
2ストロークエンジンと言えば、4ストロークエンジンのような吸排気バルブ=動弁機構が無く、クランク1周ごとの「毎回爆発」が、圧倒的に異なる部分である。そんな2ストエンジンの腰上部品を組み込む際に、できる限り(必ず)実践したいのが、クランク室=一次圧縮室内の混合ガソリン洗浄である。パーツクリーナーや純粋なガソリンで洗うのではなく、エンジンオイルを混ぜた「混合ガソリン」で洗浄するのがポイントだ。
目次
コンパクトだからこそエンジン降ろし作業
エンジン腰上部品=ピストンやシリンダーを組み込む際には、クランクベアリングやコンロッド周辺にガタが無いか?必ず確認してから組み立てるように心掛けよう。また、クランク室内は、吸入混合気を最初に吸い込み圧縮する「一次圧縮室」の役割を果たしているため、実は、汚れやすくデリケートな部屋とも言える。チャンスがあるときにはこのクランク室内は洗浄したいものだ。また、原付クラスや軽二輪クラスのエンジンはコンパクトで軽いので、エンジン腰上のオーバーホール時にはエンジンを降ろし、エンジン単体で作業進行したいものだ。
ガソリンに2ストロークオイルを混ぜる
2ストロークエンジンは、オイルポンプを持つ「分離給仕様」でも、ロードレーサーやモトクロッサーのような「混合ガソリン仕様」でも、一次圧縮室内で圧縮される混合気には(この場合は霧化したガソリンと空気を混合気と呼ぶ)、ベアリングやシリンダー内壁を潤滑するオイル成分が含まれている。したがって、組み立てられたエンジン腰下のクランク室内を洗浄する際には、パーツクリーナーや純ガソリンではなく、2スト用エンジンオイルを混ぜた混合ガソリンで洗浄するのが原則だ。
混合ガソリンはオイラーで注入
混合ガソリンで走るロードバイクやロードレーサーの場合は、一般的なデータとして混合比はガソリン20~30対エンジンオイル1である。モトクロッサーなどのオフロードバイクの場合は、全開走行時間が少なく低回転域も多用するため、ロードモデルのそれとは大きく違い、混合比や利用するエンジンオイルに様々なノウハウがある。35~50対1といったデータも決して珍しくないが、あくまで基本はバイクメーカーが設定した混合比率で燃料を作って走ろう。メンテナンス時に混合ガソリンを利用する際には、オイル量を若干多めに混合ガソリンを作るのがよい。例えば15~20対1などである。多く洗浄ガソリンを利用する場合は、オイルジョッキにオイルを入れてガソリンで割り、オイラーへ入れて洗浄したい場所にチューチューッと吹き付けながら洗浄しよう。
エンジンを寝かせて洗浄ガスを排出
そんなに汚れてはいないはず!?などと考えつつ混合ガソリンで洗浄。廃ガソリンをステンレス容器で受けてみたら、想像していた以上にクランク室内は汚れていて、混合ガソリンの色が濃くなった流れ出てきた。腰上組み立てのためにエンジンを降ろし、左右のクランク室に新品ウエスを突っ込み保管していたつもりだが、意外なほど汚れていた。こんなことがあるからこそ、チャンスがあるときにはクランク室内を洗浄したいのだ。また、2気筒エンジンでクランクシャフトに「センターシール」を採用しているモデルでは、片側のクランク室にだけ混合ガソリンを満たし、もう片側のクランク室に混合ガソリンが漏れ出て来ないか?必ず確認しよう。非接触のラビリンスシール採用エンジンの場合は、ガソリンが漏れ伝わっても大丈夫。洗浄優先で作業を進めよう。
エンジンを寝かしたままで「濯ぎ洗浄」
汚れた洗浄ガソリンを出したら、エンジンを寝かせた状態のままでオイラーを利用し、さらにクランク室内を濯ぎ洗浄するとより一層効果的だ。クランクベアリング周辺やコンロッドのビッグエンド周辺は特にしっかり濯ぎ洗いしよう。
細ノズルでオイル注入
混合ガソリンで洗浄を終えたら、転ばぬ先の杖として、高性能オイルスプレーを各種ベアリングに注入。こんなときにあると便利なのが極細パイプのスプレーノズル。本来ならプラスチックストローのようなノズルだが、他の商品用ノズルでも使えそうなものは、ノズルだけ保管しておくと、こんな作業時に利用することができる。
腰下部品もバラせるものなら分解点検
エンジンを横向きにして木枠へ載せ、クラッチカバーを外してクラッチディスクのコンディションも点検した。フリクションデスクはヘンに摩耗していないか目視確認し、スチールプレート(クラッチプレート)は、部分的に焼けて青や黒色の焼け跡が残っていないか要注意。プレートの歪み点検時にあると便利なのが定盤とシックネスゲージだが、定盤のかわりに窓ガラスを利用することもできる。
