エンジン各部で発生する熱を吸収して、ラジエターから発散している水冷エンジンにとって冷却液の働きは重要です。ロングライフクーラントと呼ばれるだけあって冷却液は長期間使用できるのが特長ですが、無交換で良いわけではありません。劣化して性能が低下したりエンジン内部にダメージを与える前に交換することが重要です。
冷却液には凍結や金属部品のサビを防ぐ能力がある
冷却液のドレンボルトは冷却系統の最も低い位置にあることが多い。カワサキGPX250Rの場合はエンジン左側のウォーターポンプカバーに設置されている。ラジエターパイプにドレンボルトが付いている機種もある。ウォーターポンプにつながる鉄製のパイプが錆びているのは経年劣化の証拠だ。
ゴムホースは錆びないが鉄のパイプは徐々に腐食が進行する。ロングライフクーラントを正しく使用していても錆びることがあるので、長年水道水だけを使っていた機種では絶望的かもしれない。
走行風頼みの空冷エンジンに対して、水冷エンジンは冷却液によって温度を管理できるのが最大の特長です。大排気量でハイパワーなエンジンはもちろんのこと、冷間時の暖機時間を短縮できることもあり、排出ガス削減の観点から今や原付スクーターであっても水冷化が不可欠となっています。ウォーターポンプによって圧送される冷却液はエンジン内部の冷却経路とラジエターを循環しており、水温によってエンジン内部だけを循環させるか、ラジエターにも循環させるかは途中に組み込まれたサーモスタットによって自動的に切り替えられます。
エンジンで発生する熱を吸収して、ラジエターのフィンを通じて空気中に発散する冷却液には、専用のロングライフクーラントを使用します。クーラントの主成分はアルコールの一種であるエチレングリコールで、水道水が凍結を始める摂氏0℃でも凍らない凝固点降下と100℃で沸騰しない沸点上昇を両立させる役割があります。エンジンの冷却系統は基本的に閉じられた状態にあるので、冬期に冷却水が凍結して体積が膨張するとエンジン内部に重大なトラブルを与える原因となるため、凍結温度を下げることは何より重要です。同時に100℃で沸騰すると蒸発して容量が減少してしまうので、沸点を上げることも必要です。ラジエターキャップで冷却系統全体の圧力を大気圧より上げることで沸点は上昇しますが、同時に冷却液自体の能力によっても高温耐久性を向上させているわけです。
さらに冷却液にはエンジン内部のサビを防ぐ防錆成分や、ウォーターポンプのインペラで圧送される際に発生する泡を抑える消泡剤成分も含まれています。アルミ合金製のクランクケースやシリンダーヘッドに対して、市販車ではエンジン外部の冷却パイプは鉄系の素材を用いることが多く、水道水を使うと内部から腐食が進み、腐食して剥がれ破片がラジエターのチューブ内に詰まると冷却効率が低下したり、ウォーターポンプのメカニカルシールを傷める原因にもなるため、冷却系統には必ず専用の冷却液を使わなくてはなりません。ちなみに冷却液は識別のために赤と緑に着色されていますが、色によって性能が変わることはありません。
- ポイント1・ラジエター冷却液の主成分のはエチレングリコールで、凝固点降下や沸点上昇、防錆効果がある
- ポイント2・通常の水道水を冷却液にすると冷却系統内部が腐食するおそれがあるので使用しないこと
経年劣化や液量不足がオーバーヒートやサビの原因になる
液量は充分なものの劣化が著しい冷却液。腐食は大して進んでいないので、水道水だけで使っていたわけではなさそうだが、液の色はすでに緑でも赤でもない。ラジエターキャップ裏側のゴムパッキンがラジエターに密着してクセがついた状態で硬化してしまうと、キャップを閉じた際の気密性が低下して冷却系統の内圧が充分に上昇せず、冷却液の沸点が低下して沸騰しやすくなるので、パッキンが劣化していたらキャップを交換する。
エンジン側で冷却液の温度と圧力が上昇すると、ラジエターキャップからチューブがつながったリザーブタンクに流れ込み、温度が低下するとタンクからラジエターに冷却液が戻る。タンク内の液量をFとLの間に保っておくことが重要で、冷却液を交換する際はタンク内の冷却液も入れ替える。
冷却液はロングライフクーラントと呼ばれるだけあって寿命は2~4年と長いですが、時間の経過と共に性能が低下します。具体的には高温で空気に触れることで主成分のエチレングリコールが酸化して、白い固形物=腐食性物質が生成されます。これがラジエターのチューブ内に詰まると、水道水でサビが詰まるのと同じく冷却能力が低下します。また先述の通り冷却系統は基本的に閉鎖系ですが、ラジエターにつながったリザーブタンクには大気に開放されたブリーザーチューブが付いており、温度上昇により蒸発してタンク内の液量がロアレベルを下回るとエンジン内部の液量不足につながります。
