
AUTOLUBE=オートルーブと呼ばれた分離給油システムを搭載した、市販車用2ストロークエンジンを1963年に発売したヤマハ。その後、スズキはCC1、カワサキはジェットルーブなど、独自のシステムを完成させ、2ストロークエンジンに次々搭載。そんな分離給油システムには「オイルポンプ」があり、そのオイルポンプから吐出されるエンジンオイルは、チェックバルブ=開閉弁によって、エンジン停止中のオイル供給は停止されていた。ここでは、そのチェックバルブの重要性に注目してみたい。
目次
メーカーによってデザインや機構が異なるオイルポンプ
画像のエンジンはカワサキ500SSマッハⅢに搭載された空冷3気筒エンジン。初代1969年モデルから、最終モデルのKH500まで(1976年発売)、オイルポンプは機能的に変化は無く採用され続けた。吐出量は異なるが、シリーズモデルのS1/250cc、S2/350cc、S3/400cc、H1/500cc、H2/750cc、すべて同タイプのオイルポンプを採用していた。ポンプの取り外しやオイルラインのメンテナンス時には、オイルタンクからの一次側オイル供給チューブをシャットアウト。バンジョー接続式なので、オイルストッパーにはブレーキライン用フルードストッパーを代用することができる。
カワサキは機種専用オイルラインを採用
機種専用オイルラインを採用していたカワサキ。それ故に、今となっては部品探しが大変難しく、新品部品などまず見つけられない状況。したがってオイルラインを洗浄点検し、利用するのが一般的。欠品しているときは、部品探しが本当に大変だ。それが旧車を維持する宿命なのだが……。
オイルライン内にあるチェックバルブ
分離給油のカワサキ2ストエンジン黎明期の特徴は、オイルライン内にチェックバルブがあり、エンジン停止中はコイルスプリングがチェックバルブとなるスチールボールを押し付け、エンジンオイルの供給を遮断する構造となっている。オイラーボトルに2ストエンジンオイルを入れ、ポンプ側の小型バンジョーからエンジンオイルを強制的に押込むことで、チェックバルブの機能を点検することができる。
オイルを押込み外部を洗浄したら吊るし点検
バンジョーにバンジョーボルトとガスケットをセットしてナットで締め付けることで、オイラーからオイルライン内へエンジンオイルを押込みやすくなる。半透明なのでオイルを半分程度入れたら、全体の油分をパーツクリーナーで洗浄し、チェックバルブ側を下にしてオイルラインを吊り、オイル漏れを確認する。数分後、じわじわとオイルが滲み始め、ポタッと地面にオイルが垂れた……。チェック機能が効いていない!!
チェックバルブが分解組み立て式ならば……
このタイプのオイルライン(ここではカワサキ500SS用を例にしてます)は非分解指定部品なので、分解点検はオーナーの個人責任に於いて作業実践するしかない。後期モデルは完全カシメ式なので分解できないが、前期モデルは組み立て式なので分解清掃は可能。しかし非分解指定部品なので、くれぐれも個人責任に於ける作業となることを肝に銘じよう。
ウエスを敷いた作業台の上で分解した
チェックバルブの構造は至ってシンプルだが、何より部品が小さいので、白いウエスを敷いた作業テーブルの上で分解し、スチールボールやスプリングを紛失しないように要注意。このスチールボールが真鍮製フィッティング内のバルブシートへ押し付けられ、オイルの流れを遮断する。
念のために目視点検してみたところで……
バルブシートとスチールボールバルブのあたりが悪いとオイル漏れが発生する。チェックバルブ機能の低下は、その多くが「ゴミ詰まり」「ゴミの引っ掛かり」によるところが多い。また、スチールボールがスプリングコイルを広げて潜ってしまい、チェックバルブ機能を成していない例も時にはあった。
バルブシートを綿棒でクリーニング
バンジョー内をキャブクリーナーケミカルで洗浄し、さらにケミカルを綿棒に付着させてからバルブシートをキュッキュッと磨き込む。スチールボールは表面にキズや打痕などが発生していないか、虫眼鏡を使ってしっかり目視確認しよう。スチールボールはベアリング鋼球で代用できるので、ダメージがあると判断できたら、鋼球サイズを測定して新品部品に交換することができる。スプリングは磁気を帯びない銅製のようで、スチールボールを受ける側は先細になっている。この先細コイルが広がり、スチールボールがスプリング内に潜ってしまうトラブルも過去にはあった。
分解洗浄後は組み立ててから再度オイルリーク確認
分解洗浄を終えたらパーツクリーナーでしっかり脱脂し、ゴミの付着が無いことを確認しながら組み立て復元する。再度、オイルライン内にエンジンオイルを流し込み、吊ってしばらく待ち、オイルリークしないか、しっかり点検しよう。
