
今から20年ほど前の2000年前後に各メーカーの新車製造が終了して以降も、人気が衰えることのない2ストロークスポーツモデル。4ストでは体感できない独特のフィーリングは年式が古くなっても魅力的ですが、気持ちよく楽しむには基本的なメンテナンスは不可欠。スロットルを開けた時にエンジン回転がスムーズに上がらないなどの不調があるときは、キャブレターのコンディションを確認してみましょう。
街中のキャブレターは全開よりも全閉の方がむしろ重要?
1987年式スズキRG250ガンマのVM28キャブレター。スロットルグリップで1本のケーブルは途中で2分割され(正確には3分割され1本はオイルポンプの開度を調整)、それぞれのスロットルバルブにつながっている。ケーブルはジョイント部分で少しずつ遊びが生じるので、キャブのトップカバー部分のアジャスターで調整する必要がある。
バタフライバルブと負圧ピストンが必要な負圧式キャブに対して、四角いスロットルバルブひとつで吸入空気を増減するピストンバルブ式キャブは全長が短くレスポンスが良いのが特長。ただしエンジンが発生する負圧とスロットルバルブの開度をライダーが合わせる必要がある。キャブボディの両外側にあるトップカバーの上に、アジャスターとロックナットがある。
スロットルを開けていくとある領域からググ~ッとパワーが盛り上がるのが2ストロークエンジンの魅力です。1970年代ならカワサキトリプルシリーズ、1980年代初めならヤマハRZ250/350、そして1980年代半ばから始まるレーサーレプリカブーム世代ならホンダNSR250RやヤマハTZR250など年代によって2ストロークスポーツのイメージは様々ですが、アフターマーケット製のチャンバーに交換していれば、パワーバンドに入った途端に排気音が甲高く変化し、車体が軽くなったかのようにカッ飛ぶさまに取り付かれている2ストファンは少なくありません。
同じ2ストでも小排気量車は低速からのトルクの強さが自慢ですが、スポーツバイクは中速からの吹き上がりの良さが最大の魅力。チューニングの方向もビッグキャブとチャンバーの組み合わせで高回転重視になることも多いようです。しかしあくまで街乗り中心であれば、高回転での爽快さもさることながら低中速域の扱いやすさも必要です。ローギアでスタートする際に長く半クラッチを必要とするのも2ストらしさと言えばそうですが、一般的な街乗りセッティングの範囲ならスロットル開度が小さい領域で有効なトルクが得られないというのは使い勝手の点から見ても問題です。
2気筒以上の2ストにとって、スロットル全閉時から僅かに開けた領域でのエンジンの「つき」はキャブレターのセッティングに負うところが大きいです。2ストエンジンに装着されるキャブはスロットルケーブルで直接開閉するピストンバルブ式が多く、これはエンジンが発生する負圧に応じてバキュームピストンと吸入する空気の量を調整するバタフライバルブが別々に動く負圧キャブはに比べて低開度でのレスポンスがシビアになりがちな特性があります。
本領を発揮するのはスロットル開度1/2以上の高回転領域だったとしても、正面の信号が赤だったら停止しなくてはなりません。またサーキットのようにラップタイムや順位を争うわけではない公道では、渋滞や低速でのノロノロ運転も当たり前のようあります。そんな時にスロットル全閉から僅かに開いたあたりのフィーリングが悪ければ、結果としてクラッチミートに気を遣い、ストレスが溜まってガバ開けになりがちです。パワーバンドでドカンと来る感じが魅力だったとしても、低速での不調に目をつぶってしまっては、せっかくの2ストマシンがもったいないことになります。
- ポイント1・スロットル全開で調子が良く、低開度で低回転でツキが良くない2ストロークエンジンはキャブの同調を疑う
- ポイント2・4ストに多い負圧式キャブより、2ストに多いピストンバルブキャブの方が低開度でシビアに反応する
2スト、4ストを問わずキャブの基本は油面確認と調整
すべてのキャブレターにとって絶対的な基準となるのがフロートレベル。このガンマ用のVM28は、キャブボディとフロート下部までの基準寸法は23.5mm。フロートを押し上げるとフロートバルブ中心のプランジャーが押し縮められるが、フロートアームのベロとプランジャーが接した時点で測定する。
中古車として流通するバイクもフューエルインジェクション車の割合が増加することで、今後は絶対数として減少して行くであろうキャブレター、中でも2スト車のキャブはもっと少数派となることでしょう。それでも愛着を持って所有するなら、キャブの基本的な仕組みと街中走行で有効なメンテナンスを知っておきたいものです。
前段でスロットル全閉から開け始めのシビアさについて触れましたが、ピストンバルブ式キャブはエンジンが発生する負圧の大きさにかかわらずスロットルバルブを開閉するのが特徴です。キャブレターまつわる記事で何度も取り上げてきましたが、キャブに加わる負圧が最も大きくなるのはスロットル全閉時です。ここからスロットルを僅かに開き、スロットルバルブとベンチュリーの底に小さな隙間ができると、エンジンはそこから思い切り空気を吸い込もうとして大きな負圧が発生します。
ここで混合気に大きな影響を与えるのがフロートチャンバー内の油面です。規定値に対して油面が高い=油面がベンチュリーの底に近い状態だと、負圧が小さくても容易に吸い出されます。一方油面が低いとベンチュリーのそこから油面までの距離が離れるため、ガソリンを吸い出すために大きな負圧が必要になります。
