
フロントフォークのオイルシールがダメになった……。インナーチューブにオイルの首輪滲みを発見!!そんなときに愛車家サンデーメカニックなら、早速、オイルシールの交換段取りに入ることだろう。まずは交換部品の手配と特殊工具の必要性を確認。そして、作業に取り掛かるのだが、ここでは、フロントフォークのオーバーホールを前提にした、部品の分解手順やそのやり方、作業の進め方をリポートしよう。
目次
メーカー在庫に交換部品がなくなりつつある時代
高年式モデルならフロントフォークのオイルシールやダストシール、ガスケットワッシャなどなどの純正部品は、通常オーダーで購入できる。しかし、旧車や絶版車の場合は、メーカー販売中止や「ゴソウダン」といった例も少なくない。そんなときでも、何とかメンテナンスできる手段=引き出しを持っているのが、ベテランサンデーメカニックだろう。サードパーティ、いわゆる社外パーツやスペシャルパーツで対応できるケースも多々あるので、交換部品がみつからないときには、純正部品ばかりにこだわらず、ベテランサンメカに相談してみよう。
フロントフォーク抜き取り前段取りのボルト緩め
フロントフォークを分解しないとオイルシール類は交換できない。分解時にはフロントフォークを単品にしなくてはいけないが、いきなり車体からフロントフォークASSYを抜き取るのではなく、事前段取りとして、最初にインナーチューブの「トップキャップを緩めておく」と良い。フロントフォークを抜き取ってしまうと、このトップボルトは、逆に緩めにくくなってしまう厄介な部品なのだ。
トップボルト→インナーチューブの順で緩める
トップボルトを緩めたら(取り外さないでトルクを抜く程度)、フロントホイールを取り外す前に、インナーチューブクランプの締め付けトルクも抜いておこう。緩め過ぎるとフロントフォークが簡単に抜けてしまうので要注意。クランプを緩めたら、ブレーキキャリパー締め付けボルトも緩めて、フロントスタンドで前輪を持ち上げる。そして、フロントホイール、フロントフェンダーを取り外してからフロントフォークを抜き取ろう。オイルシールが不良になると、オイルの首輪や汚れの首輪を目視確認できる。
分解作業には万力を使うのがベスト
フロントフォークを抜き取ったら、分解する前にボトムケースを万力で固定し安定作業を確保。次に、トップキャップを緩める前に、ボトムケースの底から真上へ締め付けているインナーパイプ(シートパイプ/ダンパーロッド)締め付けボルトを緩めよう。インナースプリングの張力を利用することで、ボトムボルトが緩みやすくなるのだ。滑ってシートパイプが空回りして緩まないときには、インパクトレンチで一気に緩めるのが手っ取り早い。
ここでトップボルトを外してフォークオイルを抜く
上下から締め付けているボルトを緩めることができたら、トップボルトを外して、カラーやスプリングなどのパーツを「ゆっくり」抜き取る。一気に引き抜くとオイルを周囲にまき散らして作業環境を汚してしまうからだ。インナーパーツを抜き取ってから、フォークオイルを抜き取ろう。前回の交換タイミングから時間が経過していないようで、フォークオイルには、透明度や色が残っていることを確認できた。
ボトムボルトを抜き取ればインナーチューブはスポッ!!
オイルシールの抜け止めクリップを取り外し、ボトムボルトを抜き取ったら、ボトムケースを万力にクランプしたままでインナーチューブを抜き取る。この際には、オイルシール周辺をウエスで巻いてしっかり押えてから、インナーチューブをスポッ、スポッと強くスライドさせながらボトムケースから抜き取ろう。
インナーチューブにサビ発見!!
インナーチューブとオイルシールの摺動箇所に点サビは一切無かった。しかし、三つ叉のクランプ部分にサビが出ていたので、2000番の耐水ペーパーをフォークオイルに浸して擦り、サビ除去した。
オイルシールは差し込み時に要注意!!
