現行車では絶滅しましたが、絶版車ユーザーには馴染みのある点火方式と言えばコンタクトブレーカーを用いた接点式点火です。その接点式点火において、点火時期に達した瞬間にスパークプラグに火花を飛ばすためにポイントと並んで重要な仕事をしているのがコンデンサーです。接点式点火のメンテナンスではコンタクトブレーカーに注目しがちですが、小さな丸い筒のコンデンサーの役割も理解しておきたいものです。

2種類の「誘導」で火花を飛ばすスパークプラグ

クランクシャフト端部にコンタクトブレーカーが装着されている場合、フライホイールの内側にセットされていることが多い。サンプル車両はヤマハのファミリーバイク・チャピィで、中心のロックナットを取り外したら専用工具のフライホイールプーラーをねじ込んで手前に引き抜く。

フライホイール内側のコンタクトベースに並んだ2組のコイルは、片方が点火用の発電コイル(ソースコイル、チャージコイルと呼ばれる場合もある)でもう一方がバッテリーを充電するコイルとなる。乾電池のような円筒形の部品がコンデンサー。

バッテリーの電圧は12Vで(一部の旧車では6Vもあります)、誤って端子をショートさせるとバチッ!と火花が飛んで驚くことがあります。同様にエンジンに取り付けられたスパークプラグも、燃焼室内の混合気に電気火花を飛ばすことで燃焼のきっかけを作っています。ただ、たまたま偶然に工具が触れるなどで火花を飛ばすバッテリーショートと違って、スパークプラグは混合気に着火するたびに正しいタイミングで延々と火花を飛ばし続けなくてはなりません。たとえばエンジンが6000rpmで回転している時、クランクシャフトは1分間で6000回、1秒間で100回も回っています。そしてポイント点火車の場合、クランクシャフトでポイントが開閉される2ストロークエンジンであれば1秒間で100回の開閉が行われます。

1秒間で100回などというとずっと火花が出っぱなしのような気もしますが、ライターやバーナーのような連続的な火では混合気は上死点前の点火時期以外でも燃えてしまうためエンジンは回りません。1500rpmのアイドリング時でもスロットル全開の1万rpmでも、ポイントが開閉することでスパークプラグに断続的に火花を飛ばすことが必要です。

そんな猛烈な勢いで開閉するコンタクトブレーカーに対して、スパークプラグに火花を飛ばす際に必要な2~3万Vの電圧を作り出しているのがイグニッションコイルです。原付や小排気量車はフライホイールマグネトー内のソースコイルを、中型車以上ではバッテリーを電源としていますが、どちらも元の電圧は2~3万Vには遠く及びません。イグニッションコイルには一次コイルと二次コイルという2種類のコイルが内蔵されていて、ここで昇圧が行われます。この際に利用されている原理がコイルの自己誘導と相互誘導という作用です。高校の物理で学ぶこの作用は、レンツの法則やファラデーの法則といった難解な学問につながりますが、バイクの点火系にも活用されています。

2つの作用を要約すると、コイルに流れる電流を変化させることで発生する磁場を打ち消そうとするのが一次コイルの自己誘導で、自己誘導によって発生した磁場の変化を妨げるような磁場を作り出すのが二次コイルの相互誘導という作用になります。要約しても分かりづらい部分はありますが、一次コイルに自己誘導を発生させるためは、流れる電流の変化をズバッと断ち切ることが重要です。ボリュームを絞るように徐々に電流を減らすのではなく、スイッチを切るように電流を断ち切ることで、一次コイルに発生する磁場の変化が大きくなり、それに比例して二次コイルの相互誘導が大きく働き、スパークプラグに流れる電圧が高くなります。

POINT

  • ポイント1・鉄芯に巻いたコイルに電流を流すことで発生する磁界の変化によって、電源の電圧を2~3万Vまで昇圧する
  • ポイント2・コンタクトブレーカーで電流を断続すると一次コイルに自己誘導作用が生じ、その磁束変化によって二次コイルに相互誘導作用が生じる

