
経年変化によるヘッドカバーガスケットからのオイルにじみは旧車や絶版車にとってありがちなトラブルです。クランクケースやシリンダーとヘッドなどエンジン本体からのオイル漏れに比べてヘッドカバーからのにじみは軽傷ですが、発見したら早めの手当が肝心です。そしてせっかくヘッドカバーを外すのなら、バルブクリアランスも合わせて確認しておきましょう。
多くの4ストエンジンにとってヘッドカバーは単なるフタ!?
カムシャフト周辺がオイルに浸りながら排気の熱が加わることで、ヘッドカバーガスケットが硬化するとオイル滲みが発生しやすくなる。フルカウルのスーパースポーツモデルははヘッドカバーはだけでなくエンジン自体が見えづらいが、走りを楽しむだけでなくたまにはエンジン各部の状態を確認することも必要だ。
クランクケース、シリンダー、シリンダーヘッドと積み重ねられたエンジンパーツのいちばん上部に取り付けられているのがヘッドカバー(カムカバー)です。カウルが付くとエンジン自体が外からほとんど見えない機種も少なくありませんが、絶版車や旧車、ネイキッドモデルなどエンジンもデザインの一部となるモデルではヘッドカバーの造形も個性をアピールするポイントとなっています。
ヘッドカバーの役割は機種によって異なります。ホンダスーパーカブやモンキーなどに搭載されているキャブレター時代の横型エンジンのヘッドカバーは、シリンダーのスタッドボルトが貫通してナットで固定される重要な役割を果たしていました。ところか同じ横型でもフューエルインジェクションを装備した2007年以降、スタッドボルトはシリンダーヘッドで固定されるようになり、ヘッドカバーはヘッドに固定される単なるフタになりました。
そしてカワサキZ1やホンダCB750フォアなど多くの4ストロークエンジンのヘッドカバーもフタとして機能しています。ただ一部の機種ではフタのように見えるヘッドカバーが重要な役割を担っていることもあります。古くはホンダCB400フォアやCB250RSなどはカムシャフトとバルブはシリンダーヘッドにあるのに対して、ロッカーアームとロッカーシャフトがヘッドカバー側に装着されていました。CB400フォアはヘッドカバーがカムホルダーとして利用されていました。時代が下って1990年代の250ccスクーターの中にはヘッドカバー内にロッカーアームが組み込み、さらに偏芯タイプのロッカーシャフトによってバルブクリアランス調整を行う機種もありました。
ヘッドカバーを単なるフタとして使っている機種にとって、ヘッドカバーガスケットは消耗品のようなものです。もちろんロッカーアームがカバー側にある機種にもヘッドカバーガスケットはありますが、弾力性のあるフローティングガスケットではカムやバルブとのクリアランスが変化してしまうため、シリンダーヘッドとカバーをダイレクトに重ねることが重要で、ガスケットはOリングタイプのものが補助的に使われているようです。シリンダーヘッドとカバーの気密性をガスケット自体の弾力性で確保している場合、エンジンの熱や経年変化でゴムが痩せたり硬化するとカムシャフト周辺を潤滑するオイルが滲み出すことがあります。シリンダーヘッドの外側にオイルが流れ出せばすぐに気づきますが、プラグホールのガスケットが劣化してプラグがオイルまみれになることもあるので厄介です。
ヘッドカバーのオイル滲みを発見したらとりあえずヘッドカバーボルトを増し締めしたくなりますが、ガスケットの硬化や痩せが原因の場合は増し締めしてもヘッドカバーボルトのガスケットが潰れるだけで効果はありません。どんな機種でも遅かれ早かれヘッドカバーガスケットは劣化するものなので、ガスケットからの滲みを発見したら潔く交換するのが最善の対応策です。
- ポイント1・4ストエンジンのヘッドカバーには、カム周りのフタとして機能するタイプとロッカーアームなどの部品が組み込まれたタイプがある
- ポイント2・ヘッドカバーガスケットの効果や劣化でオイルがにじむ場合、増し締めではなくガスケットの交換が必要
ヘッドカバーを外したらバルブクリアランスも確認したい
ヘッドカバーを外すとカムシャフトやロッカーアームが確認できる。このエンジンはバルブクリアランス調整用アジャストスクリューの自体がロッカーアームの支点になっており、ロッカーシャフトが存在しないのが特徴。またシリンダーヘッド幅を抑えるためカムシャフト端部にはホルダーがないが、これはZ1/Z2でも採用した手法だ。
カム山の頂部をロッカーアームのスリッパー面の反対側に回して、カムのベース円とロッカーアームの隙間=バルブクリアランスを測定する。吸気側のクリアランスは0.08~0.13mmなので、シックネスゲージの0.10mmが入って0.15mmが入らなければ標準値内と判断できる。
バルブクリアランスの実測データは排気側2カ所が詰まり気味だった(標準値は0.11~0.16mm)。走行距離が増えてバルブシートが摩耗すると、スプリングの張力によってバルブが燃焼室の奥に引っ込む=カム側への突き出しが増えるため、クリアランスが狭まるのが一般的だ。
ヘッドカバーガスケット交換でカバーを外すとカムシャフトと吸排気バルブが露出するので、せっかくならバルブクリアランスを確認しておきましょう。断面が卵形のカムとバルブ(またはロッカーアーム)には適度な隙間=バルブクリアランスが設定されています。カムがベース円の状態ではバルブが閉じており、卵形の山に乗り上げていくとバルブが開いていき、バルブクリアランスはベース円におけるカムとバルブの隙間を指します。クリアランスはエンジンが冷えている冷間時が基準となり、メーカーが設定する数値に調整しておくことで、エンジンが作動して熱が加わった時に隙間がちょうど良くなります。
