
すべての回転部分や往復摺動部分には適正な隙間=クリアランスが設定されています。経年劣化などでその数値が変化した際には測定によって修理や部品交換の判断をしますが、場所によってさまざまな測定方法が用いられます。なかでもクランクシャフトやコンロッドなど、狭い隙間を測定する際に活用されているのがプラスチゲージです。
クリアランスを測定するには2種類のゲージが必要
一体式クランクシャフトを組み込むクランクケースの受け部分にはまっているのが、プレーンメタルベアリング。クランクシャフトのメインジャーナルの外径と受け部分の内径の差とクリアランスの設定値によって必要なベアリングの厚みが決まる。実際にはクランクジャーナル外径とクランクケースの受け側内径サイズには一定の幅があり、その組み合わせからメタルを選定する。クリアランスが過大だと回転時に打音が発生し、過小だとメタル表面が焼けて剥離するなどトラブルの原因になる。
ピストンとシリンダーやクランクシャフトとコンロッドなど、エンジン内部で摺動や回転運動を行う部分には必ず適正なクリアランスが設定されており、その隙間をエンジンオイルで潤滑することで滑らかな動きを実現しています。エンジンのオーバーホールやチューニングで純正よりボアの大きなピストンを組み込む際にはピストンクリアランスを指定する必要がありますが、メーカーが設定する標準値に対して作業者の意志を加えて狭くしたり広くすることがあります。
例えば空冷エンジンをチューニングしてレースに使うような時には、エンジン温度や油温上昇によるピストンの膨張を見越してクリアランスを大きめに設定することがあります。ただ、油温やエンジン温度が低い間は過大なクリアランスはピストンの振れやブローバイガス増加の原因になることもあります。逆に粘度が低い高性能オイルを使うことを前提に、クリアランスを狭めに設定するという手法もあります。
ピストンサイズを変更してクリアランスを指定する際は内燃機ショップに任せることになりますが、現状のピストンとシリンダーのクリアランスを測定することはDIYでも可能です。ただしその際は正確なピストン外径値と正確なシリンダー内径値を知ることが必要で、2種類のゲージが必要になります。一つは外径を測定するマイクロメーターで、もう一つは内径を測定するダイヤルボアゲージ(ダイヤルシリンダーゲージ)です。いずれのゲージも0.01mm単位の測定が可能で「シリンダー内径-ピストン外径=ピストンクリアランス」という数式が成り立ちます。
大量生産されるシリンダーとピストンにはそれぞれの寸法に許容範囲があるため、クリアランスにもまた許容範囲があります。例えば画像のカワサキゼファーXの場合、ピストンクリアランスは0.020~0.052mmが許容範囲です。
マイクロメーターとダイヤルボアゲージがあればピストンクリアランスの測定が可能ですが、すべてのエンジンで通用するとは限りません。どちらの測定機器も測定できる範囲が決まっているのです。マイクロメーターの場合、0~25mm、25~50mm、50~75mm、75~100mm用と25mm刻みで区切られています。一方、とあるメーカーのダイヤルボアゲージは18~35mm、35~50mm、50~100mm、50~150mmという測定範囲になっています。ゼファーXの公称ボアは55.0mmなので50~75mmのマイクロメーターと50~100mmのダイヤルボアゲージの組み合わせで測定できます。しかしホンダモンキーやカブなどの横型エンジンのボア径は39.0mmなので、ゼファーX用に揃えた測定機器はどちらも使えません。このように、マイクロメーターやダイヤルボアゲージは測定する寸法と機器の測定範囲が合致していることが必要です。
- ポイント1・回転や摺動部分に必要なクリアランスを測定するにはマイクロメーターとダイヤルボアゲージが必要
- ポイント2・マイクロメーターとダイヤルボアゲージは測定範囲が細かく分かれているので、測定部位に応じた機器を用意する必要がある
プラスチゲージならリーズナブルに隙間測定ができる
プラスチゲージはロウのような硬さの細い糸状をしており、この太さを厳密に管理してあることで潰れた時の隙間が測定できる。元々アメリカで生まれた測定用品なので、㎜換算された帯の幅がやや分かりづらい。工具ショップでよく見かけるプラスチゲージは、測定できるクリアランスによって4段階の太さに分かれているので、サービスマニュアルで測定部分の標準クリアランスを調べてから入手する。
測定部分の幅に合わせて任意の長さに切断する。マイクロメーターとダイヤルボアゲージで測定できるのは特定の一点のクリアランスだが、プラスチゲージは挟み込んだ幅の分クリアランスが測定できるので、ジャーナルとメタルの当たり面が傾いているような状況ではその変化の様子が分かる。
ピストンとシリンダーのクリアランスは摺動部分の隙間ですが、回転部分にも適正なクリアランスが存在します。なかでもクランクシャフトやコンロッドなどエンジンの根幹部分のクリアランスは重要です。そのため一体型クランクシャフトを採用するエンジンの場合、クランクシャフトのメインジャーナル外径とクランクケース内径を元に半円形のプレーンメタルベアリングを選択します。具体的には、メインジャーナル外形とクランクケース内径には0.005mm程度の差で数種類の寸法があり、クランクシャフトとクランクケースにはそれぞれ寸法を示すマークが打刻されています。プレーンメタルベアリングにも厚さが異なる数種類が用意されており、クランクシャフトとクランクケースのマークを掛け合わせることでどのベアリングを選択すれば良いかが分かり、その結果適正なクリアランスが得られるという仕組みになっています。