- ポイント1・メーカーによって構造は異なるが、オイルポンプ付き2ストモデルにはオイルチェックバルブが存在する
- ポイント2・新品部品を見つけたときにはスペアパーツとして購入しておきたいのがチェックバルブ
- ポイント3・今回の作業は非分解指定部品を分解清掃しているので、すべては自己責任に於ける作業である
分離給油式オイルポンプが登場する以前の2ストエンジンと言えば、あらかじめガソリンにエンジン用オイルを混ぜた「混合ガソリン」を給油した。60年代から70年代当時のガソリンスタンドには、レギュラーガソリン、有鉛ハイオクガソリン、混合ガソリン、ディーゼル軽油などが販売されていた。70年代までは混合ガソリン用の小型タンクを持つサービスステーションは数多かったが、さすがに80年代に入ると、混合ガソリンモデルに乗るユーザーが減ったため(2スト軽自動車の旧型モデルは混合ガソリンモデルが多かった)、取り扱うガソリンスタンドの数は一気に減った。それでも小型漁船などは、混合ガソリンの船外機を使う例が今尚あるため、数年前に小さな漁師町をツーリングで通過した際に、ガソリンスタンドに「混合ガソリンあります」の看板を見つけたときには、実に懐かしさを感じたものだった。
分離給油のオイルポンプを装備した2ストロークエンジンは、ホイルポンプの二次側=エンジンに向けた2ストオイルの吐出側にチェックバルブを持っている。メーカーによってタイプは異なるが、例えばオートルーブのヤマハの場合は、オイルポンプとシリンダーを結ぶオイルラインのオイルポンプ側バンジョーの締め付けボルト内にスプリングを設け、ボルトの締め付け前、オイルポンプの吐出ポート内にスチールボールをセットし、バンジョーを締め付ける構造を採用していた。そんなヤマハの場合は、オイルポンプ分解時に、スチールボールの存在に気がつかず、分解してしまったことで、組み立て復元後にはチェックバルブ成しになってしまう例が多い。
そんなトラブルを嫌ったのか?カワサキの2スト混合エンジン黎明期は、オイルラインのバンジョー内にチェックバルブを設けていた。しっかり機能していれば、内蔵式チェックバルブはトラブルフリーで利用することができる。しかし、チェックバルブ機能が効かなくなると、これが大きなトラブルの原因になることも忘れずにいたい。内蔵式であれ、スチールボールを紛失しやすい分解式であれ、チェック機能が効かなくなれば同じようなトラブルに見舞われてしまう。
チェックバルブが効かなくなると、オイルタンク内のエンジンオイルがジワジワと自然落下してしまい、それがオイルラインを通じてクランクケース内に溜まってしまう。そんな状況に気がつかずにキック始動すると、ウォーターハンマー現象が発生。具体的には、キック操作のクランキングによって一次圧縮室内のエンジンオイルが燃焼室に流れ、それを圧縮するため、軽傷でもヘッドガスケットの吹き抜けが発生。最悪で、ピストンが耐えきれず破壊され、コンロッドも曲がってしまうトラブルを発生する。単純なヘッドガスケットの吹き抜けなら不幸中の幸いと言えるが、実はこの際に、コンロッドが微妙に曲がってしまうことが多く、後々、走行中にエンジンブローする例が多い。
エンジン始動前に、オイルタンクを覗いて見たら、オイル容量が異様に減っていることに気がついた……、そんなときには要注意。ヘンだと思ったときには、スパークプラグを抜き取り、プラグ穴の上にウエスを載せ、空キックを10発ほど踏み込んでみれば、状況判断できるはずだ。仮に、エンジンオイルが間欠泉の如く吹き出したなら、オイル給油系統のチェックバルブ不良がトラブル原因である。
以前のお話しだが、フルレストアを終えた直後にチェックバルブ不良に見舞われ、キックを踏んだらバキッと言った音とともにエンジンロック。結果としては、ピストン破壊とコンロッド曲がり……。大きな出費を強いられたことがあった。そんなトラブルに見舞われないためにも、何かしらのメンテナンスでオイルラインを取り外した時には、ここで解説するような方法で、オイルラインのチェックバルブを確認することができる。是非、機会があるときには積極的に点検しよう。
バンジョーボルト内にチェックバルブを持つヤマハ
ヤマハ60sツインのパーツリストから抜粋したオイルポンプ図。見出し36番の部品がチェックバルブとなるスチールボール。そのボールをスプリングが押込んでいる。つまりバンジョーボルトの締付け時に、バルブシートとなるオイルポンプボディにスチールボールをセットしてから、スプリングを組み込んだバンジョーボルトで締め付け固定する構造となっている。
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