走行中のエンジンは温度が上昇することはライダーなら誰もが知っていると思いますが、場所や部品によって温度分布は異なります。最も高温になるのは燃焼室周辺で、バルブも燃焼時の熱を受けています。吸排気バルブを比較するとフレッシュな外気と液体のガソリンが通過する吸気バルブより燃焼したばかりの熱い排気ガスが通過する排気バルブの方が高温にさらされるため、熱による膨張も大きくなります。そのためバルブクリアランスは一般的に吸気側より排気側の方が広めに設定されることが多いです。画像のカワサキGPX250Rのバルブクリアランスは、吸気側0.08~0.13mmに対して排気側は0.11~0.16mmが標準値となっています。
1/100mm単位で設定されるバルブクリアランスを測定するには、薄い金属製の短冊のようなフィラーを0.01mm単位の厚さで揃えたシックネスゲージを使います。カム山をロッカーアームと反対の位置まで回して隙間を最大にした状態、どれほどの厚さのゲージが差し込めるかを測定します。吸気側の場合、0.08mm以上のゲージが入らない場合はクリアランスが狭すぎで、0.13mm以上が入る場合は広すぎであると判断します。上限と下限の中間を厳密に取れば0.105mmとなりますが、シックネスゲージは0.01mm単位なので1/1000mm台の測定はできません。
そこで標準値内に収まっているか否かを判断する際は、0.10mmが入って0.15mmは入らない隙間であればOKと判断するのが一般的です。特にバルブクリアランス調整を円盤状のシムで行うエンジンの場合、大半のシムは0.05mm単位で設定されているためクリアランス調整も0.05mm単位とならざるを得ません。GPXのエンジンはシム式ではなくクリアランスを任意に設定できるアジャストスクリュー式ですが、標準値の幅は0.05mmになっています。
- ポイント1・ヘッドカバーガスケット交換のためにカバー自体を外したら、ついでにバルブクリアランスのチェックも行うとよい
- ポイント2・サービスマニュアルでクリアランスの標準値を確認して、シックネスゲージで測定を行う
アジャストスクリュータイプなら交換用シムがなくても調整できる
長いハンドルが付いた超ディープなソケットはカワサキ純正の専用工具。ソケットの軸部は貫通穴で、ドライバーを挿入してアジャストスクリューを保持したままロックナットを締め付けられる。
画像ではシックネスゲージを省略しているが、実際の調整時はカムとロッカーアームの隙間にゲージを差し入れた状態でアジャストスクリューを回して、ゲージへの手応えを確認しながらロックナットを締める。アジャストスクリューの調整次第で、ロックナットを締めた際のクリアランスは微妙な変化を実感できる。
ヘッド左右の半円状の部分は、カムシャフトホルダーを加工する際に切削した名残で、ヘッドカバーガスケットを装着する際は半円部分と両端に液体ガスケットを塗布する。にじみが目立ったカバー前側の合わせ面にも薄く塗っておいた。
バルブクリアランスが標準値から外れていたら調整用のシムを用意しなくてはいけないシム式に対して、アジャストスクリュー式はメンテナンス性に優れているといえるでしょう。測定したクリアランスは排気側の2カ所で下限より狭くなっていましたが、ロックナットを緩めてアジャストスクリューを回すだけでクリアランスを無段階で調整できます。
調整のための工具はここでは専用工具を使いましたが、ロックナットを回すメガネレンチやソケットと、アジャストスクリューを回すドライバーはそれぞれ汎用工具でもかまいません。ただし、ロックナットを締める際にアジャストスクリューが回らないように保持しておく必要はあります。
またカムとロッカーアームの隙間にシックネスゲージを挿入する際の手応えや抵抗感も、設定するクリアランスに対して同じ感覚で接することが重要です。同じ0.10mmのフィラーでも、挿入する際の抵抗感が大きいか小さいかで実際の隙間は異なります。GPXの吸気バルブの標準値は0.08~0.13mmなので、0.10mmでも0.11mmでも許容範囲内ですが、せっかく調整を行うのなら同じ隙間に合わせた方が良いでしょう。またロッカーアームやバルブとカムの当たり位置は双方が動くことでわずかに変化することもあるので、一度調整したらそれで終わりではなく、調整後にクランクシャフトを回してバルブを開閉させてから再度測定してもよいでしょう。
バルブクリアランス測定と調整を行ったら、本題である新品ヘッドカバーガスケットを装着します。この時、サービスマニュアルで液体ガスケットの塗布が指定されている場所があればその指示に従います。シリンダーヘッド上面にカムシャフトを逃がす半円状の加工がある場合、半円の両端の角には塗布の指示があることが多いようです。プラグホール部分に独立したガスケットが入る場合、この取り付け面にも液体ガスケットを薄く塗布しておくと保険になります。
ヘッドカバーボルトを締め付ける際、オイル滲みを懸念すれば強めのトルクで締めたくなるところですが、ガスケットが変形してしまい逆にオイル滲みを誘発する危険性があるので注意が必要です。締め付けトルクが指定されている場合(M6ボルトなら10Nm前後が多いようです)は、もうちょっと締め込みたいと思ってもその数値に従うことが重要です。
- ポイント1・バルブクリアランス調整をアジャストスクリューで行うエンジンは、シム式に比べて簡単に調整できる
- ポイント2・新しいヘッドカバーガスケットを装着する際はサービスマニュアルに従って液体ガスケットを適宜併用する
この記事にいいねする