クランクシャフト外径とクランクケース内径とベアリングの厚さの組み合わせからなる実際のクリアランスは、先に説明したマイクロメーターやダイヤルボアゲージの組み合わせで測定できます。しかし、回転部分のクリアランスを知るためのもっと簡単なアイテムがあります。それがプラスチゲージです。
プラスチゲージの見た目は細い糸のようで素材は石油系ワックスからできています。この糸を測定部分に置いて、押しつぶした時にどの程度潰れたかによって隙間=クリアランスが分かるという、とても原始的ながら明確な測定ができるのが特長です。クランクシャフトのメインジャーナルとメタルベアリングのクリアランスを測定する場合、メインジャーナルの上にプラスチゲージを置いてクランクケースで挟み、規定トルクでクランクケースボルトを締め付けるとゲージが潰れます。その後クランクケースを開けて潰れたゲージの幅をガイドと比較することで実際の隙間が分かります。
隙間の広い部分に細い糸を挟んでも潰れず、逆に狭い隙間に太い糸を挟むと合わせ部分が閉じきらないことがあるため、プラスチゲージは測定可能な隙間範囲に応じて糸の直径が異なる4種類が用意されています。測定範囲に応じて使い分けるのはマイクロメーターやダイヤルボアゲージと同じです。ただしそれらに比べてプラスチゲージは圧倒的にリーズナブルなのが特長です。ゲージを用いた測定でもプラスチゲージを用いた測定でも同じ結果になるはずですが、挟んで潰すプラスチゲージの方がより単純で直観的に使えるのもサンデーメカニックにとっては魅力かもしれません。
- ポイント1・プラスチゲージは糸状のゲージを隙間に挟んで潰れた幅でクリアランスを判定する
- ポイント2・回転部分のクリアランスを測定できるが、摺動部分のクリアランスを測定するものではない
メタルクリアランスの測定時は指定トルクで締め付ける
メタルが当たるジャーナル面全体にプラスチゲージを置く。測定は一カ所ずつ行っても良いが、すべてのジャーナルを同時に測定することもできる。4気筒エンジンのカムシャフトのジャーナル部分を同時に測定すると、クリアランスの大小が潰れ幅の広い狭いに反映されるため視覚的に判断できる。
コンロッド大端部のクリアランスを測定する際はクランクシャフトをバイスに挟んでも良い。回転部分に油膜があると正確なクリアランスが測定できないので、クランクシャフトもコンロッドも脱脂洗浄して、コンロッドベアリングのメタル表裏の油分も拭き取ってから組み付け、規定トルクでコンロッドナットを締め付ける。
プラスチゲージを潰したクランクケースロアやコンロッドキャップを、引きずったり回さないように注意しながら静かに取り外して、潰れたプラスチゲージにパッケージに印刷された帯部分を合わせてクリアランスを読む。ゼファーXのコンロッド大端部のクリアランス標準値が0.035~0.059mmなのに対して実測値が0.038mmなので、現在のメタルで問題ないと判断できる。
プラスチゲージを使用する場合、測定部分は使用時と同じ手順で組み付けます。メインジャーナルとメタルベアリングのクリアランスを測定する場合、クランクシャフトを押さえるキャップ部分のボルトは必ず指定順序で締め付けます。クランクシャフトのように長い回転部品を固定する際は中央から外側に向けてボルトを締めるのがセオリーで、メーカーではそうすることですべてのジャーナル部分を均等な力で締められることを確認して順序を指定します。クランクケースは強度の高い部品と思われがちですが、自動車用の頑丈な鋳鉄ブロックならいざ知らず、バイク用のアルミ製クランクケースはデリケートな扱いが必要です。
コンロッド大端部とクランクシャフトのクランクピンのクリアランスもプラスチゲージで測定できます。この場合、クランク単品にコンロッドをセットしてキャップを規定トルクで締め付けることで、ゲージの潰れ幅から実際のクリアランスを知ることができます。潰れ幅からクリアランスを判定するガイドはプラスチゲージの紙製パッケージそのもので、本当に印刷された帯を信頼して良いのかどうか不安になるほどですが、サービスマニュアルで確認した標準値の範囲を測定できるゲージを使えばマイクロメーターとダイヤルボアゲージを使用した測定と同等の結果を得られます。
クランクシャフトやコンロッドが取り出せるところまでエンジンを分解すること自体、バイクユーザーの中でもかなりディープな上に、さらにプラスチゲージでメタルクリアランスを確認するとなればマニアックないじり好きであることは間違いありません。しかしオーバーホールやチューニングの際により良いエンジンを組み立てたいと思ったら、頼りになるゲージを使って回転部分のクリアランスを適正値に合わせることが重要であることを知っておきましょう。
- ポイント1・プラスチゲージでクリアランスを測定する際は組み立て部分を規定トルクで締め付ける
- ポイント2・潰れたゲージの幅をパッケージに書かれた帯の太さと比較してクリアランスを測定する
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