エンジンにとって空気と燃料と電気火花はどれ一つ欠けてもならない重要な要素です。なかでも空気が不足すれば燃料と火花があってもエンジンは動きません。その空気の入り口にあるエアクリーナーはエンジン馬力や燃費に直結する重要な部品であり、目詰まりがないようコンディションに配慮することが必要です。

エアフィルターの機能はバイクもエアコンも同じ


エアクリーナーボックスの大半を占めるエアフィルター。この機種の場合、フィルターカバーにインテークダクトがあり、吸い込まれた空気はフィルター外側から内側に向かって流れる。空気は少しでも抵抗の少ない場所から流れようとするので、フィルターオイルを塗布するタイプは全面的に均等に塗布することが重要だ。

エアクリーナーボックスの入り口に装着されているエアフィルターはとても地味な存在です。スマホホルダーやUSB電源などアクセサリー類の取り付けに興味があるバイクユーザーは多いでしょうが、常にエアフィルターに気を配っている人は少ないはず。エアコンのフィルターも同じで、冷暖房効率や消費電力に注目するユーザーは多いですが、フィルターのメンテナンスをマメに行うユーザーはそれほど多くありません。

エアコンのフィルターは室内のホコリを吸着し、空気の吸気量を低下させます。すると冷風や温風の元となる空気量が少なくなるため、モーターは勢いよく回って風量を稼ごうとするため電力消費量がアップします。だから高価格帯のエアコンにはフィルター自動お掃除機能などが搭載されているわけです。

バイクのエアフィルターもそれと同様で、エンジンが動いている間はずっと大量の空気が通過しています。フィルター表面でゴミやホコリをキャッチすることでエンジン内部を保護しますが、フィルターの目が詰まることで吸い込める空気の量が減少します。自動お掃除機能付きエアコンを利用していると、わりと頻繁にフィルター掃除モードに入っていることに気づくことがありますが、バイクのエアフィルターは自動的にきれいにはなりません。基本的には走行距離に基づいて洗浄や交換を行います。

エアフィルターを形式で分類すると乾式、湿式、ビスカス式の3タイプに分けられます。乾式は乾いた濾紙、湿式はスポンジやコットン、ビスカス式は少量のオイルを含ませた濾紙を基本的には使っており、湿式のみ洗浄が可能です。乾式はエレメント表面のホコリを払うぐらいは可能で、ビスカス式は油分が汚れを取り込んでいるため洗浄はできません。基本的には走行距離、といいましたが、それとは別に使用期間によって交換時期が決まる場合もあります。具体的には10年間で走行3000kmのようなパターンです。このようなバイクではタイヤやエンジンオイルやブレーキフルードも硬化したり酸化劣化するものですが、エアフィルターもエレメントの表面で湿気とホコリが合体することで濾過機能が低下し吸気抵抗が増加することがあります。

POINT

  • ポイント1・定期的なチェックが必要なエアフィルターには乾式、湿式、ビスカス式の3タイプがある
  • ポイント2・走行距離が少なくても使用期間が長すぎることでフィルター機能が低下することもある

エアフィルターが詰まるとさまざまなエンジン不調が発生する


大きなエアクリーナーボックスの仕切り板のようなスクーターの純正エアフィルターは洗浄のできないビスカス式で、メンテナンス時は交換しかない。FI車なので社外品のハイパフォーマンスフィルターを装着してもセッティングは不要。

ゴミやほこりや湿気によってエアフィルターが目詰まりすると、混合気を作るための空気が不足するためエンジン馬力が低下し、燃費も悪化します。バイクが好きで乗っているライダーならそうした変化に気づく前にエアフィルターのメンテナンスを行うでしょうが、完全に通勤や通学の足として使っているバイクに興味のないユーザーが使用する車両の中には、完全な窒息状態でどうにか走っているものも存在します。そこまでひどい状態でなくても、フィルターの目詰まりは徐々に進行するので、性能低下もまた徐々に進み、明確に意識できないこともあります。むしろ、一般的にはそちらの方が多いかもしれません。

キャブレター車の場合、一定速度での走行から追い越し加速をかける時に反応がワンテンポ遅れたり、あるいは一定速度で走行している際にエンジンが重く感じられるような場合、エアフィルターの目詰まりが原因かもしれません

キャブレターはエンジンが空気を吸い込む際にベンチュリーに掛かる負圧と流量に応じてガソリンが吸い出されます。エアフィルターが目詰まりしてもエンジンが発生する負圧は変わらないので、減少した空気量を補うためにキャブレターのメインノズルからガソリンを多く吸い上げてしまい、混合気が濃くなってしまうのです。

