気がついたときにはイャ~なオイル漏れが発生。エンジン下には、オイル溜まりがあった。そんなときには落ち着いて、漏れ溜まったオイルをキレイなティッシュで拭き取り、「オイルの色」や「におい」を確認してみよう。キレイな赤色オイルだったので、以前にもあったオイルラインバンジョーボルトの緩み?と思った。しかし、今回の原因は違っていた。仮に、ガソリンの臭いがしたら、燃料系統や一次圧縮室(クランク室)周辺を疑がってみよう。発電機を取り外したら、クランクシャフト左側オイルシールの外側から?ご覧のようなオイル滲みが発生していた……一体、何だコレは?
目次
国産初の6速市販車はスズキT20
漏れ落ちたエンジンオイルはクリアな美しい赤色。クランクケースの下側を目視すると、発電機カバーの隙間にオイル流れの痕を発見したのでカバーを外してみた。このモデルはスズキ初であり国産車初採用の6速ミッションを搭載したスズキT20の輸出仕様。彼の地では250X6ハスラーの名称で発売された。ライバルのホンダCBナナニイは4速、ヤマハYDSは5速ミッションを搭載していた。
カバーを伝わるクリアな赤オイル
発電機カバーの隙間から赤いオイルが漏れていたことに気が付いた時には、正直、ゾッとした。しかし、このモデルは整備性が飛躍的に良くなったと聞いていたので、少しだけ安心。カバーを外すと発電ローターが見えるが、患部の左側クランクサイドシールは発電ローターの裏(裏側)に隠れている。右側オイルシールはクラッチケース内なので、右側シールがダメになると、右側のマフラーだけ大量の白煙を吹き出すようになる。
部品の汚れが発電トラブルの原因になる
左側クランクケースカバーを取り外し、発電機のステーターコイルとマグネットローターを露出させたときには、最低でもエアーブローを行い汚れを飛ばそう。ステーターコイルユニットを取り外したときには内側を目視点検し、マグネットローター外周とステーターコイル内側に摺動キズが無いかしっかり点検。必要に応じてパーツクリーナーを利用し脱脂洗浄してもよい。キズがあるときはトラブルの予兆なので要注意だ。部品の取り付け状況が緩んだり、ゴミの噛み込みには注意しよう。
ローターはホールドツールで固定し分解
マグネットローターを固定する汎用ツールで回転しないように保持し、レンチを使ってセンターボルトを緩めた。ボルトのカラー部分にはポイントカムが組み込まれる構造となっている。このバイクではないが、このセンター締め付けボルトがガッツリ錆びていて、緩めている最中にボルトが折れてしまったシーンを過去に見たことがある。おそらく水没経験があったエンジンだと思う。パーツを復元する時には、ボルトのカジリ防止用アンチシーズを塗布しておくのが良い。マグネットローターを取り外すプーラーは、ホンダ純正の十文字タイプが利用できた。特殊なネジ寸法を採用したモデルでなければ、メーカー間で互換性があるのがこの手のプーラーだ。
吹き抜け防止のおさえ金具付き
エンジンによってだが、オイルシールの抜け止めで金具を使ってオイルシールを抑えている例がある。すべてエンジン開発技術の過渡期的な対策だろう。メーカーによっては、ミッションのドライブシャフトシールを金具で外から固定している例もある。吹き抜け防止用プレートを外すと、プレート裏側が赤色エンジンオイルに浸っていたので、原因を特定することができた。
トラブル原因はオイルシールの痩せ!!
