エンジン始動だけや近所をひと回りしただけでは、エンジン&車体ともに「真のコンディション」を判断することは難しいし、なかなかできるものではない。やっぱりある程度の距離、例えばちょい乗りツーリングでも100km以上走らないと、想定外の問題は露呈しないもの。試運転によって、いわゆる「ウミだし」を進め、ケーススタディでバイクの完成度を高めていこう。例えば、エンジンの点火時期は、メーカー設定の「ノーマルがすべて!!」というわけではないことも、覚えておこう。

4ストエンジンなら「上死点前◎度」表記

点火時期の数値データは、基本的に上死点(TDC=トップ・デッド・センター)前「◎度」(例えば12度)と表示されることが多い。市販車に搭載されるエンジンの場合は、フライホイールの側面や外周、マグネットローターの側面などに刻線や表記があり、それがエンジンの固定側(クランクケースやエンジンカバーなど)の刻線やマークと一致したときに、ピストンは上死点にあると判断できる。チューニングエンジンなどではピストンの位置をダイヤルゲージで測定し「上死点」を再確認してから、点火時期の設定調整やバルブタイミングを測定することが多い。そんなときに使うのがエンジン分度器=エンジンタイマーだ。

「上死点前◎mm」表記の2ストエンジン

写真はヤマハ純正特殊工具の「2ストエンジン」汎用点火時期確認用ダイヤルゲージホルダーとダイヤルゲージとゲージ先端用測定子(シリンダーヘッドからピストンに向かい真っ直ぐスパークプラグが締め込まれるエンジン用)。機種やエンジンタイプによって数種類の純正特殊工具がメーカーから発売されている。ダイヤルゲージホルダーにダイヤルゲージ+測定子をプリセットし、スパークプラグのネジ山に固定し利用する。

スパークプラグを取り外し、細く長いドライバー先端をプラグ穴に差し入れ、ゆっくりクランクシャフトを正転させ、ドライバーが一番押し上げられる手前でクランクを停止し、上死点確認用ゲージをセットアップするのがよい。

上死点でゲージ外周を回して「0」セット

ゲージをセットしたらしっかり締め付け固定し、クランクシャフトをゆっくり回してダイヤルゲージが右回転で「止まった位置」が上死点になる(ゲージ1周で1.00mm。つまり1目盛りで0.01mm)。

その位置でケージ外周を回して指針先端を「0」にセットしつつ、ゲージの測定プランジャが2~3mm程度押された状態であることを小針ゲージで確認する。

より明確な上死点位置を探りたいときに必要なのがエンジン分度器だ。クランクに分度器をセットし、任意の角度でポインター(針金や番線などで製作。画像はBBQ用ステンレス金串で自作)をセット。例えば、ゲージの指針が止まるおおよその位置の「手前0.1mm」と、指針が一度止まってから戻り始めた「直後の0.1mm」の位置、それぞれの分度器角度を読み取れば、その中間位置=角度がより正しい上死点ということができる。その角度でポインターを合せてからゲージ指針を正しく「0」に合せ直せば良い。

カワサキH2の上死点確認、具体例



ここではヤマハ用純正特殊工具を使って、カワサキトリプルH2の上死点を確認してみよう。ダイヤルゲージとホルダーを1番シリンダーのプラグ穴に固定したら上死点を探り出し、その際、クランクシャフトのローター側にある上死点刻線とポインターを一致させる。この際は、ポインターを先細ペンチなどでつまみ、刻線に合せる。このように上死点刻線とポインター先端が一致していることを確認してから点火時期の確認調整作業に入ろう。

点火時期確認は「タイミングライト」利用

2ストエンジンでも4ストエンジンでも、点火時期をリアルタイムで確認するにはタイミングライト(タイミングストロボ)を利用する。ポイント式でも無接点のCDI点火でもトランジスタ点火でも同様だ。タイミングライトには乾電池電源仕様とバッテリー電源仕様があるが、最近は「持ち運びが便利で使い勝手が良い乾電池電源のタイミングストロボ」が減っている傾向だ。例えば、ボタン電池や充電式で小型化されたタイミングライトを開発市販していただけたら、旧車人気の現代では需要が高いと思うが……。

「センサーのギャップや位置」調整も大切



無接点センサーのCDI点火やトランジスタ点火の場合は、必ず「ピックアップコイル」がある。このピックアップコイルのセンサー部分をローター側の突起部分が通過するときに点火信号が送られ、スパークプラグが火花を飛ばす。このセンサー部分のギャップは、機種やエンジンに関わらず0.3~0.5mmの範囲内で調整しよう。傾向としては、ギャップが狭い方が、点火時期はやや進むようだ。また、ピックアップセンサーの特性によって異なるが、突起部分が通過し終えた瞬間にスパークするタイプと、センサーの突起部分が通過し始めた瞬間にスパークする仕様もあるので、微妙なセッティングを試したい際には、ピックアップコイルの「特性」を実測確認してみよう。

