バイクいじり好きやベテランサンデーメカニックにとっては、もはや「道楽」となりつつあるのが、旧車のレストアである。こんな鉄クズにウン万円!!ならまだ良いが、ここ数年の旧車人気は止まるところを知らず、人気モデルはうなぎ登りが続き、そうではないモデルでも、そこそこの価格が……というのが当たり前の世の中となっている。旧ければすべて良い、というものではなく、レストア作業を楽しむ上で、何よりも大切なのが「欠品部品が無い」もしくは「欠品部品が少ない」ベースモデルを探すことである。結果的に、それが何よりも重要だったと、後々、気がつくはずだ。
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1963年生まれのカワサキ125「B8」というモデル
カワサキの前身と言えば、明石発動機=メイハツ。そのカワサキが大型モデルの雄、メグロを吸収合併したことで、本格的バイクメーカー「カワサキ航空機工業」となったのは1960年代初頭のことだった。そのカワサキ航空機工業体制になり、初の本格市販車として開発販売されたモデルが、カワサキ125「B8」だった。この旧車ブームの中で、カワサキファンに見直されたのか?以前はそれほどでもなかった人気が、今では人気モデルとなりつつある。数年前、フルレストアを楽しもうと何台かのB8ベース車が候補になったそうだが、購入したカワサキB8は、なかでも欠品部品が少なく「長年乗り継がれてきた雰囲気を漂わせた一台だった」のだが……。
ダメになりがちなタンクマークも生きていた
ガソリン給油時、漏らしたり、入れ過ぎたことでガソリンを溢れ流してしまうことがよくあるが、そんなときにプラスチック製タンクバッヂやエンブレムにガソリンが掛かり、隙間へ染み込んでしまう。そんな繰り返しで、バッヂが変形して割れてしまうことが多くある。バイクの顔がタンクなら、その眼とも呼べるタンクバッヂが生き残っているのは、嬉しいことである。大きなダメージが無く、左右ともに生き残っていた。
フルレストアを決意したら資料集めを開始
旧車のレストアを決意したら、当時の雑誌やカタログ、パーツリストにサービスマニュアル、新聞広告や週刊誌のキリヌキなどなど、資料になりそうなものはすべて捨てずにスクラップ収集しておくのが良い。欠品部品があるときなどは、当時の資料画像が決定的な参考になり「似た部品を見つけることができた!!」となることも少なくない。欠品部品の有無は、パーツリストがあれば一目瞭然。緻密なイラストは部品組み立て時にも大変役立つが、モデルによっては、描かれたイラストの入り組みに間違いがあり、困惑することも……。
シリーズモデルがあるのも楽しい
スーパーカブシリーズには様々な派生モデルがあったことで知られている。そのスーパーカブの成功をお手本に、各バイクメーカーでは、ひとつのエンジンとひとつのフレームをベースにした「シリーズモデル」の開発販売を積極的に行った。カワサキB8も同様で、オリジナルのB8は実用モデルとして販売し、ツーリングモデルとしてB8Tツーリングが後に登場。さらにB8をベースにモトクロッサーを開発。命名されたB8Mは、カワサキ初の市販モトクロッサーで、ワークスチームは全日本モトクロスで数多くの表彰台を獲得。デビューレースでは上位独占といった偉業を成し遂げた歴史もある。ツーリングモデルが登場する前には、B8のオプションでダブルシートが発売され、ツーリングユースもできるのだとユーザーに意識させた。
新品中古を問わず集めたいのがスペアパーツ
今も昔も部品交換会の場は、部品集めには欠かせない集いである。ネットオークションは確かに便利だが、人気モデル用部品は高値取引になりがち。旧車レストアで鬼門となるのがゴムやラバー部品だが、劣化しやすく割れやすいプラスチック部品も見つけ出すのは大変だ。ベースモデルの程度が良く、欠品部品が無ければ申し分ないが、思いも寄らなかった落とし穴が、後々待ち受けているケースも決して少なくはない。
シリンダーとピストンリングのサビ固着!!