一次コイルの自己誘導は電流の即断で決まる

右が新品に対して左が中古品だが、コンタクトブレーカーのような可動部や消耗部分がないので、見た目はほぼ同じ。コンデンサー内部には空気や絶縁体を挟んで向かい合う2枚の金属板があり、電気を溜めたり放出できる。絶縁体が劣化したり過電圧で内部の金属板がショートするとパンク状態になり電気の出入りができなくなる。


コンデンサーが壊れるとコンタクトブレーカーの接点が開く際に放電によって導通が継続して、イグニッションコイルの一次コイルに流れている電流が一気に遮断できない。そのため一次コイルの自己誘導作用、二次コイルの相互誘導作用が理想通りに起こらず、スパークプラグに発生する火花が小さくなったり失火する原因となる。コンデンサーはポイント接点の焼損を防止するために有効だが、主たる目的は一次コイル電流の瞬間的な遮断にある。

ポイントが閉じている間は一次コイルに電流が流れて磁場が発生しており、ポイントが開いてコイルへの電流が遮断された瞬間にそれまで発生していた磁場を維持しようと自己誘導が発生し、それにつられて相互誘導によって二次コイルに大きな電圧が発生する。ややこしい説明をしましたが、コンタクトブレーカーは一次コイルに流れる電流を正しいタイミングで断続するための部品である、ということになります。

ポイントがゆっくり開くと一次コイルに流れる電流が徐々に減少するため磁場の変化は穏やかになり、二次コイルに対する相互誘導も小さくなるためスパークプラグにかかる電圧も小さくなり、大きな点火火花が得られないという結果につながります。対してポイントが瞬間的に開いて電流が瞬間的に遮断されれば、一次コイルでは自己誘導による電流が増大して二次コイルの相互誘導も大きくなり、結果としてスパークプラグに大きな電圧を加えることができます。

クランクシャフトやカムシャフトの回転に連動して開閉するコンタクトブレーカーを観察すると、エンジン回転が上昇するとともにポイントの開閉を目で追うことはできなくなります。そんな状況でもポイントヒールとポイントカムはきっちり接して開閉しているから混合気は正しく燃焼してエンジンが回転できるのです。

しかし電気を断続するポイントと、ポイントカムとポイントヒールの接触部分という機械的な接点を持つコンタクトブレーカーにとって、摩耗による経年変化は避けられません。またエンジンの回転数が上昇するにつれて機械的な開閉にも限界が生じます。そうした理由と半導体の普及によって台頭したのが、一次コイルへの電流の断続を電気的に行う無接点のトランジスタ点火です。現在のバイクの点火系はすべて無接点となり、ポイントのメンテナンスという作業は不要となりました。

POINT

  • ポイント1・一次コイルの自己誘導作用を最大限に引き出すには、コイルに流れる電流を瞬間的に遮断することが重要
  • ポイント2・高回転での使用や経年変化を考慮した時に機械的接点のあるコンタクトブレーカーより無接点のトランジスタ点火のほうが有利となる

ポイントに流れようとする漏れ電流をコンデンサーで吸収する


コンデンサーの種類によっては、ステーにフェルトホルダーが一体化されているものもある。フェルトに適量の油分を染み込ませてポイントカムに触れさせておくことで、カムとポイントヒールの潤滑が確保されヒールの摩耗を防止できる。油分が枯渇しないよう、定期的な確認が必要だ。


破損したコンデンサーを交換する際は同じ容量の製品を選び、配線をハンダで固定する。電子部品として様々な製品が市販されているが、バイクのコンタクトブレーカー用として用いる場合はバイク用パーツとして販売されているコンデンサーを選択するのが無難。

コンタクトブレーカーのポイントが開くことで一次コイルへの電流を遮断する接点式点火方式にとって重要かつ不可欠な部品が、ポイントと並列に接続されているコンデンサーです。スパークプラグに大きな火花を飛ばすためにはポイントを素早く開くことが重要ですが、開き始めから完全に開くまでにはごく短時間ですが時間の経過が生じ、その間は電流が流れ続けようとします。空気中の電気抵抗は非常に大きいので、完全に開いたポイントの隙間を電気が流れることはありませんが、ポイントが開いていく間に電気火花となってスパークが生じます。

