点火系の強化によって走行フィーリングは大きく変化するもの。その違いは、エンジン始動性の力強さからも納得することができる。特に旧車の場合は、点火系システムの劣化によるパワーダウンは顕著であり、始動性が困難かつ低中速域でのパンチが薄れているケースも少なくない。そんなときにこそ実践したいのが、高い実績を誇る点火系チューニングである。
目次
走りがまるで激変する点火系強化
数多くの要望から誕生したカワサキZ1/Z2用フルパワーキット。現在では、数多くの旧車用をラインナップしているASウオタニ製のSPⅡフルパワーイグニッションキット高年式モデルでも、実は、点火系の強化で走行フィーリングは激変する。まずはWebで機種ラインナップをご覧頂きたい。
付加価値が大きいSPⅡフルパワーキット
ポイントベースやガバナー進角カムに変って無接点ピックアップを採用
独自の点火カーブに伴い最大進角度やレブリミットを任意に設定可能
圧倒的に強く安定した火花を実現するハイパワーIGコイル
ASウオタニ SPⅡフルパワーキット最大の特徴は、機種専用設計の点火マップを有し、ノッチダイヤルによって最大進角度を任意に設定できる点。さらにはエンジン出力を無駄なく引き出せライフアップにも貢献するレブリミット回転数も任意に設定できるという機能を持っていること。メーカー純正IGコイルの一次抵抗値は4Ω。一方、SPⅡ2Pコイルの一次抵抗は0.8Ω。同キットによってスパークプラグの放電電圧&放電電流が高まり、放電時間も長く設定されている。これによって着火性能が大幅に高まり、トルクアップをリアルに体験できる。標準スパークプラグなら一般的に0.7mmの電極ギャップ設定だが……、着火力が強い同キットでは1.1~1.3mmの設定となる。好みのハイテンションコードをユーザーが用意するキットとコンプリートキットがある。
ポイントガバナーから専用ローターへ
エンジン側の部品取り付けは、ポイントカバーを取り外し、内側に締付けられているポイントベースとガバナーを取り外したら、キットパーツの専用ローターを固定する。ローターには信号を送る凸突起以外に、上死点を示すTマーク(トップマーク)や点火タイミングの10マーク(上死点前10度を意味する)も明記されている。
デジタルトランジスタ制御で1ピックアップ
ピックアップセンサーベースを旧ポイントベース部分へ寄せたら、取り付け説明書に従い規定の位置でベースを固定する。このベースマウントの締め付け位置を守ることで、標準的点火セッティングを再現することができる。ハールスカプラコネクターは、カワサキ純正コネクターに合わせて配線を接続する。
イグニッションコイルは付属パーツでボルトオン
ハイパワーイグニッションコイルは付属のブラケットを介してノーマルコイルと同じ取り付け位置に締付け、専用ハーネスのコイルカプラを接続する。ハイテンションコードの取り回しはノーマルと同じように行った。
ハイテンションコードの接続方法
ハイテンションコードを適切な寸法に皮むきしたら(今回は芯線12mm露出、ゴム表皮は15mm皮むき)、2Pコイルのマウント部分に差し込み固定する。固定の際には、セメダイン「スーパーX」を利用するのが最適だと推奨されている。様々な接着剤をテストした結果、スーパーXがもっとも接着力と防水性に優れていたそうだ。ハイテンコードを皮むきしたら、専用の接続金具をカシメてコイルに差込む。
コントロールユニットの取り付け場所検討
左サイドカバー内のドライブチェーン給油用タンクを取り外し点火ユニットを取り付け
アルミ板でブラケットを自作して、他機種用純正バッテリーバンドで固定
スッキリ取り付け完了。このレイアウトならセッティングノッチ作動も容易
フルパワーキットのコントロールユニットは、サイドカバー内のドライブチェーン用給油タンクスペースに取り付けることにした。当時はドライブチェーン性能が低く、メンテナンスを怠るとデライブチェーンの伸びが激しかったので、定期的にオイル給油するためのオイルタンクを装備していた(1975年モデルのZ2A後期、Z1Bまで装備)。コントロールユニットの固定はアルミ帯板を曲げて専用ステーを自作し、タンクの取り付けボルトでステーを固定。ラバーバンドでユニットをフローティングマウントとした。このような取り付け方にすれば、ステーやバンドが振動を吸収してくれるはず。
スパークプラグのギャップ調整と点火点検
着火力が強いのでスパークプラグギャップを広め(1.1~1.3mm)に調整
タイミングライトで点火時期を確認しよう
スパークテストの前に忘れてはいけないのが、スパークプラグの電極ギャップを広げる作業。ギャップゲージが手元にあると大変便利だ。強力点火を得たことで、ギャップを広げて着火譴責を広げることができる。調整範囲内でギャップ変更してみるのも楽しい。取り付けレイアウトを終えたら、電源線とアース線を接続し、スパークテストを行おう。着火確認ができたらエンジン始動。アイドリング時の点火時期を上死点前10度になるようにピックアップベースの締付け位置で調整してみよう。
取材協力:ASウオタニ
- ポイント1・ 作業開始前にバッテリーターミナルを取り外し、それから実装作業を開始。
- ポイント2・ハイテンコードをユーザー手配するキットの場合は、作業開始前に部品購入しておこう
- ポイント3・すべての取り回しを終えたら電源を接続し、まずはスパーク(着火)テストを実施してからエンジン始動しよう
- ポイント4・ アイドリング時の点火時期をタイミングライトで確認し、それから最大進角をノッチ設定していこう
点火システムの劣化によって、エンジンコンディションが悪くなり、パワー感が低下することが多い中古車の世界。始動不良に始まり、アイドリングの不安定、加速性能の低下などなど、電気系=点火系に起因したエンジン性能の低下は、思いの外、多いものだ。知らず知らず、気がつくことなく走っていたが、実は、完調時と比べてエンジンパワーが相当に減衰しているケースは意外と多い。また、不調は感じないものの、点火性能の「さらなる強化」によって、これまで以上に気持ち良く走れるようになったと、気がつくケースも多い。カブッてしまったスパークプラグを、新品プラグに交換したときに気がつく、あのような違いを感じることもある。大袈裟に思えるかも知れないが、現実にそのように感じることが多いのが点火性能なのだ。
旧車に限らず、最新鋭のバイクでも同じような体感をできるケースもある。それほどまでに点火システムは、エンジン性能に大きな影響をもたらすものなのだ。
初代空冷Zシリーズ用として登場し、もはや人気商品かつ絶大なる支持を得ているのがASウオタニ製SPⅡフルパワーキットである。レブリミットを500rpm刻みに設定することができ、最大進角度を2度刻みに幅広く変更できるマッピングを搭載するなど、高機能な面も注目されているチューニングパーツだが、旧車ファンにとって注目すべきはその「着火力の強さ」である。メーカー純正点火システムは、確かに安定性能を誇るが、決して着火力が強いというわけではない。実は、この着火力の強さが、バイクの走りを大きく変えるのだ。特に、如実な変化を体感できるのが「加速性能とトルク感」である。加速中=エンジン回転上昇中は、吸入負圧の関係でスパークプラグは着火しにくい傾向なのが一般的だ。そんな状況下で着火力が強まると「完全燃焼」が促進され、結果的に爆発力が圧倒的に強くなり、それがトルクアップとして体感できるようになる。加速トルク感の薄さを感じるとき、例えば、追い越し加速時にシフトダウンしていたのに、点火系を強化したあとは、シフトダウンせずにスロットルワークのみで力強く加速するケースもある。是非とも「強力着火の世界」を体感していただきたい。
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