操縦安定性の鍵を握るサスペンションのコンディションは、定期的な内部洗浄やフォークオイル交換によって維持されます。フローティングバルブタイプの正立フォークを分解整備する際にはシートパイプも取り外しますが、せっかくの作業を無駄にしないためにもオイルロックピースの扱いに注意しましょう。

知っているようでよく分からない?オイルロックピースの役割

チェリアーニ式フロントフォークのインナーチューブ(上)内部に挿入されているシリンダー(下)には、インナーチューブが伸びきった際の衝撃を緩和するリバウンドスプリングが組み込まれている。この画像にはないが、シリンダーの先端(左端)にオイルロックピースが差し込まれる。

いわゆるチェリアーニ(セリアーニ)タイプの正立式フロントフォークは、インナーチューブとアウターチューブ、インナーチューブ内側のシリンダー(シートパイプ)、フォークスプリングなどで構成されています。フォークオイルを交換する際はトップキャップを外してスプリングを抜いて、フォーク自体を逆さまにしてオイルを排出します。もう少し本格的に分解整備を行うなら、アウターチューブ下端のキャップボルトを緩めて、インナーチューブ内のシリンダー(シートパイプ)を外し、アウターチューブからインナーチューブを引き抜くことで内部パーツを取り出すことができます。

インナーチューブ内に収まる短いパイプ状の部品をシリンダーというかシートパイプというか、あるいはダンパーロッドと表現するかはバイクメーカー、さらにさかのぼればサスペンションメーカーにより呼称は異なります。しかしいずれもアウターチューブとインナーチューブとシリンダー内部の空間をオイルが移動する際に発生する抵抗によって減衰力を発生させるという仕組みは同じです。

インナーチューブからシリンダーを引き抜くと、その先端に肉厚が薄いアルミ製のカラーのような部品が装着されています。これがオイルロックピースです。先端がテーパー形状に加工されたオイルロックピースの外径はインナーチューブ先端の内径より僅かに細くなっています。インナーチューブが圧縮されるとアウターチューブとシリンダー外側間のオイルはシリンダー内側やインナーチューブ先端のバルブを通してインナーチューブ内に流れていきます。さらに圧縮されるとインナーチューブ先端とアウターチューブの底が突き当たってしまいますが、その手前でオイルロックピースがインナーチューブ先端の内側にかぶさり、オイルの流れが強制的に遮断されます。オイルは圧縮による体積変化がないのでロック状態になりそれ以上インナーチューブは縮まなくなるので、事実上のストロークはここで終了します。

フルストロークでインナーチューブとアウターチューブが突き当たるなら、わざわざオイルロックピースなど無くても良い気もしますが、液体であるオイルでロック状態を作ることで、部品同士がダイレクトに衝突することを避けられる利点があります。走行中に意図的にフロントブレーキを強く掛けると底突き感がありますが、ガツンと衝撃を感じてもそれはオイルによってダイレクトはショックは緩和されているのです。オイルロックピースによってインナーチューブ先端とアウターチューブ底の接触を避けられるものの、その分いくらかのストローク長は無効状態になります。そのため、レースなど限られた状況下では安全マージンよりフロントフォークの有効ストローク量を優先し、あえてオイルロックピースを外す場合もあります。ただしそれは特殊な使い方であり、一般的にはオイルロックピースのメリットが勝ることは言うまでもありません。

ここではフローティングバルブタイプの正立式フロントフォークで説明していますが、倒立フォークでもインナーロッドタイプでもストロークの最後の最後で部品同士の衝突を避けるオイルロックピースが組み込まれています。

POINT

  • ポイント1・オイルロックピースはフローティングバルブタイプの正立式フロントフォークのシリンダー先端に装着されている
  • ポイント2・フロントフォークがフルストローク近くになるとオイルロックピースによってオイル通路が閉塞され、底突き感が緩和される

オイルロックピースのかじりでサスペンションの特性が変わることもある


分解したフロントフォークを組み立てる際は、インナーチューブにシリンダーを通してから先端にオイルロックピースをセットした状態でアウターチューブに挿入する。沈み込んだインナーチューブがオイルロックピースのテーパー部分に到達するとオイル通路が閉じてそれ以上ストロークできなくなる。


シリンダー固定ボルトを締める際にシリンダーが供回りする時は、専用工具の固定ソケットをシリンダー上部に押し当てて回り止めにすると良い。オイルロックピースがアウターチューブのボルト穴位置にうまく収まらない時にも、この工具でシリンダーを誘導するとよい。ただしシリンダーの内径によっては、四角錐が引っかからない場合もある。

DIYでフロントフォークのオーバーホールを行っていると、シリンダーの先端に付くオイルロックピースは単なる一つのアルミ部品という印象しかありませんが、説明した通りその機能はとても重要です。ところが、外したシリンダーとオイルロックピースを復元する際に、不測のトラブルが発生することがあります。その代表例がオイルロックピースのかじりです。

