今でこそディスクブレーキは当たり前の装備ですが、1970年以前のバイクのブレーキはほとんどがドラム式でした。ABS装着の義務化によって現在ではかなり少数派となってきましたが、すでに登録されているドラムブレーキ車は今後も走り続けることが可能なので、好調さをキープするためのメンテナンスを覚えておきましょう。

原付一種以外のドラムブレーキは販売できなくなる!?


軍手で触れているのがブレーキアーム。ブレーキシューが摩耗して遊びを調整すると、アームの倒れが徐々に大きくなる。アームやカムにはシューの摩耗を示すインジケーターが付いている機種も多いので、遊びを何度か調整したらインジケーターの位置に注意すること。これを見過ごしてアームを引きすぎると、シュー表面のブレーキライニングが摩滅してシュー本体がドラムに触れてダメージを与えてしまう。


ドラムブレーキのブレーキシューを交換するにはホイールを外さなくてはならない。センタースタンド付きの機種ならジャッキを入れて車体を支えられるが、サイドスタンドしかない機種は車体を垂直に保持できるメンテナンススタンドなどを用意しなくてはならない。ライニングの摩耗が進行するとドラム内にブレーキダストが溜まっているので、吸い込まないように注意しながらブレーキパーツクリーナーなどで洗浄する。

原付スクーターを筆頭に、小排気量車のリアブレーキにも採用されているドラムブレーキ。しかし125cc以上の新車のバイクやスクーターではすっかり見られなくなっていることにお気づきでしょうか。先日ファイナルエディションが発表され生産が終了したヤマハSR400もリアブレーキはドラムでした。ドラムブレーキはディスクブレーキに比べて放熱性が悪いなど性能面で劣ることはレースの世界を見れば明らかです。しかし適切なメンテナンスを行い公道を一般的なペースで走行する分には、ドラムブレーキだから止まらないという場面はそれほど多くはありません。

ドラムブレーキ車が減少しているのは、2015年に国土交通省による道路運送車両の保安基準の改正が行われたためです。この改正では、2018年10月以降に新規発売される125cc以上のバイクに対してABS(アンチロックブレーキシステム)の装着が義務化されました。原付二種に関してはABSまたはCBS(コンバインドブレーキシステム=前後連動ブレーキ)が義務化され、また原付一種は改正の対象外となっています。バイクのドラムブレーキはケーブルやロッドで作動する機械式なので、油圧制御のABSを組み込むことができず、この時点で125cc以上の新型車でのドラムブレーキ採用の道は断たれました。ちなみに自動車のドラムブレーキは油圧式なのでABS装着が可能で、現在でもドラムブレーキは採用されています。

2018年10月以前から発売されていた継続生産車についてもいよいよ2021年10月から装着が義務化される予定となり、これによってSR400はリアブレーキがドラムのままでは継続販売が不可能になります。ちなみに2011年に発売されたカワサキW800初期モデルのリアはドラムブレーキでしたが、2019年に登場した現行型は法改正に対応して前後ブレーキがディスク化されてABSも装着しています。

緊急時に強くブレーキを掛けた際のスリップ転倒を抑止するABSはライダーの身を守る運転支援装置であり、無いよりあった方が安全なのは確かです。とはいえ、現在すでに世の中にあるABS未装備のディスクブレーキ車やドラムブレーキ車に乗れなくなるわけではないので、それぞれのブレーキシステムが最大限の能力を発揮できるよう適切なメンテナンスを行うことが不可欠です。

POINT

  • ポイント1・125cc以上のバイクにABS装着が義務化されたことで、機械式ドラムブレーキ車両の新車販売が事実上不可能となった
  • ポイント2・すでに登録されている車両については、ディスクブレーキ、ドラムブレーキのいずれもABS未装備でも継続使用できる

油分厳禁だが必要な部分の潤滑は欠かせない


リーディングトレーリング型のブレーキシューの支点となるアンカーピン。ブレーキシューはカムによって強制的に拡張されるのでピンとシューが固着することはないが、適量のグリスを塗布することでシューの作動性が向上する。


ブレーキシューを押し広げるブレーキカムは、シューと接触するカム面とともに、僅かなレバーやペダル操作でもスムーズに作動するためにはブレーキパネルに挿入される軸部の潤滑も必要。ブレーキパネル表側にフェルトリングが装着されている場合は、組み立て時に忘れずにセットすること。


ブレーキダストをパーツクリーナーで洗い流したら、サンドペーパーやナイロン製研磨材などでドラム内面の異物を取り除いておく。長期間乗っておらずドラム表面が錆びている場合、ペーパーでサビを落とすことでブレーキライニングへのダメージが緩和されブレーキの効きも良くなる。

