同じ樹脂素材でも現代のマテリアルと旧車現役当時のマテリアルでは、素材の進化で品質や耐久性に違いがあって当然、経年劣化を考えても、旧車用樹脂部品ほどデリケートなため、やさしく取り扱わなくてはいけない。紫外線によるマイクロクラックが原因で、簡単に亀裂が入ったり、割れたり、最悪で「欠落してしまう」ことも多々ある。ここでは、最近大人気のホンダCT125の兄貴分!?であるCT110の、さらなる兄貴分でもあるCT90純正フレームカバーの欠落部分を修理再生してみた。
目次
70年代樹脂部品はABS素材が多い
ホンダトレールCT125ハンターカブやCT110にとっては先代モデルにあたる、1974年製のホンダトレールCT90用純正フレームカバー。CT90時代は年式ごとに外装パーツのグラフィックデザインやメーカーロゴが異なっていた。素材のABS樹脂は、見るからに経年劣化が進んでいるようだ。
高年式部品と形状が同じだったのでマスター型に利用
左後方、キャブレターをカバーするあたりの締め付け固定部分が完全に欠落していたフレームカバー。標高が高い地域を走る際に、キャブレターの取り扱いを記したデカールがギリギリセーフになっていたのはラッキーだった。部品保護でスリーブワッシャーを使っていても、繰り返しボルトに締め付けられることで固定穴部分から放射状にクラックが入ってしまうことが多い。そんな不安要素も含め、修理再生したいが……。
「プラスチックねんど」を使って型取り
ホームセンターのクラフトコーナーを散策していたときに偶然発見!! 興味深い新製品がいろいろ登場するホームセンターで、ひまつぶしするのも楽しい。この商品は、沸騰したお湯に浸すことで柔らかくなるため、型取り用として利用できる「プラスチックねんど」。冷えると再び硬化するので、繰り返し利用することが可能だ。
プラスチック欠落部を接着充填できる「プラリペア」
各種ケミカルやメンテナンスツールを積極的に取り扱うデイトナ。今回の欠落部分修理には、デイトナが取り扱うプラリベアを利用した。ペイント仕上げの予定なので、敢えて塗料の「赤色の発色」が良くなる黄色のプラリペアを使って造型充填補修してみた。隠ぺいしにくいカラーの場合は、下地の色が仕上がりを左右する。このプラリペアはABSやアクリル樹脂の接着では特別高性能だが、同じ樹脂でもPP系には不適合だ。
プラスチックねんどを鍋で茹でて、やわらかくする
沸騰したお湯の中へプラスチックねんどを投入。果たして何枚投入したら良いのか?よくわからなかったので多めに投入してみた。このプラスチックネンドは何度も再利用可能なのが嬉しい。温まって柔らかくなったら、箸を使ってお湯の中から取り出し、マスター部品の複製したい箇所にプラスチックねんどを押し付け、見切りエッジまでねんどを回り込ませるように型取りする。
マスター型=複製元に押し付けて形状再現
見切り部分にしっかり回り込むような形状に押し付け、平面部分にエアー噛みが発生しないようにしっかり指先で押し付けよう。そして完全硬化を待つ。冷えることでプラスチックねんどが硬化しはじめる。ある程度固まったら取り外すが、複製元の部品の塗膜剥がれには要注意。シリコンスプレーを離型剤としてあらかじめ吹き付けておくのも良い。今回、形状複製する部分には、締め付け固定穴かあるので、その部分にもねんどが回り込むように型作りの際には指先を押し付けよう。穴部分のねんどが出っ張り過ぎると抜き取りが難しくなるので、ツライチ程度にしておくのがよい。
欠落部分に複製型をセット=固定してプラリペア充填
欠落したフレームカバーにプラスチックねんどの型をセット。この際には、小型のシャコ万を利用するとピタッと型合せしやすく作業性も良いようだ。この固定の際に、ねんど型がズレてしまっては失敗の原因になる。ガムテープなどでサポートしても良い。慌てずに作業を進めていこう。段取り次第で勝負は決まる。ここでは「ふりかけ法」と呼ばれる作業方法で補修進行した。プラリペアの粉末をあらかじめ複製型の中にサラサラッと流し入れ、型の中に満遍なく粉が回り込むように丁寧に作業する。そして、シリンジからプラリペア液をゆっくり染み込ませながら流していく。全体的に満遍なく行き渡らせるのがコツだ。液が染み込むと明るい黄色から乳白系の黄色へ変化し硬化する。この状態で、一昼夜硬化を待とう。
複製修理の継ぎ合わせ完了
一昼夜経過後、完全硬化を確認してから(ドライバー先端で突っつき音が軽ければ完全乾燥と判断できる)プラスチックネンドを取り外す。外しにくいときには、ニッパで複製型をカットしても良い。色違い=黄色部分がプラリペアで補修した箇所だ。肉厚がある部分だったので、欠落見切り部分は事前にアセトン+綿棒で脱脂した。強度が心配な場合は、敢えて接合面積を広げるために、接着面に凸凹加工を施しても良い。
敢えて傷口を広げるのが「開先」加工
補修した部分以外にもクラックがあったので、そのクラック部分の裏側にV溝をリューターで加工してプラリペアで接着補修した。肉厚がない部分なら半日程度でプラリペアは硬化する。ボルト締め付け部は小さなクラックが入りやすい。そんな部分のクラックにもリューターの刃を入れてV溝=開先(かいさき)を掘り、プラリペアで接着充填補修しよう。
全体的な強度アップを視野に入れたいのなら
単純に薄く補強したいならサフェーシングマットのような硝子繊維も利用できるが、サフェーシングマットは強度が無いためお勧めできない。ここでは、最強の強度を望みカーボンクロスを利用し補強した。補強箇所の裏側は、ベルトサンダーで塗装を剥がしてポリ樹脂が食い付きやすいように足付けしよう。カーボンクロスは面補強に適している。補強繊維がガラスでもカーボンでも使う樹脂はポリエステルで良い。硬化剤をいい加減な分量で入れてしまうと硬化不良を起こすので、混合比率を絶対に間違えないように注意深く混合しよう。
色合せがきまれば仕上がりはバッチリ!!
