最近のバイクでは徐々に少なくなってきましたが、一般的に「ねじ」を聴いて思い浮かぶのはプラスビスではないでしょうか。あらゆる場面で組み立てに使われているプラスビスですが、十字穴は意外になめやすく、潰れると面倒なことになります。そんなトラブルを防止するために有効なのは、叩いて使う工具です。

ドライバーが十字穴から逃げるカムアウトはプラスビスの宿命


吸湿性に富むブレーキフルードによって錆びやすいブレーキマスターシリンダーのリザーバータンクキャップの皿小ネジは、バイクメンテにおいて最もナメやすいプラスビスのひとつ。十字穴のサイズに適したドライバーを選択した上で、十字穴に詰まったサビをきれいに取り除いてから緩め作業を開始する。


十字穴がナメかかっている場合、変形した十字穴にフラットピンポンチやT型ハンドルのハンドルを当てて軽くハンマーで叩くことで形状が修正できることがある。十字穴が崩れそうなのにドライバーで回し続けると十字が摩滅してどうしようもなくなるが、ポンチで修正すればセカンドチャンスがあり得るのだ。

さまざまな工具の中で最もポピュラーで誰もが知っているアイテムの代表格といえばドライバーです。オイルシールドライバーを知らない女性は多いですが、スクリュードライバーなら「ネジ回し」と言えば通じます。何かの時のために、リビングルームに樹脂柄の差し替え式ドライバーセットが置いてあるご家庭も多いのではないでしょうか。

ドライバーの認知度が高いのは、身の回りにプラスビスが多いから。今ではネジを使わない製品も多くなってきましたが、かつての組み立て家具と言えば多くがプラスのタッピングビスで組み立てるものでした。バイクも同様です。現在では六角穴のヘックスビスや花びら穴のトルクスビスが多用されていますが、かつてはエンジンカバーやハンドル周りのネジはプラスビスばかりでした。

主役だったプラスビスがヘックスやトルクスに取って代わられたのには理由があります。多くのライダーが経験したことがあると思いますが、プラスビスはナメやすいからです。緩めようと力を入れたと同時に、ビスの頭の十字穴がヌルッとなめてドライバーが滑る感覚は、何度経験しても嫌なものです。

プラスドライバーを使う際は、70~80%の力でドライバーをビスに押しつけ、回す力は20~30%で良いとされています。力の配分は人それぞれとはいえ、工具をまったく使ったことのない人でもドライバーを握ると無意識に押しつけ動作をしているはずです。

その理由は簡単で、押しつけないとドライバーの先端が十字穴から外れてしまうから。ビスの十字穴とドライバーの先端には、スムーズに噛み合うようテーパー角が付いていますが、これによって回転力を加えた時に十字穴のテーパーに沿ってドライバーの先端が抜け出そうとするのです。これをカムアウトといい、プラスビスの決定的な弱点とされています。だから緩める時になめないよう、押しつける力に意識を高めることが必要です。

緩める時もそうですが、カムアウトはプラスビスを締める際にも発生します。これが問題になるのはバイクを含む工業製品の製造現場です。ネジを締める際には締め付けトルクが重要になりますが、ドライバーがカムアウトしようとする中でトルクを管理するのは容易ではありません。トルクレンチに取り付けられるドライバービットも存在しますが、押しつける力次第でネジに加わる実際のトルクは変動します。大量に均質の製品を製造しなくてはならない生産現場にとって、この不確定要素はいただけません。そのため、カムアウトが発生しづらいヘックスビスが使われるようになり、さらにBMWではトルク伝達効率が高いトルクスビスが主流となっています。

POINT

  • ポイント1・ドライバー先端のテーパーと十字穴のテーパーを組み合わせるプラスビスは本質的にナメやすい
  • ポイント2・カムアウトでドライバーが浮き上がらないよう、プラスビスを回す時はドライバーを押しつける力を重視する

押して回すのが最重要だが先端サイズが合っていることも重要


貫通ドライバーを叩くことでネジに対して直交方向の力が加わり、雄ネジと雌ネジの固着が剥がれて緩みやすくなることが期待できる。固着したビスに対しては、防錆潤滑剤やヒーターなどによる加熱、ハンマーによる打撃など、複数の手段を組み合わせることが有効。これは固着したボルトやナットにも共通する。

先のような理由から、プラスビスを回す際はドライバーの先端が十字穴のテーパーを上らないようにビスに押しつける意識が重要です。それはビスを緩める時だけでなく締める時も同様です。

もちろんこの時、十字穴とドライバーのサイズが合っていることが大前提です。プラスドライバーには先端のサイズに応じてNo.1、No.2、No.3というサイズ区分があり、詳細はJISによって規定されています。一方プラスビスにもJIS規格があり、ネジ径や十字穴の形状や深さにも基準があります。

