トップ、セカンド、オイルリングの三層構造からなるピストンリング。合口の設定方向などいくつかの要注意ポイントはありますが、最も気をつけなくてはならないのがシリンダー挿入時のリング折損です。4気筒エンジンを組み立てる際にはピストンリングコンプレッサーがあると重宝しますが、手元にない時はこんな方法でも代用できるという案を紹介しましょう
ピストンにリングをセットする時も慎重な作業が必要
ピストンリングの中でもトップリングとセカンドリングは区別が付きづらい場合がある。トップリングは外周に表面処理が施されていることが多く、セカンドリングは断面のエッジが鋭いところが見分ける際のポイント。装着時の表裏も決まっており合口部分にアルファベットの記号がある面をピストン上側に向けてセットする。
リング溝3段目のオイルリングが3ピースタイプの場合、波形にプレスされたエキスパンダーを先にセットして、その上下にきわめて薄いオイルリングを組み付ける。エキスパンダーの合口は波形の端部が上を向く方向にして、リング溝の中で波形部分が噛み込まないように装着するのがポイント。
4ストローク、2ストロークを問わず使用され、エンジンコンディションに大きな影響を与えるのがピストンリングです。4ストローク用ピストンの場合、トップリング、セカンドリング、オイルリングの3本タイプが多く、混合気が燃焼室で爆発的に燃焼した際に発生する圧力を漏らさぬように受け止めつつ、クランクケース内のエンジンオイルが燃焼室内に入らないようかき落とす重要な働きをしています。
Oリングのような完全な円であれば、燃焼室から受ける圧力もクランクケースのエンジンオイルも全周で均等に受け止められますが、ピストンのリング溝に収めるためには完全な円環では組み込めないので、一カ所に切れ目が入って大きなCの字状になっているのはご存じの通り。こうした構造のため、ピストンリングをピストンのリング溝にセットする際は、一度ピストンリングをピストンの直径以上に広げることが必要で、この作業には緊張とリスクが伴い、痛い目に遭ったバイクいじり好きは数知れません。
そもそも金属製のピストンリングは拡張されるようにできていないので、合口の両端に指を添えて広げること自体に若干の無理があります。これはボルトやナットを締める作業とは異なる作業となり、勘が要求される面があります。特に過去の絶版車や旧車用のピストンリングは現代のものとは素材や厚みが異なり、拡張やひねりに弱い部分があるので慎重に作業しなくてはなりません。
- ポイント1・ピストンリングをピストンにセットする時は、合口部分を最小限広げてリング溝に収める
- ポイント2・厚みがありひねり方向の力に弱い旧車や絶版車用ピストンリングは、リング溝にセットする際に折損しやすいので慎重に広げなくてはならない
シリンダースリーブに挿入する際のピストンの倒れを防止したい
コンロッドに組み付けたピストンはピストンピンを軸に揺動する。シリンダーをセットする際はピストンが垂直状態でなければならないが、4気筒エンジンの2個のピストンで垂直をキープするのは容易ではない。ひとりで作業していて1、4番ピストンの角度を合わせるのは至難の業だ。
ピストンをコンロッドに取り付けてシリンダーに挿入する作業では、ピストンの傾きによるトラブルに注意が必要です。ピストンとシリンダーのクリアランスは100分の1mm単位と小さく、ピストン単体でも傾いた状態で無理に挿入しようとすると簡単に傷がつくこともあります。ここにピストンリングがセットされていると、リングがシリンダースリーブの端に引っかかってスムーズに挿入できないばかりか、無理に押し込もめばリングを折りかねません。
そうしたトラブルを防ぐには、コンロッドピンを軸に振れるピストンを固定するのが有効です。上死点や上死点近くにあるピストンが振れなければ、シリンダーを挿入する際にピストン側面が当たることはなく、ピストンリングへのリスクも軽減されます。その際に重宝するのが、クランクケース上面とピストン下部の間に挿入してピストンを直立させるピストンベースと呼ばれる工具です。単気筒エンジンであれば、片手でピストンを真っすぐ支えながらもう一方の手でシリンダーを挿入できますが、多気筒エンジンではそうはいきません。
一般的な4気筒であれば、1・4ピストンが上死点なら2・3ピストンが下死点となるため、2個のピストンを同時にシリンダーに挿入しなくてはなりません。ピストンの傾きを細かく調整しながら、うまくピストンをセットする経験値の高いベテランもいますが、ひとりで作業する場合はピストンベースを使った方が絶対に安心であり余計なトラブルの心配もありません。
- ポイント1・ピストンピンを軸に揺動するピストンをシリンダーに挿入する際は、傾かないように保持することが重要
- ポイント2・シリンダーとピストンの間にピストンベースを挟んでおけば、ピストンを手で支えなくても垂直状態を維持できる
自作リングコンプレッサーで単独作業時の破損リスクを低減
ピストンリングコンプレッサーはバイクメーカーの専用工具として設定されていることや、汎用タイプの専用工具として販売されているものもある。専門のバイクショップならまだしも、一生のバイク趣味のうちで4気筒エンジンを分解する機会が限られている多くのライダーにとって、そのために高価な専用工具を用意するのはハードルが高い。とはいえピストンリングの折損も避けたい。そこで代用品でピストンリングコンプレッサーを自作してみた。
