
スイングアームとフレームを直接つなぐ2本サスに対して、途中にリンクを組み込んだモノサス(1本サス)には、サスペンション設計の自由度が高く理想を追求できる利点があります。ただしその特長を最大限に引き出すには、各可動部のフリクションロスを減らすことが重要です。リンクが抵抗だらけでは高性能リアショックも性能を発揮できないので適切なメンテナンスが必要です。
初期は柔らかくサスが縮むと硬くできるのがリンク式サスの特長
水の跳ね上げや飛散したチェーンオイルの付着によりリアショックは常に汚れが付着しがちだ。リンク部分はボルトとナットしか見えないが、カラーとベアリングも厳しい環境で働いていることを理解してメンテナンスを行わなくてはならない。ダンパーロッドに掛かった水でメッキが錆びたり、ロッドに付着した砂利でオイルシールが傷つけられるとダンパー内部のオイルが漏れてダンパー自体が使い物にならなくなるので要注意。
カワサキGPX250Rのリンク式モノサスは、フレームに付く中央のロッカーアームとスイングアームに付く左右のタイロッドで構成されている。ホイールがストロークするとスイングアームがタイロッドを引き上げ、ロッカーアーム右側につながったリアショックを押し上げる。
フレームのピボットを軸に上下にストロークする(揺動という)スイングアームに装着されるリアショックには、ネイキッドやトラディショナルモデルに多いツインショックとスポーツモデルで一般的なモノショックがあるのはご存じの通りです。レーサーを筆頭としてスーパースポーツモデルの大半がモノショックであることから、モノショックの方が高性能なイメージが強いと思いますが、ではなぜモノショックは高性能なのでしょうか?
スイングアームとフレームの間にリアショックを設置するツインショックは、リアショックが最も伸びた状態から最も縮んだ状態まで、ホイールとリアショックの変位は単純に比例します。一方、モノショックの主流であるリンク式サスペンションは、リアショックとスイングアームの間にリンク機構が組み込まれています。このリンク機構はフレームとリアショック、リアショックとスイングアームの距離を変えることで、リアホイールのストローク量とリアショックのストローク量が単純な一次関数的な比例関係ではない状態を作っています。
単純な一次関数的な、といっても分かりづらいかもしれませんが、これをプログレッシブ特性といいます。プログレッシブというのはホイールのストローク量に応じてリアショックのストローク量が変化しながら大きくなる特性を指しています。スプリングのバネ定数が一定であるなら、最も伸びた位置でも最も圧縮した位置でも、そこからさらに1mm縮めるために必要な強さは同じです。ツインショックの場合、ホイールとリアショックのストロークが単純な比例関係にあるため、バネ定数が小さな柔らかいスプリングを使えば初期はソフトな乗り心地ですがフルストロークまで柔らかく、その逆にバネ定数が大きく硬いスプリングを使えばフルストローク近くで腰砕け感はないものの、真っ直ぐの道を走っている時にも乗り心地はハードで突き上げを感じるでしょう。
これに対してリンク式モノサスのプログレッシブ特性は、真っ直ぐな道路を淡々と走行する時のようにホイールのストローク量が小さい領域ではリアショックの動きを小さくしてリアショックのスプリングの反力が小さい領域を使用して乗り心地を良くして、コーナリングで車体にGが加わりホイールが大きくストロークする領域ではスプリングの反力が大きい領域を使って車体を安定させるように機能します。重量車でエンジンパワーがあればリアショックにも大きな荷重が加わることになり、その荷重を支えられるようバネ定数が大きなスプリングが必要になります。しかしストローク量の小さな範囲ではスプリングの反力が大きくならないようリアショックをストロークさせることで、乗り心地の良さも確保できるのがリンク式モノサスの特長です。
- ポイント1・ツインショックはホイールのストロークとリアショックの反力は正比例になる
- ポイント2・リンク式モノサスはリンク機構のプログレッシブ特性によってストローク初期は柔らかく、リアタイヤが大きく沈むとリアショックのスプリング反力を強くできる
リンクの支点が増えるほどフリクションロスも増える
ロッカーアームの3カ所の連結部に挿入されているカラー表面のグリスは、15年近く放置されている間に油分を失って粘度のように固着している。屋内保管だったのでまだましだが、屋外だとカラー表面の硬質クロームメッキも錆びてしまうこともある。
パーツクリーナーをスプレーして研磨用スポンジで擦るとメッキにはサビがなくひと安心。機種によってまちまちだが、ロッカーアーム左右からニードルローラーベアリングが圧入されていると、左右のベアリングが触れていないカラーの中間部分だけが錆びてしまい、ベアリングに引っかかって抜けない場合がある。
幸いなことに腐食したように見える画像上のようなカラーも、スポンジで磨くと下のようにメッキが生きている状態だった。メッキ被膜がえぐられるように腐食している場合はカラーを新品に交換する。部品が入手できないからといってグリスをたっぷり塗って組み立てても、ベアリングを傷めてしまう結果になりかねない。
ツインショックに比べて味付けの幅が広がるのがリンク式モノサスの利点ですが、リンクによって支点や可動部が増えるため、フリクションロスが多くなる可能性があります。リンクの軸受け部にはニードルローラーベアリングが圧入され、ブッシュやカラーとの間にはグリスが塗布してあるため、充分な潤滑があればホイールのストロークに応じてリンクが作動してリアショックを作動させることができます。
