久しぶりに2ストロークモデルを楽しみたくなり、カワサキ500SSマッハⅢの中古車を購入してフルレストアにチャレンジ。ライトウエイトスプリンターの走りにすっかり魅了され、2ストモデルのドロ沼にハマった数年前……。その後、ご覧のようなカワサキH2-A(1973年モデル)のベース車と言うか、ほぼ残骸!?を購入してフルレストアにもチャレンジした。この作業を実践したのは2007年当時で、現在と比べれば、まだ部品=使える中古部品は見つけやすかったと思うが、さすがに発売から35年も経過したモデルだと、レストア作業以前に「(使える)部品集めが大変」だった。ここでは、フルレストアにチャレンジする前に、知っておきたいことに触れておきたい。

フルオーバーホールで完全リビルド

エンジンは完全バラバラにしてから、各パーツを単品ごとにしっかり仕上げてから組み立てた。2ストマルチエンジンの生命線であるクランクシャフトは、完全にフルリビルド。全ベアリング交換、コンロッドキット交換、もちろん肝心な部品の「センターオイルシール」も交換。これらの作業は、内燃機加工のプロショップへオーダー。ピストンはシフトアップ製の新品リプレイス050オーバーサイズをチョイス。もしも今、エンジンオーバーホールを実践するなら、迷うことなくiB井上ボーリングの「柱付きICBM」をチョイスするだろう。

シリンダーが抜けないマッハ



カワサキ2ストトリプルの中でも、特に多いのが500/H1と750/H2の「シリンダーが抜けない」問題。ピストンリングとスリーブがサビで固着しているのではなく、クランクシャフトはクルクルとスムーズに回るのに、シリンダーが抜けない問題がとにかく多い。この原因は、クランクケースとシリンダー&シリンダーヘッドを締結するスタッドボルトのサビだ。スタッドボルトとシリンダー側のスタッド孔の隙間に雨水が入り、スタッドボルトがサビてシリンダーへと食い付いてしまい、シリンダーが抜けなくなるのだ。抜けないシリンダーをハンマーで叩いて冷却フィンを割ってしまう失敗例は数知れず。引き抜き方法のひとつに「タップジャッキ作戦」がある。

点火発電コイルのハーネス外れに要注意



純正部品名「ヨーク」と呼ばれるのが、発電点火用コイルを組み込むパーツASSYだ。このパーツの内側でクランクエンドに固定された電磁ローターが回転し発電する。その電気を立ち上げるのがハーネスだが、エンジンに取り付けられた部品のため、熱でハーネス被服が劣化硬化=カチカチになっている例が多い。また、コイルに布ひもでハーネスが固定されているが、接触や劣化でちぎれてマグネットローターと干渉。ハーネスが擦れて発電不良を起こしていることもある。心配な状況のときには、ハーネスを整理して細いタイラップで固定しよう。ヨークASSYを取り外したときには必ず点検しよう。

メインハーネスからヨークユニットへつながるサブハーネスは、メーカー純正部品で設定されている。しかし、もちろん絶版なので、同色同芯線サイズのコードや保護チューブを素材購入して自作した。専用のゴム製コネクターは、他機種用を何とか流用して、程度極上部品に交換することができた。

シリンダーフィンのクラックは溶接補修



ジャッキボルト作戦で何とか抜き取ることができたシリンダー。洗浄後に各部を点検したら、冷却フィンにクラックを発見した。割れ箇所をワイヤーブラシで磨いてヒビに開先を入れて溶接補修。開先とは、クラックにV溝面取りを行ってから溶接すること。クラック部分の溶接強度を高めることができる。

一度は所有したかった世界最速モデル

↑↑↑購入時のボロ状態↑↑↑

↑↑↑フルレストア完了後↑↑↑

完成直後の750SS/H2-Aの1973年モデル。バイク仲間からご協力を得ることができ、ここまで仕上げることができた。作業よりも大変だったのが補修部品、純正部品の収集だった。レストアショップや旧車専門店での価格高騰は、自身でレストアしてみれば理解することができる。「GTカウル」と称されたシートカウルのデザインが、初期のカワサキトリプルでは特徴的だった。70年代当時としては斬新そのもの。

