ディスクブレーキの作動油として用いられるブレーキフルードの成分は、沸点が高く粘度が低く、長期安定性に優れたグリコール系、またはシリコン系の液体です。色は新品時には透明ですが、劣化すると褐色に変色します。色が変わるだけでなく性能も低下するので、走行距離に関わらず2年ごとの定期交換が必要です。

昔のハーレーはシリコン系のDOT5だったが、最近はDOT4を使用する

使用するブレーキフルードの種類はサービスマニュアルに明記されており、さらにリザーブタンクのコーションシールに記載されていることも多い。2008年式のスポーツスターは既にDOT4指定となっている。この年式にシリコンのDOT5は使えないので要注意。

1980年代前半頃までのディスクブレーキ車のブレーキフルードの規格はDOT3が中心でしたが、それ以降はDOT4が主流になりました。DOTというのはDepartment of Transportationの略称で、これはアメリカ合衆国の運輸省を指します。その中のひとつにブレーキフルードに関する基準があり、世界的にこの基準を物差しにして開発されています。一般的に流通しているブレーキフルードにはDOT3、DOT4、DOT5.1、DOT5の規格があり、主成分や沸点や粘度などによって区別されます。

バイクにおける多数派はDOT3とDOT4で、これらはグリコールを主成分としています。これに対してDOT5の主成分はシリコンです。ブレーキフルードに求められる重要な性能は沸点が高いことです。サーキットでスポーツ走行をするとブレーキパッドの温度は300℃以上になることもあり、自動車のレースでローターが赤くなるほどハードなブレーキングをする際はもっと高温になります。

その熱がパッドからキャリパーピストンを通じてキャリパー内のブレーキフルードを加熱した際に、もしブレーキフルードが水道水だったら100℃で沸騰してしまいます。すると常温では水の中に溶け込んでいる気体が膨張して気泡となり、ブレーキレバーを握ってもホース内にエアが噛んだようなベーパーロック状態が発生して効力が極端に低下するか、あるいはまったく効かなくなってしまいます。

グリコールを用いるDOT3の沸点はドライ沸点が205℃以上、ウェット沸点は140℃で、DOT4ではドライ沸点230℃以上、ウェット沸点155℃以上と決まっています。グリコールのDOT3、DOT4に対して、主成分がシリコンのDOT5はドライ沸点が260℃以上、ウェット沸点も180℃以上と、沸点だけに注目すれば最も高性能です。しかしグリコールとシリコンは成分や特性がまったく異なるため混ぜて使うことはできません。またマスターシリンダーやキャリパー内部のゴムシールもそれぞれ専用品なので、フルードを完全に抜いて入れ替えても使えません。

昔のハーレーダビッドソンはブレーキフルードがシリコンのDOT5でした。しかし2000年代半ばからDOT4に移行しており、DOT4指定の機種にDOT5を使うことはできません。もちろん、DOT5時代のハーレーにDOT4フルードを使うことも厳禁です。

POINT

  • ポイント1・ブレーキフルードの規格はドライ沸点とウェット沸点によって規定される
  • ポイント2・主成分がグリコールのDOT3やDOT4と、シリコンのDOT5では組成や特性が異なるので混合は厳禁

ブレーキフルードは水分が混入すると沸点が低下する


リザーブタンク内の茶褐色のフルードをスポイトで吸い上げる。新品のフルードを汚れたフルードに注ぎ足すと、汚れは薄まるものの透明になるまでには相当の時間が掛かり、新品フルードも無駄になる。そこでできるだけ古いフルードを抜くのが効率的。ただしタンクが空になると(特にフロントは)マスターシリンダーのピストンが空気を押してエア噛み状態になるので、完全には抜かないこと。


DOT4の新品フルードをリザーブタンクに注入する。DOT3よりDOT4の方が沸点が高いが、社外品にはグリコールでもDOT4よりさらに沸点が高いDOT5.1規格フルードが存在する。これはドライ沸点260℃以上、ウェット沸点180℃以上のスペックを持ち、シリコンのDOT5と同等になる。DOT4をDOT5.1に変更することはできるが、DOT4をDOT5に変更することはできない。ややこしいが覚えておこう。

ブレーキフルードの劣化の主原因は熱と水分です。DOT3、DOT4フルードの主成分であるグリコールは空気中の湿気を吸収する性質を持っています。リザーブタンクに雨水が入るような露骨な水分混入でなくとも、マスターシリンダーキャップの通気孔を通じて空気中の湿気が触れるだけでも吸湿します。先にドライ沸点とウェット沸点の2種類を表記しましたが、このウェット沸点とは新品フルードに体積比3.7%の水分が混入した状態を指します

