
4気筒エンジンのみならず、4ミニモンキーの単気筒シリンダーなどでも、ピストン挿入時にピストンリングの合口を引っ掛けてしまい「ポキッ」とピストンリングを折ってしまった、といった経験は無いだろうか?現代のハガネ製ピストンリングなら、合口付近を「クネッ」と曲げてしまい、パーツが使用不可能になってしまった、なんて経験のあるサンデーメカニックも数多いはずだ。ピストンが入らない!?なかなか挿入できない……と感じた時には、ためらわずに「ピストンベース」を自作するのが良いだろう。
4気筒エンジンのボアアップで痛感……
カワサキZ550GPをベースに、ドリームタイマー製ピストンで600ccフルスケールにボアアップした際には、ピストンの挿入で手こずった経験があった。ボアサイズに合致したピストンリングコンプレッサーは所有していたのだが……。
「木製ピストンベース」を自作してみた
4気筒シリンダーへピストンを挿入するにはコツがある。経験豊富なメカニックほど引き出しが多いはずだ。エンジン型式の違いや特徴に応じて、臨機応変に対応できるのがベテラン=経験者である。ピストン形状やシリンダースリーブ側の形状によっても、作業性には違いが出るので、この方法がベスト!!といった解決策は、人それぞれで異なるものだ。これまでに様々なエンジンの組み立てを経験してきたが、マルチエンジンのピストンをシリンダーへ収める際に、もっとも気楽に行えるのが「複数人数」での作業。アシストしてくれるメカニック=経験者がいると、作業性は間違い無く良くなる。ピストンリングを挿入しにくい理由のひとつに、ピストンが首を振って「安定しにくい」という問題がある。そんなピストンの安定に効果的なのが、建具用の精密建材で作った木製ピストンベースだ。クランクケース孔を跨ぐように木製ベースを前後にピストンスカートの下へ敷き(コンロッドに対して片側で良い)、ピストンを安定させた上でピストンリングコンプレッサーを併用するのがよいだろう。ピストンが首を振ることで、一度挿入できたはずのピストンリングがハミ出て、リング合口が引っかかってしまうことが多いのだ。その状態に気がつかずにシリンダーをコンコンと叩いたことで、リング合口が変形してしまうこともある。
この場面では、先に2/3番シリンダーを挿入し、次に1/4番シリンダーを挿入した。2/3番ピストンを挿入するときと、1/4番ピストンを挿入するときではピストンベースの厚さが異なるため、2タイプのピストンペースを2個ずつ自作するのが良いだろう。
ピストンを挿入したらシリンダーヘッドを載せ、スタッドボルトを2~3本仮締して、カムチェーンを片手で持ち上げながらクランクシャフトがスムーズに回転するか?ゆっくり回しながら確認しよう。この際に、引き摺り音や抵抗感があリ、クランクシャフトが回りにくいときには、決して無理に作業を進めずシリンダーを抜き取り、ピストンリングのコンディションをすべて確認しよう。スムーズに回らないときにはどこかのピストンリングがダメージを受けているはずだ。曲がったピストンリングは新品に交換しよう。クランクシャフトガスムーズに回ったら、ヘッドを仮締めし、カムシャフト&カムスプロケットとカムチェーンを組み合わせ、規定通りのバルブタイミングで組み立てよう。
タペットシムの調整はトータルで勘案
バルブシートカットを実践しなかった時は、組み込まれていた元通りの箇所へタペットシムを戻し、再度、タペットクリアランスを測定しよう。仮に、バルブフェース加工やシートカットを依頼する際には、分解直後に各バルブの「ステムエンドの突き出し寸法」をデプスゲージで測定し、すべての加工を終えてから、再度デプスゲージで各寸法を厳密に測定する。仮に、そのデータ差をバルブステムエンドの研磨で吸収すれば、各バルブのタペット隙間は、分解前と同じように再現することができる。つまり、分解前の各タペットクリアランスが規定範囲内であれば、同じ状況を再現することができるのだ。
薄汚れたエンジンカバーは「ガンコート」
エンジンカバーは擦れや劣化でペイント状況が美しくなかったので、今回はサンドブラストで旧ペイントを剥離した。徹底洗浄後に空焼きを行い、その後、ブラウン寄りのガンメタ色のガンコートで仕上げてみた。ペイント品番は「#2427テキサスティー」と呼ばれるカラー。シックな色でカスタムアクセントに適しているかも?
- ポイント1・ピストンリングをピストンにセットしたら、トップ、セカンド、オイルリングがすべてスムーズに回転するか確認しよう
- ポイント2・ リングの合口には向きがあるので、サービスマニュアルなどで標準組み付け向きを確認してから組み込もう
- ポイント3・ ピストンASSYをシリンダーへ挿入する際には、ピストンボアに合致したリングコンプレッサーを利用し、ピストンが首を振らないようにピストンベースを利用する
- ポイント4・ピストンベースが無いときには木っ端を利用し、自作するのが良いだろう
排気量やボアサイズに関わらず、ピストンASSYをシリンダーへ挿入するには、それぞれのエンジン毎にコツのようなものがある。それはまさに、経験者のみぞ知るものだが、エンジンタイプが異なれば、その数だけコツがあると言っても過言ではない。2ストエンジンのピストンや4ストエンジンでも旧車ピストンの場合は、鋳鉄リングを採用している例が多く、しかもリングが厚めなため、シリンダー挿入の際に押し込みやすく、組み立てやすい特徴がある。4ストエンジンでも旧車のオイルリングには「一体構造」が多い。そのため挿入しやすいが、一方では、一体構造であるが故に、リング張力が弱くなりやすい特徴もある。したがって、性能的には現代のオイルリングのような「3ピース構造」が間違い無く良いと言えるだろう。
ピストンをシリンダーへ挿入する際に利用する特殊工具は、ピストンリングを縮めるピストンリングコンプレッサー。さらに作業中のピストンを安定させるためのピストンベースがある。カワサキZ2/Z1のように、4気筒を一度に挿入する一体式のメーカー純正ピストンリングコンプレッサーがあるかと思えば、その他のメーカーのように、2/3番セット、1/4番をセットで挿入する、セパレート構造のピストンリングコンプレッサーがある。いずれにしても、安定作業のカギを握るのがピストンベースだ。
ピストンピンの中心を支点に、ピストンは前後に首を振る動きをする。その首振りを止め、首を振らないようにピストンの動きを安定させるのがピストンベースの役割だ。メーカー純正ピストンベースには、厚めのアルミ板を切り出し、U字型にカットすることで、コンロッドを逃げつつピストン下端を売れて首振りをおさえるものがあれば、Φ8mm程度の鉄筋棒を「コの字型」に曲げ、エンジン側方=シリンダーの横側からコンロッドをコの字の真ん中で挟むように差し込み固定するタイプもある。
ここでは、木片を使ったピストンベースの自作を提案しているが、いずれにしても、ピストンが安定しないとピストンリング合口付近にダメージを与えやすい、また、ベースがあることで作業性は確実に良くなるので、準備し忘れたときには作業直前でも良いのでピストンベースを自作してみよう。
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