スマホを充電するためのUSB電源を取り付ける際には、車体のハーネスから電源を取り出す必要があります。いくつかの手段がありますが、仕上がりのスマートさと確実性でいえばスプライス端子が一番といっても過言ではありません。車と違ってスペースに限りがあるバイクでは、分岐部分がかさばらないのも大きな魅力です。
常時電源はバッテリー端子から、キー連動電源は配線から分岐する
キーOFFでも作動するバッテリー直結ではなく、追加する電装品をキーONの時だけ作動させるには、サーキットテスターを活用してキーONで12Vが流れる配線を探す。この時、必ずキーのON/OFFを繰り返してテスターの表示が0Vと12Vで切り替わることを確認する。キーONで12Vを表示したことだけを確認して配線を分岐したら、後から常時12Vが流れている配線だったことに気づくということもあるからだ。
原付からビッグバイクまで排気量やカテゴリーを問わず、もはや必須アイテムとなっているのがスマホホルダーとUSB電源です。特にUSB電源に関しては、ツーリングでモバイルバッテリーを持っていなくてもスマホの充電が走行中にできるので、ある種お守りのような存在になっています。旧車やスーパースポーツのハンドル周りにスマホを取り付けるのはスタイル的にどうなのか?という疑問もありますが、利便性の良さにはかないません。知った道を走る際にもマップを起動しておかないと不安というライダーも少なくないようです。
今ではUSB電源を標準装備するバイクもありますが、大半のユーザーが後付けで取り付ける現状では、電源をどこから取り出すのかが課題となります。一番簡単なのは、USB電源の付属配線をバッテリーの端子にダイレクトに接続する方法です。原付クラスのスクーターやヤマハSR400などに使われている、ロック付きカプラーは直接割り込ませるのが難しいですが、ターミナルボルトでケーブルを固定するバッテリーならUSB電源配線の端子を共締めするだけで使用できます。
ただしこの場合、走行中でも駐車中でもいつでも電気を供給できるため、場合によってはバッテリー上がりを引き起こす可能性があります。スマホの充電など大したことはないと甘く見ている人もいるかもしれませんが、機種によっては充電電流が2Aということもあります。単純計算で12Vバッテリーで2Aの電流が流れると消費電力は24Wになります。60/55WのH4バルブのハロゲンヘッドライトの約半分で、ブレーキランプに多い27Wバルブが常時点灯しているイメージです。最近のバイクの灯火類は消費電力の少ないLED化が進んでいるので、常時2Aが流れるのは大きな消費になるかもしれません。
そんな不用意なバッテリー上がりを防ぐために有効なのが、イグニッションキーに連動してONの時にだけ電気が流れる配線から分岐する方法です。バイクのイグニッションキーはOFF/ONの2ポジションなのに対して、自動車のキーはOFF/ACC/ONの3ポジションで、オーディオやウインカーなどはACC=アクセサリーの位置で作動することから、ここで分岐して取り出す電気をアクセサリー電源と呼ぶことが一般的になっています。ただ、インテリジェントキーが普及した現在では、ACCの概念も昔とは変わっていますが。
ともあれ、バッテリー直接接続ではなく、イグニッションキー連動で通電する回路から電源を取り出すことで、停車時にUSB電源に充電ケーブルを差し込んでもスマホに電気が流れなくなるので、バッテリー上がりを防止できます。
ただしキーONで電気が流れるようにするには、どの部分から、どんな色の配線から分岐すれば良いのかを知らなくてはなりません。この配線色はバイクメーカーによって異なり、さらにメーカーでも年式によって異なる場合もあるので、サービスマニュアルなどで確認する必要があります。電気回路で判断するなら、ウインカーリレーやブレーキスイッチのプラス側(電源側)はアクセサリー電源になります。
- ポイント1・電気アクセサリー取付の電源供給で簡単なのはバッテリー直結だが、キーOFFでも通電するためバッテリー上がりのリスクがある
- ポイント2・キーONで通電するアクセサリー電源の取り出しは、機種ごとに異なる配線色の見極めが必要
お手軽なエレクトロタップ、定番のギボシ端子、スプライス端子の特長は?