長年に渡る放置期間に、シリンダー内に水分が入ったり結露を起こした、などなどで、ピストンリングとシリンダーがサビで固着してしまう例は数多い。単気筒ならまだしも、マルチシリンダーとなると最悪だ。シリンダーヘッドを取り外し、クランキングしようとクランクを回そうと思ったが、ビクともしなかった。そこで、シリンダー内に防錆浸透スプレーを大量に吹き付けてみた。ピストントップ位置が上死点と排気ポートの間にあったので、防錆浸透オイルを溜めることができた。これでしばらく待つことに……。
ジャッキで押込んでみたものの……
ピストン固着でまったく動かないので、メインフレームに木っ端を噛ませてウケにして、ピストン径よりも少しだけ小さなパイプを中央にセット。パンタグラフジャッキで押し込んでみた。しかし、相変わらずビクともしない……。そこで、ハンディヒーターを使い、シリンダー外周を徹底的に温め、防錆浸透オイルがより深く染み込むようにしてみたがダメ……。
クランクの動きは確認できたが……
防錆浸透スプレーを吹き付け、さらにヒーターで温め、パンタジャッキでグイグイ押込んでは……を繰り返したが、まったくピストンは動かない。そこで大きな木ハンマーで鋳鉄シリンダーサイドを挟むように叩くと、ベースパッキンが剥がれ、ピストンが固着したままのシリンダーが、上下へ動くようになった。つまりクランクシャフトはサビついていなかた。しかしサビ付いたピストンが外れずだった。
- ポイント1・ 旧車のレストア時には欠品部品が少ないベース車両で始めよう
- ポイント2・そのモデルに関係する資料は、どんなものでも集めておくことで、答えを見つけやすくなる
- ポイント3・部品の分解時には、できる限り現状部品を破壊しないように分解したいが、一筋縄ではいかないことが多い
どんなにコンディションが悪くても、欠品部品無しが「レストアベース」としては何よりも良い、というのが、フルレストア経験があるサンデーメカニックの合い言葉。御理解頂けると思うが、部品がないのは、本当に困る。人気モデルならまだしも、現存台数が少ないモデルの場合は、尚更だろう。現物部品が無くても、見ることができたり、借用することさえできれば、それに似た部品を創造することはできるし、本物の部品が見つかるまでは、似たような部品で何とか我慢することもできる。まったく同じ機能の部品なのに、デザインだけが違っている、といった部品は、意外と数多くあるものだ。
ここではすでにフルレストアを終え、完成しているカワサキ125B8のレストア前をご覧頂いているが、見ての通り欠品部品が少ないため、レストア作業に当たっては、部品の有無で困るケースは少なかった(10年近く前に作業開始)。しかし、ご覧の通りエンジンに問題があった。基本的には程度が良いエンジンだったが、唯一の大問題が、ピストンリングと鋳鉄シリンダーの「サビによる一体化=固着」だった。
様々な作戦を駆使したが、この固着ピストンだけは分離することができず、結局は、降ろしたエンジンのピストン部分を何度も叩いたことでピストンに亀裂が入り、上下に割れたことで、シリンダーをクランクケースから抜き取ることができた。しかしながら、サビによる固着は強烈そのもの。ピストンリングを境にピストンが上下に割れたが、その後でも鋳鉄シリンダーとピストンリングの固着は酷く、なかなか分離することはできなかった。最終的にはタガネでハツってたたき落とし、シリンダー壁に残留していたピストンリングの一部は、リューターで削り落とした。
サビによる固着は酷かったが、1ミリオーバーサイズに拡大することで、固着のサビ痕は消すことができた。カワサキB8は、コンロッドのスモールエンドが砲金ブッシュ仕様。後継モデルのB1はベアリング仕様だった。そのコンロッドを比較すると、スモールエンド以外の基本寸法はB8もB1も同一。つまり、ピストンピン径が異なっていたが、B8ピストンのピン径をΦ15mmmからΦ16mmへ変更できれば、ベアリング入りコンロッドを利用することができると判断。そこで、ピストンピンの穴加工とクランクシャフトのコンロッド組み替えをiB井上ボーリングへ依頼し、めでたくB8エンジンが復活できることになったのだった。
フルレストアの完了から5年が経過しているが、カワサキB8は素晴らしいコンディションを維持し、マシンオーナーに愛されている。
技術協力:iB井上ボーリング
フルレストア完成後のカワサキ125 B8 1963年モデル
マシンオーナーの父親が、当時所有していたのがカワサキ125B8だった。当時のカワサキ東北販売は、福島県限定車としてマスカットを模した「フルーツカラー仕様」を販売。当時、父親が所有していた限定カラーの「B8フルーツカラー(当時はそう呼ばれた)」を再現しようと始まったのが、このフルレストアプロジェクトだった。まさにフルーツカラー仕様、言い換えれば、カワサキグリーンの始まりは、福島県限定モデルの125B8に始まったとも言える!?
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