着用の破片を作る。
セロハンテープで傷口を仮固定
傷口は広がりめくれ上がっていた。まずは綿棒に簡単マイペットを組み込ませて、患部および患部周辺の表皮をしっかりクリーニングする。僅かでも欠損があると、溶着補修はそれなりに難易度が高まるが、切れた部分がめくれ上がっていて、欠損が無かったのは何よりもラッキーだった。めくれ上がりを戻すように、細くカットしたセロハンテープで患部の開きを戻しながら仮固定。この状態でテープ上下の切れた部分を溶着固定していく。
仮固定に成功。傷口表皮同士が接近
表皮にハンダごての熱が伝わったこともあり、セロハンテープを剥がしても患部はめくれて開くことはなかった。こんな状況からの溶着は嬉しいものだ。金属部品の溶接と同じで、溶接物の突き合わせ部分がピタッと合致しているのは、良い仕上がりを求める上で極めて重要なことである。
熱し過ぎるとホワァ~っと煙が……
シート表皮患部をハンダごてで温めながら、短冊にカットした破片を押し付け、双方を溶かしながら切れた表皮を溶着補修していく。溶けた表皮から多くの煙が上がると、表皮がコゲて炭化し、溶着強度が落ちてしまう。温度が低過ぎるとまた表皮が溶けないので、僅かに煙りが出るか?出ないか?のセッティングにするのがコツだ。溶着作業をしながら患部をスパチュラで押えて形状修正していく。
ココだと言われなければ気がつかない美しい仕上がり!!
見事なまでに溶着補修が完了した患部。スパチュラで押さえ込んだことで、盛り上がりは無く、溶着強度も十分に仕上がったようだ。ページトップの画像と比較して頂ければ、その仕上がり具合に誰もが納得だろう。
- ポイント1・合成皮革だからこそ可能なのが溶着修理。同一素材を溶かして練り込めば見栄えに大きな違いは無い
- ポイント2・ ハンダごて1本で修理可能なシート表皮やプラスチック樹脂の溶着。作業温度を高め過ぎないのが成功へのカギ
- ポイント3・ 温度を高め過ぎると患部が熱で焼けて炭化してしまう。炭化状況の溶着だと突き合わせ部分の強度が著しく低下してしまう
僅か一箇所のシート切れが原因で、バイクの見た目や仕上がり全体の印象に、大きな違和感が出てしまうことがある。せっかくその他の部品がすべて当時物だから、切れてしまったシートの傷口を「テープ補修で何とかしたい……」。純正シートを使いたいその気持ち、よくわかります。過去には、そんなバイクを何度か見たことがありました。
完全なビリビリ破れの状態では、致し方ないし、修理しても満足のいく仕上がりや見た目にはならから、諦めはつくものだろう。仮に、人気モデルなら、メーカー純正ノーマル部品を忠実に再現したリプレイス部品が発売されているため、その部品を取り付けて、破れた純正部品はそのまま保管して、といったケースも考えられる。
しかし、今回補修したシートのように、全体的なコンディションは抜群で、しかもシート表皮の一部分が切れているだけ。しかも、リプレイス部品など存在しない……。となれば積極的に修理するのが一番良い。
本革シートならともかく、バイク用シート表皮の多くは合成皮革。つまり樹脂表皮であるため、ハンダごてなどを使った溶着修理が可能である。修理に成功する秘訣は、シート表皮の破片を使って溶着する。仮に、まったく同じ表皮の切れっ端があれば、その仕上げは間違い無く良くなる。また、高温をコントロールするハンダごての場合は、熱くし過ぎることで、表皮を炭化=燃やしてしまうことになるため、温度管理をしっかり確実に行わなくてはいけない。その目安は、溶着段階で「立ち上がる煙」だ。この煙が出る=燃えている=表皮が炭化状態にあり、仮に、見た目は溶着できたとしても、その強度は著しく低下していることを、認識しなくてはいけない。
ご覧の通り、ビフォー→アフターの患部を比較すれば、その仕上がり具合には誰もが納得できるはずだ。テープよりも接着、接着よりも「溶着」という作戦があることを、是非、知っていて頂ければと思う。
取材協力:モデルクリエイトマキシ
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