
チューブレスタイヤはホイール内面に空気を溜めるため、タイヤバルブはホイールリムを貫通しています。市販車で一般的に使われているゴム製タイヤバルブが劣化すると、一気に大量の空気が漏れる危険があるので、空気圧と合わせてバルブのチェックを行うことが重要です。
バルブコアは意識してもスルーされがちなタイヤバルブ
市販車のチューブレスホイールにはゴム製のスナップインバルブが用いられており、アフターマーケットのスペシャルホイールの中には軽合金製のクランプインバルブを使用しているものもある。純正でスナップインバルブを装着するホイールのリム穴はφ11.5mmと決まっているので、社外品を使用する場合はバルブステムやグロメット径の確認が必要。
常に快適なライディングを楽しむにはタイヤのコンディションが重要です。トレッド面の摩耗や異物確認と合わせて、最低でも1カ月に一度は空気圧のチェックも行います。パンクの有無にかかわらず、タイヤの空気は自然に抜けていくからです。チューブレスタイヤとチューブタイヤでは空気を溜めておく仕組みがまったく異なりますが、空気を注入するための入り口がタイヤバルブである点は同じです。
チューブタイヤのタイヤバルブはチューブと一体になっていて、バルブから注入した空気はチューブ内に入ります。これに対してチューブレスタイヤはホイールリムの内側とタイヤ内側によって作られる空間に空気が溜まります。そのためタイヤバルブはホイールリムに装着されてタイヤの外側と内側を仕切っています。
釘やガラスなどの異物を踏んだ時、チューブタイヤとチューブレスタイヤの空気の抜け方が異なる理由はここにあります。チューブレスタイヤの場合、刺さった釘がタイヤを貫通し、続いてチューブを貫通すると、チューブ内の空気はタイヤとの間に漏れてしまうので一気に抜けてしまいます。一方チューブレスはタイヤとリムの内面だけで空気圧を保っているので、釘がタイヤのトレッド面を貫通してもチューブのように中漏れすることはありません。したがって、釘が栓のような働きをしている間は、チューブタイヤよりは内部の空気圧は維持されます。ただし異物とトレッド面の境界から徐々に漏れますし、走行中の遠心力で異物が飛び抜ければ一気に空気が抜けるので、発見次第早急に修理しなくてはなりません。
さて、タイヤ内部の空気が自然に漏れる時、その容疑者として疑われがちなのがムシと呼ばれることも多いバルブコアです。タイヤバルブ内部にねじ込まれているバルブコアはスプリングやゴムバルブなど細かな部品の集合体で、材料や精度は進化しているものの基本的な構造は昔から変わりません。目的に応じた最適な形状だからです。自転車のチューブを交換したりバイク用タイヤのバルブコアを交換した際に、漏れがないかを確認するためにタイヤバルブの先端にちょっと唾液をつけてみるのは昭和時代からの伝統です。そしてもうひとつ、チューブレスタイヤではタイヤバルブ自体のコンディションにも注意しなくてはなりません。場合によっては、バルブコアの不具合よりももっと深刻なダメージにつながる場合があるためです。
- ポイント1・タイヤバルブとバルブコアはチューブレスタイヤにとっての要
- ポイント2・バルブコアからの僅かなエア漏れよりも、タイヤバルブ破損による急激な漏れの方が危険度が高い
ゴム製のスナップインバルブはくびれ部分が弱点
タイヤバルブのキャップをグイッと押して、根元のシール部分に亀裂があったら完全アウト。この状態でしばらく走行してきたのかもしれないが、いつ切断してもおかしくない。走行中に釘を踏むよりタイヤバルブの亀裂の方がダメージが大きいし、修理キットがあれば路上でもどうにかなるチューブレスタイヤのパンク修理と違って、ホイールにタイヤが装着された状態でタイヤバルブを交換することはできない。
バイク用のスナップインバルブ。日本国内でタイヤバルブを製造しているのは一社のみで、日本製バルブを購入すれば必ずこの商品になる。バイク用の全長が33mmなのに対して自動車用は42mm(さらに長い製品もある)で、大半がリムからホイールセンターに対してまっすぐ立つバイク用ホイールにとって10mmの差は大きい。シール部分の溝の厚さと直径によってシール性を確保しているので、品質の確かな製品を選ぶことが重要。
ホイールのリムを貫通するチューブレスタイヤ用バルブには、本体がゴム製のスナップインバルブと、金属製のクランプインバルブの2種類があります。このうち市販車での採用率が圧倒的に高いのはスナップインバルブです。クランプインバルブは金属製のステムをナットで固定して使用します。
スナップインバルブの形状は全体的には円錐形で、リムの穴に密着する部分がくびれています。メーカーによるとこのくびれ部分をシール面、シール面の端部分をリップと呼んでいます。ゴム自体の弾性によってホイールに密着してタイヤ内部の空気漏れを防ぎながら、走行中にタイヤが回転することによって発生する遠心力にも耐えなければならないタイヤバルブには常に大きなストレスが加わっています。