ただし双方の基準には許容範囲があり、組み合わせによっては噛み合いが甘くなることもあり得ます。また必ずしもJISの規格に沿っていないドライバーの中にもプラスビスへのフィット感が良いものもあるのが難しいところです。

とはいえ、No.1相当の十字穴にNo.2のドライバーの先端は入りませんし、No.3相当のビスをNo.2のドライバーで回そうとすれば噛み合わせが甘くてガタガタになります。それでも中には無理矢理作業を強行しようとして、結果的に十字穴をなめてしまう人もいるから驚きです。

トルクアウトを防止するためには、プラスビスに対してドライバーを真っ直ぐに押しつけることも重要です。ビスの組み付け位置や周囲の部品との干渉、作業者の体勢などの条件によって、ドライバーが斜めになってしまうこともありがちですが、十字穴に斜めに接した状態でドライバーを回すと、ただでさえ逃げたい先端部分がもっと逃げようとします。それを避けるためには、横向きに取り付けられたビスには水平方向から、縦向きに取り付けられたビスには垂直方向から押さえる力を加えながら回すことが重要です。

POINT

  • ポイント1・ドライバー先端とプラスビスの十字穴は必ずサイズを合わせて使用する
  • ポイント2・プラスビスに対してドライバーをまっすぐ当てて、斜めにしないことも重要

固着ビスには貫通ドライバーやショックドライバーが有効


工具メーカーのストレートが販売しているミニタイプのショックドライバー(画像は旧タイプ。現在は新タイプにモデルチェンジ済み)。通常のショックドライバーに比べて本体がスリムで狭い場所で使いやすい。


手のひらまで使って握り込むのではなく、指先で緩め方向に回しながら打撃力を与える。明らかに固着しているプラスビスを力に頼って緩めるというより、ナメ防止のために通常のビスに対して使うと作業がはかどる。


普段は通常のドライバーとして使える上に、固着したビスに対してはショックドライバーとしても使えるのがベツセルのメガドラインパクタ。単機能のショックドライバーのグリップは金属製の円筒形で決して握りやすくはないが、このドライバーのグリップは滑りづらい樹脂製だ。


グリップ内部に内蔵するカム機構によって、後端をハンマーで一撃すると先端が反時計回りに約12°回転して固着したビスを緩める。ショックドライバーは先端差し替え式が一般的で普段使いには適さないが、メガドラインパクタは通常作業では貫通ドライバーとして使えるのが魅力。

ドライバーを懸命に押しつけても緩む気配がない、あるいは十字穴がナメ掛かっているような時には、最後の手段としてビスに衝撃を与えます。そのために存在するのがショックドライバー、インパクトドライバーと呼ばれる工具です。

これらのドライバーは内蔵されたカム構造により、グリップ後端をハンマーで叩くことで先端に強い回転力を与えます。メガネレンチで緩まないボルトが電動式やエアー式のインパクトレンチでなら緩むように、最終的な到達トルクが同じでも、固着したネジを緩めるにはそのトルクを瞬間的に加えるのが有効です。プラスビスに強い回転力だけを与えてもカムアウトで逃げようとするので、ハンマーの打撃により押しつけ力を加えながら、その力を回転方向に転換するショックドライバーはとても合理的といえます。

一気に緩めるという特長を生かして、ガッチリ固着していないプラスネジに対してもショックドライバーを使うというメカニックもおり、それはそれで理に叶っています。一般的にショックドライバーはそれ専用の形状と機能を持っていますが、普段は通常のプラスドライバーとして使えて、いざという時にはショックドライバーとして使える製品もあります。

また通常のドライバーでも、軸部がグリップ後端に達している貫通ドライバーは、ハンマーで打撃することが可能です。ショックドライバーのように打撃と同時に回転することはありませんが、カムアウトしない範囲で緩め方向に回しながらハンマーで衝撃を与えることで同様の効果を発揮して固着したプラスビスが緩みやすくなります。非貫通タイプのドライバーは軸部がグリップの途中で止まっているためハンマーでの衝撃は先端に伝わらず、それどころかグリップ自体が破損するおそれもあるので叩いてはいけません。

プラスビスを緩める際はまず第一にドライバーを強く押しつけることを意識して、それでも緩みそうにない、または十字穴をナメそうであればインパクトドライバーを使ったり、貫通ドライバーであればグリップ後部をハンマーで叩いて衝撃を加えることが有効であることを覚えておきましょう。

POINT

  • ポイント1・ショックドライバーはハンマーによる打撃で強制的に押しつけながら、カムの作用で回転力を発揮させる
  • ポイント2・貫通ドライバーの後部をハンマーで叩くことで、固着したプラスビスが緩みやすくなる

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