僅か一箇所に破れが……とか、荷物を載せてロープで縛って走ったら、縫製部分が擦れ切れてしまい、スポンジが飛び出してしまった、といったダメージを受けたシート表皮のバイクは意外と多い。修理張り替えに出すほどではないし、できる限りオリジナルシートを維持してみたい、特に、絶版旧車で新品部品が入手できないモデルなどでは、そんな悩みを持つオーナーさんが数多いと思う。ここでは、思い切ってDIYによる「シート表皮修理」にチャレンジしてみてはいかがだろう。

現代には数多くの高性能接着剤がある

革靴や合成革を含む皮革製品、バッグなどの修理に最適として販売されている接着剤、セメダインスーパーXのブラックを利用し修理してみることにした。このスーパーXにはクリアタイプもあるので、修理する部品や物に合せて接着剤を選ぶこともできる。常にガレージには常備しているが、耐水効果も高いので、ハイテンションコード(プラグコード)をイグニッションコイルに差し込み接続するタイプのコードの固定には最適。完全硬化後でもゴムのように弾力性があるのが特徴でもある。

現状修理後をバラして周辺を洗浄





以前は液体ガスケットの黒を切れた患部へ押込むように修理されていた縫製部分。それもひとつのアイデアだが、接着力という点でシリコン系コーキングでは今ひとつ。表皮を固定する通称「サメの歯」を起こして、シートボトムへ張り込んである表皮の患部周辺は剥がすことにした。不織布シートを利用して液体ガスケットを削り取り、シンナーやアセトン、状況によってはアルコールで表皮周辺のガスケットや手垢汚れをできる限り除去した。

鉄板ボトムのエッジは鋭く表皮切れの原因



シート表皮を張り込む鉄板ボトムのエッジは実に鋭く、そこへ合成表皮を巻き込むことで、鋭い金属エッジがシート表皮の内側と擦れて、表皮を切ってしまう原因になる。本来ならエッジをカバーするビニールカバーが付くが、すでに切れて欠損している場合も多い。ここでは瞬間接着剤を使ってカットしたゴム板をエッジに巻き込むように接着固定した。通常の簡易接着ではライダーの動きで保護ゴムが外れて、鋭いエッジによってシートカバーは再び切てしまう。ここは瞬間接着剤を併用してガッチリ固定。このカバーが動かなければ擦れてシート表皮が切れることも無い。

表皮素材をカットし患部内側から接着準備





シート表皮素材の切れ端を用意する。新品表皮ではなく、不要なシートがあるなら表皮の一部をカットして補修材料として利用すればよい。補修表皮を切れた患部の内側から当て、剥がしたシート表皮の内側と補修表皮表の双方へ接着剤を薄く塗布する。切れた表皮の患部が縮れていたり、ロールしていて接着しにくい時は、患部の見切りエッジ部分を最小限にハサミでカットしよう。トリミングすることで、接着しやすくなるのだ。

補修表皮で縫製ほつれの穴を隠す



如何にも縫製してあるかのように、補修表皮を裏側から接着したら、その状態で完全乾燥を待ち、しっかり接着できたことを確認したら、鉄板ボトムのサメの歯へシート表皮を張り込む。できる限り元の引っ掛け穴へ復元するのがベストである。

アルミ板で挟んでクリップオン固定

患部周辺表皮の裏表に保護用のマスキングテープを貼り、その上から1.5~2.0ミリ厚のアルミ板を押し付けて、小型のシャコ万力や書類クリップでアルミ板が開かないようにしっかり固定する。しばらく待つことで、患部周辺の表皮が歪みなくビシッと仕上がる。

接着後のエッジをパテ修正のように



乾燥状況を見計らいつつアルミ板を外してマスキングテープを剥がすと、ほつれた縫製部分の切れた糸先がツンツンと目立っていた。そんな目立つ糸端はニッパでカット。患部部分が整ったら、接着補修部分の表から接着剤を薄く盛り込もう。ペイントパテのようなイメージで、接着患部の僅かな隙間へ盛りつける。