POINT

  • ポイント1・ フルレストアはとにかく大変。本気で取り組むには予算的な覚悟が間違い無く必要になる
  • ポイント2・ ベースモデルのコンディション次第で、大きく変ってしまうのが作業内容と費用
  • ポイント3・ 以前なら、補修部品も見つけやすかったのでだましだまし乗ることができたが、出先で動かなくなる前に徹底的にメンテナンスしておこう

高性能かつハイパフォーマンスなニューモデルが続々登場する一方で、旧き良き時代のバイクが注目されている昨今。時代は回り、繰り返すものだと言われるが、「温故知新」といった言葉があるように、故きを温ねて新しきに「気がつく」ことも多い。画一量産が当たり前の時代の中で、個性的な旧車には、また違った味わいや魅力がたしかにある。ベテランライダー(返り咲きライダー含む)が、1970~80年代の、あの時代に登場したバイクに、ある種特有の想いを馳せることは決して珍しくないが、最近は、20代~30代前半のライダーからも支持されている人気カテゴリーが旧車のようだ。

そんな旧車と呼ばれるバイクを楽しむ=気持ち良く走らせるために、もっとも重要なことはメンテナンスである。メンテナンスを的確に成立させるためには部品の調達も必要不可欠。「部品が入手しにくくなったから乗り換えよう」となるのが普通だろう。しかし、ノーマルフォルムに強いこだわりを持たなければ、何とか修理することはできる。工場出荷当時のメーカー純正フォルムにこだわりたいのなら、補修部品やスペア部品を徐々に集めればよいだろう。

その昔、旧車バイクのレストアと言えば、バイクいじり趣味人の「お金の掛からない遊び」と呼ばれた時代があった。しかし、昨今の状況はご存じの通り……。特に、21世紀に入ってからは、昭和の時代のバイクが驚くほど高騰し、今なおその傾向は続いている。需要と供給のバランスが崩れてしまえば、当然ながらリテイル価格も跳ね上がってしまうもの。致し方のない現実でもある。

そんな旧車に興味が湧いたら、積極的にいじって楽しんでみよう。メンテナンス経験を積み重ねることで「ノウハウの引き出し」が増え、そのうちバイクに乗って走って楽しむこと以上に、いじってメンテナンスして楽しむことの方がメインになるはずだ。そうなったときには、自他共に認める立派な「サンデーメカニック」となるはずだ。

ここでは「旧車いじり」を楽しむポイントに関して触れてみよう。まずは購入車両=ベース車両のチョイスだが、欠品部品だらけではなく、できる限り欠品部品が少なく、しかも純正部品の装着率が高い車両を選ぶのが良い。カスタムで楽しむのなら、フレーム骨格とベースエンジンさえしっかりしていれば何とかなってしまうものだ。工場出荷当時の姿=メーカーオリジナルを目指したフルレストアなら、とにかくコンディションが良く欠品部品が少ないベースモデルをチョイスしたい。とにかく当時の純正部品は新品でも中古でも驚くほど高値で売買されているのが現実なのだ。

写真のバイクは、2007年に購入したカワサキ750SS/H2-Aの1973年モデル。ご覧の通り欠品部品だらけだったが、何とかすべての部品を集め、完成させることができた。内燃機加工や外装ペイント、メーターのフルオーバーホールなど、専門作業はプロショップへ依頼したが、その他の作業はほぼすべてDIYチャレンジ!!組み立て工賃を考えずに済んだので、部品集めに大枚をはたいたが、仮にすべての作業を旧車専門店にお願いしたら、それはもう驚きの請求書になったはずだ。また仮に、今現在、H2をフルレストアしようと思ったら、当時のように部品は見つけられなかったと思うし、コストも数倍!?需要と供給の違いである。それでも、思い入れが強いバイクがあるのなら、部品が入手できる今のうちに、是非ともフルレストアにチャレンジしてみてほしいものだ。

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