
昭和30年代以前に生産されたバイクには、各所に「銘板(めいばん)」と呼ばれるアルミ製の型式明示やコーションプレートなどがリベットで留られていることが多い。70年代以降は、印刷のアルミ銘板をステッカーのように接着する仕様が多いが、そんな銘板が汚れたままや色抜けしたままでは、せっかく仕上がったバイクのクォリティが今ひとつに見えてしまうことになる。ここでは、ほぼフルレストア完了したのに、型式明示が今イチ汚い、ヤマハYA5の「銘板」再生にチャレンジしてみよう。
目次
現状把握と段取りから開始
ステアリングヘッドパイプの正面にリベット留めされているヤマハのレジストリー銘板。この時代のヤマハ車は、フレームへの直接打刻ではなく、銘板への打刻でフレームナンバーを明確化していた。現代のバイクとは異なり、フレームナンバー、エンジンナンバー、排気量などの詳細が明記されていた。ステアリングヘッドパイプから取り外すだけでも苦労したのがこの銘板。汚らしく擦れ、色抜けしてしまった文字が、しっかり読めるようになればラッキーなのだが……。果たしてどんな作業手順で進めるのだろうか?まずはアセトンを染み込ませたティッシュで、汚れや旧ペイント落としから始まった。
銘板を固定しないと作業性が悪いので、フレームのステアリングヘッドパイプとほぼ同じ太さの丸材木を用意。その材木に銘板を押し当て、ラウンド形状が崩れている箇所をゴムハンマーで叩き、徐々にエッジのヨレを修正していった。
まずは慎重に板形状を再生
リベットで固定されていた上下の穴部分は、さすがに叩き込まれたリベットによって潰れていた。明らかな折れや潰れがあるときには、先細のラジオペンチを利用して銘板にキズを付けないように修正。プライヤーだけでは起こせなかった潰れは、平ポンチを使って裏側から叩き出す。この作業時には、鉄板を当て板にし、逆に叩き過ぎて表側へ出っ張らせないように慎重に作業を進めていった。裏側の汚れもしっかり落した。
FRP用離型剤を応用で利用
ベースとなるアルミプレートの形状修正を終えたらいよいよペイントだが、その段取りで登場するのがフィルムタイプの離型剤「リゴラック」。細かな文字部分にはマスキングが必要になるが、そこでこの離型剤を応用するのだ。無色透明なので、塗ったか?塗って無いか?今イチわかりにくい。そこでリゴラック用の顔料を混ぜて、ほんの少しだけ着色してから利用。こうすると塗り分けやすいそうだ。
細筆でマスキング箇所へ塗布
無色透明のフィルム式離型剤のリゴラックに顔料=トナーを混ぜて僅かにオレンジ色に着色。こうして使うことで、塗った部分と塗っていない部分の境界が少なからずわかりやすい。細筆にも様々なタイプがある。毛の堅さに違いがある商品もあるので、数種類用意して使い比べしてみるのが良い。
マスキング後にペイントするが……
軽くて持ちやすい作業台が無いものか……。飲みかけだった缶コーヒーボトルに銘板をセットしてみた。すると寸法がほぼドンピシャ!!プレミアムBOSSのブラック。残りを飲み終えてから接着が弱い紙製両面テープで缶コーヒーの側面に銘板を添付。離型剤を塗布した上から黒ウレタン塗料を吹付けた。離型剤の厚さも含めてゴツゴツに見えてしまうが、果たしてどんな仕上がりになるのだろうか?
デザインカッターの先でフィルムを剥がす
吹付けた黒ウレタンには、フラットベースと呼ばれる艶消し剤を混ぜ、やや艶消しの7分ツヤ程度の仕上がりを目指している。塗膜を完全硬化させるために乾燥機へ投入。50℃設定で1時間程度乾燥させることにした。
ウレタンペイントは硬く簡単にはキズが付きにくいようなので、ラッカーと比べて作業性は良いようだ。デザインカッターやピンセットを使って離型剤を剥がすと見事なまでに美しい。ここで150mmの金尺を用意して、片面の先端寄りに両面テープで800番の耐水ペーパーを接着する。エッジ外周のアルミ地肌部分の磨きに使うようだ。
ビフォーアフターの違いは見ての通り!!