分岐元となる配線は被覆の端部ではなく途中を剥いて使用することが多い。端部であればニッパーのストリッパーやカッターナイフでも剥くのは容易だが、途中を部分的に剥く際には芯線を傷つけるリスクがある。中途半端に傷つけてしまうようなら、一度完全に切断して両端の被覆を剥き、新たに分着させる配線と合わせて3本としてかしめる方法もある。ただしこの方法では元の配線が若干短くなり、余裕がないと突っ張りすぎてしまう可能性もあるので要注意。
ワイヤーストリッパーにはいくつかの形状と種類があるが、2組のツメが外向きに広がるこのタイプは、配線端部だけでなく中間部分の被覆を剥くことができる。剥いた部分は切り取るのではなく、両側に押して隙間を作っている。
USB電源などの配線を車体側のどこから取り出すかについては別項で取り上げるとして、ここでは具体的な分岐手段の種類と特長を説明します。
もっとも簡単なのはエレクトロタップです。溝が切られた金属板を配線に押しつけて、配線の被覆を切開して芯線に触れることで電気が流れる仕組みで、プライヤーひとつで取り付けできるのが特長です。本体は樹脂製なので接続と同時に絶縁もできます。ただしエレクトロタップはそれ自体にある程度の大きさがあるため、配線の束に取り付ける際にはボリューム感が邪魔になることがあります。また取り付ける配線の太さに応じて適切なサイズを選択することが必要です。エレクトロタップのサイズとは、具体的には配線の被覆に切れ込みを入れる金属板の溝の幅の違いで、太い配線に狭い溝のタップを取り付けると被覆だけでなく芯線を切断するリスクがあります。逆に細い配線に溝の幅が広いタップを取り付けると、充分に被覆を切開できず接触不良を引き起こす場合があります。簡単に取り付けできるのが特長ですが、こうした注意も必要です。
ギボシ端子は定番です。元の配線を一度切断して、電源側に二叉のメスギボシを取り付け、元々の負荷側の配線と新たに取り付ける電装品にオスギボシを取り付けて接続します。抜き差しできるギボシを使うことで、取り付けた電装品が不要になった場合でも簡単に配線を取り外すことができます。しかしギボシ端子と絶縁用のスリーブが付くことで配線がかさばることは避けられません。ヘッドライトケース内やフレームのヘッドパイプ周辺など、ただでさえ配線が混み合った部分でギボシ端子を追加すると、それだけで元の部品を復元するのに苦労する場合もあります。また、ギボシ端子を組み付けるには専用の圧着工具が必要になります。
エレクトロタップやギボシ端子に対して、圧倒的省スペースで分岐できるのがスプライス端子です。配線分岐端子とも呼ばれるこれはギボシ端子のかしめ部分だけのような、アルファベットのU字型の金具で、被覆を剥いて芯線を露出させた配線を繋いだ部分をピンポイントでかしめます。端子の全長は10mm前後ととても小さいので、エレクトロタップやギボシ端子のようにかさばることもなく、配線の一部がポッコリと出っ張ることなくスマートに分岐できるのが特長です。
芯線がU字の溝に収まればかしめることができるので、太い配線から細い配線を分岐するのも簡単ですし、1本の配線から2本を分岐して取り出してかしめることもできるのが、エレクトロタップやギボシ端子との違いです。バイクの純正ハーネスでも、1本のアース線を一カ所で何本にも分岐する際にスプライス端子を使っています。
弱点としては、プライヤーでツメをロックするエレクトロタップは精密ドライバーでロックを外すことができ、抜き差しできるギボシ端子に対して、スプライス端子で分岐した配線は不要になった際に切断するしかないということぐらいです。
- ポイント1・電源を分岐する際に使用するエレクトロタップ、ギボシ端子、スプライス端子には、それぞれ特長や弱点がある
- ポイント2・スプライス端子は分岐部分がスリムで、太さが異なる配線や複数の配線を分岐することも可能
圧着工具と熱収縮チューブがあれば完璧な仕上がりに