しかしメンテナンス不足や経年劣化により潤滑不良に陥れば、タイヤに加わった衝撃がリアショックに伝わる過程で抵抗が生じる可能性があります。リンクの潤滑不足に比べれば車重や慣性重量の方がはるかに大きいので、荷重変化が大きくなればリンクは無理矢理でも動かされてリアショックを縮める力が働きますが、荷重変化が小さい領域ではリアショックが動きづらくなり、衝撃吸収性が低下する可能性があります。サスペンションの性能を語る際はとかく高荷重に注目しがちですが、頻繁にサーキット走行やサンデーレースに参戦するライダーを除けば、低荷重領域での作動性の方が重要になります。サスペンションが大きく動くサーキットであっても、ストレートからコーナリングの入り口に差し掛かる際には小さな荷重から徐々に大きくなるため、荷重変化の小さい領域でのスムーズな動きは重要です。
これはサスペンションだけでなくキャブレターやインジェクションにも当てはまります。全開領域でのパワーやセッティングに注目してスロットル開度が小さい領域を疎かにすると、信号待ちからスタートする際やコーナーの立ち上がりのボコつきやドンツキで乗りづらさを感じることがあるのと同じで、ゼロ地点からの動き出しの部分を軽視してはいけないのです。大きな荷重を与えたときにスイングアームが動いてリアショックが縮むのは当然ですが、大切なのは小さな荷重の変化も抵抗なくリアショックに伝えられるよう、ピボットやリンクなどの可動部分のフリクションロスはできる限り取り除くことです。
- ポイント1・スイングアームとリアショックの間にブッシュとカラーが介在するリンク式モノサスは、メンテナンス次第でフリクションロスが大きくなる可能性がある
- ポイント2・大荷重で動くのは当たり前だが、フリクションロスを軽減して小さな荷重でもスムーズに動くことが重要
リアショックに本来の仕事をさせるにはリンクのグリスアップが不可欠
リンクの惨状を見てしまったら、スイングアームピボットをチェックしないわけにはいかない。スイングアームのカラーも中間のサビで太って抜けないことがあるが、サビは発生していたものの運良く引き抜くことができた。
スイングアームに圧入されたニードルベアリングの古いグリスを洗浄したら、極圧性と耐水性が良好なグリスを塗布する。ここではスーパーゾイルグリスを使用。指先のグリスをベアリングのニードルに押しつけて、表面だけでなく裏面にも行き渡らせ押し込んでおく。
スイングアームのカラーも研磨用スポンジで磨いて汚れを落とす。スイングアーム側のニードルローラーベアリングは左右両端と接するだけで中間部分は何も触れていないが、錆を防ぐため全面にグリスを塗布してから組み立てる。
画像の車両は長期放置の末、カラーのグリスは完全に劣化して潤滑性能は完全に失われています。しかしリアサスペンションを外側から見る限り、カラーの状態は分かりません。このような状態で動きが悪いからと言ってリアショックだけを交換しても、交換したショックの真価は発揮できません。これほどひどい状態ではありませんが、定期メンテナンスで洗浄とグリスアップを行っただけでリアサスペンションの動き、特に荷重が小さい領域でのサスペンションの動きが良くなり街乗りでの乗り心地が改善された例は珍しくありません。改善といってもグリスアップによって元の状態に戻っただけですが、汚れて劣化したグリスを落として新たに塗布するだけで、小さな荷重変化にも敏感に反応するようになるのですから、メンテナンスを行わない手はありません。
リンク周りの潤滑に用いるグリスは、リチウム系やウレア系など耐水性や極圧性に優れた製品が適しています。機種によっては二硫化モリブデングリスが指定されている場合もあります。リンクから引き抜いたブッシュはパーツクリーナーで洗浄してからグリスを塗布するでしょうが、リンク内に圧入されたブッシュやニードルローラーベアリングに残った古いグリスもしっかり除去してから新しいグリスを塗布します。
この作業ではスイングアームピボットの洗浄とグリスアップも同時に行っており、これによりスイングアーム自体の動きが良くなることも期待できます。スイングアームピボットはスイングアームの揺動の軸になるだけでなく、ドライブチェーンによる駆動力も加わるのでカラーやブッシュの潤滑は重要であり、モノショックだけでなくツインショックのバイクにとってもメンテナンスは必須です。
リアショックやリンクやスイングアームを取り外すには、これらの部品を外しても車体を安定させられる準備が必要です。スイングアームを外すと一般的なレーシングスタンドやメンテナンススタンドは使えなくなるので、センタースタンドのないバイクはエンジン下部から車体を支えらえるジャッキなどを用意する必要があります。
モノサス用リンクのメンテナンスは作業のための準備が必要で、作業自体も地味ですがバイクの操縦安定性確保にとってとても重要です。グリスが劣化してリンクの動きが渋いのに高級で高性能なリアショックを取り付けてもまさに宝の持ち腐れです。リアサスペンションの動きが悪くなったと感じる前に、リンクの分解とグリスアップを実践しましょう。
- ポイント1・走行中常に擦れ合うブッシュとベアリングには耐水性や極圧性に優れたグリスによる潤滑が不可欠
- ポイント2・スイングアームピボットのグリスアップはモノショックだけでなくツインショックの車両にも有効
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