電気火花はポイント接点を焼損させる大きな要因となりますが、それと同時に一次コイルへの電流の遮断を阻害します。ポイントがパッと開いたように見えても、ポイント間で僅かに電流が流れている間は一次コイルに大きな自己誘導が発生しないため、スパークプラグの火花も大きくなりません。ここで重要な仕事をするのがコンデンサーです。コンデンサーには電気を蓄えたり放出する働きがあり、それだけを見ると充電可能な二次電池のようなふるまいをします。しかし電池と違って充放電のレスポンスがきわめて良く、僅かな電流の変化に鋭く反応できるのが大きな特長です。

コンデンサーをポイントと並列に設置することで、ポイントが開き始めて密着していた接点に僅かな隙間ができた瞬間に、流れづらくなった電気がコンデンサーの充電に使われます。ポイントに流れる電気はポイントの隙間を放電するよりコンデンサーに流れる方が楽=抵抗が少なくスムーズなので、結果的にポイント間の電流を素早く遮断することができ、イグニッションコイルの自己誘導と相互誘導を大きく引き出すことができるようになるのです。同時にポイント間の火花が減ることでポイント接点の焼損を抑えることもできるため、まさに一石二鳥というわけです。

コンデンサーはその働きにより、バイクのコンタクトブレーカーだけでなくあらゆる電気製品で使用されています。そしてコンデンサ単体には接点や電気回路はないものの、本質的に寿命があり、経年劣化などで本来の性能が発揮できなくなります。コンデンサーに溜められる電気の量は製品ごとに決まっており、劣化や損傷によって容量が低下したりまったく溜められなくなると、先に説明したようにポイント接点間に一次電流が残ってしまい一次コイルへの電流の遮断がうまくできなくなります。コンデンサーの容量が減った状態なら一次電流の一定量を充電でき、ポイントを流れようとする電流はある程度減少できるかもしれません。

しかし完全にパンクしてまったく電気が溜められなくなると、ポイントが開いた後も接点間に流れる微弱な電流によって一次コイルの自己誘導作用が不完全になり、二次コイルで起こるはずの相互誘導作用も不完全になってスパークプラグの火花発生に必要な2~3万Vまで昇圧しなくなる場合があります。これがいわゆる失火です。

点火時期やポイントの隙間に問題がなく、ポイント接点の焼損もないのにエンジンの吹け上がりが悪くなったり、あるいはエンジンが掛からなくなったような場合には、コンデンサーがダメになっているかもしれません。コンデンサーの状態を測定するには専用のテスターが必要ですが、これは抵抗における抵抗値を測定するサーキットテスターほど一般的ではないので、可能であれば新品のコンデンサーを装着して点火状態を確認してみましょう。

単気筒エンジンではコンタクトブレーカーもコンデンサーも1個ずつしかありませんが、4気筒のポイント車ならそれぞれ2個ずつあり、それぞれが1番と4番、2番と3番の点火を受け持っているので、1番と4番の点火状態が悪くなったら2番と3番用のコンデンサーをつないで状況が変わるかどうかを確認します。このチェックで点火の調子が悪いシリンダーが変化すれば、コンデンサーに対する疑いが濃厚になります。それでも状況が変化しなければ、イグニッションコイル本体やコイルへの電源に原因があるのかもしれません。

ポイント車の点火系メンテではコンタクトブレーカーが真っ先に注目されますが、コンデンサーも地味ながらとても重要な働きをしています。一次コイルへの電流を断続するポイントとセットでコンデンサーの役割を知り、トラブル時には適切な対応ができるよう働きを正しく理解しておきましょう。

POINT

  • ポイント1・コンデンサーはポイントが開いた後もポイント接点に流れようとする電流を瞬間的に吸収して、一次コイルに流れる電流を一瞬で遮断する
  • ポイント2・コンデンサーには寿命があるので、エンジンの吹け上がりが悪い時や失火する時はパンクの有無を確認する

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