
クランクシャフトの両端にあってクランクケース内側と外側を仕切っているオイルシールは2ストロークにも4ストにも存在しますが、実は役割が異なります。2ストエンジンのクランクシールはエンジン性能を左右する一次圧縮にとってきわめて重要なので、エンジン不調を感じた場合はチェックが必要です。
2ストはクランクケース内で圧縮行程を行う
発売から40年を経た現在もファンが多いヤマハRZ250/350は1980年代のバイクブームの火付け役となった1台。初期型は排気デバイスであるYPVSも装備していないが、シンプルでパンチのある走りは多くのユーザーを魅了した。
4ストの2ストエンジンの大きな違いが混合気の圧縮方法です。4ストはピストンより上部と燃焼室からなる空間で混合気を圧縮していますが、2ストはピストンより下のクランクケースも圧縮行程に使っています。
シリンダー内をピストンが上昇する際にピストンの下側、クランクケース内の圧力は低下します。注射器の出口を指で塞いだ状態でピストンを引き上げると、筒内の圧力が低下して指が吸い付けられるのと同じような状態です。上死点を超えたピストンがシリンダーを下がると、クランクケース内にある混合気が圧縮されてシリンダー側面のポートから燃焼室に流れ込んで圧縮されてスパークプラグによって点火され燃焼します。
つまり2ストエンジンが燃焼するためには、混合気はクランクケース内と燃焼室の2段階で圧縮されていることになります。そのため、クランクケース内における圧縮を一次圧縮と表現することもあります。
ピストンバルブ、ピストンリードバルブ、ロータリーディスクバルブ、クランクケースリードバルブなど、2ストにはさまざまな吸気方法がありますが、どの場合でも混合気はクランクケースを通過する点は同じです。余談ですが、クランクシャフト周辺の空間を圧縮に用いる2ストエンジンには4ストのようなエンジンオイルは入っていません。しかしガソリンに潤滑性能があるエンジンオイルが混ざった混合気がクランクケース内に入ることで、クランクシャフトやコンロッド、ピストンとシリンダーの潤滑が行われています。つまり2ストエンジンの混合気は単に爆発的な燃焼をするだけでなく、クランクシャフトやコンロッドなどの潤滑も行っているのです。ちなみにクラッチやトランスミッションはクランクやピストンとは区切られており、ギアオイルで潤滑されています。
ピストンのストロークによってクランクケース内に流れ込み、押し出される混合気にとって、クランクケースの気密性は重要です。流れ込んだ混合気はピストンが下降する際にすべてが掃気、吸気ポートから燃焼室に押し出されるのが理想であり、逆流しないようキャブレターにはリードバルブが付いています。旧車の中にはリードバルブが付かないピストンバルブ式もあり、ローターリーディスクバルブの場合は切り欠きのある円盤が強制的にポートを塞ぎます。
そして気密性を確保するために重要なもうひとつの部品が、クランクシャフト両端のオイルシールです。
- ポイント1・2ストロークエンジンは混合気の一次圧縮をクランクケース内で行っている
- ポイント2・混合気を力強く燃焼室に送り込むにはクランクケースの気密性が重要
クランクシールが抜けると圧縮不足で不調に直結する
エンジン左側はギアオイルで潤滑していないので、フライホイールやステーターコイルはドライの状態だ。クランクオイルシールはそれらの下側にあるので、確認するにはフライホイールを取り外す。
フライホイールの下には発電用のステーターコイルがある。これらはホコリや水分が入らないようクランクケースカバーの内側にあるが、何十年も開けたことのないエンジンならそれなりに汚れていても不思議ではない。
ステーターコイルを取り外したところ、幸いなことにクランクオイルシールは無事だった。水没経験(水に沈むだけでなく保管中に雨水が入り込んだ場合も含む)のあるエンジンではフライホイールやステーターコイルやクランクシャフトの露出部分にサビが発生してオイルシールのリップを傷つけてしまうこともある。
クランクシャフトがクランクケースから突き出る部分にあるクランクオイルシールは、クランクケース内の圧力変化を外部に漏らさないために組み込まれています。シールリップの経年劣化や異物の噛み込み、オイルシール自体がクランクケースから脱落するなどいくつかの原因はありますが、この部分のシール性が低下すると一次圧縮に異常が起こりエンジン自体が影響を受けます。