フロントフォーク組み立て時にはインナーチューブに通したシリンダーの先端にオイルロックピースを差し込み、その状態でアウターチューブに挿入。アウターチューブの底面にシリンダーが接したら、アウターチューブ下端からキャップボルトでシリンダーを引き込みながら指定トルクで締め付けて固定します。ボルトを回すとシリンダーが供回りする時はインナーチューブにホルダーツールを差し込んで押さえます。

一連の流れはとてもシンプルですが、アウターチューブにシリンダーを締め付ける際に正しく中心にあるか否かが重要です。シリンダー先端の雌ネジ、アウターチューブ底部のボルト穴、オイルロックピースの内径と外径加工がすべて加工誤差ゼロで中心を貫いていれば何も考えずにボルトを締めれば良いはずです。しかし現実には、すべてのパーツには許容範囲の公差があります。先に挙げたパーツはもとより、アウターチューブの内径と底部のボルト穴、インナーチューブの内径がシリンダーに対してど真ん中であるかどうかも、大前提として許容範囲内に収まっているとしても厳密にはわかりません。

そしてそれぞれのパーツのほんの僅かなズレが重なることで、インナーチューブ先端とオイルロックピースの中心がずれて、フルストローク時に両者が物理的に接触してしまうことがあるのです。確実にそうなるというわけではなく、あくまでその可能性があるということです。しかし組み立て作業を無意識に行うことで、オイルロックピース底面とアウターチューブの据わりが悪く、シリンダーが僅かに傾いた状態で組み付けられてしまった実例もあります。またインナーチューブが強く当たったような痕跡のあるオイルロックピースを分解時に発見したこともあります。

インナーチューブとオイルロックピースがかじってフリクションロスが発生したとしても、実際のフロントフォークではスプリングや空気ばねの反力の方が勝るため、フルストロークままロックすることはないでしょう。しかしインナーチューブとオイルロックピースの芯がずれていればオイルロック時の減衰力特性は設計値どおりにはならないでしょうし、物理的な接触があることでフォークオイルの劣化が早まることも考えられます。

POINT

  • ポイント1・フロントフォーク内部の構成部品にはそれぞれ許容範囲内の公差が存在する
  • ポイント2・それぞれの部品の僅かなズレが、オイルロックピースとインナーチューブの接触を引き起こす場合がある

組み立て時のセンタリングでオイルロックピースの偏当たりを防ぐ


シリンダー固定ボルトはガスケットを新品にしてアウターチューブ座面を清掃してから取り付ける。オイルロックピースが着座するアウターチューブ底面の汚れや異物が残らないよう清掃しておく。


シリンダー固定ソケットにエクステンションバーをT型ハンドルを取り付けてフォーク自体を倒立状態にすると、インナーチューブとオイルロックピースの干渉を確認しながらボルトを締め付ける作業がやりやすい。ボルトを締めるトルクを強くするとオイルロックピースが干渉するようになる場合、アウターチューブ底面に対してオイルロックピースの収まりが悪くシリンダーがわずかに傾いている可能性があるので、ボルトを緩めて組み付け位置の微調整を行ってみよう。

オイルロックピースがインナーチューブ中心にいなくても、通常の走行時には大きな問題にはならないかもしれません。しかし中心にあるべき部品がないというのは気持ちの良いものではありません。ではインナーチューブを覗き込んでも見えないオイルロックピースの位置をどのように判断するのか。それを知るにはシリンダー組み付け時にインナーチューブをストロークさせれば良いのです。

シリンダーを固定するキャップボルトを仮締め状態にして、オイルロックピースの芯がずれた状態でインナーチューブをストロークさせると、最も縮んだ状態で両者が擦れる感覚が掴めることがあります。インナーチューブを回しながらストロークさせて、どこでも感触に変化がなければオイルロックピースは接触していないと判断して良いでしょう。ボルトの締め具合によって接触が感じられたりなくなったりする場合、オイルロックピースの底とアウターチューブの底がぴったり密着しておらず、ボルトを締めることでオイルロックピース(とシリンダー)の傾きが増しているのかもしれません。

こうした現象は目視できないアウターチューブの内側で起こっているため、何が本当の原因かを突き止めるのは簡単ではありません。しかしシリンダーとアウターチューブの位置関係、オイルロックピースとインナーチューブの位置関係を変えることで擦れ症状を対症療法的改善できる可能性はあります。フロントフォークを分解した際にオイルロックピースにカジリや擦れ痕がなければ、復元時にも両者を接触させずに組み立てられる可能性は高いはずです。

オイルロックピースが機能するのはフルボトム近辺の限定的な条件下であり、通常の走行時にはプリロードやフォークオイル油面変更の方が違いを感じやすいのは確かです。しかしせっかくオーバーホールを行うのであれば、全領域で100%の機能を発揮できるよう組み立てたいものです。そのためにも、シリンダー先端のオイルロックピースの役割と重要性を理解しておきたいものです。

POINT

  • ポイント1・シリンダー固定ボルトを本締めする前に、インナーチューブをストロークさせてオイルロックピースと干渉しないかを確認する
  • ポイント2・ボルトの締め付け具合でカジリや擦れが発生する場合は、組み付け面のゴミや異物の有無を確認する

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