砂埃をかぶり、汚れきった車体だったのが印象的なホンダカブラ。しかしながら、ベースコンディションは想像以上に良かったようだ。エンジン始動さえできれば、タイヤ残量はあるし、トレッドパターンもまだまだ柔らかいので、公道復帰もそうは遠い日にならない雰囲気。ここでは、エンジン始動にチャレンジするが「しばらく乗らずにいたら、始動不良になってしまった……」といった経験があるすべてのバイクに通じる、始動&メンテナンス手順をレクチャーしよう。
目次
燃料=ガソリンは、見て嗅いで判断ができる!!
しばらく乗らなかったバイクのガソリンは、おおかた賞味期限切れ!?になっていると考えよう。ガソリン腐り特有の強烈な臭いがするときは、タンク内の徹底洗浄およびキャブのオーバーホールは必須レベル。ガソリン劣化特有の臭がするものは、ガソリンの入れ換えとキャブ内は要洗浄レベルだと考えられる。臭いは大丈夫でも、揮発性が弱いガソリン=指先で触れたときに、揮発時特有の涼しさを感じないガソリンもすべて交換しよう。要注意なのは、燃料コックやキャブレターのフロートチャンバー内に残留したガソリンである。乗らなくなる前に、コックをオフにしてフロートチャンバー内のガソリンをしっかり抜いてあれば、復活までに大仕事は必要無いことも意外と多い。コックやキャブ内はガソリン残量が少ないだけに、変質しやすい=ワニス状にドロッとなってしまうことが多いのだ。このスーパーカブラは、揮発性が明らかに低下している状況だったが、特有の腐り臭はほぼ無く、キャブ内部もメンテナンス不要。ただし、フロートチャンバー内には残留ガソリンがあったので、一抹の心配はあった。そこで、旧ガソリンをシュポシュポですべて抜き取り、新品ガソリンをタンクに給油。燃料コックをリザーブポジションにしてからしばらく放置し、フロートチャンバーのドレンボルトから落下したガソリン多めに抜いてみた。結果的には、たったこれだけの作業手順で、キャブレターとしての機能はほぼ回復することができた。ラッキー!!
キャブドレンから残留ガソリンを抜いてフレッシュガス供給
4ストロークエンジンのキャブレターには、メンテナンス用にドレンボルトを装備している例が多い(キャブ仕様でも高年式モデルの場合は環境問題でドレンボルトを持たない仕様もある)。そのボルトを緩め、チューブから残留ガソリンが流れ出れば、比較的容易にエンジン始動可能だと判断できる。何故なら、フロートチャンバー内が過度に汚れているとは考えにくいからだ。逆に、一滴も流れ出てこない場合は、乗らなくなる前にガス抜きしたか?もしくは残留ガソリンがワニス状にドロッとなっているか?そのどちらかだと考えられる。今回は、一定量の残留ガソリンが出てきたので、これは「何とかなりそうだ!!」と判断。
ホースストッパで流れを遮断することで楽々分解
燃料ホースやチューブ、冷却水ホースを潰してクランプし、流れを遮断するのがこの工具。作業性を高める工具がホースストッパだ。プライヤー形状で同じ仕事をするピンチオフプライヤーという工具もある。スーパーカブ系は燃料コックがキャブ本体と一体式なので、燃料コックからチューブを引き抜いてしまうとタンク内部のガソリンが流れ出て慌ててしまう。そんなときはあらかじめ燃料を遮断し、作業に取り掛かろう。工具をセットしたら燃料コック本体を取り外し、内部コンディションを確認してみた。想像した通り、キャブ内部はキレイそのものだった。燃料コック周辺のコンディションを確認したら、オイルジョッキを利用しストッパーを開放することで、タンク内部のガソリンはすべて流し出すこともできる。
エンスト、ガス欠症状はタンクキャップの「つまり」を疑え!?