いよいよペイント仕上げだが、色褪せがある中古部品のコンディションに合わせた色作りをしなくてはいけない。サンメカに色合わせは難しいので、このあたりはプロの仕事である。しっかり吹付けてツヤを出すような塗り方ではなく、敢えて全体的にヤレている雰囲気を再現できる仕上がりを目指してみた。吹き付け圧力やガンノズルからのペイント吐出量を何度か調整しながら作業進行。全体的な雰囲気に合わせてペイントした。作業終了後は乾燥機を利用して、50℃設定で30分間乾燥させた。
OHVエンジンを搭載したCT200に始まり、その後、CT90→CT110へと進化しつつ約35年間生産され続けてきた、通称「ハンターカブ」シリーズ。最新のCT125では、キャブレターからフューエルインジェクションへ進化。さらに扱いやすさを増して、大人気モデルへと成長進化している。
撮影協力:モデルクリエイトマキシ
- ポイント1・カセットコンロを利用することで作業性が良くなる
- ポイント2・補修箇所の形状によってプラリペア層が厚くなるので、しっかり完全硬化待ちしよう
- ポイント3・面強度を高めたいときにはFRPやカーボン(CF)のクロス繊維を併用するのが良い
新旧モデルに関わらず、バイクライフを楽しんでいるとプラスチック部品の割れや欠落でガッカリしまうことがある。転倒なら当然、僅かな立ちゴケでも大きなダメージを受けてしまうことがある。そんなプラスチック部品の修理再生が可能になるのが、プラリペア=ブラスチック部品の充填接着剤だ。
ここで修理する部品は、ホンダのハンターカブと呼ばれるシリーズの「フレームカバー」である。デザイン的には見慣れた部品だが、ロングセラーモデルで、この部品は70年代中頃に生産されたモデル用だ。材質はABS樹脂のようだが、単なる亀裂や割れの補修ではなく、部分的に「欠落紛失」している箇所があるため、高度な補修が必要だと考え、プロに依頼。ここでは、その様子をご覧頂こう。
このような部品を修理する時には、事前にどんなことに気を配ればよいのだろうか?修理をお願いしたモデルクリエイトマキシの板橋さんに尋ねてみた。
「修理そのものは難しくないと思いますが、欠落紛失した部分のデザインを復刻するなら壊れてない部品を利用して、その形状をコピー=複製するのが一番確実です」との回答。そこで、形状がほぼ同じCT110ハンターカブ用の純正フレームカバーを準備し、複製型を使って欠落部分を「プラリペアで複製造作」することになった。
作業時に注意すべきは、プラリペアの硬化し始め2~3時間程度で型から部品を抜き取らないこと。ぶ厚く充填=盛り上げた部分は、完全硬化に至るまでには一昼夜以上の時間が必要なのだ。要するに、完全硬化後に型から抜き取らないと、製品が歪んで変形してしまうのだ。また、完全硬化前だとヤスリでの切削や形状合わせが難しく、チカラの入れ具合で製品が簡単に変形破壊してしまうこともあるそうだ。
いくら修理しても、経年劣化が進んでいる部品は、再び割れてしまう可能性が大きい。そこで、広範囲に形状復元した場合は、裏側を補強した方が良いそうだ。今回は、カーボンクロスをポリ樹脂で貼り込み、広範囲を補強することにした。
一昔前なら、割れた部品はゴミ箱行きだった。年式違いでも、ボルトオンできる後期モデル用パーツがあるなら、交換してしまうのが常套手段でもあった。しかし「当時物」とか「年式相応」といった言葉の意味が重くなった昨今では、修理することに意義がある。そんな現代認識を踏まえても「修理再生」には意義がある。
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