オイルシールリップは僅かでも切れてしまうとオイル滲みや漏れの原因になる。オイルシールをインナーチューブへ差込む際は、金属とゴム部品の作動性を高めるラバーグリスを利用し、インナーチューブの端末でリップを切らないように、チューブ末端にビニール袋の切れ端を被せてオイルシールを差込むと良い。オイルシールを差込んだら、シール外周にもグリスを薄く塗り伸ばそう。これはボトムケースへの打ち込みをスムーズに行うためだ。
シートパイプの締め付けはフルボトムで回しながら
インナーチューブ内側に差込んであるシートパイプ(ダンパーパイプ)をインナーチューブ下端から突き出し、そこにオイルロックピースをセットする。この部品外周の偏摩耗が激しいときは、新品部品に交換しよう。過去に組み立てられたときに、この部品のセンターリングをしっかり行っていなかった証拠でもある。もしくは、インナーチューブの曲がりが原因で、ロックピース外周が偏摩耗してしうケースもある。シートパイプの締め付けボルトには銅製ガスケットワッシャが入るので、新品部品に交換しよう。
シートパイプ締付け時は「フルボトム」で
組み立て段取りができたらボトムケースにインナーチューブを差込む。ボトムケースの底からシートパイプ締め付けボルトを差込んだら、インナーチューブをフルボトムにした状態で、シートパイプをボトムケースへ押し付け(柄の長いTレンチがあると便利だが、無いときにはインナースプリングやカラーでシートパイプを押し付けると良い)、インナーチューブを回転させながらオイルロックピースをセンターリング。この状態でボトムボルトを締め付ける。締め付け完了後、インナーチューブをフルボトムさせてクルクルっとスムーズに回転すれば、セットアップ完了である。
使いやすい!!DRC製オイルシールドライバ
インナーチューブ外径に合致した樹脂ピースをウエイトにセット。インナーチューブを挟むように組み合わせたら、ウエイトをスライドさせて、スコッ、スコッとオイルシール上面を叩く。このような作業手順でオイルシールをボトムケースへ打ち込もう。
フォークオイルはこぼさないように注入
今回は手持ちのフォークオイル10番を規定量注入したが、フォークオイルの量はモデルによって異なるため、それぞれのモデル用サービスマニュアルで注入データを確認しよう。注入量ならメスシリンダーで容量チェック。注入「油面の高さ」で調整する場合は、フルボトムでオイル注入し、油面からインナーチューブのエッジまでの距離を「油面高さ」として測定する。油面高さを一度合せてから、インナーチューブを上下に作動させ、フォークオイルがこぼれないように注意しながらインナーチューブを何度もストロークさせる。その後、再度油面高さを確認(巻き尺や真っ直ぐな棒を利用)し、オイル量を過不足無く調整してからトップキャップを締め付ける。
- ポイント1・タイムリーな作業実践には、事前に道具や工具や特殊工具の準備と交換部品の用意が必須
- ポイント2・フロントフォークを抜き取る前に分解箇所のボルトはすべて「緩める」。取り外しではなく、あくまで「緩め」
- ポイント3・ インナーチューブの見えない部分にサビを見つけたら耐水ペーパーで除去しよう
- ポイント4・オイルシールリップを痛めないように組み付け時には最善策をとる。シートパイプ締付け時はオイルロックピースをセンターリング
フロントフォークのオイルシールがダメージを受けると、当所はオイル滲み程度だが、後々は「完全なオイル漏れ」に至り、それを放置すると、走行中の作動毎に、フォークオイルがジャブジャブ、ジャブジャブと流れ出てくるようになってしまう。オイル滲みから、オイル漏れへと移行したら、即刻「オイルシール交換」しなくてはいけない。漏れたフォークオイルがブレーキローターに付着したり、ブレーキキャリパーに付着したことが原因で、ブレーキ機能が「まったく効かなくなった!!」といったトラブルは、決して少なくない。また、タイヤに付着してしまうと転倒の原因にもなる。特に、前輪の滑りは危険だ。そんな意味でも、フロントフォークオイルの滲みに気がついたら、できる限り早くに、フロントフォークシール交換を実践しよう。
フロントフォークの分解作業時には、よくやりがちな「失敗手順」がある。オイルシール交換に気を取られてしまい、前輪、フロントフェンダーを取り外し、フロントフォークをいきなり抜き取ってしまう……。これが大失敗なのだ。フロントフォークを分解するには、各種ボルトをあらかじめ「緩めなくてはいけない」。何故なら、フロントフォークASSYを単品部品にしてしまうと、トップボルトひとつでも緩めにくくなってしまうからだ。
ここでは、フロントフォークASSYを車体から取り外した後に、ボトムボルトを緩めたが、このボルトが空回りして緩まない、緩みにくいケースも多々ある。そんなことを想定して、インチューブが三つ叉にクランプされた状況時。より具体的には、フロントアクスルシャフトを抜き取り、前輪を取り外したら、その段階でボトムケースの底から締め付けてある「シートパイプ締め付けボルトを緩める」のが良い。この段階では、インナーチューブ内のスプリングが突っ張っているため、シートパイプ締め付けボルトをスムーズに緩められることが多いのだ。それでもボルトが空回りしてしまう際には、ロングTレンチの先にホルダーツールを取り付けて押し付け、インパクトレンチで緩めれば、容易に取り外すことができる。
しかし、誰もがエアーツールやコンプレッサーを所有しているとは限らないので、フロントフォークの分解時は、あらかじめ「面倒な作業箇所を想定」しながら作業進行することで、スムーズにオイルシール交換できるようになる。また、作業台や万力があると、圧倒的に質が高く他人に見せることができるメンテナンスを進行できるようになる。是非、環境整備も考えながら、バイクいじりをお試し頂きたい。
この記事にいいねする