さまざまな表面処理の中で、アルミ部品の研磨技術として注目されているのがバレル研磨です。多くのライダーが知るバフ研磨とは原理からまったく異なるバレル研磨とは?そしてバレル研磨とパウダーコーティングのカラークリアを組み合わせて実現できる、想像以上のカスタム効果について説明します。

バレル研磨は磨く部品を研磨メディアの中でかき混ぜる


バレル研磨とパウダーコーティングによってドレスアップするのは1987年製スズキRG250ガンマ用ホイール。純正はマグ風というかベージュ風というか、微妙な色合いのペイント仕上げ。


カーベック製三次元バレル研磨機「MURAMASA」は容量600リットルのバケットに詰めこまれた研磨メディアの中にモーターに取り付けられた部品を押し込み、回転運動、上下運動、スイング運動を連動させながら研磨する。2個のバケットには粗研磨用と仕上研磨用のメディアが入っていて、研磨内容に応じてバケットを入れ替える。規模も価格もショップや工場向けの設備だ。


研磨ヘッドの動作はプログラムによって設定され、スタートボタンを押した後は作業者は何もすることはなく、バフ布や研磨剤で汚れることもない。この画像は研磨メディアの粒径が小さい仕上研磨中。部品の形状や状態によって左右されるが、粗研磨は20分程度、仕上研磨は10分程度で研磨が完了する。

削り出しでも鋳物でも、アルミ部品を磨くと美しく輝くことを知っているライダーは多いはず。アルミニウム合金は元素の特性として酸化しやすいため、強制的に酸化皮膜を作るアルマイトを施して製品化されている場合も多いですが、例えばエンジンのクランクケースカバーやフロントフォークのアウターチューブなどの鋳物製品は金属磨きケミカルによって美しく輝きます。

アルミパーツの磨き方としてよく知られているのは後述するバフ研磨です。しかし大量に製造される工業製品では、もっと効率の良い方法があります。それがバレル研磨です。

ホイールでもエンジンカバーでも、私たちが何かの部品を磨こうとする時は自らの手で相手に研磨剤を塗布してマイクロファイバークロスなどで擦ります。

しかしバレル研磨はその逆で、容器の中の研磨メディアに磨く部品を投入して振動などを利用して磨きます。スプーンなどの食器やスパナやソケットなどの工具の表面処理前の研磨では、研磨メディアで満たされた大きな槽の中に素材を入れて磨くことが多いようです。バレル=樽という意味で、産業界では回転式や振動式、遠心式などいくつかの方式の研磨機があり、成型時のバリ取りやメッキ下地の処理などに活用されています。

このようにバレル研磨はもっぱら大量生産時の中間工程で使用される技術ですが、これをアフターマーケット向けに製品化したのが、ガンコートやパウダーコーティングなど表面処理にまつわる数々の製品や技術を提供しているカーベックです。

同社が開発した三次元バレル研磨機の「MURAMASA」は、研磨する部品をモーターに取り付けて研磨メディア槽の中で回転させるのが一般的なバレル研磨機との相違点です。回転といっても、ボール盤の先端に部品を付けて回すような単純な動きではなく、槽の中で上下やスイング運動をさせることで研磨メディアがムラなく接触し、形状が複雑な部品でも研磨できるのが大きな特長です。

「MURAMASA」は工場用の設備でバイクユーザーが個人で購入するタイプの製品ではありませんが、製造元のカーベックを筆頭に機械を導入している各地のショップに研磨をオーダーすることは可能です。

POINT

  • ポイント1・バレル研磨は研磨メディアの入った槽に磨く部品を投入して、メディアと部品が常に接触することで研磨を行う
  • ポイント2・カーベック製バレル研磨機は回転運動、上下運動、スイング運動の三次元で効率的に研磨を行う

アルミ部品磨きの定番であるバフ研磨とバレル研磨の違いとは?


黄土色みたいなペイントホイールがバレル研磨によって驚くほど美しく輝く。古い塗装の剥離から研磨まで、1本当たりの作業費用は3万円前後から。DIYで地道に磨いても良いが、クオリティの高さは遠く及ばないだろう。


鏡面仕上げのバフ研磨のように過度に光りすぎず、純正パーツのような均一でしっとりとした仕上がりになるのがバレル研磨の特長。それもそのはず、研磨仕上げの純正部品の多くにもバレル研磨を用いているから。[/color][/fontsize]


研磨できるか否かは、研磨メディアが触れられるか否かで決まる。狭い隙間を磨こうとすればペンシルリューターのような細い道具には勝てないが、純正部品相当の光沢に仕上げたいのであればバレル研磨が最善だ。

バレル研磨が個人ではできないのに対して、バフ研磨はガレージでもできる研磨手段として親しまれています。アルミやステンレスの表面を研磨剤を塗布したバフで磨くことで表面を輝かせるバフ研磨は、カスタムやドレスアップの定番テクニックとして知られています。

素材の状態にもよりますが、アルミ製の鋳物部品の場合はサンドパーペーパーの目を徐々に細かくしながら下地を作ります。一例としては600→800→1500番というような順序で、目の粗いペーパーで付けた傷を細かいペーパーで消していくようなイメージです。その後、グラインダーやドリルやリューターに取り付けたバフに研磨剤を塗布して磨き上げることで、根気次第では鏡面のように仕上がります。

ここで注目したいのが研磨剤です。サンドペーパーを使用する間はアルミ自体を磨いていますが、研磨剤を使用する段階で研磨剤を擦り込む作業に換わります。研磨剤がアルミ表面に反応して光沢を出すのは事実ですが、一方でワックスのように研磨剤中の油分を塗布する作業でもあります。