スプライス端子はギボシ端子後部のかしめ部分だけを使うようなイメージ。U字部分のサイズは配線の太さによっていくつか用意されている。電気系のカスタムで重宝するのはもちろんだが、劣化した配線を部分的に補修する際にも便利に使える。
中間部分の被覆を剥いた配線に追加する配線を並べて、スプライス端子で一体化する。元の配線に巻き付けたり、ハンダづけした上でかしめる方法もあるが、接続部分に端子の両端が食い込めるよう、極端な団子状にしないことが重要。
かしめ用の圧着工具を使うことでU字金具の両端が芯線にしっかり食い込む。ハンダづけする際はこの食い込みを邪魔しない程度にすると良い。追加した配線の芯線がスプライス端子からはみ出した画像の状態だと、端部が熱収縮チューブやハーネステープから飛び出してフレームに接触してショートする危険性があるので、端子の幅に収まるよう切断処理をしておくと良い。
スプライス端子で配線を分岐する場合、電源を取り出す側の配線の被覆を剥かなくてはなりません。配線の端部の被覆を剥く際はニッパーやカッターナイフでもできますが、配線の途中の被覆を剥くには工夫が必要です。被覆を剥がす幅の両端にカッターナイフで切れ目を入れておいて、その部分に縦に刃を入れて切開して取り除くという方法もありますが、ワイヤーストリッパーという工具を使えば、被覆の途中でも任意の幅に剥くことができます。
端子の長さに応じて適切な幅だけ被覆を剥いたら、新たに追加する配線を重ねて端子をかしめます。この時、追加する配線を元の配線に巻き付けたり、ハンダ付けすることで分岐部分が外れにくくなります。ただしハンダを過剰に盛りすぎると、端子のかしめ部分がしっかり食い込めなくなり、わざわざスプライス端子を使う意味が薄れてしまうので注意しましょう。またギボシ端子も同様ですが、かしめ部分は平らに潰すだけでなく、端子の両端が巻き込み配線に食い込むことでしっかり固定されるので、かしめ端子専用の圧着工具を使って作業することも重要です。
スプライス端子にはエレクトロタップやギボシ端子のスリーブのようにかさばる要素がありませんが、金属部分が露出するため絶縁処理が必要です。一から配線を製作する場合は、ドライヤーやライターの熱でギュッと締まる収縮チューブで端子部分をカバーすれば、見栄えも絶縁性能も完璧です。しかし取り出し側の配線にすでにカプラーや配線の束があり、熱収縮チューブが通せない場合はハーネステープを巻き付けて絶縁します。
一般的なビニールテープの中には時間経過とともに接着成分が弱まり、巻いた部分が解れてしまうものもあります。特に巻く相手が細い配線の場合に緩む可能性があります。これに対してハーネステープは張力を掛けながら巻き付けることで、細い配線にもしっかり張りつきます。
電装品を追加する際の電源供給にはいくつかの方法がありますが、むやみにかさばらず接触不良も起こしづらいスプライス端子は、スマートな配線処理を行う際に活用したいアイテムです。
メインの配線の端部から熱収縮チューブが通せるなら、スプライス端子部分にかぶせてヒーターであぶるのが確実。カプラーに差し込まれている場合でも、該当する配線だけ引き抜いて絶縁処理を行い、再びカプラーに戻すという手もある。
熱収縮チューブで絶縁すれば分岐部分はかさばらずスマートに仕上げることができる。エレクトロタップやギボシ端子にも共通する事項だが、分岐する配線の方向をあらかじめ確認してから作業する。この画像の場合、分岐する配線が右上から左下に向かうのなら無理はないが、分岐した配線が右上に向かうのなら初めから右上に分岐させるべきだ。一旦左下に分岐したのにすぐにUターンして左上に向かうような配線をしている例が意外に多い。
- ポイント1・配線途中の被覆を剥くにはワイヤーストリッパーがあると便利
- ポイント2・圧着工具で端子をかしめたら確実な絶縁処理を行う
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