コップに入ったジュースを飲む際、ストロー上端を指先で閉じて持ち上げると、ストロー内部のジュースは流れ落ちない。そんな実験は、誰もが経験したことがあると思う。その現象は、ガソリンタンクでも同じである。燃料コックをオンにしても、タンクキャップのブリーザー機能が良くないとガソリンが流れ落ちなくなってしまう。それが原因で、ガス欠症状になりエンジンストップ……。そんな経験を持つライダーは意外と多いはずだ。ガソリンタンクの場合は、タンクキャップ内部にブリーザー通路を持つ仕様が多い。サビが原因でタンクキャップ内部のブリーザー通路が詰まっている例も多いので、不動車再生時はタンクキャップの穴をエアーガンで必ず吹き付けよう。
スパークプラグの火花チェックは暗がりで
プラグキャップとハイテンションコードがしっかり接続されているか確認したら(キャップがしっかりネジ込まれているか?)、スパークプラグを取り外し、キャップに差し込んだ状態でプラグのネジ部分をシリンダーヘッドに押し付けてセルモーターを回す、もしくはキックを踏み込みスパークプラグの火花を点検してみよう。火花が見えないときには、日陰や蛍光灯を消した「暗がりで点検」してみよう。火花が中心電極と上部電極ではなく、中心電極とネジ部分などから出ているときは、プラグ交換して火花コンディションを再確認しよう。
プラグ穴からオイルスプレーを吹き付け潤いを
スパークプラグを取り外したついでに、プラク穴からオイルスプレーを吹き付けよう。シリンダー内壁とピストンリング間に潤いを与え潤滑性を高めるのだ。しばらく始動しなかったエンジンは、エンジンオイルがクランクケース側へ完全に落ちていることが多いため、オイルスプレーを利用して、復帰初期のカジリを防止するのが目的だ。4ストエンジンの場合は、プラグ穴からひと吹き、ヘッドカバーやタペットキャップを取り外し、カムシャフトやロッカーアーム、タペット周辺など、各摺動部にさらにひと吹きすれば、安心感が高まる。エンジンオイルを塗布してから、セルモーターやキックを踏み込みクランクシャフトを回してみよう。
各種灯火類の正常作動を確認してから試運転
いよいよエンジン始動の段取り開始。フレッシュなガソリンに交換。スパークプラグの火花確認を終えたので、プラグを復元したら燃料コックをオン。チョークレバーを引いてセルボタンを押したところ(ブースターケーブルを使って別のバッテリーから電源投入)、いとも簡単にエンジン始動できた!!チョークを戻してやや高めのアイドリングで回転維持してみよう。キャブが不調だと回転維持すら容易ではないが、このキャブは、コンディションが良さそうだ。ある程度暖機してから空吹かしを何度か行い、アイドリングも安定したのでホーンの作動、ウインカー左右の作動、前後ブレーキランプの点灯を確認。ヘッドライトは常時点灯なので、ヘッドライト、テールランプ、メーター照明の点灯を確認。さらにエンジン回転を高めたときに、ヘッドライトがフワッと明るくなって、ある回転域を境に明るさが一定になることも確認しよう。これは、レギュレーターレクチファイア機能が正しく作動しているか否か?簡単な点検方法でもある。仮に、レギュレーター機能が作動しないと、エンジンの回転上昇に同期して、ヘッドライトは明るくなり続けてしまう。そんな状況だと、走行中の回転上昇で各バルブが次々切れてしまう。
自賠責期間も僅かながら残っていたので、ガレージ近所で試運転。さすがに50ccの排気量は力不足で気持ち良く飛ばせないが、それとは別に、乗っていて楽しいのがスーパーカブの系譜である。やっぱりバイクは楽しいね~♪
キャブ調整で走りがよりいっそう安定する
実走行テストを終えてからアイドリング回転を調整し、さらにパイロットスクリューをゆっくり回して、エンジン回転が一番高まるポイントでスクリューポジションを決定。再度、好みの高さにアイドリングを調整した。また、スロットルケーブルの遊びも多かったので、通常の遊びに調整して作業完了。
- ポイント1・ガソリンコンディションを知ることで、その先のメンテナンス内容を想像することができる
- ポイント2・エンジンや車体コンディションの現状把握を優先する時は、必要最小限のメンテナンス進行にする
- ポイント3・始動前にはエンジン内各部にオイルスプレーを塗布し初期カジリを可能な限り防止する
スーパーカブに限らず、しばらく乗らなかったバイクがエンジン始動しにくい、エンジン始動できないときは、キャブレター内部の残留ガソリンをウエスで吸い取り(流し出し)、フレッシュなガソリンを燃料タンクからキャブへ流し込んでみるのがよい。キャブ内部をフレッシュなガソリンに入れ換えてから、エンジン始動にトライするのだ。少量のガソリンは劣化しやすいが、ガソリンタンク内に一定量以上のガソリンが残っていれば、エンジン始動にこぎつけられる例は意外と多いものだ。
最後に乗ったときに不具合が無く、数ヶ月ぶりにエンジン始動を試みたところ「なかなかエンジン始動できない……」といった経験を持つライダーは数多いはず。放置期間が数ヶ月ではなく、数年になったような場合は、キャブ内のガソリン入れ換えだけではなく、タンク内も含めてすべてのガソリンを入れ換えるのが良い。ババッ、ババッ、と初爆はあるのに、始動にこぎつけられない場合は、フロートチャンバー内部の様子を確認し、必要に応じて取り外し洗浄?それとも分解洗浄するのか?はてまた完全分解のオーバーホール?現物確認後に判断すれば良い。「重傷」と呼べる例は数多くあると思うが、実は、意外と楽に始動復帰できる例も多い。いずれにしても、重要なのは経験値。とにかく経験を積んで、メンテナンスの引き出しを増やせるように、日々、バイクいじりを楽しもう。
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