
バイクいじりをしていると「えっ、もう賞味期限(交換時期)なの!?」とか「もう少し早く気がつけば損しなかった!!」といったことに気が付くことが多い。そんな些細なことにも注目することで、バイクいじりライフをより楽しく、充実したものにすることができる。サンデーメカニックなら、そんなバイクライフを送りたいものだ。無駄な出費を減らすためには、定期的な部品点検は必須項目。「あれっ!?」といった疑問を抱くだけでも、バイクのコンディションは良くなるものだ。ここでは、ディスクブレーキローターのコンディションに注目してみよう。
目次
リジッドローターなら研磨再生が可能
ディスクローター黎明期は、アルミ製インナーローターに、ステンレス製アウターローターをリベット固定した「リジッドローター」が一般的だった。この時代のローターは減りにくいが、ブレーキパッドをケチった=使い込み過ぎたことで、深い凸凹になってしまっているケースが多い。研磨再生による「リフレツシュが可能」なのがリジッドローターの特徴で、研磨後のレバータッチや効き味は様変わりする。
「雨天未使用」には理由がある
表は「そろそろ研磨したいなぁ」レベルだったのに対し、裏側は「完全なタダレ状態」。一部のエリアには焼け色が入って完全なるザックザク状況だった。この裏側の焼けは、完全摩耗したブレーキパッドの「ベース鉄板」を押し付けたことによるものだろう。2枚のブレーキパッドでローターを挟む構造なので、片側=表側ばかりではなく、裏側の減り具合もしっかり点検しないとこのような状況に至ってしまう。雨天時に走行すると砂利混じりの雨水が噛み込み、不必要にローターを摩耗させてしまうこともある。「雨天未使用」と呼ばれるバイクは、ディスクローターの減り具合でも判断することができる。
平面研磨か旋盤研磨で、クォリティ復活!!
外側のローター側でチャッキングし、ホイールハブとの締結フランジ面でローターの倒れを無くす。ダイヤルゲージを利用し、セットアップしたら、振れ幅は1/100mm以内に収めることができた。ローター裏側の切削加工から開始した。切削は0.05mmの送り量。パッドが減り鉄板ベースに押し付けられていた変色部分の様子が明確に見えてきた。鉄板ベースが押し付けられ、ローターに焼きが入ってしまった部分は、大変硬くキーキー音。
精度アップ=振れなく加工するのが基本中の基本
大型旋盤に生ヅメと呼ばれるツメをチャックにセットし、クランプするアウターローターの形状に合わせて生ヅメを加工する。インナー締結部でホールドするよりも、アウターローターでクランプした方がビビらずに仕上がりが美しくなる。焼け線が消え、新品ディスクローターと同じような仕上がりになった!!四輪車では頻繁に行われるローター研磨だが、今や車体からディスクローターを取り外さずに研磨する機械もある。
ローターを表向きにひっくり返し、ダイヤルゲージで倒れを無くしてからしっかりチャッキング。同じように切削加工していくことで、表面も美しく仕上げる。段差が少なかった表面は、0.15mmの切削追い込みでフラット面になった。
文字通りフラットディスクなら平面研磨機で
80年代に入ってから登場したディスクローターは、軽量化と生産性を理由に、完全なるフラットな「一枚板仕様」が多くなった。80年代の大型モデルは、特にこのタイプが多い。フラットローターなら平面研磨機で美しく仕上げることができる。
平面研磨機は電磁石のベッドを持ち、鉄やステン合金のローターなら磁力でガッチリ吸い付けて研磨することができる。井上ボーリングの平面研磨は砥石で行い1000分台の数値で仕上げられる。徐々に研磨していくとローターの凸凹具合があからさまになる。線が残っている部分は深い摩耗溝だ。完全に取り切るとミニマム厚を0.2mmほど超えてしまう状況だったが、今回は研磨で摩耗スジを消して頂いた。
- ポイント1・フローティングタイプで非分解アウターローターは研磨再生できないが、リジッドローターなら研磨再生可能
- ポイント2・ 偏摩耗状況のディスクローターのまま新品パッドに交換しても、パッドのアタリが悪くブレーキの効きが悪い。
- ポイント3・ ローター研磨を実践したときにこそ新品ブレーキパッドに交換し、本来あるべきブレーキの効き味を体感しよう
我々が住む日本の良き伝統のひとつに「もったいない」精神がある。鉛筆が折れたら削って再利用できるが、これがシャープペンだとそうはいかない。例えば、机の上から落してしまい、先端のパイプが曲がってしまえば万事休す。当然ながら新しいペンに買い換え直す……というのが当たり前の世の中と言えるだろう。
「部品は大切に使おう!!」の精神に則れば、骨の髄までしゃぶり尽くしてから廃棄しても遅くはない。再利用可能なら、新品に交換する前に、再生修理を考えたいものである。偶然、バイク仲間のガレージで、ゴミ箱の中に放り込まれたディスクローターを発見。取り出して凝視すると、ローター面には凸凹のスジが多く入り、いわゆる「レコード盤」のようになっていた。裏側を見ると、部分的に深く焼けが入った部分もあった。摩耗しきったブレーキパッドを使い続け、ベース鉄板でローターを押し付けてしまう「鉄板パッド」状態で走っていたのが原因かも知れない。ガレージのご主人に「まだ使えそうじゃない?」と訊ねると「摩耗しているし焼けも激しいし、削ったところでミニマム厚を超えそう」との返答だった。仮に、歪みがあるようなら泣く泣く諦められるが、摩耗が激しく見えても、実際に研磨してみないとわからないのが現実である。事実、そのローターは「まだ何とかなるのでは?」といったコンディションだった。
研磨再生が可能でも、ローターが薄くなり過ぎるのは危険だ。しかし、ミニマム厚より薄くなったとしても、ブレーキパッドを常に管理し完全摩耗の前にパッド交換する習慣をつければ、物理的には使えないことは無い。
そもそもブレーキパッドは、残量が少なくなると効き具合やレバータッチがイマイチになるので、早めの交換が愛車家にとっては当たり前の行為だろう。余談になるが、雨天走行時は砂利を巻き込みながら走るため、ローター面がレコード盤のように摩耗しやすくなってしまう。「雨天未使用車」が好まれる理由は、まさにそんな部分でもある。
ブレーキは重要保安部品なので、あくまで慎重な判断が必要不可欠。仮に、研磨後のローターと新品パッドを組み合わせてパッドのナラシが済めば、その効き具合やフィーリングは以前と明らかに異なると気がつくはずだ。
撮影協力:iB井上ボーリング
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