何気なくオイルシール側面を指先で触れると、カタカタっと動いた!!原因は、オイルシールの痩せだった。この痩せでオイルシールの圧入が甘くなり、ベアリングを潤滑する強制給油のオイルポート(スズキ独自のCCI機構)からエンジンオイルが漏れ流れたのだ。ピックツールの先を引っ掛けると、スーッと軽く、抵抗感など一切無く抜けてきた。オイルシールを外すと裏側にはクランクベアリングが見える。ベアリングの潤滑コンディションが良いから鋼球リテーナーが光って見える!! これこそCCI機構の恩恵で、単純な混合潤滑だけだとリテーナーはススケていることが多い。
何とか見つけた新品オイルシール
スポッと抜け取れたオイルシール側面の浮き文字を見ながらノギスで測定すると、その文字通り、内径20ミリ、外径55ミリ、厚さ9ミリのガスケットだった。残念ながら、このオイルシールは特殊サイズでメーカー在庫は無い販売中止部品。知り合いのバイク仲間に相談すると、何と新品部品を持っていたので譲っていただいた。新品オイルシールのリップ部分にラバーグリスを塗り、オイルシール外周には耐ガソリン性液状ガスケットを塗布。エンジン側のシールホルダーをしっかり脱脂して、大型ソケットを使ってエイルシールをツライチまで打ち込み、抜け止めプレートを復元した。
1965年(昭和40年)に登場したスズキT20。翌年の1966年には、よりパワフルかつスポーティになったT21へ進化した。国内では、車名をT21へ、そして1967年にはT250へとアップデートしたが、海外シーンでは発売年の1965年から1968年まで、スズキ250X6ハスラーとして高い人気を誇ったスズキの元祖スーパースポーツモデルである。キックアームが左サイドにあったのも特徴的だった。
- ポイント1・床下にオイル漏れを発見したときにはキレイなティッシュで拭き取り、オイルなのかガソリンなのか?明確にしよう
- ポイント2・ オイル漏れ箇所を特定するまではパーツククリーナーの吹き付け洗浄は可能な限りやめ、まずは患部を特定しよう。
- ポイント3・ 液状ガスケットを利用するときには、何をシールしたいのか明確にすることが重要だ。2スト一次圧縮室は混合ガスなので耐ガソリン性液体ガスケットを併用。シリコン系液状ガスケットは耐ガソリン性ではない
近所をひとっ走りしてきた翌朝のことだった。エンジン下を見ると赤く透明なエンジンオイル(スーパーゾイルの2ストオイルは赤色)が流れ落ちていた。オイル漏れ状況をキープしつつ、メンテリフターにバイクを載せて車体を最高レベルまでアップ。作業ランプを照らしながらエンジン下を覗き込んでみた。実は以前、オイルラインのパンジョーボルトの緩み(キャブ直下のバンジョーボルトが緩んでクランクケースの水抜き孔から赤オイルが滴り落ちていた)でオイル漏れしたことがあった。しかしその時とは漏れたオイルの位置が違っていた。どうやら発電機カバーの締め付け面からエンジンオイルが漏れている様子である。
早速、エンジンカバーを取り外すと、マグネットローターの裏側から赤いエンジンオイルが流れ出ていた。オイル漏れは気分が悪いしトラブル原因になるので、早速周辺を分解。その結果、クランクシャフトの左側オイルシールがダメになっていると確認できた。しかし、ここで驚いたのは、クランクシャフトの回転軸をシールする「リップ」部分のダメージではなく、何と、オイルシール本体の経年劣化。痩せもしくは縮みが発生し、オイルシールの圧入が緩みクランクケースからスーッと抜けてしまう状況。要するに、本来なら圧入する箇所=オイルシール外側からのオイル漏れが原因だったのだ。
応急処置なら抜けたオイルシールとクランクケースをアセトンで完全脱脂し。その後、耐ガソリン性液状ガスケットを外周へ多めに塗って復元。2~3日は車体を右側に大きく傾けて、オイルに浸すことなく乾燥硬化待ちすれば何とかなりそうな気配だった。しかし、応急処置だと後々の復旧で二度手間になるので面倒だ。そこで新品オイルシールを探したが、これがなかなか見つからず、残念ながら規格サイズにも無かった(スズキとしては珍しい!!)。海外で高い人気を誇ったスズキX6なので、海外市場で探すとあっさり発見。しかし、海外通販では即手元に届かないので、スズキの旧車に詳しいバイク仲間のガレージを訪ねてみた。すると驚いたことに新品オイルシールを何個か持っていた。譲っていただいたオイルシールを利用することで、トラブル原因を絶つことができた。バイク仲間には感謝感謝である。部品1個の重要性を改めて認識できた出来事だった。
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