バイクの中で回転したりストロークする部品に組み込まれているオイルシールは、作動時のフリクションロスを最小限にしながら中に入っているオイルやグリスを外部に漏らさないという役割があります。そのため経年劣化や異物を巻き込むなどしてオイルシールが傷んだ場合は、早急に交換しなくてはなりません。圧入されたオイルシールを取り外す際は、それに適した工具を利用することで作業を効率的に進めることができます。
オイル漏れを防ぐオイルシールにも潤滑が必要
ピッケルの先端部分をオイルシールの裏側に挿入して取り外すシールプーラー。マイナスドライバーだと先端がシールから外れやすいが、このプーラーはカギ型の先端がシールの裏側に食い込むため外れにくい。シール面に対して直角方向から力を加えるのも効果的。
まさにつるはしかピッケルのようなデザインのシールプーラー。オイルシールだけでなくOリングの取り外しにも使える。これは工具ショップのストレート製。
アウターチューブのシールホルダー部分は肉が薄いので、ドライバーでもシールプーラーでも支点部分に力が集中すると割れてしまうことがある。そこでプーラーとは別にシールホルダー部分を橋渡しできる素材を置き、ここでプーラーを受けることで荷重を分散させるのもダメージ防止に役立つ。
バイクの中でオイルシールが組み込まれている場所を列記すると、前後ホイール、エンジン、前後サスペンションなど、回転や往復運動をするほぼすべてが挙げられます。オイルシールには部品が作動しながら隔壁としても働く矛盾した役割が与えられています。ホイールハブに装着されたオイルシールには、ホイールベアリングに封入されたグリスの漏出を防ぎながら、雨天走行時に浴びる水をグリス側に浸透させないことが求められます。
フロントフォークやエンジンのオイルシールも同様で、インナーチューブがストロークしたりアウトプットシャフトが回転する際に、フォークオイルやエンジンオイルを漏らさないことが重要です。
ゴム製のオイルシールは、往復や回転する部品にシールリップと呼ばれる部分が触れることでシール機能を発揮します。シールリップの内側は細いスプリングで一定の圧力が加えられて、軸部を締め付けています。
内部のオイルを漏らさないことが重要である一方、軸とシールの間の潤滑も大切です。完全に脱脂洗浄された軸が、脱脂されたシールに接した状態で回転すると、書き損じを消しゴムで消しているような抵抗が発生します。フリクションロスになるだけでなく、摩耗にもつながります。
そこでオイルシールを用いる部分には適度な潤滑も必要です。ホイールベアリングのグリスアップを行う際に、並行してパーツクリーナーとウエスとオイルシールの汚れを清掃することもあるでしょう。その作業において、最後にきれいなグリスをシールに塗布することでフリクションロスを軽減できます。エンジンで使われるオイルシールの場合、クランクケース内のエンジンオイルがシールリップに触れることで潤滑を果たします。
サスペンションも同様で、ストロークした際にフォークオイルが付着したインナーチューブがオイルシール部分を摺動することで、オイルシールに適度な油分が付着します。オイル漏れは良くないことですが、神経質になりすぎて油分を拭き取りすぎると、かえってオイルシールのダメージを早めることになりかねません。
ただ、オイルシールの油分が多くなるとゴミやホコリを取り込む原因となり、それらが研磨剤となってシールや軸を傷める場合もあるので注意が必要です。ホイールのアクスルシャフトのカラーを外した際に、リップの位置に合わせて入った筋を見たことのあるライダーがいるかもしれませんが、あれはリップとカラーが接する部分に砂利などが触れて発生している例が少なくありません。グリスは抵抗を減らしてくれますが、グリスに砂ぼこりが混ざるとコンパウンドのような働きをしてしまうのです。潤滑のためのグリスは、過不足なく塗布することが重要なのです。
- ポイント1・回転、摺動部分に組み込まれるオイルシールには、内部のオイルやグリスを漏らさず、外部から異物が入るのを防ぐ役割がある
- ポイント2・オイルシールのリップと軸部の間にはフリクションロスを低下させる適度な潤滑が必要
シール組み付け部分を傷つけないための抜き取り方
先端が鈍く丸まったマイナスドライバーのようなシール外し用ドライバー。ブレーキキャリパーのシールを外すためだけに存在する工具で、使わなくなったマイナスドライバーを加工しても同じような自家製工具ができそう。
シール溝にぴったりはまり込んだピストンシールを外すため、ピックツールを突き刺そうとしてひっかき傷を付けてしまうのはありがちなミス。このシール外し用ドライバーならシールをこじっている間にキャリパーボディを擦っても傷が付かない。
オイルシールは的確なメンテナンスを行えば長く使えますが、経年変化による素材の硬化やゴミやホコリを含む異物の噛み込みなどでシールリップが傷むと、オイル漏れを発生させる原因となります。フロントフォークやリアショックのオイルシールの場合、インナーチューブやダンパーロッド表面の硬質クロームメッキが錆びて、そのサビがリップを傷つけてオイル漏れにつながる場合も少なくありません。
オイルやグリスが漏れ出したオイルシールは交換しなくてはなりませんが、その場合はうまく取り外すことが必要です。オイルシール外周のはめ合い部はホイールならホイールハブ、フロントフォークならアウターチューブに圧入されており、性質上簡単には抜けません。抜けづらいのに抜こうとすれば多少の無理もありがちで、場合によっては車体側を傷つけてしまうこともあり得ます。ここがボルトナットで固定された部品と異なる部分です。