クラッチドリブンダンパーを点検
クラッチアウターにはクランクシャフトが生み出す駆動力をミッションへ伝えるための、プライマリードリブンギヤが組み込まれている例が多い。センターハブを締め付けるナットを外し(インパクトレンチを利用)、クラッチアウターを手に持ち、ギヤを回してガタが無いか確認しよう。モデルによっては、回転方向に作動させながらダンパー機能を有している例もある。
- ポイント1・ 2ストエンジンの腰上組み換えやオーバーホール時にはクニンク室内を混合ガソリンで洗浄しよう
- ポイント2・ 通常ユースよりもオイルを濃くした混合ガソリンを作り、使用時にはオイラーを利用するのが良い
- ポイント3・ エンジンを降ろした際は、周辺の点検できる箇所もしっかり分解点検しておこう
2ストロークエンジンはシンプルな構造ながら、コンディションを崩すとトラブルを起こしやすいことで知られている。例えば、キャブレターの分解メンテナンスを実施。その後、キャブ本体の取り付け不備が原因になり、キャブレターとマニホールドのクランプ部分や締め付けフランジ部分から二次空気を吸い込んでしまい、それが原因で、希薄燃焼=混合気の空気量が増えて (キャブセッティングが狂って) しまい「ピストントップに風穴を開けてしまった!!」といった話は珍しくない。また、ピストン外周のスキッシュエリアに「溶けたアルミ片が堆積してザラザラに……」とか、燃焼室がザクザクになってしまった!!といったトラブルも発生する。ピストントップに穴が開くと、圧縮工程がまったくできずに爆発しない=エンジン始動できなくなくなる。当然ながら、キックを踏み込んでも圧縮している感覚は得られない。不動車購入やレストアベース車の購入時に「圧縮がある」というのは、エンジンコンディションを伝えるひとつのキーワードでもあるのだ。
4ストロークエンジンの場合は、吸排気バルブが曲がっていると「圧縮が無い」とか「圧縮が低い(少ない)」とかで表現されることもある。また、灰色に溶けて粉状になったアルミがザクザクになって燃焼室やピストン外周に堆積するような際は、シリンダーとピストンが焼付く、もしくはダキツキが発生し、仮に軽傷なら、エンジンが冷えることでピストンは往復運動できる状況に戻り、エンジン始動は可能になることが多い。しかし、そのようなトラブルに至るには、原因が必ずあるため、その原因を追及&修復しない限り、また同じトラブルを招いてしまう可能性があることを気に留めておこう。「動いたから大丈夫」では決してないのだ。
ここで実践しているのは、クランク室=一次圧縮室内の混合ガソリン洗浄だ。仮に、前述したようなエンジントラブルを招いた復旧時には、必ず実施しなくてはいけないのが混合ガソリン洗浄である。何故なら、エンジン腰上がトラブったときには、一次圧縮室に大きな影響を与えてしまうことが多い。ピストンが溶けたり、いわゆるデトネーション(異常燃焼によるピストンエッジや燃焼室の溶け)によってアルミ粉堆積が起こると、一次圧縮室内に混入してしまうことが多いのだ。アルミの金属粉がクランクベアリングやコンロッドベアリングに混入すると、組み立て復旧後の異音発生原因になってしまうからだ。そんな異音の原因である金属粉や汚れを、混合ガソリンで洗い流すことで、大事に至らないケースもあるのだ。
例えば、ピストンの穴あき直後にエンジン停止。その後、クランク室内をしっかり洗浄した後に腰上部品を復元したことで、再始動時にメカノイズが気にならないこともあるのだ。その一方で、穴あきピストンを新品部品に交換し、シリンダー内壁を磨いて復元。容易にエンジン始動できたものの「シャーッ」といった連続的メカノイズが気になってしまう結果に陥ることもある。部品復元の前にクランク室内=一次圧縮室内を「洗浄したか否か?」の違いで、その後のエンジンコンディションに大きな違いが発生してしまうのだ。なのような現実を踏まえ、エンジン腰上部品が分解された2ストエンジンは、できる限り一生懸命、クランク室=一次圧縮室内のクリーンナップしよう。
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