
珍しいバイクに出会うと「どこを修理すれば乗れるようになるかな?」と考えるのがいじり好きの性分です。タイヤやチェーンなどの消耗品はさておき、まず確認すべきはエンジンが生きているかどうか。しかし焦ってキックペダルを踏んだりセルモーターを回してはいけません。エンジン内部の潤滑状態もさることながら、空気の入り口=エアクリーナーに重大な罠が潜んでいる可能性もあるからです。
はじめからエンジンロックしているバイクは避けたい
10年以上倉庫で保管されていた長期不動車の例。オイルを吸いこんだスポンジタイプのエアクリーナーエレメントは完全に崩壊しており、吸気を濾過できないのはもちろんだが、ここまで劣化するとエンジンに吸い込まれるスポンジの破片を心配しなくてはならない。原付スクーターに多いシート状のスポンジエレメントが、大穴が開いたりビリビリに裂けてしまう例も珍しくない。
バイクいじりが好きで新車よりも旧車や絶版車に興味のあるライダーにとって、中古車との出会いは一期一会で、「この1台を逃したら次はいつ巡り会えるか分からないぞ」ということもしばしばです。バイクショップの店頭で見つけたバイクであれば整備も行き届いているでしょうが、ネットオークションや個人売買、さらには友人知人の手元にあるバイクがひょんなことから自分の手に入るとなると、ついついテンションが上がってしまいます。「自分はもう乗らないから、良かったら持っていく?」などと誘惑されると、すぐさま手を上げたくなることもあるでしょう。それが好きなバイクや憧れの絶版車ならなおさら。しかし最初から修理やレストアを前提とするなら話は別ですが、駐輪場やガレージでしばらく不動状態だった車両の場合は前のめりになりすぎないことも重要です。
まず確認すべきはエンジンが回るか否か。ガソリンが劣化している長期不動車だと始動はできないかもしれませんが、その前段階としてクランクシャフトが回るかどうかを確認します。エンジン内に水が入ってシリンダーとピストンが錆び付いてロックしているような場合、いきなりエンジンオーバーホールという重整備をしなくてはなりません。それが楽しいというなら止めませんが、消耗品を交換すれば乗れるかな?程度の軽い気持ちで手に入れたバイクがエンジンロックというのはヘビーすぎます。
ただし後述する理由から、いきなりエンジンを始動しても問題が発生する場合があるので、まずはクランクシャフトが回転するか否かを調べておきます。具体的にはスパークプラグを取り外して、キック始動のバイクならキックペダルをゆっくり踏み降ろします。プラグを外しておけば圧縮が上がらないので、ピストンとシリンダー、クランクシャフトが固着していなければスムーズに降りるはずです。過去に数年間、車体カバーを掛けただけで屋外に置いておいたスーパーカブに再び乗ろうとした時に、マフラーから入り込んだと思われる湿気でシリンダーとピストンリングが錆びついてキックペダルがびくともせず、ひどい目に遭ったことがありました。こうなるとシリンダーまで分解しなくてはなりません。
セル始動のエンジンも慎重さが必要です。バッテリーが上がっていたらジャンプコードで繋いでセルを回したくなりますが、エンジン内部に問題がある状態でモーターの強いトルクで強制的にクランクシャフトを回すとトラブルを引き起こす危険性があります。そこでキック始動車と同様にスパークプラグを取り外し、メガネレンチかソケットレンチでクランクシャフトの左右どちらかの端部を直接回します。ピストンリングとシリンダーが固着していなければ、クランクシャフトは滑らかに回るはずです。
まずはクランクシャフトが回ること。それを確認してから次の段階に進みましょう。
- ポイント1・個人売買やオークションを通じてバイクを購入する際、乗ることが目的ならクランクシャフトが回らないエンジンには手を出さない
- ポイント2・余計なダメージを与えないために、スパークプラグを取り外してからクランクシャフトをゆっくり回転させる
キックペダルを踏むのはエアクリーナーエレメントが濾紙かスポンジかを確認してから
スパークプラグを外してキックペダルをゆっくり踏んで、クランクシャフトやシリンダーがロックしないことを確認してから、燃料タンクやキャブレター内で劣化したガソリンを抜き取る。先にガソリンを抜いても構わないが、ガソリンを新しくしたら始動したくなるのが人情。その時にボロボロのスポンジが破れてエンジンに吸い込まれたら手間が増えるだけ。だから先にエレメントを外しておくのだ。