単気筒でも2気筒以上のマルチシリンダーでも、多くの2ストエンジンはクランクシャフト右側にクラッチが付き、左側にオルタネーターやコンタクトポイントがあります。クランクオイルシールは左右どちらにも付いていますが、シールが抜けた場合の症状は異なります。
右側が抜けた場合、クランクケース内にクラッチを潤滑しているギアオイルが入る可能性があります。こうなるとギアオイルが減少し、混合気ともに燃焼室内に入るため白煙の量が増えていきます。2気筒エンジンの場合は右側だけ白煙が増えたりスパークプラグがかぶる場合もあります。
一方オルタネーターやポイントがある左側のシールはオイルに浸っていないので、クランクケース内の混合気がクランクシャフトとオイルシールの接触面から滲み出してきます。
どちらの場合も一次圧縮が低下するため、始動性の悪化やパンチ感の低下など、本来のエンジン性能が発揮できなくなるため、オイルシール交換が必要となります。なお、2気筒以上の場合は各シリンダーごとに一次圧縮室が分かれて機能するため、シリンダーごとの間にもセンターシールと呼ばれるオイルシールが組み込まれています。このシールがダメになると片側で圧縮された混合気が隣のケースに流れてしまうため、やはり一次圧縮不足となりエンジン不調につながります。センターシールを交換する際はクランクケースの分解はもちろんのこと、クランクシャフトも分解しなくてはならないため、修理はきわめて大がかりになります。
ギアオイルによって油分が保たれている右側のクランクオイルシールは、サビによる影響は少ないが経年劣化によるリップの硬化などでギアオイルがクランクケース内に入ってしまうことがある。2気筒エンジンで右側のマフラーだけ白煙をはいたりプラグがかぶり気味になる場合、オイルシールが原因の可能性がある。
- ポイント1・一次圧縮を保つためのカギになるのがクランクシャフト両端のクランクオイルシール
- ポイント2・オイルシール抜けによって一次圧縮が低下し、エンジン不調の原因となる
シール外周の抜け止めの有無で交換難易度が左右される
2気筒エンジンの場合、左右のクランクケースの一次圧縮室はクランク中央のセンターシールでそれぞれ独立して機能している。このシールが抜けると圧縮した混合気は隣のクランク室に流れてしまうので劇的に不調になる。ヤマハ車のセンターシールは伝統的に空気の圧力で空気の流れを遮るラビリンス式と呼ばれるメカニズムを採用しているので、接触タイプのゴムシールのような経年劣化は起こらないとされている。
クランクシャフト両端のオイルシールが単純な圧入なのか、抜け止め付きなのかで交換の手間は大きく異なる。シール外周のリブがケース側に溝に入る抜け止め付きシールは、一次圧縮によるシール抜けを防止する点では有効だが、シール交換の際にクランクケースを分解しなくてはならないという点で難易度がアップする。リブ無しとリブ付きにはどちらも一長一短がある。
2ストでも4ストでもクランクシャフトのオイルシールが傷んだ場合は交換が必要ですが、オイルシールのタイプによって作業の難易度が大きく異なります。フロントフォークやホイールに組み込まれているような、ハウジングに対して単純に押し込むだけのオイルシールであれば、傷んだシールのリップ部分にフックを掛ければスライディングハンマーなどで手前に引き抜くことができます。
しかしオイルシールの外周にリブがあり、クランクケースで挟み込んで抜け止めとしているタイプでは、クランクケースを分解しないとオイルシールが外せません。この場合、フレームからエンジンを降ろしてクランクケースを割る大仕事になり、センターシール不良と同じ作業を行うことになります。
2000年前後を境に2スト車がなくなったことを考えると、多くの車両が20年以上前の絶版車や旧車ということになるので、他のゴムパーツと同じようにクランクオイルシールが劣化してもおかしくはありません。始動性が低下したり2ストらしいパンチがないと感じたら、クランクオイルシールの不具合を疑ってみても良いでしょう。
- ポイント1・外周に抜け止めリブが付いたオイルシールを交換する際はクランクケース分解が必要になるため、シール交換の手間が大幅に増える
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