DIYメンテナンスの領域では、内燃機のプロショップへ仕事を依頼することは多くない。だからこそ、内燃機加工をオーダーする際には「ついで」を作業依頼することで、より良い結果を得ることができる。それが内燃機部品加工の特徴でもある。ここでは「ついでの加工依頼」でより高い安心を得られる実例を紹介しよう。
目次
面研チューニングではなく最低限のとりしろ
砥石を利用した本当の「研磨」をおこなうことで、面粗度や平面度の高い面研磨を「最低限の取りしろ」で実施することができる。歪みのない平面が当たり前だが、何年も締め付けられ、使い続けられたエンジン部品は、想像以上に平面が歪んでいることが多い。この研磨加工は、想像している以上にメリットが多い。
基準面を正確に再現するシム調整
研磨加工を施したいパーツを工作機械のベッドにセットする際には、加工部品の傾きを調整しなくてはいけない。その際には、機械シムと呼ばれる調整シムを部品とベッドの間に挟み込み調整する。0.01mm、0.02mm、0.04mmなど、様々な厚さのシムを用意し対応するiB井上ボーリング。ロール状の機械加工シムは、必要な長さにカットしながら利用する。利用しているシムはインチサイズ表記だ。
1インチ=25.4ミリ
円筒砥石でシリンダーヘッド面を研磨
数多くのチップが取り付けられた仕上げ切削用ツールで加工する以上に、精密かつ均一な平面を得られるのが円筒砥石による平面研磨仕上げだ。その特性を理解し利用することで、最大限の仕上がりを得ることができる。
シリンダー側のヘッド面も研磨紙上げ
平面研磨加工を進め、最後の仕上げ研磨前にはシリンダーのボアエッジに発生したバリをオイルストンで除去する。平面研磨後のボアエッジは想像以上に鋭く、オイルストン研ぎをしないと組み付け作業時にメカニックが指先を怪我してしまうこともあるそうだ。エッジのバリ除去は内径だけでなく、座面の外側は、金属ブラシを使ってバリ除去する。これらの作業後に、最後の仕上げ研磨を行うことで、エッジのバリ除去跡は一切残らなくなり、美しい仕上げ面になる。
動作中の平面研磨機の様子
加工部品を載せた工作機械のベッドは高速で左右に移動する。加工部品に合わせてベッドは前後にも移動し、砥石がすべての加工面を研磨した段階で「最低限の平面研磨」となる。ベッドの高さ変更=加工研磨しろは0.001mm単位で移動可能だ。研磨機横の濾過器に溜まったスラッジは、磁石によって研磨液の中に混入する金属粉などを除去したもので、クリーンな研磨液を維持するためのもの。研磨液のコンディションひとつで面粗度や仕上がり具合に大きな影響が出てしまうのだ。一般工作機械のキリ粉はもっと大きいが、この平面研磨機から出るキリ粉は、完全なる粉状。如何に研磨量が少ないか、理解することができる。
機械加工の切削痕が無い研磨仕上げ
前述したとおり研磨しろ(移動量)は、0.001mm単位で指定可能。内燃機加工の実務では通常0.01mmずつ送り、ある程度研磨できたところで、より細かく加工しろを調整して仕上げられる。完全平面になったシリンダーのガスケット面は美しい。これはカワサキ900Z1のシリンダーだ。シリンダー側、シリンダーヘッド側のガスケット面が歪んでいると、圧縮漏れやオイル漏れ、滲みの原因になる。エンジン分解時に、ヘッドガスケットがオイルで濡れていることがあるが、これはガスケット面の微妙な歪みが原因だ。オイル漏れや滲みが無くても、そのような微妙な歪みがマルチエンジンの爆発燃焼バランスを崩してしまうことも知っておこう。
取材協力/iB井上ボーリング
- ポイント1・ 内燃機加工依頼時には「ついで」に依頼できる精度アップの要項を同時に依頼するのがベスト
- ポイント2・ 平面研磨を行うことでマルチエンジンの爆発バランスをより均一化することができる
- ポイント3・ オイル漏れや滲みの原因は、ガスケットの劣化だけではなく、平面精度の低下が原因のこともある
内燃機加工を専門業者へ依頼する際には、周辺の作業も同時に依頼することで、加工後の部品はより良いコンディションに生まれ変わり納品される。例えば、バルブシートカットを依頼する時には、バルブの摺り合わせやバルブフェイス加工を同時に依頼することで、より高い仕上がりの部品となって納品される。また、オーバーサイズピストンを組み込むために、ボーリング&ホーニングを依頼するときには、シリンダーヘッドガスケット面を「研磨仕上げ」で依頼するのも良いだろう。
エンジン部品を組み立てる時には、オイルストンで各種ガスケット面を研磨処理するが、そんなオイルストン仕上げ以上に、精密な研磨面を得られるのが、平面研磨仕上げである。「面を平らに磨く」というのが、平面研磨機に求められた唯一の機能である。言い換えれば、研磨作業に特化した専用機器が、平面研磨機でもある。他の作業は一切できないかわりに、面を平らに綺麗に仕上げることにかけては、最高の仕上がりを約束してくれる機械なのだ。
一般的には、この平面研磨加工に「フライス盤」が代用されることが多い。実際、バイクメーカーで量産されるシリンダーやシリンダーヘッド面も、フライス削りと同等かそれ以上で仕上げられている。上手に正確な加工を施すことでフライス削りでも量産要件を満たすことができるが、ここに紹介するiB井上ボーリングでは、より美しく高精度な仕上がり面を得られる回転円筒砥石によって研磨する「平面研磨機」を利用している。
バイトと呼ばれる刃物を使って切削するフライス削りとは違って、砥石を使う平面研磨機では、ひとケタ上の精度=平面度や面粗度を得られるうえに、使用済みの部品を再加工する内燃機加工修理ならではの「最小限の取りしろ」で仕上げるという需要に応えることができる。まさにそれこそが最大の特徴だ。具体的には、加工部品を研磨機のベッドに固定後、高速回転する丸い砥石でシリンダーヘッド面やシリンダーのヘッドガスケット面を研磨する。砥石幅は40mm程度なので、加工部品は高速移動しながら前後にも研磨され、全面が均一に仕上げられる。研磨送り量は0.001mm単位で設定でき、通常は0.01mm単位で研磨される。一度に研磨する量を微少に設定できるので、必要最低限の研磨量で平面に仕上げが可能になるのだ。
DIYレベルでは、如何ともしがたい仕上げ内容でも、プロに依頼すれば、想像以上に高精度に仕上げることができる、その最たる例が、間違い無く内燃機加工だろう。内燃機加工のプロショップへ作業依頼する際には、周辺作業や関連作業に関して、直接相談してみるのが良い。せっかく大切なエンジンを分解整備するのだから、最善の状況に仕上げられた部品を組み付けたいものである。
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