追い越し加速でスロットルを大きく開けば、エンジンが吸いたい空気量は増加しますが、エアフィルターの詰まりによって実際に吸える空気量が増えなければ、帳尻を合わせるために吸い上げられるガソリンが多くなってしまいます。この場合、混合気が濃い状態だけに注目してキャブセッティングを薄く変更すると、エアフィルターを新品に交換した際にもっと薄くなってしまうので注意が必要です。

エアフィルター関連では、純正よりも多くの空気が吸えることをウリにしている製品を装着する際に、吸気抵抗が減少することでベンチュリーにかかる負圧が小さくなることがあり、それによって必要なガソリンをフロートチャンバーから吸い上げられなくなる場合があることにも注意しなくてはなりません。エアフィルターを交換して回転数の上がりは速くなったが、エンジンのパンチ感がいまひとつ……といった場合には、キャブセッティングを濃くした方が良いかもしれません。ただしこの場合、純正のエアフィルターに戻した時に吸入負圧が大きくなり(元に戻り)、濃くしたセッティングがより濃い症状につながることもあります。

POINT

  • ポイント1・エアフィルターが目詰まりすることでエンジンが必要な空気量が不足してパワー低下や燃費悪化の原因になる
  • ポイント2・キャブレター車はエアフィルターの詰まりによってセッティングが濃くなることもある

基本的には走行距離に応じて交換。洗浄できるタイプは製品の取扱説明書に従って洗浄する


K&N製エアフィルターは、本体のアルミメッシュに汚れが付着した時が洗浄タイミングとなる。専用のクリーナーをたっぷり塗布したら、フィルター内部にまとわりついた汚れを浮かすために10分ほど浸透させる。


フィルターの内側から外側に水道水を当てて、汚れとクリーナーを洗い流す。K&Nフィルターは赤色のエレメントが特長だが、これはフィルターオイルの色で、クリーナーで洗浄すると白っぽくなる。裏を返せば、水洗いしても赤色が残っている場合はクリーナーによる洗浄が足らない証拠なので、もう一度クリーナーを塗布して汚れを浮かす。


エアーブローはエレメントを傷める原因となるので、水洗いした後は自然乾燥で完全に乾かすこと。乾燥したらひだ状になったエレメントの面に沿ってフィルターオイルを塗布する。雑に作業するとムラになりやすいので、フィルターオイルの色が均一になるよう全体的に行き渡らせる。

乾式とビスカス式フィルターは、洗浄といっても充分に汚れを落として性能を回復できるとは限らないので、取扱説明書やサービスマニュアルが指定する走行距離に応じて定期的に交換します。ただし、たとえば指定された交換時期が2万kmといっても、その期間はまったくノーチェックで良いというわけでもありません。エアクリーナーボックスの吸気口がシート下に置いたウエスや落ち葉で塞がれているかもしれないし、クランクケースから吐き出されたブローバイガスがエアクリーナーボックス内に溜まっているかもしれません。ひと昔前のトレール車やスクーターに採用されていたスポンジフィルターは、洗油や専用のフィルタークリーナーなどで揉み洗いした後にフィルターオイルを塗布するのが一般的です。

洗浄可能なアフターマーケットのエアフィルターを装着している場合は、そのメーカーが指定するクリーナーとオイルでメンテナンスを行います。画像で紹介しているK&N社のエアフィルターの場合、塗布したクリーナーを水道水ですすぐのが特長です。フィルターの汚れは表面から内側に入ろうとするので、水道水ですすぐ際はフィルターの内側から外側に向かって水を当てるようにします。

スポンジフィルターも同様ですが、油分を落としたフィルターには細かなゴミやホコリを吸着する能力がないので、水分を乾燥させた後に専用のフィルターオイルを全面に塗布します。専用オイルであれば安心して使用できますが、粘度が高いオイルを使うとフィルター部分の抵抗が増加して混合気が濃くなる可能性があり、逆に粘度が低いとエレメントに定着せず流れてしまい汚れをキャッチする能力が低くなることもあります。

エアクリーナーボックス入り口のエアフィルターを常に良好な状態に保つことで、エンジンにとって不可欠な清潔な空気を必要充分な量だけ送ることができることを知っておきましょう。

POINT

  • ポイント1・洗浄不可のフィルターは走行距離や実際の汚れ具合で交換する
  • ポイント2・アフターマーケットフィルターでクリーナーやオイルが指定されている場合は専用品を使用する

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