そもそも苦手意識が強い電気系の中でも、バッテリーが頻繁に上がるトラブルは面倒くさい案件の代表格で、それが絶版車で発生するとなるともうお手上げ……というライダーは少なくありません。どんなに高性能なバッテリーを搭載しても、そもそも発電していなければ充電できません。ここではカワサキZ1-Rを題材に、オルタネータートラブルの実例を紹介します。
バッテリー上がりの原因は充電しない?それとも充電量が足りない!?
絶版車人気ナンバーワンといって過言でないカワサキZ1/Z2シリーズ。エンジンの基本的な耐久性は抜群だが、カムチェーン周りのテンショナーやローラー、オルタネーターカバーのグロメットからのオイル漏れなどのウィークポイントもある。製造から40年以上を経ていることを考慮すれば、いずれも要メンテポイントとして当然と言えば当然だ。
朝出掛ける時にはエンジンが掛かったのに、出先でランチを食べて出発しようとしたらセルモーターが回らない時の驚きと絶望感はバイクトラブルの中でもトップクラスです。バッテリーが上がるのは冬場というイメージがありますが、充電と放電を繰り返す中で徐々にサルフェーションが発生して内部の極板の活性が低下して、実質的なバッテリー容量が低下すると夏場でも始動不能になることは珍しくありません。そうした経年劣化を防止するには、帰宅後のガレージや駐輪場ではサルフェーション除去機能を持つ充電器につないでおくことが有効です。
そうした日常的なケアを行っていても、バッテリー上がりが頻発して困るという例もあります。そうしたトラブルは絶版車で起こりがちで、ただでさえ各部の経年劣化に頭を悩まされているのにさらなるダメージとなります。カワサキZ1の場合、オルタネーターで発電された交流の電気はレクチファイアで直流に変換され、レギュレーターで電圧をコントロールされてバッテリーに接続されています。レクチファイアとレギュレーターが別体というのがいかにも1970年代初めに製造された絶版車ならではで、現在は両者を一体化したレギュレートレクチファイアに交換するアップデートが一般的になっています。
しかしそれでもなおバッテリー上がりが解消しない場合、原因としては
- そもそも充電(発電)していない
- 過剰放電になっている
- 充電しているが充電量が不足している
といった項目が考えられます。
充電していない場合、サーキットテスターでバッテリーターミナル電圧を測定しながらエンジンを始動した際に端子電圧が上がらず、むしろ低下するので分かります。オルタネーターやレギュレートレクチファイアが破損していれば、新品バッテリーもあっという間に上がってしまいます。
次の過剰放電は最近の電気アクセサリー事情と切り離せない問題です。現行車でも絶版車でもスマホホルダーやUSB電源は不可欠で、さらに冬でもツーリングを楽しむライダーならグリップヒーターや電熱ウェアを活用することもあるでしょう。あまり意識することはないかもしれませんが、これらのアクセサリー類はかなりの電力を消費します。今どきのスマートフォンは充電電流が2A程度になりますが、12Vバッテリーで2A流れれば単純に消費電力は24Wになります。ヘッドライトのH4ハロゲン球55/60Wの半分程度ですが、ブレーキランプとほぼ同程度は消費しており、電熱ウェアが加わればさらに放電が過多になり、充電が追いつかないうちに停止してエンジンを止めれば、再始動しようよした時にはバッテリーが上がっていた……という悲劇につながります。
そして最後の充電量不足問題は絶版車あるあるの代表的な事案です。バッテリーターミナルの充電電圧は13V台まで上がっていて、充電器でフル充電にするればしばらくは走行できるのに、やがて放電過剰と同じような状態になって再始動不能状態に陥るパターンです。スマホや電熱ウェアを使っていなくても放電過多で止まってしまうとなると、電気いじりが苦手なライダーにとってはもうお手上げかもしれません。
- ポイント1・絶版車の発電系は弱いと言われるが弱いなりの理由を考察することが重要
- ポイント2・絶版車の場合、最近の電気アクセサリーを満載することで放電過剰になることが考えられる
何度も着脱された絶版車の部品には隠れたトラブルがいっぱい?