また経年劣化により防錆能力も低下し、金属製のパイプが腐食して穴が開いて冷却水漏れにつながることもあります。錆びた金属パイプとゴム製のホースの接続部に付着した腐食性物質を見たことのあるユーザーもいるかもしれません。こうした症状はすべて冷却液の劣化によるものです。
こうしたサインに気づかず、あるいは発見したものの無視して使い続けると、ウォーターポンプの損傷やオーバーヒートを引き起こす原因となり、修復に余計なコストがかかることになります。水道水を単独で使わないのはもちろんですが、冷却液を使用する場合でも定期的な交換は不可欠です。自動車用の冷却液では従来より約2倍の寿命を持つスーパーロングライフクーラントが普及し始めていますが、これは専用に設計されたエンジンのみに使えるもので、スーパーロングライフクーラント対応でない既存のエンジンに使っても長寿命化は図れません。従来型冷却液の使用を前提に開発されたエンジンは決められた期間で定期交換することが重要です。
- ポイント1・冷却液が経年劣化するとさまざまなトラブルを引き起こす原因となる
- ポイント2・ウォーターポンプが損傷した際の修理費用は冷却水交換より遙かに高額になる
洗浄の手間を軽減するためにも定期的な交換が有効
ウォーターポンプのドレンボルトを取り外して茶色に変色した冷却液を排出する。サビの粉は混ざっていないので水道水ではなくロングライフクーラントだが、交換をさぼるとこのように劣化することもある。
ラジエターキャップ部分からホースの水道水を流し入れるのは定番で、ラジエターのロアホースからウォーターポンプのドレンボルトの間はこれで洗浄できる。しかしキャップ部分から分岐してエンジン上部につながるホースの途中にはサーモスタットがあるので、冷間時は通路が閉じている。サーモスタットの取付ポイントは機種によって異なるが、このような場合はサーモスタットをケースから外して筒抜け状態にしてから注水するとすすぎ洗いができる。サーモスタット着脱が面倒な機種は、ラジエター洗浄剤を注入してエンジンを暖機して、サーモスタットが開いて洗浄剤を循環させてから排出する方法もある。
リザーブタンク内の汚れはタンクをよく振って取り除く。エンジン側の汚れを落としてもタンクが汚れたままでは、冷却液がエンジン側と行き来する間に汚れてしまうからだ。
こうした劣化症状を発見する前に定期的に交換するのが望ましいわけですが、劣化前に交換するのと具体的な劣化を発見した後に交換するのでは若干手順が異なります。通常交換であれば、ウォーターポンプや配管のドレンボルトを取り外してエンジン内部とラジエター内の冷却液を排出し、同じくリザーブタンクに残った冷却液も排出します。しかし画像の例のように排出された冷却液が著しく劣化している場合は、せっかく新しい冷却液を注入してもすぐに濁ってしまうため、冷却系統に残った汚れを水道水で洗い流した方が良いでしょう。
この時、冷間時はサーモスタットが閉じていることを考慮することが重要です。ラジエターキャップ部分からホースの水を注入するとウォーターポンプのドレン部分から汚れが勢いよく排出され、しばらくすれば透明な水道水に変わります。エンジンとラジエター間のサーモスタットが閉じていれば、ウォーターポンプから先のエンジン内部は冷却液が抜けても水道水は循環しないかもしれません。そこで水道水によるすすぎ洗いを行う際は、ラジエターキャップ部分から注入した水がエンジン内に流れ込めるようサーモスタットを取り外すのが有効な場合があります。
ただしサーモスタットの場所やラジエターキャップとの位置関係によって、サーモスタットを取り外してもエンジン内部に充分な水道水が流れ込まない場合もあります。そのような場合には、汚れた冷却液に混ぜてアイドリングすることで洗浄できるクリーナーケミカルを活用すると良いでしょう。
こうした面倒を避けるためにも、決められた冷却液を決められた期間で交換することが重要です。冷却系統への負荷が高まる夏が来る前に冷却液の状態を確認して、必要に応じて交換しておきましょう。
- ポイント1・エンジン内部の冷却液はドレンボルトから排出できるが、サーモスタットの位置によっては冷却経路内のすすぎ洗いが難しい場合もある
- ポイント2・冷却液の汚れが顕著になる前に交換することが重要
編集部注釈:
ロングライフクーラントの主成分であるエチレングリコールは有害です。
人体や環境に悪影響を及ぼすので、廃液は専門の業者に引き取ってもらうか高分子ポリマーなどに吸収して固形化し、燃えるゴミとして処理するようにしましょう。
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