2気筒で考えると、スロットルを開けた際に発生する負圧が同じ大きさだとすれば、油面が高ければ濃く、低ければ薄くなります。その差はアイドリング状態から全開まで全域に影響を与えます。油面が下がってフロートバルブが開いているときは消費量に応じてフロートチャンバー内にガソリンが流れ込みますが、バルブが閉じたときには油面の高さが混合気の濃さ=燃調に直結するためです。
油面の高さにばらつきがあると、信号待ちからスタートする際に一方のキャブは濃いめで出だしのパンチ感があるのに、もう一方は薄くてスカスカで、結果としてパワー不足につながる可能性があります。また油面によって混合気の濃さが変わると、スパークプラグの焼け方が揃わなくなる可能性もあります。中間から全開領域の焼け具合は中心電極やガイシに現れますが、低開度から中間領域のセッティングは外側で見ます。油面が高いと低開度で濃くなり外側部分がくすぶり気味になりますが、これをパイロットジェットが濃いと判断して絞ると今度は低速で薄くチグハグな状態になりかねません。
スロー系のセッティングはスロットルの開け始めで効いてくるので、街乗りでは特に重要ですが、ジェットの交換の前にまずはフロート油面が規定値通りになっているか、2気筒であれば2個のフロート高さが揃えることが重要です。
- ポイント1・2スト用のピストンバルブキャブは、エンジンが発生する負圧の大きさにかかわらずライダーが任意にスロットルバルブを開閉できる
- ポイント2・フロートチャンバー内の油面によって混合気の濃さが変化するので、油面が不揃いだとエンジンコンディションに影響する
スロットルケーブルのわずかな遊びが開け始めのバラツキの原因になることも
スロットルバルブとベンチュリーの隙間に同サイズのドリルを挟み込み、スロットルを開いたときに同じタイミングで刃が傾けば、スロットルバルブの動きが揃っていると判断できる。同調が合っていない場合、ケーブルの遊びが多い方が刃が傾くのが遅れるので、ケーブルが引き気味になるようアジャスターで調整する。
エンジンを始動して僅かにスロットルを開けた際に、排気音がばらつかずスムーズに回転上昇すれば同調が合っていると判断できる。スロットルを大きく開けてしまうと多少ずれていても判断できなくなってしまうので、開度の小さい領域でチェックを行う。
フロート高さと同様にスロー系のメンテナンスで重要なのが、スロットルケーブルの調整です。4スト用の負圧キャブの場合、2気筒でも4気筒でもバタフライバルブは機械的なリレーアームで連結され、1本のスロットルケーブルで各キャブのバタフライが連動します。これに対してピストンバルブ式で2気筒用キャブの場合、各キャブのスロットルバルブを2本のスロットルケーブルで操作する機種が少なくありません。
先にも触れましたが、エンジンが最も大きな負圧を発生するのはアイドリング時で、そこからスロットルを僅かに開くと空気が一気に吸い込まれます。アイドリング時のエンジン回転数はスロットルストップスクリューで機械的に決まりますが、そこからスロットルを開いた際にピストンの動きが同調するか否かは2本のスロットルケーブルがシンクロするかどうかで決まります。
スロットルケーブルがキャブレターのトップカバーにセットされる際、そこには高さ調整が可能なアジャスターとロックナットがついており、このアジャスターによってケーブルとスロットルバルブの遊びが変えられます。遊びを小さくすればスロットル操作に対してスロットルバルブが遅れることなく開き、遊びが大きいとスロットルを開けからピストンが動き出すまでに遅れが発生します。
この動き出しのズレは、スロットルストップスクリューの位置とは無関係なのがやっかいなところです。つまり、スロットル全閉時のアイドリング回転数はスロットルストップスクリューによって揃っていても、いざスロットルを開けた際にはケーブルの遊びの差だけ、スロットルバルブの動き出しに差が生じる可能性があるということです。スロットル開度が大きくなるとベンチュリーの開口面積が増えるため、スロットルバルブの僅かな高さ違いの影響度は小さくなりますが、吸入負圧が最大となるアイドリングからチョイ開け領域での同調ズレはエンジンフィーリングに大きな影響を与えます。
4スト用キャブの同調はインテークマニホールド負圧を基準に調整しますが、2スト用では負圧ではなくスロットルバルブの動きそのもので調整し、具体的にはスロットルバルブとベンチュリーの隙間に同じ太さのアルミ棒やドリルの刃などを挟み、スロットルバルブを開けた際に同じタイミングで棒が傾くかどうかを確認します。もし一方が他方に比べて傾くのが遅い=スロットルバルブの動き始めが遅い場合は、そちらのキャブのスロットルケーブルの遊びが大きいと判断できるので、ケーブルホルダーの高さで遊びを詰めて、棒の動きを揃えます。
スロー系の調整が決まることで乗りやすさは大きく向上します。荒々しさが影を潜めて物足りないと感じることがあるかもしれませんが、キャブレターやエンジン的には同調を合わせるのがメンテナンスの基本なので、低開度はいまいちだけどスロットルを開ければ強烈なのが2ストらしさだと思っているライダーは確認してみることをお勧めします。
- ポイント1・スロットルストップスクリューによるアイドリング回転数調整とスロットルケーブルによる同調調整は別物
- ポイント2・スロットルケーブル調整によりスロットルバルブがシンクロすると、低回転からの吹き上がりがスムーズになる
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