メーカー名やモデル名を主張するのが各種エンブレム。多くのモデルがプラスチック成形で製造しているが、欠損や欠落部分が無ければ、比較的容易に接着補修することができる。修理と同時に化粧直しすることで、想像していた以上の美しい仕上がりになることもある。ここでは、割れてしまったプラスチックエンブレムを接着成形し、化粧直ししてみた一部始終をリポートしよう。
目次
割れたとしても「欠損欠落の有無」で修理難易度が変る
スーパーカブのレッグシールドに取り付けられるエンブレムは(70年代モデルに多いプラスチックエンブレム仕様)、ジーンズ鋲のような固定方法のカシメ式なので、取り外すにはカシメ鋲を分解しなくてはいけない。うまく鋲を抜き取れたのでエンブレムを取り外そうとしたら、ポロリ……。振動で割れてしまったようだ。そんなエンブレムを再生復元しようと思う。
接着補修箇所のクリーニングから作業開始
接着する際には、折れてしまった部分の脱脂洗浄を、徹底的に行わなくてはいけない。綿棒を使って他の部分にダメージを与えないように、アセトンで拭き取る。ここで利用する接着剤はプラリペア。割れた部分がピタッと一致していると逆に接着強度を得られないので、目立たない裏側中央部分にカッターで開先入れ(面取り)を行った。この作業時にわかったのは、現代のアルミ蒸着処理ではなく、このエンブレムの仕上げには電解金属クロームメッキが施されていたことだった。
溶液だけを使って樹脂の反応を確認
面取り開先を入れた部分にプラリペアを充填して高強度に接着するが、まずは溶液だけ準備して、エンブレムの樹脂(ABS樹脂)表面を溶かして、仮接着から作業を始める。ABS樹脂はプラリベア溶液で溶けるのだ。溶液のビンから小受けして、筆先を使って折れてしまった患部断面に溶液を塗布。一度に流れるほどベットリ塗りつけるのではなく、薄く塗ってから、表面の反応を確認して、再度繰り返し塗るような作業手順が良い。
樹脂粉末をふりかけるだけの「ふりかけ法」
それぞれ両側の割れ部分にプラリペア溶液を塗布すると、樹脂表面がうっすら溶け始めるのがわかる。そのタイミングで患部を突き合わせて接合し、仮接着できるまでの時間は(数十秒程度)、指先で押し付けながら固定維持する。片手で持っても落下しない程度まで接着できたら、カッターで開先を入れた部分にプラリペアの粉を直接的に充填する。表面が平らになる程度で、山盛りにふりかけないで良い。このような作業手順を「ふりかけ法」と呼ぶようだ。
メンテナンスツールになる「綿棒」や「筆」や「爪楊枝」
粉末をカット溝に充填したら、再び筆にプラリペアの溶剤を染み込ませ、筆先を押し付けるように粉末に溶剤を染み込ませていく。筆先で軽くなぞれば、エンブレム裏面と形状合わせができる。溶剤が染み込み乾燥すると接着強度は高まるが、本来プラリペアが持つ強度に達するには一昼夜の時間が必要である。表面の凸凹慣らしは完全硬化後が良い。金属メッキがベースになっているため、アセトンにも負けず作業性は良い。先の細い筆や太さの異なる綿棒を利用して旧ペイントを剥がしつつ拭き取っていく。スムーズにキレイになっていく。三角溝の中や隅っこに溜まったペイントは、アセトンで柔らかくしながら爪楊枝の先端でこじりながら除去していった。ピックアップツールなどの金属道具を利用すると、メッキが剥がれてしまう恐れがあるため良くないそうだ。
作業性の善し悪しで仕上がりが大きく変る
エンブレム単品で作業すると、今ひとつ持ちにくく作業性が良くない、そこで、容器のフタに両面テープを貼り付けて、エンブレムを仮固定しながら、容器を指先で持つ作業方法とした。これがやりやすさ、作業性の良さである。小皿に黒のウレタンペイント、硬化剤、つや消しのフラットベースを適量入れ、筆先でしっかり混ぜてからタッチアップ作業に取り掛かった。この段階までにエンブレムの汚れは隅々までキレイにしておこう。
ウレタンペイントでしっかり確実に筆入れしていく
先細筆の先端に塗料を取り、細かい部分から筆入れしペイント。HONDAのメッキ文字の上にペイントが付着しても気にしなくて良い。文字の間や外周を黒く筆入れしていく。六角バックの上側はそもそも白ペイントだったので、ウレタン白塗料を筆入れしていく。この塗料もはみ出しは気にしないで良い。フラットベース入りの黒は、乾燥するとつや消しの黒になる。クリアブルーのようなので、キャンディブルーを筆入れした。徐々にいい感じの仕上がりになっていく。取り付けるのが楽しみだ。
ハミ出し部分は綿棒で拭き取り除去していく
半乾きになったら綿棒に少量のアセトンを染み込ませ、クロームメッキの枠にハミ出してしまった塗料を拭き取っていく。塗料が伸びてしまったら、乾くのを待ちつつ、もう一度拭き取れば良い。塗料が乾く前だと余計に伸ばして汚してしまうこともある。
新品とは違う雰囲気に仕上がったエンブレム
割れたまま、破壊したままで、諦めてしまえばそれまでだが、このような手順で部品補修することで、ダメだと思っていた部品も復活利用することもできる。樹脂エンブレムが割れたときには、再生にチャレンジしてみよう。
- ポイント1・ 割れた部分の患部は、接着補修する前に、徹底的に洗浄しよう
- ポイント2・ ABS樹脂ならプラリペア溶液で樹脂表面を溶かすことができるので、仮接着の際には溶液塗布で様子見してみよう。
- ポイント3・小分けのウレタン塗料は模型店などで購入することができる。耐候性の高い塗料を利用し化粧直ししよう
原付きモデルにも立派なエンブレムが装着されていた70~80年代モデル。「HONDA」ロゴを配した立体エンブレムも、70年代中頃に販売されていたスーパーカブ用純正部品である。スーパーカブの顔でもあるレッグシールドに取り付けられていたパーツだが、レッグシールドの部分補修および磨きのついでに化粧直ししようと、エンブレムを取り外してみた。すると、クラックが入っていた箇所から2分割になってしまった。
今時、新品部品を購入できるはずもないので、接着修理と同時に化粧直しを、モデルクリエイトマキシにオーダーしてみた。
「これはABS樹脂にメッキを施した部品ですね。電気メッキなら作業性は良いのですが、真空蒸着メッキやスパッタリングメッキの場合は、溶剤に大変弱いので、接着作業の段階から相当に気を使うことになりますよね」とマキシさん。そして、カッターナイフの先を折れた部分に入れてみた。すると、「良かった!!クロームメッキの下に銅メッキの痕跡が見えますので、これは電気メッキに間違いありません。電気メッキは金属なので、アセトンなどの溶剤に強いですから、旧いペイントを剥がすのも楽になります。仮に、蒸着メッキだったとしたら、旧いペイントは剥がさないで、塗り重ねて仕上げるのが無難かも知れませんね。無理すると蒸着メッキの輝きがなくなってしまいますし、表面が溶けて輝きが無くなってしまいますから」。とはモデルクリエイトマキシの板橋さん。
電気メッキだったこともあり、プラリペアを使った接着作業から、旧いペイントの剥離、新ペイントの筆入れ、ハミ出た部分の拭き取りなどなど、すべての作業をスムーズに行うことができた。このようにエンブレムの陰りが気になり始めたら、クリーニング&リフレッシュが可能なので、状況確認してみるのも良いだろう。
取材協力:モデルクリエイトマキシ
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