実際に、フロントフォークのオイルシールを抜く際にアウターチューブの縁を支点にしてマイナスドライバーをこじったところ、ドライバーに押されてアウターチューブ側が割れてしまった例や、ブレーキキャリパーのピストンシールを取り外す際にピックツールを使ってシール溝やキャリパー内壁に傷を付けてしまった例があります。
そうしたトラブルに見舞われないためにも、オイルシールを抜く際には工具の選定が重要になります。そのひとつがつるはし、ピッケルのような形状のシールプーラーで、鋭いくちばしをオイルシールの下側に挿入して、テコの原理でシールを取り外せるのが特長です。マイナスドライバーではシールに接する作用点とグリップ部分の力点が直線上にありますが、このタイプのシールプーラーは力点と作用点が直交しているので、力を加えやすいのが利点です。しかしプーラー本体を支える支点が必要なのは、ドライバーを流用する作業時と同じなので、オイルシールが圧入された部分の肉厚が薄い場合には応力が集中しないような配慮も必要です。
ブレーキキャリパーシールやOリングを取り外すのに適した、シール外しドライバーという工具もあります。一見するとマイナスドライバーですが、先端部分は滑らかに丸く加工されていて、シールやOリングを浮かす際にシール溝に当たったり擦ったりしてもキャリパーを傷つけるリスクは大幅に低下します。また軸部にOリングを装着する際に引っ張る場合も、先端に引っかかってもOリング自体にダメージを与えることはありません。こうした工具を活用することで、オイルシールだけ交換するつもりだったのにバイクに傷を付けてしまった……という事態を避けられます。
- ポイント1・オイルシールを取り外す際は、圧入部分の部品にダメージを与えないように注意する
- ポイント2・各種シール用プーラーを使いこなすことでオイルシールの取り外しが容易になる
シャフトを抜かずにシール交換できれば超ラッキー
オイルシールにシャフトが貫通した状態でも取り外すことができる、シャフトタイプのシールドライバー。自動車のクランクシャフトやカムシャフト用のようにオイルシール径が大きい場合は、シールを引っ掛けるブレードの幅がある程度あっても良いが、バイク用で使うなら幅を狭くした方が使い勝手が良いこともある。
支点の位置は、ブレードからの距離や足場となる部分次第でスライドして調整できる。シャフトとオイルシールリップの隙間からブレードを押し込んで内側に引っ掛け、テコの要領でシールを抜き取る。この手が使えればエンジンを分解する手間が大幅に省ける。ブレードを挿入する時にシャフトを傷つけないように注意。
オイルシール交換を行う際、シール交換に伴う作業をどこまで広げるかが、作業の難易度やモチベーションに影響することがあります。シフトペダルにつながるチェンジシャフトやドライブスプロケットが付くアウトプットシャフトは、どちらもエンジン本体からシャフトが突き出していて、オイルシールはその根元に組み込まれています。
ドライブスプロケットの裏からにじむオイルに気がついて、スプロケットを取り外して原因を確定したら早々にオイルシールを取り外したいところですが、中心にはアウトプットシャフトが立っているのでドライバーやツルハシ型のシールプーラーは使えません。こうなるとエンジンを分解してクランクケースからアウトプットシャフトを抜き、それからオイルシールを取り外すのが通常の手順です。
しかし、シリンダーヘッドやミッションやクラッチに何も不具合がないのに、エンジンを分解しなくてはならないというのは、どう考えても気が進みません。その結果、無駄だと分かっていてもアウトプットシャフトとオイルシールリップの接触面に目止めのようにグリスを塗って一時しのぎをしたいと思うかもしれません。
そんな時に使えるかもしれないのがシャフトタイプのシールプーラーです。このプーラーは、シャフトとシールリップの隙間から先端が折り曲げられた薄いプレートを挿入してオイルシールの内側に引っ掛けて、テコの要領でプレートを引き上げると、それに釣られてオイルシールも外れるというものです。これは自動車用エンジンのクランクシャフトシールやカムシャフトシール交換用に開発された工具なので、すべてのアウトプットシャフトやチェンジシャフトシールに対して有効とは断言できません。しかしシャフトとオイルシールの隙間から何かを挿入して引き抜くことができれば、オイルシールのためだけにエンジンを分解する大仕事は回避できます。
ただしクランクケースが上下に分かれるエンジンの中には、オイルシール外周のリブをケースで挟み込んで抜け止めとしている機種があり、この場合はシールだけを抜き取ることができないので、残念ながらクランクケースの分解が必要です。
このようにオイルシールにはいくつもの種類があり、オイルやグリスが漏れた際の取り外し方法や工具にもいくつかの種類があることを知っておくことで、トラブルが発生した際にも慌てず的確な対処ができるはずです。
- ポイント1・オイルシールにシャフトが貫通している場合、ドライバータイプのシール外しが使えない
- ポイント2・シャフトとオイルシールの僅かな隙間に挿入できるシールプーラーが使えれば、広範囲の分解を行わずオイルシールが取り外せる
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