接着剤の表面を慣して周囲に溶け込ませ……



接着剤を表から適量盛りつけたら、表面が乾燥するのを待とう。完全乾燥後は頑強な接着力と弾力性を有する状況になる。表面の接着部分を慣らすため、ウエスに染み込ませたシンナーやアセトンで軽く表面を滑らせるように拭き取りつつ、仕上げてみた。

パッと見では十分な仕上がりに大満足

修理以前のコンディションと比べ、まったくもって素晴らしく満足のいく仕上りになった。特徴的デザインのシートなので、単純に張り替えるにはもったいなく考え、今回のような補修をいらいしたようだ。しっかり前段取りを進めておけば、決してDIYシート修理は難しくない。このタイプの切れ患部の修理は、ある意味、難易度が高いが、何とかなってしまうこともご確認いただけたと思う。

撮影協力:モデルクリエイトマキシ

POINT

  • ポイント1・ 平らな箇所の破れ補修は強力に接着できるが、患部の見た目コンディションの復元には経験が必要
  • ポイント2・ 小さな破れなら熱溶着で患部の開きを閉じることもできる
  • ポイント3・ 修復作業成功のカギを握るのは、事前の段取りや様々な修理を想定した各車道具の事前準備にある

バイク用シートが一体発泡のスポンジ成形になったのは70年代に入ってからで、それ以前の大型車などは、シートフレームにスプリングを引っ掛け、見た目は「体力作り道具」のエキスパンダのような骨格に、ゴム板やスポンジ板を重ね、その上から表皮を張り込む仕様が多かった(メグロやカワサキW1など)。その後、通称「赤スポ」と呼ばれるブロック成形されたスポンジを、レンガ状!?に組み合わせて形状整形し、その上からシート表皮を張り込む仕様もあった(CB750K0など)。

しかし、これらのシートは、走り込むにつれ乗り心地が悪くなってしまうため(スポンジ崩れや潰れなど、様々な経年劣化が原因)、その後は、新技術の「一体発泡ウレタンスポンジ」を使ったシートアンコが使われるようになった。そして、技術進化や改良を繰り返しながら、その技術は現代のモデルへ継承されている。

今回修理したシートは、80年代に入ってから生産された、一体発泡ウレタンスポンジ仕様のアンコに、縫製表皮を被せたカワサキZ550GP純正シート。最近の大型車用バイクシートの表皮は、縫製=ミシン縫いの質感が見直され、再び縫製仕様シートが増えているように思うが、一時期は、一枚物の表皮を、いかにシワ無く張り込むことに全精力を傾けていた時代もあった。しかし、やっぱり量産性よりも、趣味の乗り物には質感が大切だと気が付いたバイクメーカーは、再びメーカー純正シートとして縫製仕様シートを採用するようになっている。

ここでは、縫製シートの「縫製切れ=縫い糸切れ」から始まった、口開き患部の修理を行ってみたが、このような部分は、単純に接着剤で貼り付け固定するのではなく、当て布ならぬ表皮の破片を「当て表皮」として利用。シート表皮内側から接着固定し、それからシート表皮全体を元通りに張り込み直す補修方法で修理作業を進行した。

ここで利用した高性能接着剤は、一般的に購入できるセメダイン製スーパーXのブラック。完全硬化時に強力な接着能力を備えつつ、しかも接着剤自体に弾力性がある優れもの。しかも修理後の表皮質感を合せるため、接着剤で仕上げた患部を、染めQなどの塗料で色合せも仕上げすることができる(密着力が強力に強いわけではないが)。

今回は、縫製部のホツれが原因となったダメージを修理したが、通常表皮の一部分に何かを引っ掛けて破いてしまった……。タバコの灰がポロッと落ちて、ごく一部がむ溶けるように焼けてしまった……、といった部分の、また違った修理方法もリポートしよう。

旧車のシートはこんな作り=構造だった

この当時の大型バイク用シートに多かったシートフレーム&スプリング構造のダブルシート。実用車用1名乗車のサドル型シートでも、125cc以上のモデルにはスプリング構造仕様が数多かった。

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