クランクシャフトが回ったらスパークプラグを取り付けて、ガソリンが腐っているかもしれないけれどとりあえずキックペダルを踏みたい、セルモーターを回したいと思うかもしれません。しかしここで今回の最大のテーマであるエアクリーナーエレメントの確認を行います。スパークプラグを外した状態でクランクシャフトを回すと、ピストンがシリンダーを下降する際はプラグ穴から空気を吸い込みます。ここでスパークプラグを取り付けると、今度はキャブレターやスロットルボディを通してエアクリーナーボックスから空気が流れ込むようになります。
エアクリーナーエレメントにはスポンジタイプと濾紙タイプがありますが、要注意なのは劣化が進行したスポンジエレメントです。メーカー純正でも社外品でも、長期間使用したスポンジは加水分解によって脆くなり、僅かな刺激で簡単にバラバラに分解してしまうことがあるのです。細かく砕けたスポンジはエアクリーナーボックス内だけに留まらず、吸入負圧によってキャブレターに張りつきます。インジェクションでも同様ですが、そもそもインジェクションモデルでは濾紙タイプのエレメントを装着するモデルが多いようなので、スポンジ劣化はキャブレター車に発生するのが一般的です。
食パンやカステラのクズのようにボソボソに崩れたスポンジに、フィルターオイルが塗布してある場合はさらに厄介です。吸気と共にキャブ側に吸い込まれたスポンジが、オイルが接着剤代わりになって張りついたり、キャブを通り抜けてインテークマニホールドや燃焼室に入り込むことも考えられます。燃焼室に入ったスポンジは燃焼時の熱で焼かれてしまいますが、ピストンやシリンダーヘッドにスラッジがこびりつくかもしれません。
ごっそり欠落したスポンジがエンジンに吸い込まれてしまったと想像するのは、たとえ実害がなかったとても気分の良いものではありません。そうした余計な心配を避けるためにも、長期不動車のエンジンを再始動する際にはエアクリーナーエレメントのコンディションを確認することが不可欠なのです。
- ポイント1・エアクリーナーエレメントがスポンジ製の場合、経年劣化によりボロボロに崩れる場合がある
- ポイント2・長期不動車の再始動時にはスポンジタイプのエレメントはあらかじめ取り外しておく
スパークプラグに火花が飛ぶことを確認して、劣化したガソリンも交換する
長期放置ですっかり湿ったスパークプラグは迷わず新品に交換する。だが火花が飛ぶか否かのチェックであれば、このプラグでも事足りる。キャブレターやエンジン周りのメンテナンスがすべて終わった段階で新品プラグに交換しても良い。ただし完全にカブって火花チェックもできないようであればプラグ交換を行う。
クランクシャフトがスムーズに回転することを確認して、スポンジタイプのエアクリーナーエレメントを取り外しておくことで、ようやくエンジンが始動するかどうかの作業に取り掛かることができます。
エンジンにとっての必須条件が良い混合気、良い圧縮、良い火花であることは何度か説明してきた通りです。エンジンに機械的な問題がなさそうなら、良い混合気を作るために劣化したガソリンを入れ替え、プラグキャップに差し込んだスパークプラグをシリンダーヘッドに接触させた状態でキックペダルを踏むかセルモーターを回して、電極に火花が飛んでいるかを確認します。良い圧縮に関しては、正確に把握するにはコンプレッションゲージやリークダウンテスターによる測定が必要です。
こうした準備を整えた状態で始動確認をすることで、エンジンを掛けようとした途端にロックしたり、吸い込まれたスポンジエレメントがキャブに張りつき不調を引き起こすことを避けることができ、その後のメンテナンスの方針が立てやすくなると同時に、それ以前の段階として「手を出して良いのか、避けた方が無難なのか」を判断できます。
最悪なのはエンジン内の潤滑や固着確認もせず、さらにスポンジフィルターにも関わらずいきなりキックペダルを何度も踏もうとしたり、セルモーターを回し続けることです。原付から大型モデルまで、長期不動車を公道復帰させる際にはほんの少しの手間を惜しまず段階を踏むことが、結果としてメンテ作業の時間を短縮できると知っておくことが大切です。
- ポイント1・キャブレターから劣化したスポンジエレメントを吸わないように準備してから、再始動のための点火やガソリンのチェックを行う
- ポイント2・長期間エンジンを掛けていない不動車を復活させる際に、いきなりセルモーターを回したりキックペダルを踏んではいけない
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