POINT

  • ポイント1・エンジンコンディション、調子の善し悪しを決定づける要素のひとつに点火時期がある
  • ポイント2・ノーマルの点火時期はノーマルエンジン最善のもので、チューニングエンジンは別途調整が必要
  • ポイント3・各機種それぞれの機器の特性を知ることで、より明確なセットアップが可能になる
  • ポイント4・動的エンジンのリニアな点火時期確認にはタイミングライトが必要不可欠(電球点検などは静的点検)

2ストロークエンジン、4ストロークエンジンを問わず、エンジンコンディションを左右する要素には「良い燃料」や「良い爆発」や「良い火花」といった要素がある。ガソリンが古く劣化し始めていると、爆発始動性は一気に低下する。ピストンリングが減り、吸排気バルブシートの当りが広がり気密性が悪くなると、圧縮圧力が低下する。それにより本来のエンジンパワーを得られなくなってしまうのだ。2ストロークエンジンの場合は、クランクシールの気密性が悪くなることで、一次圧縮が低下し、本来の爆発力を得られなくなるケースも多い。また、2ストエンジンのマフラーやチャンバーから、いつもとは違う煙により目がチクチクしたり、オイル焼けが妙に臭いときなどは、ミッション室側のオイルシールコンディションが低下していると考えられる。シール性能が低下(シールリップが摩耗)することで、クランク室内にミッションオイルが流れ込み、混合気と一緒に爆発燃焼することで、いつもとは違った排気煙となり現れる。以上のような「違い」を体感できたときには、一刻も早く修理しないと、負の連鎖が起こってしまうこともある。

「良い火花」とは、ズバリ、スパークプラグの着火である。着火性能が悪くなるにも様々な要素があるが、仮に、部品性能的には決して悪くないのに、本来のエンジン性能を発揮し切れていないケースもある。例えば、微妙な点火時期の違いがそれだろう、4ストロークエンジンの場合は、圧縮上死点(TDC)前◎度といったデータがある。例えば「TDC12度」とか「TDC15度」というのがそれである。しかし、このデータはエンジン始動時のタイミングデータであり、エンジン回転が高まっているときには、爆発力を維持するために点火時期が進められる(早められる)。旧車エンジンの多くは、ポイント制御で着火タイミングを調整し、エンジン回転の高まり=遠心力の発生によって、ガバナーやスパークアドバンサーと呼ばれる部品を機械的に作動させ、点火時期を進め(早め)ている。

この点火時期は、エンジンチューニングの度合いによっても異なる。仮に、同系列エンジンを搭載している市販車でも、ビジネス系実用モデルとスポーツモデルでは、微妙に異なっている。諸元データによると、例えば「点火時期12度(最大進角28度)」といった表記があるが、これは、エンジン始動時に上死点前12度で着火し、その後、エンジン回転の上昇で着火タイミングが早まり最大進角値の上死点前28度に達する、という意味でもある。ちなみにエンジン回転が3000rpmを超えれば、ほぼ最大進角値に到達している。レーシングエンジンでは、常に高回転域ユースのため、始動時の点火時期設定が無く「固定進角」と呼ばれる仕様も多い。厳密には始動性がやや低下するものの、固定進角でも何ら問題は無い。具体的には、市販レーサーとして知られるホンダNSF100の場合は、ノーマルCDIが固定進角となっている。ノーマルエンジンでは、最大進角が28度前後のホンダモンキーだが(年式によって異なる)、チューニングエンジン仕様を目的に各コンストラクターからCDIユニットが発売されている。最大進角や点火カーブを変更できるチャンネル付きのレーシングCDIがあるように、パワーアップと点火時期には深い関係があるのだ。チューニング仕様によっては上死点前45度仕様もある。ちなみに超高回転仕様のクラシックレーサーで知られるホンダカブレーシングCR110の点火時期は、固定進角で上死点前55度がメーカーデータだ。旧式エンジンは燃焼室が深く燃焼スピードが遅いため、このような特異な点火時期になるケースが多い。一方、燃焼効率が良い現代的レーシングエンジンでは、上死点前30度に至らないケースもある。

一方、2ストエンジンの場合は、点火時期を表すデータとして「上死点前◎mm」といった表記がある。80年代以前の2ストロークエンジンの場合は、ピストンが上死点に達する直前の「◎mm=例えば、1.8mmとか2mmとか2.2mm」といった数値が点火時期データである。上死点前◎度などのクランク角ではなく、「ピストンの位置に置き換えている」のがこのデータだ。そんな2ストエンジンには、点火時期調整用特殊工具としてダイヤルゲージ&ホルダーなどがあった。

そんなデータの大切さを理解していても、正しい調整ができなくては意味がない。特に、すべての基本は「正しい上死点」の把握から始まるので、例えば「刻線」や「ポインター」が固定されているエンジンでも、ピストン上死点を物理的に確認し、刻線とポインターが一致しているか?確認することも重要である。なかには「えっ、ズレてるよ!?」なんてケースもあるからだ。

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