バフ研磨で仕上げた部品はその後の手入れも欠かせないという体験をしたライダーもいると思いますが、その理由のひとつが研磨剤にあります。空気中で研磨剤の油分が酸化することで白くかぶったように変色し、それが鏡面を曇らせる原因になることがあるのです。油分の多い研磨剤には下地の小さな傷を埋める能力もあるため、曇りを除去する目的でパーツクリーナーを吹き付けると脱脂されて、下地の状態があからさまになってしまう場合もあります。その場合はもう一度研磨剤で磨けば状態は改善しますが、バフ研磨にはこうした一面もあります。

これに対してバレル研磨は最初から最後まで研磨メディアで磨き、ケミカルは使いません。研磨後の部品の光沢はアルミ素材自体の輝きなので、パーツクリーナーや脱脂剤で拭いても質感は変化しません。またバフ研磨はバフ布が接触する部分ごとに磨き進めていきますが、研磨メディアに部品を押し込んで回すバレル研磨は広い面積を均一にムラなく磨ける利点もあります。また表面に油分などを塗っていないので、研磨した上から塗装することも可能です。

こうした特長に注目し、ホイールカスタムの必需品としてバレル研磨機を活用している自動車系のカスタムショップも少なくありません。

POINT

  • ポイント1・バフ研磨は研磨剤中の油分によって部品をコーティングして光沢を出すのに対して、バレル研磨は部品の素材自体を光沢を引き出す
  • ポイント2・バレル研磨後の部品は無垢の状態なので表面の塗装も可能

バレル研磨をパウダーコーティングしてアルマイト風に変身!?


パウダーコーティングの塗料は微細な粉末で、粉末の状態のまま静電気を利用して金属表面に付着させる。その後粉状のまま180℃以上の高温に加熱するとパウダーが溶けて塗膜となって部品に密着する。


パウダーコーティングはウレタン塗装に比べて塗膜が厚く頑丈なのでフレームのペイントに適している。フレーム用と聞くと地味な色しか選べないと誤解するかもしれないが、カーベックで取り扱っているパウダーコーティング塗料はソリッド、メタリック、キャンディ、ネオン系など80色ものバリエーションがある。


バレル研磨で磨いたホイールにキャンディイエローのパウダー塗料を吹き付ける。ガンから粉状で吹き出した塗料は静電気によってまとわりつくようにホイールに付着する。


乾燥器で焼き付けるまでは粉状のままなので、エアブローによって簡単に吹き飛ばすことができる。これも液体の塗料にはない、パウダーコーティングならではの特長だ。


パウダーコーティングの塗料はポリエステルやエポキシポリエステル、アクリルなどの樹脂を粉末状にしたもので、仕上がり色がキャンディイエローでもパウダー状態ではソリッドに見える。同様に、焼付後に透明になるクリアも吹き付け時には白色だ。


バレル研磨の輝きの上にカラークリアのパウダーコーティングを重ねることで、奥行きのある光沢が実現する。銀色の塗装の上にキャンディイエローを塗り重ねても同様の効果を狙えるが、研磨による金属光沢とはひと味違う。また塗装はキャンディイエロー1色だけなので(いわゆる1コート)、銀色の上にキャンディを重ねる2コートより各部のエッジがシャープに仕上がる。


ホイール表面の鋳肌部分もバレル研磨によって磨いているがサンドペーパーなどで削っているわけではないので、純正の風合いは維持される。

バレル研磨とバフ研磨の違い、そしてカーベック製の三次元バレル研磨機の特長を踏まえた上で、ホイールカスタムの一例を紹介します。

ここで取り上げるのは1980年代の3本スポークのアルミキャストホイールです。純正仕様は塗装仕上げですが、これを剥離剤とサンドブラストで剥離してバレル研磨すると、まるでカスタムホイールかのように美しいアルミの光沢を放つようになります。

ホイール研磨はバフ研磨でもよく行われますが、バフ研磨の下地作りでサンドペーパーやベルトサンダーを使うと梨地の鋳肌が削れることがあります。梨地を磨き上げることでカスタムテイストがアップするメリットもありますが、バレル研磨では素材自体の風合いを大きく変化させません。そのため、ピカピカに輝きながら表面の雰囲気やメーカーやサイズ刻印の端が削れてダルくなることもありません。

塗装仕上げの純正ホイールが輝くだけでも大きなカスタム効果がありますが、さらにもうひとワザ加えることでイメージを変えられます。先述したように、バレル研磨はケミカルや油分によって光沢を出すわけでないため、研磨後の塗装も可能です。カーベックはパウダーコーティングの設備や塗料の販売も行っているので、豊富なラインナップの中から透明に仕上がるキャンディイエローで塗装を行います。

パウダーコーティングのキャンディカラーは下地を透過するため、仕上がりはまるでゴールドアルマイトのようになります。ゴールドのパウダーコーティングではあくまでゴールドですが、キャンディカラーを選択することで透明感と深みが出て、さらにホイール自体をバレル研磨しておくことでアルマイト感を出せるのです。表面処理に興味のあるライダーなら、鋳造アルミニウムとアルマイトは相性が悪いことをご存じでしょうから「なぜ純正ホイールにアルマイトが掛けられるの?」となるはずです。

スペシャルパーツに交換するカスタムもやり甲斐がありますが、さまざまな表面処理を組み合わせることで思いもよらない効果を生み出すこともあります。またカスタムだけでなく、クランクケースカバーやヘッドカバーが研磨仕上げの絶版車のレストアでは、バレル研磨が大きな効果を発揮することを覚えておくと良いでしょう。

POINT

  • ポイント1・バレル研磨と塗装の組み合わせによってユニークなカスタム効果を得られる
  • ポイント2・バレル研磨はカスタムはもちろん絶版車レストア時の部品磨きにも最適

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