ドラムブレーキのメンテナンスで最も重要な内容は、ケーブルやロッドの遊び調整です。機械式ドラムブレーキは油圧式ディスクブレーキと異なり、ブレーキシューとブレーキドラムの隙間は自動的に調整されず、ブレーキライニング(摩擦材)が摩耗するとドラムとの隙間が広がりレバーやペダルの遊びが大きくなっていきます。そこでケーブル式でもロッド式でも遊びが適正になるようブレーキアーム部分にあるアジャスターで調整を行います。

ブレーキライニングの摩耗が進みブレーキシューを交換する場合、ドラムブレーキ車はホイールの着脱が必要でで、ここはディスクブレーキ車との大きな違いになります。そのためセンタースタンドのないバイクは、タイヤを外した状態で自立させることができるスタンドやジャッキが必要です。

ドラムブレーキは半円状のブレーキシューを向かい合わせにセットして、シューを外側に押し広げてドラムに密着させることで制動力を発揮しますが、シューの動かし方によりリーディングトレーリング型と2リーディング型に分類されます。バイクに多いのはリーディングトレーリング型で、ひとつのブレーキカムで2個のブレーキシューを同時に拡張します。これに対してディスクブレーキ登場以前のレース用マシンや1960年代から70年代前半の高性能市販車に採用されたのが2リーディング型で、これは2個のブレーキシューを2個のカムで作動させるのが特長です。ブレーキシューとドラムの関係に注目すると、リーディングトレーリング型の場合は片方のシューが回転方向に押しつけられるのに対して、2リーディングは2個のシューがいずれもドラムの回転方向に押しつけられるためより強い制動力を得られます。

どちらのタイプも、ブレーキシューは円弧の両端をアンカーピンとブレーキカムで支えられています。ブレーキライニングとドラムの接触面に油分は禁物ですが、ピンとカムには適度な潤滑が必要です。ここで使用するグリスはピンやカムとシューが滑らかに作動するために使われるのと同時に、ブレーキシューの振動を抑制することで鳴きを防止する役割があります。

POINT

  • ポイント1・ドラムブレーキはブレーキライニングとドラムの隙間を手動で調整する
  • ポイント2・ブレーキシューが接するアンカーピンとブレーキカムは適切なグリスによる潤滑が有効

リターンスプリングをセットしてからブレーキパネルに装着する


リターンスプリングの張力は強いので、ブレーキシューをV字状に折り曲げてスプリング穴を近づけた状態で通しておく。絶版車や旧車で古いスプリングが錆びていると折損するリスクがあるので、シューと合わせて交換しておきたい。


ブレーキカムやアンカーピンとの接触面には高粘着タイプのブレーキ専用グリスを塗布することで潤滑と鳴き止めを両立できる。粘度が低いグリスはブレーキシューに付着してしまうリスクがあるので要注意。


V字状にしたブレーキシューをアンカーピンとブレーキカムの端部に引っ掛けて、2枚のシューに均等の力を加えつつ押し広げる。ブレーキパネルとブレーキシューの間に指を挟まないように注意する。


ブレーキシューが開いたらアンカーピンとブレーキカムの正しい位置に納まっていることを確認する。洗浄とグリスアップのためにブレーキカムを外したら、ブレーキアームの取り付け角度に注意してカムにセットすること。

ブレーキパネルに向かい合わせにセットされた2枚のブレーキシューは、2本のリターンスプリングで引き寄せ合っています。ブレーキレバーやブレーキペダルやブレーキカムにもリターンスプリングはありますが、ブレーキシューのリターンスプリングは特に重要で、経年劣化などで折損するとシューが勝手に開いてドラムと接して引きずりの原因となるので注意が必要です。レバーやペダルやケーブルやロッドのスプリングに異状がないのにレバーやペダルの手応えが軽い、突然ブレーキが鳴くようになったという時にはブレーキシューのリターンスプリングを確認してみましょう。

レバーやペダルの遊びを定期的に調整して、いよいよライニングの摩耗が限界に達したらブレーキシューを交換します。一般的なリーディングトレーリング型では、カムとアンカーピンを中心に2枚のシューを折り重ねるように内側に畳み込むと、張力の強いリターンスプリングを引っ張ることなく簡単に取り外せます

新品のシューを取り付ける時も同様です。ブレーキパネルにセットする前にあらかじめリターンスプリングをセットしておいて、V字状に折り畳んだシューをアンカーピンとカムに掛けて押し下げます。こうすることで、スプリングを引くことを意識しなくてもブレーキパネルにシューを取り付けることができます。

ABS装着が義務化されて以降も、これまでに販売されたドラムブレーキ車はまだまだ乗り続けられます。安全に直結する部品だからこそ、メカニズムを理解して適切なメンテナンスを行うことが重要です。

POINT

  • ポイント1・向かい合うブレーキシューの間には張力の強いリターンスプリングが組み込まれている
  • ポイント2・シューを着脱する際はアンカーピンとカムを中心にV字状に折り畳むことでスプリングを引く力を軽減できる

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