左が完成後、右がフレームから取り外した直後の銘板。ここまで美しくなると、フルレストアの完成度が一気に高まる。取り付け復元するのが嬉しくなる!!
取材協力:モデルクリエイトマキシ
- ポイント1・銘板を車体から取り外す際には、慎重に作業進行しよう。リベットでしっかり固定されているときには、まずはリベットの打ち込み緩めから
- ポイント2・ リベット固定位置が板状で、裏側にリベット先端が飛び出しているときには、その先端を裏側から平ポンチで叩くと良い
- ポイント3・ 離型剤を塗るときには細筆を数種類用意しよう。刷毛ではなくしっかりした毛筆用の筆を使って正確に作業進行しよう
- ポイント4・ 仕上げ磨きで塗装にダメージを与えないように注意しよう
現代のバイクと旧車を比べると、カルチャーショックを受けるほど「何コレ!?」といった部品が意外と多い。車体部品のマテリアル=素材の比較でもそれは明らかだ。50年代後半になるとプラスチック樹脂が外装部品に使われるようになるが、当時の素材は樹脂の規格表示、例えば「PE」とか「PP」ではなく、製造元が命名した登録商標名=商品名(例えばハイゼックス=スーパーカブなどのレッグシールドなど)で呼ばれていた。ちなみにメーカーによっては、ガソリンタンクを銅板マテリアルで製作していた。銅板プレス部品をロウ付けやハンダで接合していた例もあった。
スーパーカブが登場した頃から、小型車の外装パーツには樹脂部品が多くなった。当時の部品を現代的に表記すればPE=ポリエチレン系素材が多いようだが、現代のPEとは耐候性が異なり、開発当初は苦労が多かったようだ。60年代に入るとABS樹脂(アメリカのデュポン社が開発)が数多く使われるようになるが、バイクの世界でABS樹脂が本格的に使われ始めたのは70年代に入ってからである。とにかく樹脂部品は紫外線に弱く、退色劣化しやすいことでも知られている。しかし、その一方では、大量生産には極めて適していたので、そんな技術革新を繰り返し続けてきたことで、日本の工業製品は、世界市場でも通用する、世界一の生産量を誇ったのである。
今回は、アルミ薄板部品の修復再生である。前述したように60年代前半以前のバイクには、鉄やアルミ素材が数多く使われていた。そんな当時のバイクを見ると、車体やエンジンに「銘板」と呼ばれるプレートがリベット留めされていることが多かった。車体なら車名や生産打刻、運輸省の型式認定表示も銘板だ。エンジンなら「MADE IN JAPAN」とあったり、搭載エンジンの「型式」を銘板表記する例も数多かった。
ここでは、その銘板再生にチャレンジしてみよう。1961年に登場したヤマハ125YA5用の型式銘板である。車名や型式、さらにはエンジン出力などを明示し、ステアリングヘッドパイプにリベット固定されていたものだ。数十年もの間、ほぼ露天放置され続けてきたヤマハ125の銘板を再生できるものなのか?いつものようにモデルクリエイトマキシに部品を持込み、再生できるものか相談してみた。
「もっとコンディションが良ければ、仕上がりは当然良くなりますが、これだけクタクタの部品ですからね……。やってみましょう!!」ということで、作業に取り掛かった。そして数時間後には、ご覧のように大満足の仕上がりになった。バイクは美しくレストアされているのに、銘板だけは「薄汚れたままの状態」といったフルレストア車は意外と多い。心当りがある方は、是非、銘板再生にチャレンジしてみよう。
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