それに加えて日常のメンテナンス時にも意識せずタイヤバルブをいじめている場合があります。洗車好きや磨き好きのライダーの中には、ホイールまでピカピカに磨き上げている人も少なくないと思いますが、その際に使用するクリーナーやケミカル類の中にはゴムに悪影響を与える成分が含まれている可能性もあります。タイヤのトレッド面に転倒のおそれがあるワックスを塗るライダーはいないでしょうが、ホイールを磨く際にその流れでタイヤバルブも磨くことはあるかもしれません。大した影響はないと思って行うその行為が、タイヤバルブの劣化を早めているかもしれません。
タイヤバルブ劣化の典型的な例は、リップとシール面との境に生じる亀裂です。そもそもシール面は細くくびれているため強度的に弱いポイントで、リムに付着した雨水やワックスなどにケミカルなどもとどまりやすい部分です。ブレーキローターを洗浄する際に使うパーツクリーナーが掛かることも多いでしょう。
スナップインバルブはストレート形状のため、大径ブレーキローター装着車両やホイール径が小さいスクーターでは、ストレートタイプのエアーゲージのチャックがそもそも使いづらく、空気圧チェックや空気注入の際にはタイヤバルブを傾けなくてはならない場合もあります。そうした作業で過度に傾けることでリップとシール面に無理な力が加わることも、劣化の原因となります。
タイヤバルブを傾けた際に明らかな亀裂がある場合、即刻バルブ交換が必要です。亀裂が拡大して穴が開いたりリップ部分から切断すれば、タイヤ内部の空気は一気に抜けてしまいます。走行中にそうなれば、トレッド面に釘が刺さるよりはるかに危険です。また切断に至らなくても、亀裂によってシール部分の表面が荒れればホイールのリム穴との密着性が悪くなり、空気漏れの原因になります。
メーカーのホームページによれば、タイヤバルブを前後左右に傾けて傷や亀裂が発生していないか点検するように指示されています。その際、傾けすぎは破損につながるので、25度以内の角度で点検するように推奨されています。
- ポイント1・ホイールリムに挿入するスナップインバルブはくびれ部分から亀裂が入ることが多い
- ポイント2・タイヤバルブのコンディションを確認するには首を傾けて亀裂の有無を見る
亀裂の有無を確認して、タイヤ交換時には同時交換を
タイヤ交換時にタイヤバルブを外す際は、首を大きく曲げてシール部分に軽くカッターを当てるだけで簡単に亀裂が入る。たったこれだけのゴムが空気圧を維持しているのかと驚くほどだ。
タイヤバルブをリム穴に挿入する前に、少量のビードワックスを塗布して滑りを良くする。リムを脱脂洗浄してゴムも乾いた状態だとリム穴を通す際に引っかかり、無理に引っ張るとダメージを与えるリスクにつながる。
こじったり斜めに引っ張ると、それだけでタイヤバルブを傷める原因になり得るので、専用工具のタイヤバルブインストーラーでリムに対して真っ直ぐ引き込む。インストーラーが自動車用ホイールにフィットしてバイクには使いづらい場合は、インストーラーのハンドルとタイヤバルブが直角になるよう何か詰め物(ここではハンマーの柄)を入れると良い。
タイヤバルブの首を曲げてリップとシール面に亀裂を発見したら、できるだけ早くバルブを交換しなくてはなりません。しかしタイヤバルブは単体を見れば分かるとおり、ホイール内側部分が太いためリムの裏側から挿入しなくてはなりません。偶然タイヤ交換時に亀裂が見つかった場合にはタイヤ交換と合わせてタイヤバルブ交換を行えば良いのですが、タイヤの溝はまだたっぷりあるのにタイヤバルブの亀裂を見つけてしまったら、一度ホイールを外してタイヤのビードを落として、リムとタイヤに隙間を作って交換します。
タイヤ交換もしないのにビードを落とすというのはかなり徒労感のある作業で「なぜこんなタイミングでタイヤバルブが切れるんだ!?」と憤りを覚えるかもしれません。ただタイヤと同じようにゴムでできたタイヤバルブも時間の経過と共に劣化していきます。先に挙げたように、念入りな洗車の際にさまざまなケミカル類が付着することで、ことによってはタイヤよりもダメージが早く進行するかもしれません。
大事なことは、チューブレスタイヤのタイヤバルブは消耗品であるという認識を持ち、少なくともタイヤ交換に合わせてバルブ交換を行いましょう。タイヤのように減るわけでもないしもったいない……とケチってはいけません。タイヤバルブはいくらもしない部品ですが、タイヤ交換時期以外で亀裂を発見して交換を依頼すれば、工賃はタイヤ交換作業に匹敵するぐらいは掛かります。
またDIYでタイヤバルブを交換する際は、バルブ長の選択に注意しましょう。自動車用のスナップインバルブはバイク用に比べて長いためリムからの突き出しが多くなり見栄えが良くないのと、空気注入口がディスクローターやハブセンターに近くなるため、空気圧測定や空気注入がしづらくなるというデメリットがあります。バイク用タイヤにはバイク用のタイヤバルブを選択し、装着することが必要です。
- ポイント1・タイヤバルブはタイヤ交換のタイミングに合わせて交換するとよい
- ポイント2・スナップインバルブには全長の違いでバイク用と自動車用があるので、バイクにはバイク用のタイヤバルブを用いる
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