
昨日は良かったのに今日はダメ。旧車や絶版車オーナーなら一度や二度はそんな経験をしたことがあるのでは?調子が良いにせよ悪いにせよ理由があるわけで、その原因を発見して対策しない限りモヤモヤはずっと続きます。電気系の不調が起きたり起きなかったりする場合、各部接点の接触不良を疑ってみましょう。
セルモーターが回らない理由を考えてみる
マスターシリンダーのピストンカップの劣化によりリザーブタンクのフルードがレバー側に漏れ、その一部がハンドルスイッチに付着して塗装にダメージを与えている。不動期間が長くブレーキが抜けていたが、エンジンは始動する状態だった。しかしエンジンストップスイッチの接触が悪く、ONの位置でもセルモーターが回らないこともあった。
ある日突然、セルモーターが回らなくなる理由を挙げてみると
- バッテリーが上がった
- ヒューズが切れた
- スターターリレーが壊れた
- セルモーターが壊れた
- どこかの接点が接触不良を起こした
など、いくつかの候補が考えられます。
それぞれの症状に対して原因を追及していくとどれも探求しがいがありますが、電気に対して苦手意識のあるライダーにとっては、理由を考えるだけで気が滅入ってしまうかもしれません。
不調の原因の中でも特に面倒なのは、症状が出たりでなかったりするパターンです。バッテリーが上がったりヒューズが切れた場合は、それ以降は一分たりともセルモーターは回らないので、トラブルシューティングできるかどうかは別としてあきらめがつきます。しかしエンジンが掛かる時もあれば掛からない時もあるという中途半端な状態の時は困ります。大丈夫そうだからと思って自宅を出発して、出先で始動不能になるともうお手上げです。
セルモーターが回ったり回らなかったりする際に疑わしいのは、モーター内部のブラシの摩耗です。セルモーターの内部にはコイルが巻かれたアーマチュアという部品があり、その整流子部分に接したカーボンブラシから電気を流すことで回転します。プラモデルやラジコンで使っている模型用モーターと同じ構造です。ブラシは回転する整流子に対してスプリングで押し当てられているため摩耗によって徐々に短くなり、両者が離れてしまうとセルモーターは回らなくなります。ただ、ブラシが摩滅してセルモーターが回らなくなるまでには相当の年月と走行距離が必要です。一概には言えませんが、走行距離数万kmでブラシが摩耗することはあまりないようです。
それよりも疑わしいのは、回路のどこかで発生している接触不良でしょう。
- ポイント1・電気系のトラブルは発生した不具合が回復しない場合と、調子の良し悪しに波がある場合に分けられる
- ポイント2・電装系部品が機能したりしなかったり不安定な時は接触不良を疑う
電気が流れないなら接点の通電を確認しよう
エンジンストップスイッチのターミナルビスの頭にサーキットテスターを当てて導通を確認すると、スイッチノブの位置によっては瞬間的に導通する場合もあるがON/OFFいずれの位置でも電気は流れない状態だった。
スイッチボックスのロア側はブレーキフルードが溜まっていたらしく、ヘッドライトスイッチ接点のメッキが腐食して固形化したフルードが析出している。この固形物はブレーキキャリパーのシール溝やシールとピストンの間に詰まっている物と同様。
ここで画像を紹介するカワサキKZ900LTDの場合は、エンジンストップスイッチ(いわゆるキルスイッチ)の動作が不安定で、エンジンが始動したりしなかったりという状態になっていました。エンジンストップスイッチにはRUN(ON)-OFFの2ポジションタイプとOFF-RUN-OFFの3ポジションタイプがあります。900LTDのスイッチは3ポジションタイプで、スイッチノブをOFFからRUNに回すと始動回路が通電します。もう少し詳しく説明すると、エンジンストップスイッチがONにならないとスターターボタン(セルボタン)に電気が流れない直列回路になっています。
エンジンストップスイッチがONなら、スターターボタンを押せばセルモーターに電気が流れて回るはずですが、回る時と回らない時があり、それがどうやらスイッチの動かし方によって症状が発生することが分かりました。これは接触不良の典型的なパターンです。
そこでエンジンストップスイッチの配線のカプラーを外して端子の導通を測定すると、スイッチノブがONの位置でグリグリ動かすと電気が流れたり切れたりすることが分かりました。このようにテストすれば、たまに発生する電気の不具合の原因が何なのかが分かることがあります。