オルタネーターからレギュレートレクチファイアにつながるカプラーの手前でクランプメーターをセットしてエンジンを始動すれば、発電電流を読み取ることができる。黄色の3本線のうち2本は9アンペア前後を記録したが、1本はその半分以下の4アンペア台で明らかに正常でないことが分かる。クランプテスターは一般的なサーキットテスターより値段が高いが、できる作業や分かることが増えるので電気好きは持っておいて損はない。
電気関係ばかりでなく絶版車のあちこちに不具合が出がちなのは、純粋に経年劣化が原因という場合もありますが、長い時間の中で誰かの手でいじり壊されてしまっているという例も少なくありません。ボルトやビスを外す際になめた雌ネジをそのまま放置したり、部品を誤って組み付けたり、電気関係ではギボシやカプラーから抜け掛かったままの配線をそのまま放置してあることも珍しくありません。
ここで画像を掲載しているZ1-Rもまさにそのパターンで、一体式のレギュレートレクチファイアを装着してターミナル電圧は13V台に達するのに、走行中にバッテリーが上がり気味になり電装に不安を抱えていました。Zの発電系におけるオルタネーターハーネスの不具合の典型的なトラブルで、結果的にはこの車両も配線が不全断裂状態になっていました。しかし実際に手を下す前に、充電不良状態をテスターで確認することができます。そのために必要なのが電流を測定できるクランプメーターです。
電圧を測定するには測定したい部分に電圧計を並列につなぎます。これに対して電流を測定する場合は電流計を回路に直列につなぎます。大電流が流れる回路で電流計を直列に繋ぐ場合は危険が伴いますが、クランプメーターであればリング状の測定部分を配線に被せるだけで電流が測定できます。回路に電気を流すと配線の周囲には磁場が発生しますが、クランプ式の電流計はその磁場から電流を換算して表示しています。
Z1を初めとした中型車以上のバイクの多くは、三相交流のオルタネーターを装備しています。交流はプラスとマイナスの電圧が周期的に入れ替わりながら電気が流れていますが、正弦波と呼ばれる波形を少しずつずらしながら発電することで電気の密度を上げているのが三相交流の特長です。そして三相交流のオルタネーターには必ず3本の配線が引き出されてレギュレートレクチファイアにつながっています。したがって、その3本の配線それぞれの電流を測定すれば、充電状態の善し悪しが分かるというわけです。
経年変化で配線が硬化した上に、過去に何度もオルタネーターカバーを着脱されるうちに配線の芯線が徐々に断裂してしまい、レギュレートレクチファイア手前の電流値はすべてまちまちでした。端子電圧が13V以上になっていても電流値が低ければ充分な充電はできず放電過剰に陥りがちになるので、配線の刷新が必要です。
- ポイント1・充電不良を数値で確認するにはバッテリーターミナルの電圧測定に加えてオルタネーター配線の電流測定を行えば万全
- ポイント2・エンジンカバー側から配線が引き出されるカワサキZ1系エンジンでは、カバーの取り出し部分で劣化し切断する例が多い
電気の理屈は分からなくても配線のリニューアルは誰でもできる
オルタネーターカバーの内側外周にステーターコイルがあり、その内側を永久磁石のマグネットローターが回転して交流を作り出す。このZ系の場合、オルタネーターはクランクケースとセパレートされておらずエンジンオイルに浸っているので、オルタネーター配線の取り出し部分からオイルが染み込み、エンジン外に漏れたり毛細管現象で配線の内側を伝って上部のカプラー部分まで浸透することもある。
硬化している配線を曲げると3本のうち1本が簡単に切断してしまった。ニッパーなどを使ったわけではないのに被覆も芯線も見事に切れたのは、追加で塗布された液体ガスケットと合わせて過去に誰かが触っていたせいかもしれない。複数の所有者の手を経た人気の絶版車では、往々にしてこのようないじり壊しの例があるので要注意。発電元がこのような状態では、高性能バッテリーを装着してもまさに猫に小判だ。
電気の理屈や充電系回路の構造はよく分からなくても、切断目前の配線交換ならそれほど難しくありません。Zのオルタネーター配線は左側のクランクケースカバー下部から引き出されており、この部分からのエンジンオイル漏れを防ぐためゴム製のグロメットを液体ガスケットで接着しています。
3本の配線は新車当時は柔軟性があったと思われますが、製造から40年以上一度も交換されていない状態ではオイルが浸透してエンジンの熱でカチカチに硬化しています。おそらくグロメットからの漏れや滲みを防ぐためにカバーの内側には液体ガスケットが追加して塗布されていますが、その作業を含めて何度もカバーを着脱するうちに硬化した配線の中の芯線が徐々に切断していたのだと思われます。
切断部分をハンダでつないでも状況は改善しますが、配線自体の硬化が改善されるわけではなく、被覆と芯線の間に染み込んだエンジンオイルも気になるので、ステーターコイルからレギュレートレクチファイアに向かう途中のカプラーまで、すべての配線を一新しました。この際に痩せて硬化したグロメットも交換しますが、これらは人気絶版車であるZ用にリプロパーツが販売されているので安心です。
作業自体は古いハーネスとステーターコイルのかしめスリーブを切断して、新しい配線をハンダで固定してクランクケースカバーにグロメットを貼り付けるだけです。ハンダ付けや端子のかしめなどの工作はありますが、電気的な知識や経験は不要にもかかわらず絶大な効果が得られるのが大きな利点です。またクランプテスターで作業前後の電流を測定すれば作業の成果を数値として確認できるものの、測定を行わなくてもバッテリー上がりの症状がなくなればオルタネーター配線の交換が正解だったことが分かります。電気はよく分からないからとりあえずバッテリーを交換してみよう、という策がうまく行かなかったらオルタネーターからレギュレートレクチファイアに至る配線の状態をチェックしてみることを是非ともおすすめします。
サイドカバー内側のジャンクションのカプラー部分にまでオイルが到達して、いたずらか嫌がらせかと思えるほど芯線がズタズタになっている。これでも経年変化とカプラー着脱を繰り返したことによる自然劣化というのだから驚きだ。と同時に、この状態のカプラーを見ながら接続していた前オーナーにも驚かざるを得ない。ギボシ端子を新しくかしめるだけでも、電気が勢いよく通りそうだ。
- ポイント・オイルを吸って切断しかけているオルタネーター配線の交換は電気知識の有無にかかわらず実践でき、その効果は絶大
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