たった3.7%なのか、3.7%もなのかは個人の感覚にもよりますが、ブレーキパーツメーカーのホームページでは新品から1~2年後のフルードはこの程度の水分を含んでいると説明しているので、3.7%は極端な数値ではないようです。驚くのはドライとウェット沸点の差で、1~2年経過しただけで沸点が60℃近く低下します。それでも100℃以上なので水よりマシですが、それ以上吸湿するとどれほど沸点が低下するのかを想像すると、ちょっとゾッとします。

サーキットのようにスピードを出さないから大丈夫と甘く見ているライダーもいるかもしれません。しかしワインディングで長く続く下り坂など、エンジンブレーキと前後ブレーキを併用するような場面では、速度は出ていなくてもブレーキに熱が加わりフルードの温度が上昇する場合があります。また、使用期間は長い割には走行距離は少ないから大丈夫だろうという考えも、グリコールには元来吸湿性があるという特性から通用しないことが分かると思います。

POINT

  • ポイント1・グリコールには吸湿性に富む性質があり、雨の中を走っていなくても空気中の湿気を吸って変質する
  • ポイント2・ブレーキフルードを1~2年使用するだけで沸点は60℃近く低下する

キャリパーピストンやマスターシリンダーのチェックも兼ねて2年ごとに交換する


キャリパーのブリーダープラグを緩めて、キャリパーとホース内の古いフルードをシリンジ(注射器)で吸い出す。この時リザーブタンクの液量が下がるので、空にならないようタンクを観察しながら作業すること。ブレーキホース交換などでフルードが空になっている場合、キャリパー側からマスターシリンダー側に新品フルードを押し込む逆送充填が効果的だが、タンクやホース内に古いフルードが残っている場合、想像以上に早いタイミングでタンクからオーバーフローすることがあるので、慎重な作業が必要だ。


ブリーダープラグからフルードを抜いた後は、ティッシュペーパーでコヨリを作ってプラグの穴に差し込んで内部に残ったフルードを吸い上げておく。パーツクリーナーのノズルを差し込んでスプレーしても良いが、いずれにしても内部にフルードを残しておかないように。何度も繰り返しになるが、ブレーキフルードには吸湿性があるので、プラグ内に残っているとプラグ自体をサビさせる原因になる。また、プラグ内に水が入らないようゴムキャップを被せることも重要。経年劣化でひび割れたり紛失しているのを発見したら、購入して取り付けておくこと。

常日頃からバイクショップに整備や修理をお願いしているライダーや、自分でフルード交換をしているDIY派は大丈夫だと思いますが、ブレーキパッドの残量は気にしてもブレーキフルードには無関心というライダーは注意が必要です。ブレーキフルードもエンジンオイルと同様に劣化し、定期的な交換が必要です。

どのメーカーのサービスマニュアルを見ても、交換スケジュールは2年に1度となっているので、250cc以上の車検付きバイクの場合は車検整備のタイミングで交換するのが覚えやすくて良いでしょう。原付や250cc以下の車種では分かりやすいきっかけがないので、スマートフォンのカレンダーやリマインダー機能を使ってメンテ時期を予約しておくと良いでしょう。その間に機種変更してしまう可能性はありますが。

ブレーキフルードの交換作業時には単にフルードの交換を行うだけでなく、同時にパッドの残量やキャリパーピストン周辺の清掃とゴムシールのコンディションチェックも行い、ブレーキ全般の健康状態を確認します。この時にキャリパーのダストシールがキャリパー溝からはみ出したり、キャリパー自体がブレーキフルードで湿っているのを発見した時にはキャリパーオーバーホールが必要と考えましょう。キャリパーのシールが傷んでフルードが滲む場合、最初はキャリパーの外側ではなくキャリパーピストンとパッドの周辺が濡れることが多いので、フルード交換前には念入りに確認しておきます。

キャリパーに問題がなくフルード交換だけで済む場合、ブレーキホース内にエアを混入させないように入れ替えることで余計なエア抜き時間を短縮できます。そのためにはリザーバータンク底のポート(マスターシリンダーにフルードを送り出す孔)を露出させないように注意しながら古いフルードをスポイトでできるだけ吸い上げ、新しいフルードをタンクに注入します。こうすることで、ブレーキレバーを握れば即座に新しいフルードを送り込むことができ、ホースとキャリパー内の古いフルードを効率良く追い出すことができます。

リザーブタンクの窓から覗いたフルードが紅茶やウイスキーのような茶褐色だった場合、前回の交換から2年経過していなくても交換します。ブレーキフルードは常にクリアに保っておくことで性能を維持できると覚えておきましょう。

POINT

  • ポイント1・車検付きのバイクは車検整備のタイミングでフルード交換すると決めておけば忘れづらい
  • ポイント2・マスターシリンダーのリザーブタンクが空にならないよう注入することで、エア噛みすることなくフルード交換ができる。

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