イグニッションキーをONにした時にニュートラルランプやオイルプレッシャーランプが点かず、セルもウインカーも反応しない場合、キー内部の接点が怪しいと想像できます。ここでキー配線のカプラーを外してバッテリーとイグニッションの回路が導通するか、バッテリーと灯火系の回路が導通するかを確認することで、キーシリンダー内部の端子に問題があるのかないのかが判断できます。
エンジンストップスイッチとスターターボタンのどちらが怪しいか分からない場合は、スターターボタンのカプラー部分で導通を確認してみます。ボタンを押した時に必ず導通があればスターターボタンはシロですが、押し方によって導通が変化する場合はグレーです。この900LTDとは別のバイクですが、スターターボタンの接点に挟まった小さなクモが接触不良の原因となったことがありました。旧車や絶版車のスイッチボックスを分解すると、たびたびクモの巣に遭遇することがありますが、ボックス中で活動中にたまたま運悪く挟んでしまったのかもしれません。昨日まで好調にエンジンが始動したのに、ボタンを何度か押さないとセルが回らなくなってしまう原因には、こんなものもあるのです。
- ポイント1・一度に全体を捉えようとせず、不具合が発生した部分を切り分けて確認することでトラブルの原因が掴みやすくなる
- ポイント2・可動部分があるスイッチは接触不良の発生源になりやすい
マスターシリンダーのフルード漏れが接触不良の原因に
ヘッドライトスイッチユニットとスターターボタンを外すとこのようなありさま。お湯に浸して中性洗剤でしっかり洗わなくてはならない。
エンジンストップスイッチは2本のターミナルビスと1本のビスでスイッチボックスアッパー側に固定されている。
中心軸のEクリップを外すとスイッチを分解でき、端子とスライド接点の状態を確認できる。スライド接点はブレーキフルードで錆びたスプリングで端子に押しつけられているものの、劣化したブレーキフルードで絶縁されて導通していなかったようだ。パーツクリーナーで洗浄して接点グリスを薄く塗布して組み立てたら、全く問題なく断続できるようになった。
さて、エンジンストップスイッチの気まぐれによってセルモーターが回ったり回らなかったりするKZ900LTDの接触不良は、スイッチボックスを分解して確認したところ、マスターシリンダーから漏れたブレーキフルードが原因であることが分かりました。経年劣化によってマスターシリンダーのカップシールが劣化したり、フルード交換時にリザーブタンクからこぼれたりしてフルードがスイッチボックス側に流れてしまうことは往々にしてあります。その際はパーツクリーナーや水道水で洗浄するのがセオリーですが、フルードの量と時間の経過によりスイッチボックス内で変質する場合があります。メンテナンス不足のバイクのブレーキキャリパーのダストシール部分に、堆積して固形化したフルードを見ることがありますが、あれと同じような状況がスイッチボックス内で起こっていたのです。
エンジンストップスイッチは2つの端子の上を板状の接点がスライドして、回路の断続を行います。端子と接点の間にゲル状になったブレーキフルードが膜を張って正常な導通を妨げており、しかしながらスイッチノブの位置によっては微妙に導通が回復してスターターボタンに電気が流れるようになっていたため、セルモーターが回ったり回らなかったりする状態になっていたのです。
アメリカンスタイルのLTDはハンドルがプルバック形状で、マスターシリンダーよりハンドルエンドの方が低く、マスターピストンから漏れたフルードはそもそもスイッチボックス側に流れやすくなっていました。そしてフルード漏れの状態で長期間の不動状態があったため、スイッチボックス内で固形化してしまったというわけです。スイッチボックスの塗装が剥離していたので漏れたフルードが付着していたことは容易に想像できましたが、スイッチ内部の接点にまで影響を与えていたのは想定外でした。
スイッチボックスをハンドルから取り外し、エンジンストップスイッチを分解して端子と接点を磨いて復元するとONの位置で確実に導通があることを確認でき、エンジンも問題なく始動するようになりました。
ブレーキフルードが接触不良の原因になるのは珍しいケースかもしれませんが、接点のグリスが粘土のように劣化したり、逆に油分不足による錆で接点の抵抗が増加して不具合の原因となることもあります。電装系の部品が時々不調になるという場合は、各部スイッチの接点を確認してみると良いかもしれません。
- ポイント・経年変化や異物の侵入による接触不良を解消するには端子や接点レベルまで分解するのが有効
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