緑茶の缶を帯状に切断。当初は切ったままの状態でピストンに巻き付けたが、アルミ缶自体がスリーブ下端のテーパーに倣ってシリンダー内に入ってしまったため、シリンダースリーブの下端と接触する部分の何カ所かを外側に折り曲げて縁をつけた。
高さが同じ木片を2個用意してピストンベースとして、アルミ缶のピストンリングコンプレッサーをタイラップで巻き付ける。ステンレス製のホースバンドを流用する例もあるようだが、どんな手段でもピストンリングがピストンの直径より大きくならなければ、シリンダースリーブに引っかかって折損するリスクを低減できるわけだ。ピストンリングコンプレッサーはシリンダー挿入時にスリーブによって押し下げられるので、コンプレッサー自体の幅は無駄に厚くせず、リングやピストンを傷つけない素材を選択することが重要。
工具ブランドのストレートが販売しているピストンリングコンプレッサーはナイロン製でピストンやリングを傷つけるリスクが少なく、ある程度の厚みがあるためスリーブの下端に食い込むこともないのが特長。単気筒ならコンプレッサーの端を指で摘まみながら、もう一方の手でシリンダーを簡単にセットできる。
シリンダー組み立て時にピストンの傾きと並んで重要なのが、ピストンリングの取り扱いです。燃焼室の圧力を漏らさず、クランクケースのエンジンオイルをかき落とすピストンリングは、シリンダーに密着するため外向きの張力が与えられています。その張力によりピストンにセットしたはピストンリングはシリンダー内径より広くなっているので、シリンダーに挿入する時にはピストン外径までリングを縮める必要があります。
その作業時に活用したいのがピストンリングコンプレッサーです。これもまた、シングルエンジンの場合は片手でピストンの傾きを押さえつつ指先でピストンリングを押し縮めながらシリンダーを挿入するという高等テクニックを使えるベテランメカニックもいますが、ひとりで4気筒エンジンを組み立てる時はこのやり方は至難の業です。ピストンリングコンプレッサーはピストンの直径に合わせたサイズが設定されており、リングを圧縮した状態で維持できます。
ピストンリングコンプレッサーをセットしたピストンにシリンダーを挿入する際は、ピストンリングコンプレッサーがシリンダーのスリーブ端面に接触したままシリンダーをゆっくり挿入することで、コンプレッサーがリングから外れた時にはリング自体がシリンダースリーブに収まっているという状態になり、ピストンリングの折損を防止できます。
ピストンリングコンプレッサーは専用工具の一種ですが、いろいろなエンジンで使うためにはピストン径に適したサイズのコンプレッサーが必要です。それは10mm用のメガネレンチでは14mmのボルトが緩められないのと同じことです。
ただ、ピストンリングコンプレッサーはメガネレンチやソケットレンチほど頻繁に使用する工具ではなく、その割には値が張るのも事実です。そこで何か他の方法で代用することを考えてみます。そうした中で、成功する可能性のあるひとつの方法として紹介できるのが、飲料用のアルミ缶を使ったやり方です。内容としては一目瞭然で、缶飲料の容器を切開して3本のピストンリングを同時に圧縮できる幅に切断して、タイラップでリングの上から縛りつけるというものです。
ピストンリングコンプレッサーの要点は、コンプレッサー自体とスリーブ下端がぴったり密着することです。密着することで、圧縮されたピストンリングの直径が変化することなくコンプレッサーからスリーブに挿入できます。逆に言えば、ピストン単体時にはリングを圧縮できていても、シリンダーを挿入していよいよピストンリングがスリーブに入るかという段階でコンプレッサーが外れてリングが飛び出してしまったら意味がありません。そうならないためにも、スプリングコンプレッサーを自作する際はスリーブと接する面が均一に当たるようにすることが重要です。
ここでは手近にあったアルミ製の空き缶を使いましたが、必ずしも金属製でなければならないというわけではありません。主に原付クラスのピストンサイズに合わせて開発された、工具ブランドのストレート製ピストンリングコンプレッサーはナイロン製ですが、シリンダースリーブ下端とぴったり密着することでリングが広がることなくシリンダーに挿入できる工具として人気があります。
メンテナンスやチューニングでシリンダーやピストンまで分解するとなると、技量や経験値も相応に求められますが、その上で適切な工具を活用することも必要です。ピストンベースやピストンリングコンプレッサーは、いざ自分で作業を行う際にピストン挿入作業時のミスやトラブルを軽減してくれるアイテムとなることを理解しておくと良いでしょう。
- ポイント1・張力で飛び出すピストンリングを折らないよう、4気筒エンジンのシリンダー組み付け時はピストンリングコンプレッサーを使いたい
- ポイント2・専用工具があればベストだが、身近にある材料で代用できることもある
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